↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第三部 文明の礎

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
95/106

第93話「空から、見る」

 アガルとの恒常的な外交関係が、確立してから、五ヶ月ほどが過ぎていた。湊は、四十二歳になっていた。


 この間、村には、また、四人の新しい住人が加わっていた。人口は、三百三十四人になっていた。


 ある朝、湊は、探究の舎を、訪ねていた。この頃、この施設では、様々な、風変わりな研究が、行われるようになっていた。


 その一つの部屋で、湊は、宗と、数名の若者たちが、何かを、熱心に、組み立てているのを、見かけた。


「何を、作っているんだ?」


 湊の問いに、宗は、顔を上げて、答えた。


「父上。これは……空を、飛ぶものです」


 湊は、この言葉に、深く、興味を、示した。


「飛ぶもの、か」


「はい。鳥の翼の形を、真似てみました」


 宗が、そう言って、見せたのは、細い木の骨組みに、薄い布を、張った、翼のような形の、装置だった。


「面白い。飛ぶのか?」


「まだ、うまく、いきません」


 宗は、そう、正直に、答えた。


「投げると、少しは、滑るように、進みます。でも、すぐに、落ちてしまいます」


 湊は、この試みに、深く、感心していた。


 湊自身、飛行機の仕組みについて、詳しい知識は、持っていなかった。だが、いくつかの、断片的な記憶は、残っていた。


「一つ、思いつくことが、ある」


 湊は、そう、切り出した。


「翼の形だ」


「形、ですか」


「ああ。翼の上と下で、空気の流れる速さが、違うと……上に、持ち上げる力が、生まれるらしい」


 湊は、そう、説明しながら、地面に、簡単な図を、描いた。


「上側を、ふくらませて、下側を、平らにする。そうすると、上を流れる空気のほうが、速くなる」


 宗は、この説明を、真剣な表情で、聞いていた。


「なぜ、速くなると、持ち上がるのですか」


 湊は、この問いに、しばらく、沈黙した。


「わからない」


 湊は、そう、正直に、答えた。


「そうなる、ということは、覚えている。でも、なぜかは……俺にも、わからない」


 宗は、この答えに、少し、意外そうな表情を、見せた。だが、すぐに、真剣な顔に、戻った。


「では、それを、探るのが……私たちの仕事ですね」


 湊は、この言葉に、深く、頷いた。


「その通りだ」


 この日から、宗と、探究の舎の若者たちによる、飛行の研究が、本格的に、始まることになった。


 彼らは、まず、様々な形の翼を、作り、実際に、投げて、その飛び方を、比較していった。この、地道な観察の記録が、少しずつ、積み重なっていった。


 三ヶ月ほどが過ぎた頃、宗は、確かに、これまでより、はるかに、長く、滑空する翼の形に、たどり着いていた。


「父上、見てください」


 宗が、その装置を、丘の上から、投げると――それは、確かに、しばらくの間、空を、滑るように、進み続けた。


「随分と、進むようになったな」


「はい。ですが……これでは、投げた勢いが、なくなれば、落ちてしまいます」


 宗は、そう、続けた。


「自分の力で、進み続けるには……何か、押す力が、必要です」


 湊は、この指摘に、深く、頷いた。


「モーターと、あの、螺旋の羽根を、使えないだろうか」


「船に、使っているものですね」


「そうだ。あれを、空気の中で、回すんだ」


 この構想の実現には、大きな課題が、あった。


 重さだった。


「湊さん、モーターも、電池も、重すぎます」


 この課題に、レンが、協力することになった。


「もっと、軽い電池を、作れないでしょうか」


 この、軽量化への挑戦は、村の技術に、新たな課題を、突きつけることになった。だが、これまで蓄積されてきた、様々な技術――特に、あの、集積された三線石の技術が、大きく、力を、発揮した。


 この開発には、五ヶ月ほどの月日が、費やされることになった。


 そして、ある日。


「父上、飛びました!」


 宗の、興奮した声が、村に、響き渡った。


 湊が、駆けつけると――そこには、確かに、自らの力で、空を、飛び続ける、小さな装置が、あった。


 湊は、しばらくの間、その光景を、じっと、見つめていた。


 自分の記憶に頼らず。自分たちの力で。この村の若者たちが、空を、飛ばせた。


「よくやった、宗」


 湊は、そう言うのが、精一杯だった。


 この、空を飛ぶ装置は、当初、離れた場所から、無線で、操られていた。だが、宗は、この装置に、さらなる可能性を、見出していた。


「父上、これに、写真の装置を、載せられないでしょうか」


「空から、写すということか」


「はい。そうすれば――村の全体を、一度に、見られるはずです」


 湊は、この構想に、深く、感心した。


「面白い。やってみてくれ」


 この試みには、さらに、三ヶ月ほどが、費やされた。だが、その成果は、村の人々に、これまでにない、驚きを、もたらすことになった。


 空から、写された、村の姿。


 これまで、誰も、見たことのない、その光景に、村の人々は、しばらくの間、言葉を、失っていた。


「これが……私たちの、村ですか」


 ドウが、そう、つぶやいた。


「はい。上から、見ると、こうなります」


 湊も、この写真を、深い感慨と共に、見つめていた。


 かつて、たった一つの焚き火だけが、灯っていた場所。それが、今、こうして、確かな、街の姿を、見せている。


 この空からの写真は、その後、村の様々な計画に、大きく、役立つことになった。


 特に、都市計画において、その効果は、絶大だった。これまで、地図として、描かれていたものが、実際の姿として、確認できる。どこが、混雑しているか。どこに、余裕があるか。それが、一目で、わかるようになったのだ。


 こうした技術の発展の中で、村には、もう一つの、大きな喜びが、訪れていた。


 ある朝、宗が、少し、緊張した様子で、湊のもとを、訪ねてきた。


「父上、ご報告が、あります」


「どうした?」


 宗は、しばらく、言葉を、探しているようだった。


「ユナに……子が、できました」


 湊は、この言葉に、しばらくの間、動きを、止めていた。


 宗と、ユナは、この一年ほど前に、正式に、夫婦と、なっていた。


「そうか」


 湊は、そう、静かに、答えた。


 その言葉の後、湊は、しばらく、何も、言えなかった。


「父上?」


 宗が、心配そうに、そう、尋ねた。


「いや」


 湊は、そう答えてから、静かに、続けた。


「俺も、じいさんに、なるのか」


 宗は、この言葉に、思わず、笑った。


 それから、数ヶ月後。宗と、ユナの間に、男の子が、生まれた。


 宗は、この子に、「湊」という名を、与えた。


「なぜ、その名を?」


 湊が、そう、尋ねると、宗は、静かに、答えた。


「父上の名を、この村に、残したいと思いました」


 湊は、この言葉に、しばらくの間、言葉を、失っていた。


「そうか」


 湊は、そう、答えてから、生まれたばかりの孫を、腕に、抱いた。


 小さな、確かな重み。


 かつて、宗を、初めて抱いた日のことを、湊は、鮮明に、思い出していた。


「お前が、大人になる頃……この村は、どうなっているんだろうな」


 湊は、そう、静かに、語りかけた。


 こうした、家族の喜びと並行して、村では、外交においても、大きな進展が、あった。


 アガルとの恒常的な関係が、確立されたことを受けて、他の集落からも、同様の関係を、望む声が、次々と、寄せられるようになっていたのだ。


「湊さん、ヤズの集落から、正式な申し出が、ありました」


 ある日、ナギが、そう、報告した。


「常駐の使者を、置きたいと」


 湊は、この報告に、深く、頷いた。


「受けよう」


 同様の申し出は、その後、さらに、いくつかの集落からも、寄せられることになった。


 こうして、村は、周辺の複数の勢力と、恒常的な関係を、結ぶことになった。


 だが、湊は、この状況に、一つの、懸念も、抱いていた。


「これだけの相手と、個別に、やり取りするのは……いずれ、難しくなる」


 湊は、そう、議会に、提起した。


「では、どうすれば」


「集まる場所を、作れないだろうか」


 湊は、そう、切り出した。


「それぞれの集落の使者が、定期的に、一堂に会する。そこで、共通の課題を、話し合う」


 この構想は、極めて、野心的なものだった。


 これまで、この地域の集落は、互いに、二者間の関係しか、持ってこなかった。それを、多数の集落による、共通の場へと、発展させる。


 この構想の実現には、二年近い、粘り強い交渉が、必要とされることになる。だが、その第一歩は、確かに、この時、踏み出されたのだった。


 湊は、記録帳に、この一連の発展を、丁寧に、書き記した。


『宗と探究の舎の若者たちが、空を飛ぶ装置を開発。八ヶ月を要した。私の記憶ではなく、彼ら自身の観察と工夫による成果』

『空からの写真撮影に成功。都市計画に、大きく貢献』

『長男・宗に、男児が誕生。名は、湊。私の名を、受け継いだ』

『ヤズをはじめ、複数の集落と、恒常的な外交関係を確立』

『複数の集落による、共通の話し合いの場を、構想。実現には、長い交渉が必要になる』


 夕暮れ、湊は、あの、空からの写真を、じっと、見つめていた。


 湊は、四十三歳になろうとしていた。この世界に来てから、二十九年ほどが、過ぎていた。


---


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【第93話 時点 文明発展状況】

湊42歳(まもなく43歳)/漂着後 29年

人口:334人(孫・湊の誕生を含む)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中

02 食料・農業    ★★★★★ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★★ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★★ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★★★ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 継続中

07 医療・薬学    ★★★★★ 継続中

08 住居・建築    ★★★★★ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★★ 空撮により、都市計画の精度が飛躍的に向上

10 火・エネルギー  ★★★★★ 軽量電池の開発に成功

11 鉱業・金属    ★★★★★ 継続中

12 製造・工業    ★★★★★ 飛行装置と空撮装置を開発

13 科学・技術    ★★★★★ 揚力の原理を、村独自の観察により解明中

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 空撮写真という、新たな記録手段が誕生

15 教育・研究    ★★★★★ 探究の舎から、村独自の技術が生まれ始める

16 経済・商業    ★★★★★ 継続中

17 政治・法律・行政 ★★★★★ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★★★★ 複数集落との恒常的関係を確立。多国間の場を構想中

19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 孫・湊の誕生。三世代が、この村に生きる時代へ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。