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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第二部 村を築く

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第80話「鉄の道」

 トンネルと橋が完成してから、四ヶ月ほどが過ぎていた。湊は、三十五歳になっていた。


 この間、村には、また、五人の新しい住人が加わっていた。人口は、二百七十六人になっていた。


 ある日の議会で、ナギが、深刻な表情で、報告を、始めた。


「湊さん、河口との輸送が、限界に、近づいています」


「自走車では、足りないのか」


「はい。塩と、魚と、それに、交易品。運ぶものが、増えすぎました。今の自走車の台数では、とても、追いつきません」


 湊は、この報告を、深く、受け止めた。


「車を、増やすしかないか」


「それも、考えました。ですが……」


 ナギは、そう言って、地図を、広げた。


「今の道では、これ以上、車が増えると、渋滞してしまいます。それに、燃料の消費も、馬鹿になりません」


 湊は、この課題について、しばらく、考えを、巡らせた。そして、記憶の奥底から、ある仕組みを、たぐり寄せた。


「一度に、たくさんのものを、運べる方法が、あるはずだ」


 湊は、そう、切り出した。


「どういうことでしょう」


「鉄の道を、敷くんだ。その上を、大きな車を、走らせる」


 ナギと、ドウ、そしてレンが、この言葉に、興味深そうな表情を、見せた。


「鉄の道、ですか」


「そうだ。地面の上に、二本の鉄の棒を、平行に、敷く。その上を、車輪を持つ車が、走る」


 湊は、地面に、簡単な図を、描いていった。


「なぜ、鉄の上を、走らせるのですか」


 ドウが、そう、尋ねた。


「摩擦が、少ないからだ」


 湊は、そう、答えた。


「土の道では、車輪が、めり込んだり、滑ったりする。でも、鉄の上なら、同じ力で、はるかに、重いものを、動かせるはずだ」


 この構想を、湊は、議会に、提案した。


「大きな事業になります」


 ドウが、率直に、そう、指摘した。


「村から、河口まで、どれくらいの距離が、あると思いますか」


「歩けば、半日ほどか」


「はい。その距離、全部に、鉄の棒を、敷き続けるのです。とてつもない量の、鉄が、必要になります」


 湊は、この指摘に、深く、頷いた。


「レン、どれくらい、作れる?」


 レンは、しばらく、計算していた。


「今の生産量なら……全部、揃えるのに、二年近く、かかるかもしれません」


 この報告に、議会は、しばらく、沈黙に、包まれた。


「二年か……」


 湊は、そう、つぶやいた。だが、しばらくして、顔を、上げた。


「それでも、やる価値は、ある」


 湊は、静かに、そう、続けた。


「これから先、村は、もっと、大きくなる。今のうちに、この道を、作っておかなければ、いずれ、必ず、行き詰まる」


 議論の末、議会は、この事業を、承認した。ただし、段階的に、進めることが、条件とされた。まず、村から、東の農地までの、短い区間。そこで、実際に、この仕組みが、機能することを、確かめる。その上で、河口までの、本格的な建設に、着手する。


 この試験区間の建設には、ドウが、指揮を執ることになった。


 まず、路盤――鉄の棒を敷くための、平らで、頑丈な地面を、作る必要があった。ドウは、これまでの道路建設の経験を活かし、砕石を敷き詰め、丁寧に、突き固めていった。


 次に、その上に、枕木を、等間隔に、並べる。そして、その上に、鉄の棒を、固定していく。


 この作業は、極めて、根気を、要するものだった。少しでも、高さが、揃っていなければ、車は、脱線してしまう。


「一つ一つ、水平を、確かめながら、進めるしかありません」


 ドウは、そう言って、以前確立した測量の技術を、駆使しながら、慎重に、作業を、進めていった。


 この試験区間――およそ、村から東の農地までの、短い距離の建設には、四ヶ月ほどが、費やされた。


 同時に、レンは、この鉄の道を、走らせるための、車両の製作に、当たっていた。


 これまでの自走車と、大きく異なるのは、その大きさだった。一度に、多くの荷物と、人を、運ぶため、車両は、はるかに、大型のものとなった。


 動力には、これまでのエンジンと、発電機、モーターを組み合わせた仕組みが、そのまま、応用された。


「湊さん、一つ、心配なことが、あります」


 ある日、レンが、そう、切り出した。


「なんだ?」


「これだけ、大きくて、重い車を……どうやって、止めるのでしょう」


 湊は、この指摘に、はっとさせられた。確かに、これは、極めて、重要な課題だった。


「そうだな。止まる仕組みが、なければ、危なくて、走らせられない」


 この、制動の仕組みの開発には、さらに、ふた月ほどが、費やされた。レンは、車輪に、直接、強く押し当てる、金属の板を、複数、配置する仕組みを、考案した。


 こうして、ついに、村初の「鉄道」が、完成した。


 最初の試運転の日、村中の人々が、線路の脇に、集まった。


 レンが、車両に乗り込み、動力を、起動させる。エンジンの音が、響き、そして、車両が、ゆっくりと、動き始めた。


「動いた!」


 歓声が、上がった。


 だが、湊が、何よりも、驚いたのは、その、輸送力だった。


 車両には、これまでの自走車の、十台分にも相当する、荷物が、積まれていた。それでも、車両は、ほとんど、力を持て余すかのように、滑らかに、走り続けた。


「これは……すごいな」


 湊は、思わず、そう、つぶやいた。


 この試験区間の成功を受けて、村は、河口までの、本格的な建設に、着手することになった。この工事には、二年近い月日が、費やされることになるが、その間も、鉄の道は、少しずつ、着実に、伸びていくことになった。


 同時に、線路の要所には、駅が、設けられることになった。乗り降りのための場所。荷物の積み下ろしのための設備。そして、待合のための、屋根付きの空間。


 これらの駅は、次第に、単なる乗り換えの場所を超えて、人々が、集まる場所へと、育っていくことになった。


 こうした、大規模な交通網の整備が、進む一方で、村には、思いがけない、来訪者が、あった。


 ある日、河口から、急ぎの伝令が、届いた。


「湊さん、アガルから、使者が、来ています」


 湊は、この報告に、緊張した。アガルとの、対等な同盟が結ばれてから、すでに、九年近くが、経っていた。その間、交易は、続いていたが、正式な使者の来訪は、久しく、途絶えていた。


 河口で、湊を迎えたのは、かつて、あの銀の腕輪を届けた、ミルナだった。彼女も、この九年で、確かに、年を、重ねていた。


「お久しぶりです」


 湊は、丁重に、頭を下げた。


「ええ。随分と、久しぶりですね」


 ミルナは、そう答えながら、村へと向かう道中、次第に、その表情に、驚きの色を、濃くしていった。


 多層の建物。石畳の道。トンネル。そして――鉄の道。


「これは……」


 ミルナは、走り抜けていく鉄道の車両を、目にした瞬間、しばらく、言葉を、失っていた。


「あれは、何ですか」


「鉄の道の上を、走る車です。一度に、多くの荷物と、人を、運べます」


 ミルナは、その説明を聞いても、なお、信じられないという表情を、していた。


 議事堂で、ミルナは、ようやく、本題を、切り出した。


「実は……カディシュ王が、崩御されました」


 湊は、この報告に、深く、息を、吐いた。


「そうでしたか」


「新しい王は、その息子――ラムセスです」


 湊は、この名を、深く、心に、刻んだ。


「新王は、どのような、お考えですか」


 ミルナは、しばらく、慎重に、言葉を、選んでいた。


「正直に、申し上げます。ラムセス王は……先王とは、少し、異なる考えを、お持ちです」


「といいますと」


「より、積極的に、周辺との関係を、深めたいと。それが、どのような形になるかは……まだ、私にも、わかりません」


 湊は、この言葉の裏にある、複雑な意味を、感じ取っていた。


 だが、ミルナは、続けて、こう、付け加えた。


「ただ――今日、この村を、実際に見て、思いました。王が、どのようにお考えであっても……この村を、力で、どうこうしようとは、思わないでしょう」


 湊は、この言葉に、静かに、頷いた。


 その夜、湊は、記録帳に、この一連の出来事を、書き記した。


『鉄道の試験区間が完成。四ヶ月の建設と、ふた月の制動装置開発を要した。輸送力は、自走車の十倍以上』

『河口までの本格的な建設に着手。完成には、二年近くを見込む』

『アガルより、ミルナが来訪。カディシュ王の崩御と、新王ラムセスの即位を報告』

『新王は、先王とは異なる考えを持つとのこと。今後の関係に、注意が必要』


 湊は、三十五歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、二十年八ヶ月ほどが、過ぎていた。


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【第80話 時点 文明発展状況】

湊35歳/漂着後 20年8ヶ月

人口:276人

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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中

02 食料・農業    ★★★★★ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★★ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★★ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★★★ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 継続中

07 医療・薬学    ★★★★★ 継続中

08 住居・建築    ★★★★★ 駅舎の建設が始まる

09 土木・インフラ  ★★★★★ 鉄道の試験区間が完成、河口までの建設に着手

10 火・エネルギー  ★★★★★ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★★ 大量のレール生産体制を構築中

12 製造・工業    ★★★★★ 大型車両と制動装置の製作技術を確立

13 科学・技術    ★★★★★ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中

15 教育・研究    ★★★★★ 継続中

16 経済・商業    ★★★★★ 輸送力の飛躍的向上により、交易規模の拡大が見込まれる

17 政治・法律・行政 ★★★★★ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★★★★ アガル新王ラムセスの即位。関係の再構築が必要に

19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 駅が、人の集まる新たな場として育ち始める

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