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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第二部 村を築く

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第79話「高く、深く、遠く」

 半導体の初歩的な技術と、タズの訓練が形になってから、三ヶ月ほどが過ぎていた。湊は、三十五歳になろうとしていた。


 この間、村には、また、五人の新しい住人が加わっていた。人口は、二百七十一人になっていた。


 ある朝の議会で、ドウが、深刻な表情で、口を開いた。


「湊さん、土地が、足りません」


「土地が?」


「はい。人が増え続けているのに、平らな土地は、限られています。畑も、住まいも、工場も、すべて、同じ土地を、取り合っている状態です」


 湊は、この報告を、深く、受け止めた。確かに、村の中心部は、すでに、隙間なく、建物で、埋まりつつあった。


「広げるしか、ないのか」


「それも、限界があります。広げれば広げるほど、村の中心から、遠くなりますから」


 湊は、しばらく、考えを、巡らせた。それから、ふと、上を、見上げた。


「ドウ、上に、伸ばせないだろうか」


「上、ですか」


「そうだ。今の建物は、多くて、二階までだろう。三階、四階と、積み上げられないか」


 ドウは、この提案に、しばらく、考え込んでいた。


「難しいですね。上に重ねるほど、下の柱と、壁に、大きな重みが、かかります」


「今のレンガと、木材では、無理か」


「今のままでは。ですが……」


 ドウは、そう言って、しばらく、黙り込んだ。


「レンさんの鋼を、使えれば、話は、違うかもしれません」


 湊は、この発想に、深く、頷いた。


「なるほど。柱を、鋼で、作るということか」


「はい。鋼なら、同じ太さでも、木材より、はるかに、重みに、耐えられるはずです」


 この構想のもと、ドウとレンは、協力して、三階建ての建物の建設に、着手することになった。


 だが、この工事は、これまでの、どの建築よりも、困難を、極めた。


 まず、鋼の柱を、必要な長さで、まっすぐに、作ること自体が、大きな課題だった。


「長くなるほど、曲がってしまいます」


 レンが、そう、報告した。この課題の解決には、加熱と、冷却の工程を、細かく、調整する必要があった。


 次に、その重い鋼の柱を、どうやって、立ち上げるかという課題が、あった。


「一本で、大人五人分ほどの重さがあります。とても、人手だけでは」


 この課題に対して、ドウは、滑車と、テコを組み合わせた、簡素な、しかし、確かな仕組みを、考案した。


 さらに、階と階の間の、床をどう支えるか。上下の移動を、どうするか。一つ一つの課題を、乗り越えていく必要があった。


 この工事には、実に、五ヶ月ほどの月日が、費やされることになった。


 完成した三階建ての建物は、村の景観を、大きく、変えることになった。これまで、平屋と二階建てばかりだった村に、突然、周囲を見下ろす、高い建物が、姿を、現したのだ。


「湊さん、上からの眺めは、格別ですよ」


 ドウに、そう促され、湊は、最上階に、上ってみた。


 そこから見える村の姿は、これまで、湊が、高台から見てきたものとは、また違う、新鮮な光景だった。


「これは……確かに、いい眺めだ」


 この最初の三階建ては、村の行政機構の庁舎として、使われることになった。九つの分野の事務所が、それぞれの階に、配置された。


 この建物の完成を受けて、村では、次々と、多層の建物が、建設されるようになっていった。特に、住居については、これまでの集合住宅を、三階建てにすることで、より多くの家族を、受け入れられるようになった。


 土地の問題に、一つの答えが、見えてきた頃。湊は、もう一つの課題に、目を、向けていた。


 交通だった。


「湊さん、これを、見てください」


 ある日、ドウが、村の地図を、机の上に、広げた。


「村の中心から、東の農地へ行くには、この山を、大きく、迂回しなければなりません」


 湊は、地図を、じっと、見つめた。確かに、村と、東の農地の間には、小さいながら、確かな高さを持つ、丘陵が、横たわっていた。


「回り道すると、どれくらい、かかる?」


「歩いて、半日。自走車でも、二時間近く」


「直線なら?」


「直線なら……歩いても、一時間もかかりません」


 湊は、この差に、深く、考え込んだ。


「山を、越えるか、それとも……」


「掘り抜く、という方法も、あります」


 ドウが、静かに、そう、言った。


 湊は、この提案に、しばらく、言葉を、失っていた。


「掘り抜く……トンネルを、作るということか」


「はい。危険な作業になりますが、不可能では、ないと思います」


 この構想は、議会に、諮られることになった。議論は、慎重に、進められた。


「危険では、ないのか」


 代表の一人が、そう、尋ねた。


「危険です」


 ドウは、正直に、答えた。


「掘っている途中で、上から、崩れてくる恐れがあります。それに、中の空気が、悪くなる恐れも」


「では、なぜ、やるべきだと思う?」


 湊が、そう、問いかけると、ドウは、しばらく、考えてから、答えた。


「東の農地は、これから、村にとって、いちばん、大事な場所になります。そこへの道が、半日かかるのと、一時間で済むのとでは、あまりに、違いすぎる」


 議論の末、議会は、このトンネル工事を、承認した。ただし、極めて、厳格な安全条件のもとで、進めることが、条件とされた。


 工事は、丘陵の両側から、同時に、掘り進める形で、進められた。


 最初の課題は、崩落を、どう防ぐかだった。ドウは、掘り進めた部分に、すぐさま、木材と鋼で、支えを、組んでいく方法を、採用した。


 次の課題は、中の空気だった。深く掘り進めるほど、内部の空気は、澱んでいく。この課題に対して、レンは、あの、送風の技術を、応用した装置を、開発した。


「これで、外の空気を、奥まで、送り込めます」


 さらに、掘削そのものにも、工夫が、必要とされた。硬い岩盤に、当たった際には、あの、厳格に管理されてきた発破の技術が、限定的に、使われることになった。


 この工事には、実に、七ヶ月ほどの月日が、費やされることになった。


 だが、この長い工事の中で、幸いにも、一人の死者も、出なかった。ドウが、徹底した安全管理を、貫き通したためだった。


「一日、遅れても、いい。だが、誰も、失うわけには、いかない」


 ドウは、そう、繰り返し、作業員たちに、伝え続けていた。


 両側から掘り進めた坑道が、ついに、貫通した日。作業員たちの間から、大きな歓声が、上がった。


 湊も、その場に、立ち会っていた。


「ドウ、よくやった」


 湊が、そう、声をかけると、ドウは、いつもの寡黙な表情のまま、静かに、頷いた。


「みんなが、無事で、何よりです」


 このトンネルの完成により、村と、東の農地との距離は、劇的に、縮まった。これまで、半日かかっていた道のりが、自走車を使えば、二十分ほどで、到達できるようになったのだ。


 同時に、村では、いくつかの、新しい橋の建設も、進められていた。鋼の技術が、確立されたことで、これまでよりも、はるかに長い距離を、渡せる橋が、作れるようになっていた。


 こうした、大規模な建設事業を、支えていたのは、外から来た、多くの労働者たちだった。


 この頃、村には、周辺の集落から、多くの人々が、働くために、訪れるようになっていた。彼らの多くは、一定期間、村で働き、賃金として、輪を受け取り、そして、故郷へと、帰っていった。


「湊さん、この村で働きたいという人が、後を絶ちません」


 ある日、ナギが、そう、報告した。


「それは、ありがたいことだが……問題は、ないか」


「今のところは。ただ、言葉の壁は、どうしても、残ります」


 湊は、この課題に対して、これまでの、言語教育の仕組みを、さらに、拡充することを、提案した。


「働きに来た人にも、最初に、言葉を、学んでもらおう。それに――円盤も、活用できるはずだ」


 この方針のもと、村には、外から来た労働者向けの、短期の言語教室が、設けられることになった。ここでは、日常会話と、作業に必要な最低限の言葉が、集中的に、教えられた。


 湊は、記録帳に、この一連の発展を、丁寧に、書き記した。


『鋼の柱を用いた、三階建ての建物を建設。五ヶ月を要した。土地不足への、確かな答えとなった』

『丘陵を掘り抜く、トンネル工事を完遂。七ヶ月を要したが、死者は一人も出さなかった』

『鋼を用いた長大な橋の建設も、並行して進行』

『外から来た労働者向けの、短期言語教室を設置』


 夕暮れ、湊は、完成したばかりの三階建ての庁舎の、最上階から、村を、見下ろしていた。


 眼下には、これまでとは、まったく異なる姿を見せる、村の光景が、広がっていた。多層の建物。長い橋。そして、丘陵を貫くトンネルへと、続く道。


 湊は、三十五歳になった。この世界に来てから、二十年二ヶ月ほどが、過ぎていた。


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【第79話 時点 文明発展状況】

湊35歳/漂着後 20年2ヶ月

人口:271人(常駐)+外部労働者

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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中

02 食料・農業    ★★★★★ 東の農地へのアクセスが劇的に改善

03 畜産・動物    ★★★★★ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★★ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★★★ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 継続中

07 医療・薬学    ★★★★★ 継続中

08 住居・建築    ★★★★★ 鋼の柱による三階建て建築を実現、土地問題に対応

09 土木・インフラ  ★★★★★ トンネルと長大橋が完成、交通網が飛躍的に発展

10 火・エネルギー  ★★★★★ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★★ 長尺の鋼材製造技術を確立

12 製造・工業    ★★★★★ 継続中

13 科学・技術    ★★★★★ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中

15 教育・研究    ★★★★★ 外部労働者向けの短期言語教室を設置

16 経済・商業    ★★★★★ 外部労働者への賃金支払いにより、貨幣経済が周辺に波及

17 政治・法律・行政 ★★★★★ 三階建て庁舎に、九分野の事務所を集約

18 外交・交通・情報 ★★★★★ 継続中

19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 多層建築が、村の景観を大きく変える

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