14-6:「デストロイヤー自由Ⅰ」
14-6~7に掛けてグロテスクな描写を多分に含みます。ご注意ください。
時間と場所は制刻と鳳藤の居る方へと戻る。
制刻は突如として現れ、まるで演劇のような立ち振る舞いを見せたクラレティエの配下の若い傭兵達を、心底から感じた嫌悪感を露骨に表した顰めっ面で眺めていた。
そんなところへ、インカムへ通信が入る。
《エピックヘッド、自由!悪ぃ知らせだ。全身タイツ共の内、5~6匹が零れてそっちに漏れた!》
「あぁ、たった今流れて来た。それも、気色悪い演出つきでな」
飛び込んで来た竹泉の声に、嫌悪感と呆れが混じった声で返す制刻。
「一応聞いとくが、追っかけて潰せなかったのか?」
《無茶言うなよッ!次のウェーブと絶賛バトル中なんだずぇッ!?》
制刻の問いかけに、竹泉に代わって多気投のハイテンションな声がインカムから響く。それに交じって、無線越しに激しい銃撃音が聞こえて来る。
《他の取り巻き共まで、全部ダダ漏れんなっても良かったってんなら、追っかけたんだがよぉ?》
相当激しい戦いになっているらしく、竹泉の皮肉気な言葉の後ろで今度は、敵の物と思わしき悲鳴が聞こえ、さらには爆発音までが響き、インカムに軽くノイズが走った。
「じゃあ、しゃあねぇか。オメェらは可能な限りでいい、そっちの取り巻き共の妨害を続けろ」
《面倒かけてすんませんねぇ!エピック2、ぐっばいぢゃんッ!》
竹泉は最後に非常にふざけた交信終了の言葉を寄越すと、そこで通信は終了。制刻は無線通信に向いていた意識を、正面へと移した。
クラレティエの元へと駆け付けたのは、六人の若い傭兵達。内の四人が、それぞれ得物の切っ先を眼前の敵へと向け、クラレティエの盾となるように立ち並ぶ。そしてその背後で、残りの二人の傭兵がクラレティエへと駆け寄って行った。
「クラレティエ様!」
「隊長!大丈夫ですか!?」
クラレティエの元へと駆け寄ったのは、彼女の従者の少年レンリと、小柄な少女ルカ。両者はクラレティエへと寄り添い、泣きそうな声色で彼女を案ずる言葉を投げかけた。
「お前達か……」
苦し気な声を漏らしながら、クラレティエは二人の手を借りて半身を起こす。
「く、すまない……不覚を取り、こんな無様な姿を見せてしまうとは……隊長失格だ……!」
己の不甲斐なさを恥じたクラレティエは、若い傭兵達から顔を反らして苦々しい言葉を零す。
「何言ってるんですか!」
しかしそんなクラレティエに、戦斧持ちの女傭兵クリスが振り向き、明るい声を上げた。
「隊長は少し背負い過ぎ!もっとアタシ達を頼って下さいよ!」
「クリスの言う通りです。僕たちは隊長をお守りするのが役目なんですから」
クリスに続き、ヨウヤが優し気な声色で発する。
「守られたっていいんですよ!隊長だって、アタシ達と同じ、繊細な女の子なんですからね」
さらに付け加えて発したクリスは、同時にクラレティエに向けてウインクをしてみせた。
「そうそう、気にしないっすよ!むしろちょっと親近感沸いた――」
「こっらぁッ!」
「うぎゃッ!」
クリスやヨウヤに続けて、ランスが言葉を発しようとしたが、彼の台詞はクリスが放った回し蹴りが後頭部に入った事により、遮られてしまった。
「痛ってーっ!何すんだよクリス!」
「あんたみたいなお調子者と一緒にされてうれしいわけないでしょ!ちょっとは考えなさいよ!」
「なんだと!お前こそ何がアタシ達と同じ繊細な女の子だよ!隊長はいいけど、お前は口より先に手が出る狂暴女のくせに!」
「――ッ!?へぇー、アンタいい度胸してるじゃない……じゃあ、あたしにしばかれる覚悟もいいね!?」
売り言葉に買い言葉で、ランスとクリスはその場で言い争いを始めてしまった。
「まったく、騒がしい……いつもくだらない言い争いを」
激しく罵り合い、時にクリスの足蹴りが飛び、ランスが悲鳴を上げる二人の争いを、その側で眺めていた大柄の傭兵が、小馬鹿にした様子で小さくため息を吐く。
「何気取ってんだよエリマ!内心、お前が一番隊長にいいとこ見せようと必死な癖してよ!」
「な!?」
しかし、言い争いの矛先はその大柄の傭兵へと飛び火した。
「確かに、隊長と接するときにいっつも鼻の下のばしてるもんね。どーせやらしいことでも考えてたんじゃなーいのー?」
「いつも寡黙な振りしてるけど、ぜーんぶバレバレだっつーの!」
「ぬおおおおおお……!だ、黙れ貴様らーー!」
ランスやクリスに挑発され、大柄の傭兵エリマは顔を真っ赤にして言い争いに参戦。互いの赤裸々な面を暴露し合い、傭兵達はわやわやと騒ぎ合う。
「………ふふ、まったくお前たちは。この状況でくすぐったい事を」
そんな若い傭兵達の掛け合いに微笑ましさを感じたのか、表情を曇らせていたクラレティエは、小さな笑みを零した。
「あ、隊長笑った!」
クラレティエの顔に明るさが戻った事に気が付くと、三人は言い争いを止めて、それぞれが笑みを浮かべたり、照れくさそうな仕草を見せた。
「さぁみんな、それくらいで。敵を目の前にしてるんだよ!」
「っと……いっけね!」
そして若い傭兵達のまとめ役であるヨウヤが皆に向けて促し、若い傭兵達は意識を切り替え、再び目の前の敵へと向き直る。
「へへ、しかし……本当になんだかヤバそうな怪物だぜ」
「うん……なんて醜悪な見た目なんだ……!」
そして、目の前の存在を観察し、その禍々しい姿に固唾を飲む。
「皆、気を付けるんだ……!あいつの身体能力は並ではない、それに異質な手を使ってくるぞ!私も不覚を取ってしまった……!」
クラレティエは一度はほぐれたその表情を再び険しくし、傭兵達に向けて警告の言葉を発する。
「それはまた、大変そうだぜ……!」
「なーにランス?怯えてるの?」
「へっ、馬鹿言うなよ。第一、そうだったとしても……」
言葉を途中で切り、ランスは他の傭兵達へと目配せをする。
「うん。隊長を傷つけた奴を……」
「許せるわけないよねッ!」
互いの意思を確認し合った若い傭兵達は前を見据え、視線の先に立ち構える敵を再び睨みつける。意気揚々とした掛け合いを繰り広げて見せた若い傭兵達だが、彼らのそれぞれの瞳には、強い怒りの色が宿っている。その理由はもちろん、彼らの敬愛するクラレティエを傷つけられたからに他ならなかった。
クラレティエは元をただせば貴族の出身であり、本来であれば騎士となり出身国の騎士団を率いるか、あるいは今の時勢であれば、勇者として選ばれる素質を備える、たぐい稀なる才を持つ女だった。しかしそこまでの身分でありながら、彼女は傭兵団に身をおく事を選び、猟犬と称する自らの部下たちと、共に戦い共に過ごすことを生きがいとしていた。そして剣狼隊の傭兵達にとっては、身分と力を持ちながらも傭兵という立場で共に肩を並べ、接し導いてくれるクラレティエは、唯一無二の主であり、絶対の存在。そんな不可侵の存在である彼女を傷つけられた事による怒りは、並みの物でなかった。
「レンリ!アンタは隊長連れて引きな!」
「え?」
クリスは前方の敵を軽快しながらも背後に振り返ると、クラレティエの傍らに寄り添うレンリに向けて言い放った。
「隊長に安全な所まで避難してもらうんだ、そのための手助けにはアンタが適任だよ」
「悔しいけど、ここはお前に譲るぜ!」
「フン……認めたわけではないがな」
クリスの言葉に続き、ランスやエリマからもそんな言葉が投げかけられる。そんな仲間たちの言葉に、若干の戸惑いを見せるレンリ。
「う……うん!分かった!」
しかし、やがてその目に覚悟の光を宿すと、レンリは返事を返した。
「お前達……!」
一方、レンリに支え上げられながら、苦し気な声色で傭兵達へと声を漏らすクラレティエ。
「心配しないでください隊長!あたし達は隊長の猟犬ですよ?」
「隊長にみっちり扱かれた身です、そうそう簡単にへこたれたりはしませんって!」
しかし、傭兵達の姿や言葉からあふれる闘志を感じると、クラレティエは表情から負の色合いを消し、凛とした表情で若い傭兵達を向ける。そして通る声で彼等へ向けて言い放った。
「私もすぐに戻る。お前達……ここは任せたぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
活気に満ち溢れた若い傭兵達の、息の揃った返事を聞き届けたクラレティエは、レンリの支えを受けながら、後方へ高々と跳躍。夜闇の中へと姿を消した。
「よし、みんな準備はいい?」
「もちろん!」
「いけるぜ!」
ヨウヤの問いかけに、クリスやランスが高らかに答える。
「ルカ!連携魔法の準備を頼むよ!」
「はい!」
四人の傭兵達の背後にいるルカは、抱えていた魔導書を開いて、魔法詠唱を開始する。
「さぁみんな、ここを譲るわけにはいかない!剣狼隊としての力を見せる時だ!」
「我等は剣狼隊!クラレティエ様の忠実なる猟犬!」
「剣狼隊とクラレティエ様の名において、その首もらい受ける!」
「いざ、参る!」
高らかに言い放つと、四人の傭兵達は一斉に地面を踏み切り、四方へと飛び立った。
「大地に眠りし鋼たちよ、我の前へその姿を現せ――!」
飛び立った瞬間に、ヨウヤは素早く魔法詠唱を行う。すると次の瞬間、複数の鉱石柱が地中より現れ、周囲へ乱立した。ヨウヤが唱えたのは、クラレティエが用いた物と同種の鉱石柱を呼び起こす魔法だ。
「うーん、まだまだ隊長には程遠いな」
まだ術の習得中であるヨウヤが出現させた鉱石柱は、およそ6~7m程の中規模な物であった。しかし出現した鉱石柱は傭兵達の足場となり、傭兵達は鉱石柱を利用して、中空を飛び回り、眼下の敵を撹乱する。
「舞を求め、獲物を求めし鋼のたち、我の眼下で注ぎ舞い散れ!」
ヨウヤに続いて、クリスが空中を飛び交いながら詠唱する。すると彼女の周辺に、長さ1m程度の剣身、もしくは針のような形状の鉱石が無数に現れ、眼下の敵に目がけて降り注ぎ出した。
「見て、効いてるみたい!あいつ怯んでるよ!」
降り注ぐ鉱石針に怯んだのか、顔を俯かせて凌ぐ敵の姿が、傭兵達の目に映る。
「よし……ランス、最初の切込みの準備はいい!?」
「もう準備はできてるぜ?」
飛び交いながら、連携を取り合う傭兵達。彼らは敵が怯んだこのタイミングで、最初の一撃を決めようとしていた。
「土壇場でずっこけて、みっともないトコ見せないでよ!」
「へっ、俺を誰だと思ってるんだ?」
お互いを茶化しあいながらも、クリス達はランスを援護できる体制へと移行する。先の言い争いも、今の茶化し合いも全て、彼らにとってじゃれ合いのような物であり、互いを信頼している証でもあった。
「さぁ、このランス様がやってやる……いくぜっ!」
仲間たちの援護態勢が整ったことを確認すると、ランスは夜空に向けて大きく飛び上がった。
「三下共は失せろ!駆ける餓狼の如き一線により愚か者共は無残に躯を晒せ!」
飛び上がったランスは、独特の荒々しさを感じさせる口調で詠唱。すると、彼の手に握られた剣を中心に、炎の渦が巻き起こった。現れた炎の渦は、剣の剣身部分を包み込むように安定する。
「〝心臓を食らい血を啜りし飢狼王の牙――<<ウォーヘン・グムラスタ・ラブラディアス>>!!〟」
ランスが雄々しい決まり文句で詠唱を完了すると、炎は剣を包み込んだ状態を維持したまま、力強く燃え上がった。そしてランスは、煌々と燃え上がる愛剣と共に、眼下に見える敵へと突進する。剣を包む炎の一部がランスの後方へと流れ、夜空を背後にする彼のその姿はまるで流星のようだ。
「隊長の痛みと僕たちの怒りを力に変えてッ!」
「おもいっきりやっちゃえーーーッ!」
ヨウヤとクリスの声を背後に受け、ランスの体と心に一層の闘志が宿る。
「でぇりゃああああああッ!!」
仲間たちの声が力となり、ランスは雄たけびを上げ、一気に加速。ランスの速度はすさまじく、一秒と経たずに、肉薄。そして炎に包まれた切っ先により、今まさに憎き敵へと天誅が下される――!
「うるせえ」
淡々とした一言と共に、バチンという何かが爆ぜたような音が響いた。
「びゃちぇッ!?」
そして同時に、奇妙な悲鳴のようなものが、空中を飛び交う傭兵達の耳に届いた。
「……え?」
「ん?」
憎き敵に最初の一撃が加えられる瞬間を見守っていた傭兵達は、しかしその時起こった事態が呑み込めずに、一様にほうけたような声を漏らした。地上に立ち構える醜悪な存在は未だに健在している。そして醜悪な存在の近くには、ランスの愛剣が地面に突き刺さっていて、今だに剣身を包んで燃えさかえる炎が、周囲を微かに照らしている。
醜悪な存在の足元には何かが散らばってた。地面に叩き付けられて飛び散った、果実のような何かが――
「え……あ……きゃああああああッ!!」
そして地上にいたルカが、真っ先に何が起こったのかを把握して悲鳴を上げた。果実のように散らばる何かは、地面に叩き付けられ、頭部から胸元までが爆ぜ飛び、脳漿や臓物を撒き散らした、ランスの体だった――




