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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第三部 文明の礎

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第89話「守る手、祝う日」

 二つの組織が設立されてから、四ヶ月ほどが過ぎていた。湊は、四十歳になっていた。


 この間、村には、また、四人の新しい住人が加わっていた。人口は、三百十六人になっていた。


 ある朝、湊が、いつものように、議事堂へ向かおうとしていると、宗が、少し、改まった様子で、声をかけてきた。


「父上、お話が、あります」


 宗は、この頃、十五歳になっていた。かつて、湊が、この世界に落とされた年齢を、すでに、超えていた。


「どうした?」


 宗は、しばらく、言葉を、探しているようだった。


「あの……ユナのことです」


 湊は、その名を聞いて、すぐに、思い当たった。ユナは、シラの弟子の一人で、宗と、同じ頃に、学び舎に、通っていた娘だった。


「ああ、あの娘か」


「はい」


 宗は、少し、顔を、赤らめながら、続けた。


「私は、いずれ、彼女と、一緒に、なりたいと、思っています」


 湊は、この言葉に、しばらくの間、言葉を、失っていた。


 かつて、腕に抱いていた、あの小さな赤ん坊が――今、こうして、自分の前で、そう、告げている。


「そうか」


 湊は、静かに、そう、答えた。


「彼女は、なんと、言っている?」


「まだ、はっきりとは……ですが、私の気持ちは、伝えました」


「なら、焦らなくていい」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「大事なのは、お前が、彼女を、大切にできるかどうかだ。それだけだ」


 宗は、この言葉に、深く、頷いた。


 その夜、湊は、ミオに、この話を、伝えた。


「宗が、そんなことを」


 ミオは、少し、驚いた様子だったが、すぐに、優しく、微笑んだ。


「あの子も、そういう年に、なったんですね」


「ああ」


 湊は、しばらく、黙っていた。


「俺たちが、この畑で、話をしたのは……いくつの時だったかな」


「二十四の時です」


 ミオは、そう、即座に、答えた。


「よく、覚えているな」


「忘れるはずが、ありません」


 二人は、しばらくの間、静かに、笑い合っていた。


 この、宗の話と並行して、村では、あの毎朝の会議で決まった、防災の取り組みが、着実に、進められていた。


 その中心となっていたのが、消防の設備だった。


 ある朝の会議で、この課題を、担当することになった、ドウが、報告を、始めた。


「湊さん、貯水の槽は、村の主要な場所に、設置が、終わりました」


「よくやった。次は?」


「水を、勢いよく、送り出す仕組みです」


 湊は、この課題について、しばらく、考えを、巡らせた。


「ポンプの技術は、もう、ある。それを、大きくして、車に、載せられないだろうか」


「車に、ですか」


「そうだ。火事は、どこで、起きるか、わからない。だから、水を送る仕組みごと、現場に、駆けつけられる必要がある」


 この構想のもと、レンとドウが、協力して、消防用の車両の開発に、着手することになった。


 この車両には、大量の水を積む槽と、その水を、勢いよく、押し出すためのポンプが、搭載された。ポンプの動力には、車両のエンジンが、そのまま、使われることになった。


 この開発には、四ヶ月ほどが、費やされた。


 完成した車両の、最初の試験の日。


 村の広場に、水が、高々と、吹き上げられた。その水は、三階建ての建物の、屋根の高さまで、届いた。


「これは、すごい」


 集まった人々から、感嘆の声が、上がった。


 この消防車の完成と並行して、村では、消防の組の訓練も、着実に、進められていた。


 ガルが、この訓練を、指揮した。


「火事は、恐竜より、恐ろしいかもしれない」


 ガルは、そう、若い組員たちに、語った。


「恐竜は、見える。だが、火は、あっという間に、広がる。だから――何より、速さが、命だ」


 組員たちは、来る日も、来る日も、駆けつけ、水を放ち、そして、片付けるという、一連の動作を、繰り返し、訓練していった。


 だが、湊は、この訓練を、見守りながら、もう一つの、重要な課題に、気づいていた。


 ある朝の会議で、湊は、こう、切り出した。


「火事があった時、燃えている建物から、人を、助け出せるか」


 この問いに、ガルは、しばらく、答えられなかった。


「……そこまでは、考えていなかった」


「それに――怪我をした人を、どうやって、医療所まで、運ぶ?」


 この問いに、シラが、答えた。


「今は、板に、乗せて、人が、担いで、運んでいます」


「時間は、どれくらい、かかる?」


「村の端から、医療所まで……半刻ほどでしょうか」


 湊は、この報告を、深く、受け止めた。


「それでは、遅すぎるかもしれない」


 湊は、そう、静かに、言った。


「大きな怪我や、急な病では――その半刻が、生死を、分けることもある」


 この日の会議で、新たな組織の設立が、決定された。


 救急の組だった。


 この組には、専用の車両が、与えられることになった。医療の道具を、積み込み、怪我人を、寝かせたまま、運べる。そして、村中の、どこへでも、素早く、駆けつけられる。


 この車両の開発には、レンが、当たった。


「湊さん、一つ、難しいことが、あります」


「なんだ?」


「揺れです。今の車では、道の凸凹が、そのまま、伝わります。怪我人を、乗せるには……」


 湊は、この指摘に、深く、頷いた。


「バネを、使えないだろうか」


「バネ、ですか」


「そうだ。車輪と、荷台の間に、バネを、入れる。そうすれば、揺れを、和らげられるはずだ」


 この構想により、村の車両には、初めて、本格的な緩衝の仕組みが、導入されることになった。


 この開発には、三ヶ月ほどが、費やされた。


 完成した救急車両の、最初の試験の日。シラが、実際に、この車両に、横になってみた。


「これなら……確かに、随分と、楽です」


 シラは、そう、報告した。


 同時に、この救急の組には、専門の訓練が、施されることになった。


「ただ、運ぶだけでは、足りません」


 シラは、そう、主張した。


「運んでいる間に、できることが、あります。血を、止める。呼吸を、確かめる。そうしたことを、この組の者は、知っている必要があります」


 この訓練は、シラ自身が、直接、指導することになった。


 こうした、防災と救急の体制が、整いつつあった、ある日。


 実際に、その体制が、試される時が、訪れた。


 夜半、村の外れの、木材を保管していた倉庫から、火が、上がったのだ。


 放送が、即座に、村中に、警報を、流した。消防の組が、車両と共に、駆けつける。


 水が、高々と、放たれた。


 だが、その最中、一人の若者が、倒れている木材の下敷きに、なっていることが、判明した。


「まだ、中に、人がいる!」


 組員たちが、必死に、木材を、取り除いていく。数分の後、その若者は、救い出された。


 すぐさま、救急の車両が、駆けつけた。組員たちが、若者を、車両に、乗せる。走り出す前に、一人の組員が、シラから教わった通りに、若者の呼吸を、確かめた。


「息は、あります!」


 車両は、そのまま、医療所へと、走った。半刻かかっていた道のりを、この車両は、わずか、数分で、走り抜けた。


 その若者は、腕に、大きな怪我を、負っていたが――命に、別状は、なかった。


 翌朝の会議で、この一件が、報告された。


「湊さん」


 ガルが、そう、切り出した。


「もし、あの仕組みが、なかったら……あいつは、助からなかったかもしれない」


 湊は、この報告を、深く、受け止めていた。


「そうか」


 湊は、しばらく、沈黙した後、静かに、言った。


「みんなが、備えてくれていたおかげだ」


 この日の会議は、いつになく、静かなものになった。だが、その場にいた誰もが、この村が、確かに、一つの、大切なものを、守り抜いたことを、実感していた。


 湊は、記録帳に、この一連の出来事を、丁寧に、書き記した。


『消防用の車両を開発。四ヶ月を要した。三階建ての高さまで、放水が可能』

『救急の組を設立。専用車両にバネによる緩衝機構を導入。三ヶ月を要した』

『救急の組には、シラによる、応急処置の訓練を施した』

『実際の火災において、この体制が機能。一人の命が、救われた』

『長男・宗、十五歳。ユナという娘との、将来を、語るようになった』


 湊は、四十歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、二十六年ほどが、過ぎていた。


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【第89話 時点 文明発展状況】

湊40歳/漂着後 26年

人口:316人

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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中

02 食料・農業    ★★★★★ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★★ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★★ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★★★ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 継続中

07 医療・薬学    ★★★★★ 救急隊への応急処置訓練を実施

08 住居・建築    ★★★★★ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★★ 継続中

10 火・エネルギー  ★★★★★ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★★ 継続中

12 製造・工業    ★★★★★ 消防車両・救急車両を開発。緩衝機構も実用化

13 科学・技術    ★★★★★ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中

15 教育・研究    ★★★★★ 継続中

16 経済・商業    ★★★★★ 継続中

17 政治・法律・行政 ★★★★★ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★★★★ 継続中

19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 消防・救急体制が確立。実際の火災で機能し、人命を救った

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 長男・宗が、次世代としての歩みを始める

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