↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第三部 文明の礎

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
90/106

第88話「守る者たち」

 毎朝の会議が、村の運営の柱として、定着してから、三ヶ月ほどが過ぎていた。湊は、四十歳になろうとしていた。


 この間、村には、また、五人の新しい住人が加わっていた。人口は、三百十二人になっていた。


 ある朝の会議で、司法の場を、任されることになった、年配の男――かつて、村の記録を、長く手伝ってきた、ジンという人物が、深刻な表情で、報告を、始めた。


「湊さん、扱う揉め事の中身が、変わってきています」


「どう、変わった?」


「これまでは、境界の争いや、取引の行き違いが、ほとんどでした。ですが、この頃は……」


 ジンは、そこで、少し、言葉を、切った。


「盗みが、増えています」


 この報告に、会議の場が、静まり返った。


「盗み、か」


 湊は、静かに、そう、つぶやいた。


 かつて、この村が、まだ、数十人だった頃。誰もが、互いの顔と、暮らしぶりを、知っていた。そうした場所では、盗みという行為は、ほとんど、成立しなかった。


 だが、村が、三百人を超え、さらに、外から来た労働者も、絶えず、出入りする今――状況は、大きく、変わっていた。


「他には?」


「揉め事が、力ずくの争いに、発展することも、増えました。特に、酒が、絡んだ時に」


 湊は、この報告を、深く、受け止めた。


「わかった。今日は、この課題を、扱おう」


 湊は、そう言って、壁の紙に、新たな項目を、書き加えた。


「まず、確かめたい。今、こうした問題が、起きた時、誰が、対応している?」


 ガルが、答えた。


「俺の、防衛の組が、対応することが、多い」


「それで、うまく、いっているか?」


 ガルは、しばらく、躊躇してから、答えた。


「正直に言えば、無理がある」


「どういうことだ?」


「俺の組は、恐竜から、村を守るために、作られた。だから、皆、外を、見張ることに、慣れている」


 ガルは、そう、続けた。


「でも、村の中で、人と人の揉め事に、割って入るのは……まったく、別の技だ」


 湊は、この指摘に、深く、頷いた。


「なるほど。確かに、そうだ」


 湊は、しばらく、考えを、巡らせた。


「なら――分けよう」


 湊は、そう、切り出した。


「分ける、というと?」


「村の外の脅威に、備える組と、村の中の秩序を、守る組を、別々に、作るんだ」


 湊は、そう言って、紙に、書き始めた。


「外を守る組は、これまで通り、ガルが、率いる。恐竜への備え、そして――万一の、外からの脅威に、備える」


「中を守る組は?」


「新しく、作る。こちらは、村の中を、見回り、揉め事を、収め、盗みを、防ぐ」


 この提案に、しばらく、議論が、続いた。


「一つ、心配なことが、あります」


 シラが、そう、口を開いた。


「なんだ?」


「村の中を、守る組が……力を、持ちすぎないでしょうか」


 湊は、この指摘に、深く、頷いた。


「その心配は、極めて、正しい」


 湊は、そう答えてから、続けた。


「だから、この組には、厳しい、決まりを、設ける必要がある」


 湊は、再び、紙に、書き始めた。


「一つ。この組の者は、いかなる場合も、人を、傷つけてはならない。取り押さえる以上のことは、してはならない」


「二つ。誰かを、捕らえた場合、必ず、司法の場に、引き渡す。この組が、罰を、決めてはならない」


「三つ。この組の行いは、議会が、常に、監督する」


「四つ。この組の者は、あの、投射の道具を、決して、持ってはならない」


 この最後の項目に、ガルが、強く、反応した。


「それは、いい決まりだ」


 ガルは、そう、静かに、言った。


「村の中で、あれを、使うようなことが、あっては、絶対に、ならない」


 この日の会議で、二つの組織の設立が、決定された。


 村の中の秩序を守る組――村では、「見守り」と呼ばれることになったこの組織は、その後、十数名の若者たちによって、編成されることになった。


 その長には、意外な人物が、選ばれた。


 かつて、ヤズの集落から、留学生として、この村に来た、ロタだった。彼は、この頃、議会代表としても、確かな信頼を、得ていた。


「なぜ、私なのですか」


 ロタは、この任命に、戸惑いを、見せた。


「お前が、外から来た者だからだ」


 湊は、そう、答えた。


「今、この村には、昔からいる者と、外から来た者が、混ざっている。もし、昔からいる者だけで、この組を作れば……外から来た者は、必ず、不公平を、感じる」


 ロタは、この言葉に、深く、頷いた。


「わかりました。お引き受けします」


 この、見守りの組の設立と並行して、湊は、もう一つの、より重い課題にも、向き合っていた。


 外からの脅威への、備えだった。


 ある朝の会議で、湊は、こう、切り出した。


「今日は、少し、重い話を、したい」


 一同は、湊の、いつになく、真剣な表情に、緊張した。


「アガルの、新しい王が、即位してから、もう、四年以上が、経つ」


 湊は、そう、続けた。


「その間、正式な、やり取りは、ほとんど、ない」


 ナギが、この指摘に、答えた。


「交易は、続いています。ですが、確かに……以前より、行き来が、減っています」


「それが、気になる」


 湊は、静かに、そう、言った。


「先王とは、対等な同盟を、結んだ。だが、新しい王が、それを、どう、考えているか。それが、まったく、わからない」


 この日の議論は、極めて、慎重に、進められた。


「もし――万一だが、アガルが、この村に、力で、迫ってきたら」


 湊は、そう、切り出した。


「今の俺たちに、それを、防ぐ力は、あるか」


 ガルが、しばらく、考えてから、答えた。


「正直に言えば……わからない」


「なぜだ?」


「俺の組は、恐竜と、戦うことには、慣れている。だが、人と、戦ったことは、一度も、ない」


 この言葉に、会議の場は、重い、沈黙に、包まれた。


「湊さん」


 しばらくして、ロタが、口を開いた。


「私は、外から来た者として、一つ、申し上げたいことが、あります」


「聞かせてくれ」


「戦う準備を、することは……戦うことを、望むことでは、ありません」


 ロタは、静かに、そう、続けた。


「むしろ、備えがあるからこそ、相手は、力で、迫ってこない。私の故郷では、そう、教わりました」


 湊は、この言葉を、深く、受け止めていた。


 湊自身、この点については、長く、悩み続けてきた。備えることは、争いを、呼び込むことになるのではないか。だが、備えなければ、守れないものが、ある。


「わかった」


 湊は、しばらくの沈黙の後、そう、答えた。


「ガルの組を、正式に、外からの脅威に、備える組織として、位置づけよう」


 湊は、そう言って、続けた。


「ただし――こちらにも、厳しい決まりを、設ける」


「一つ。この組は、決して、こちらから、他の集落を、攻めない」

「二つ。あの、投射の道具は、議会の、明確な決定なしに、使ってはならない」

「三つ。この組を、動かす決定は、必ず、議会が、行う。一人の判断で、動かしてはならない」


 この最後の項目について、湊は、特に、強調した。


「これは、俺自身にも、当てはまる。俺が、一人で、この組を、動かすことは、できない」


 こうして、村には、初めて、村の中を守る「見守り」と、外からの脅威に備える「守り手」という、二つの、明確に区分された組織が、設立されることになった。


 この、二つの組織の設立に伴い、村の憲法――「基本の書」にも、大きな、改正が、加えられることになった。


 この改正は、議会での、慎重な審議を経た後、村の全住民による、投票に、諮られることになった。


「なぜ、投票を、するのですか」


 ある日、ロタが、そう、尋ねた。


「基本の書は、この村の、いちばん、根っこの決まりだ」


 湊は、そう、答えた。


「それを、変えるなら――村の全員の、意思を、確かめるべきだ」


 この投票の日、村の広場には、これまでで、最も多くの人々が、集まった。


 湊は、投票の前に、集まった人々の前で、こう、語った。


「今日、皆に、決めてもらうことは……この村を、どう、守るかということだ」


 湊は、静かに、続けた。


「守るための力を、持つ。それは、必要なことだ。だが、同時に――その力が、いつか、俺たち自身に、向けられる危険も、ある」


 人々は、真剣な表情で、湊の言葉に、耳を、傾けていた。


「だから、その力には、厳しい決まりを、つけた。この決まりが、正しいと思うなら、賛成してほしい。もし、違うと思うなら、反対してほしい」


 投票の結果、この改正は、圧倒的多数の賛成をもって、承認された。


 だが、湊が、何よりも、重く、受け止めたのは、少数ながら、確かに、存在した、反対票だった。


「反対した人たちの、意見も、聞くべきだ」


 湊は、そう、議会に、求めた。


 後日、反対した人々からの、聞き取りが、行われた。その多くは、力を持つことそのものへの、根深い懸念だった。


「その懸念は、正しい」


 湊は、そう、答えた。


「だから、この決まりは、これから先も、常に、見直していく必要がある」


 湊は、記録帳に、この一連の出来事を、丁寧に、書き記した。


『村内の秩序を守る「見守り」と、外からの脅威に備える「守り手」を、明確に区分して設立』

『見守りには、人を傷つけない、罰を決めない、投射の道具を持たないという、厳格な制約を課した』

『守り手には、こちらから攻めない、議会の決定なしに武器を使わない、一人の判断で動かさないという制約を課した』

『これらを、基本の書に加える改正を、全住民投票により、承認』

『反対した者の意見も、聞き取り、記録した。この決まりは、常に、見直していく必要がある』


 夕暮れ、湊は、議事堂の窓から、村を、見渡していた。


 湊は、四十歳になった。この世界に来てから、二十五年五ヶ月ほどが、過ぎていた。


---


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【第88話 時点 文明発展状況】

湊40歳/漂着後 25年5ヶ月

人口:312人

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中

02 食料・農業    ★★★★★ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★★ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★★ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★★★ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 継続中

07 医療・薬学    ★★★★★ 継続中

08 住居・建築    ★★★★★ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★★ 継続中

10 火・エネルギー  ★★★★★ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★★ 継続中

12 製造・工業    ★★★★★ 継続中

13 科学・技術    ★★★★★ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中

15 教育・研究    ★★★★★ 継続中

16 経済・商業    ★★★★★ 継続中

17 政治・法律・行政 ★★★★★ 憲法改正を、全住民投票により承認。統治の正統性が確立

18 外交・交通・情報 ★★★★★ アガル新王との関係が、依然として未確認

19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 治安組織と防衛組織を分離設立。厳格な制約を課す

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 力の行使に対する、厳しい歯止めが、村の理念として確立

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。