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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第二部 村を築く

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第78話「一方通行の石」

 写真技術と船外機が完成してから、三ヶ月ほどが過ぎていた。湊は、三十四歳になっていた。


 この間、村には、また、四人の新しい住人が加わっていた。人口は、二百六十六人になっていた。


 ある日、湊は、レンの工房で、真空管の調整を、見守っていた。この頃、真空管は、電話や、電信に、欠かせない部品として、村で、細々と、生産され続けていた。


「湊さん、この真空管、作るのに、随分と、手間がかかります」


 レンが、そう、こぼした。


「一本、作るのに、半日以上、かかりますし……壊れやすくて、すぐに、交換が、必要になります」


 湊は、この訴えを、深く、受け止めていた。


 確かに、真空管は、優れた部品だった。だが、その製造には、極めて、繊細な技術が必要で、しかも、耐久性に、大きな課題が、あった。


 湊は、この課題について、しばらく、考えを、巡らせていた。そして、記憶の奥底に、あるものが、引っかかっていることに、気づいた。


 ――そういえば、真空管の後に、もっと、小さくて、丈夫なものが、あったはずだ。


 湊は、しばらくの間、その記憶を、たぐり寄せようとしていた。半導体。トランジスタ。だが、その仕組みは、湊にとって、あまりに、遠い記憶だった。


 だが、その、最も基本的な性質――「電気を、一方向にだけ、通す」という働きについては、うっすらと、覚えていた。


「レン、少し、試してみたいことが、ある」


「なんでしょう」


「ある種の石は、電気を、一方向にだけ、通すらしい」


 レンは、この言葉に、首を、かしげた。


「一方向に、だけ?」


「そうだ。片方から流すと、通る。でも、逆から流すと、通らない」


「そんな、不思議なものが、あるのですか」


「あるはずだ。だが、どの石が、そうなのかは……俺にも、わからない」


 この、極めて、曖昧な手がかりをもとに、村の探求が、始まることになった。


 まず、レンとタギが、これまで村で採取されてきた、あらゆる鉱石を、一つ一つ、試していった。細い針を、鉱石の表面に、押し当て、そこに、電気を流す。そして、その流れ方を、確かめる。


 最初の数百回は、まったく、成果が、なかった。


「湊さん、これは……途方もない作業です」


 レンが、疲れた表情で、そう、報告した。


「わかっている。だが、もし、見つかれば……村の技術は、また、大きく、変わるはずだ」


 この探索は、ふた月以上にわたって、続けられた。


 そして、ある日。


「湊さん! 見つかったかもしれません!」


 レンが、興奮した様子で、駆け込んできた。


 レンが差し出したのは、以前、鉄の精錬の過程で、副産物として得られていた、黒く、光沢のある結晶だった。


「この石に、針を当てて、電気を流すと……確かに、一方向にしか、流れません」


 湊は、その実験を、自分の目で、確かめた。確かに、片方向からは、電気が流れ、逆からは、ほとんど、流れない。


「これだ……! レン、よくやった」


 湊は、深い興奮を、覚えていた。


 この「一方通行の石」――村では、そう呼ばれるようになったこの部品は、真空管と比べて、はるかに、小さく、そして、壊れにくかった。


 だが、この石を、実用的な部品として使うには、さらに、多くの課題が、残されていた。


 最大の課題は、品質の安定だった。同じように見える結晶でも、その性質は、一つ一つ、大きく、異なっていた。うまく機能するものは、百に一つ、あるかどうか、という状態だった。


「これでは、実用には、なりません」


 レンが、そう、指摘した。


 湊は、この課題について、しばらく、考えを、巡らせた。そして、ふと、あることに、気づいた。


「イワ、少し、聞きたいことがある」


 湊は、写真の技術を、確立したイワを、呼び出した。


「光写しの時、感光する物質を、板に、均一に、塗っていただろう」


「はい。むらがあると、写りも、悪くなりますから」


「その、均一に塗る技術……この石の作成にも、使えないだろうか」


 イワは、この提案に、しばらく、考え込んでいた。


「どういうことでしょう」


「この石を、自然のまま、探すんじゃなく……作るんだ。薄く、均一に」


 この発想は、湊自身、記憶の断片から、たぐり寄せたものだった。半導体は、確か、極めて、精密に、加工された物質だったはずだ。


「それに――光写しなら、細かい模様を、正確に、写し取れるだろう」


 湊は、そう、続けた。


「もし、その技術で、この石の表面に、細かい形を、作れたら……もっと、複雑なことが、できるようになるかもしれない」


 イワは、この構想に、目を、輝かせた。


「面白そうです。やってみましょう」


 この研究は、これまでの、どの技術よりも、繊細で、そして、長い時間を、要することになった。


 まず、石そのものを、より純粋な形で、作り出す必要があった。レンは、精錬の工程を、幾度も、見直し、不純物を、極限まで、取り除く方法を、探っていった。


 次に、その石の表面に、光写しの技術で、細かい模様を、写し取る。イワは、これまでの写真技術を、さらに、精密なものへと、磨き上げていった。


 この試行錯誤には、実に、五ヶ月ほどの月日が、費やされることになった。


 最終的に、村が到達したのは、まだ、極めて、単純なものだった。均一な性質を持つ、小さな「一方通行の石」を、ある程度、安定して、作れるようになった。それだけだった。


 湊が記憶していた、精巧な半導体には、遠く、及ばない。それでも、これは、確かな、前進だった。


「これで、真空管の代わりに、使える場所が、増えます」


 レンが、そう、報告した。


 実際、この部品は、電信や、電話の回路の、一部で、真空管に代わって、使われるようになっていった。小さく、丈夫で、そして、電気の消費も、少ない。


「これから、もっと、色々なことに、使えるようになるかもしれません」


 イワが、そう、期待を込めて、言った。


 湊は、この成果に、深い満足を、覚えながらも、同時に、限界も、感じていた。


「俺の記憶では、これは、もっと、すごいものになるはずなんだ。でも……そこまでは、たどり着けない」


 湊は、正直に、そう、二人に、伝えた。


「それは、これから先の、誰かが、たどり着くべき道なのかもしれない」


 こうした技術の探求と並行して、村では、もう一つの、興味深い試みが、進んでいた。


 ガルが、率いる防衛組織で、始まった、ある取り組みだった。


「湊、面白いことを、思いついた」


 ある日、ガルが、そう、切り出した。


「なんだ?」


「タズを、見張りに、使えないだろうか」


 湊は、この提案に、しばらく、考え込んだ。


「タズを、か」


「ああ。あいつらは、俺たちより、はるかに、鼻が利く。それに、耳もいい」


 ガルは、続けた。


「大型の恐竜が、近づいてくると……タズは、いつも、俺たちより、ずっと早く、気づいて、落ち着かなくなる」


 湊は、この観察に、深く、感心した。


「なるほど。それを、警戒に、使うということか」


「そうだ。それに――もう少し、訓練すれば、もっと、色々なことが、できるかもしれない」


 この試みは、ガルと、彼が育てた、若い訓練士たちによって、進められることになった。


 まず、タズの中でも、特に、感覚が鋭く、そして、人によく懐く個体が、選ばれた。彼らには、恐竜の気配を感じたら、特定の声を上げるよう、根気強い訓練が、施された。


 この訓練には、半年近い月日が、費やされることになった。


「なかなか、覚えません」


 ある日、訓練士の一人が、そう、こぼした。


「焦るな」


 ガルは、そう、答えた。


「俺が、初めて、犬を手懐けた時も、何ヶ月も、かかった」


 根気強い訓練の末、数頭のタズが、確かに、恐竜の接近を、いち早く、知らせるようになった。


 それだけでは、なかった。訓練を重ねるうちに、これらのタズは、他の様々な役割も、担えるようになっていった。人が迷った時、その匂いを、たどる。荷物を、指示された場所まで、運ぶ。


「これは、村にとって、大きな力になる」


 湊は、そう、深く、感心していた。


 湊は、記録帳に、この一連の発展を、丁寧に、書き記した。


『特定の鉱石が、電気を一方向にのみ通す性質を持つことを発見。ふた月の探索を要した』

『光写しの技術を応用し、この石を、より均一な形で作り出す方法を確立。五ヶ月を要した』

『真空管に代わる部品として、電信・電話の一部に導入。ただし、記憶にある水準には、遠く及ばない』

『タズの訓練により、恐竜の接近を察知する、警戒の役目を、担えるようになった。半年を要した』


 夕暮れ、湊は、村の外れで、訓練を受けたタズが、若い訓練士と共に、見回りをしている姿を、見つめていた。


 湊は、三十四歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、十九年八ヶ月ほどが、過ぎていた。


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【第78話 時点 文明発展状況】

湊34歳/漂着後 19年8ヶ月

人口:266人

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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中

02 食料・農業    ★★★★★ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★★ タズの高度な訓練に成功、警戒・捜索・運搬に活用

04 漁業・水産    ★★★★★ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★★★ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 継続中

07 医療・薬学    ★★★★★ 継続中

08 住居・建築    ★★★★★ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★★ 継続中

10 火・エネルギー  ★★★★★ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★★ 半導体的性質を持つ鉱石の精製技術を確立

12 製造・工業    ★★★★★ 光写し技術を応用した、精密部品の製造が可能に

13 科学・技術    ★★★★★ 整流作用という新現象を発見。半導体技術の入り口に到達

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中

15 教育・研究    ★★★★★ 継続中

16 経済・商業    ★★★★★ 継続中

17 政治・法律・行政 ★★★★★ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★★★★ 通信機器の小型化・高耐久化が進む

19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 訓練されたタズが、警戒網の一翼を担う

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 継続中

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