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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第二部 村を築く

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第77話「光を、閉じ込める」

 恐竜対策の体制が整ってから、三ヶ月ほどが過ぎていた。湊は、三十四歳になろうとしていた。


 この間、村には、また、五人の新しい住人が加わっていた。人口は、二百六十二人になっていた。


 ある朝、湊は、書庫で、イワが描いた、村の風景画を、眺めていた。丁寧に描かれた、精緻な絵。だが、湊は、その絵を見ながら、ふと、あることを、思い出していた。


「イワ、少し、相談があるんだ」


「なんでしょう」


「光を、そのまま、写し取ることは、できないだろうか」


 イワは、この言葉の意味を、掴みかねた様子だった。


「写し取る、というと……絵に、描くということですか」


「いや、違う。人の手を、使わずに」


 湊は、記憶を頼りに、説明を、始めた。


「暗い箱に、小さな穴を、開ける。そうすると、その穴から入った光が、箱の中の壁に、外の景色を、逆さまに、映し出す」


 イワは、この説明を聞いて、目を、丸くした。


「そんなことが、起きるのですか」


「起きるはずだ。試してみよう」


 湊とイワは、その日のうちに、簡単な木箱を作り、一面に、小さな穴を、開けた。そして、その箱を、暗くした部屋に、持ち込んだ。


 しばらくして、イワが、驚きの声を、上げた。


「湊さん、見えます! 確かに、外の景色が、映っています!」


 箱の内壁には、確かに、窓の外の景色が、逆さまになって、うっすらと、浮かび上がっていた。


「これは……不思議ですね」


「そうだろう。だが、これは、まだ、始まりに過ぎない」


 湊は、そう言って、続けた。


「この、映った光を、そのまま、留めておく方法が、あるはずなんだ」


 この、光を留める方法こそが、最も、困難な課題だった。湊の記憶にあるのは、光に反応して、色が変わる、ある種の物質を使う、という、ごく大まかな知識だけだった。


「銀を、使うはずなんだが……詳しいことは、覚えていない」


 湊は、正直に、そう、伝えた。


 この研究には、シラも、加わることになった。彼女の、薬草や、様々な物質を扱ってきた経験が、この探求に、大きく、役立つはずだった。


「銀を、どうすればいいのでしょう」


「光に当たると、変化するはずだ。たぶん、何かと、混ぜて」


 シラとイワは、この曖昧な手がかりをもとに、様々な組み合わせを、試していった。銀を、酸に溶かしてみる。塩と、混ぜてみる。そうして得られた物質を、紙や、板に、塗って、光に、当ててみる。


 最初の数十回は、まったく、変化が、見られなかった。だが、ある日、シラが、興奮した様子で、湊のもとに、駆け込んできた。


「湊さん、変わりました!」


 シラが差し出した板には、確かに、光が当たった部分だけが、うっすらと、黒く、変色していた。


「これだ! シラ、よくやった」


 だが、この発見から、実際に、風景を、写し取れるようになるまでには、さらに、長い道のりが、必要とされた。


 変化が、あまりに、遅い。光を、何時間も当て続けなければ、はっきりとした像が、現れない。しかも、いったん現れた像は、その後も、光に当たり続けることで、次第に、全体が、黒くなってしまった。


「これでは、残せません」


 イワが、落胆した様子で、そう、言った。


 この課題の解決には、さらに、三ヶ月ほどの試行錯誤が、必要とされた。シラは、様々な液体を、試した末、ある種の塩水に浸すことで、それ以上の変化を、止められることを、見出した。


 そして、ある日。


 湊、イワ、シラの三人は、村の広場に、あの木箱を、据えていた。箱の内側には、感光する物質を塗った板が、セットされている。


 三人は、じっと、待った。半刻ほどが、過ぎた。


 イワが、慎重に、板を、取り出し、シラが用意した液体に、浸した。


 しばらくして、その板の表面に、うっすらと、像が、浮かび上がってきた。


 それは、村の広場の風景だった。ぼやけていて、明暗も、逆転していた。だが、確かに、そこには、人の手を経ずに、写し取られた、この村の姿が、あった。


「できた……!」


 三人は、しばらくの間、その板を、じっと、見つめていた。


 この技術――村では「光写し」と呼ばれるようになったこの技法は、その後も、少しずつ、改良が、重ねられていった。


 特に、大きな進展があったのは、明暗の逆転を、解決する方法だった。イワは、いったん写し取った板から、もう一度、同じ工程で、写し取ることで、明暗を、正しい状態に、戻せることを、発見したのだ。


 こうして、村は、ついに、風景や、人の姿を、そのままの形で、記録に残す技術を、手に入れることになった。


 最初に撮られた「写真」の一枚は、湊と、ミオ、そして、宗とアカリの、四人が、並んだものだった。


 湊は、その、ぼやけた画像を、じっと、見つめていた。


「これが、残るのか」


「はい。何年経っても」


 イワが、そう、答えた。


 湊は、しばらくの間、言葉を、失っていた。


 この技術の発展と時を同じくして、村では、もう一つの、大きな進展が、進んでいた。


 船の動力化だった。


「湊さん、あのエンジンを、舟にも、使えないでしょうか」


 ある日、ナギが、そう、提案した。


「舟に、か」


「はい。今は、漕ぐか、帆に頼るしか、ありません。でも、エンジンがあれば……」


 湊は、この提案に、大きく、頷いた。


「面白い。やってみよう」


 この、舟用のエンジン――船外機の開発には、レンが、中心となって、当たることになった。


 最初の課題は、水濡れへの対処だった。陸上の自走車とは異なり、舟のエンジンは、常に、水しぶきに、晒される。


「金属が、すぐに、錆びてしまいます」


 レンが、そう、報告した。


 この課題に対して、レンは、油を塗って、水を弾かせる工夫や、部品を、覆いで保護する工夫を、少しずつ、重ねていった。


 もう一つの課題は、推進の仕組みだった。エンジンの回転を、どう、水を押す力に、変えるか。


 湊は、記憶を頼りに、螺旋状の羽根――スクリューの仕組みを、レンに、説明した。


「水の中で、これを、回すんだ。そうすると、水を、後ろに、押し出す力が、生まれる」


 この、スクリューの形状の調整にも、多くの試行錯誤が、必要とされた。羽根の角度、大きさ、そして、枚数。


 これらの課題を、一つ一つ、乗り越え、ついに、船外機が、完成したのは、開発の着手から、四ヶ月ほどが、過ぎた頃だった。


 この船外機を搭載した舟は、これまでの、漕ぎ舟とは、比較にならない速度で、川と、沿岸を、行き来できるようになった。


 同時に、ナギは、風の力を、より効率的に使う、新しい形の舟――ヨットに近い、細長い船体と、大きな帆を持つ舟の開発にも、取り組んでいた。


「エンジンは、確かに、速い。でも、燃料が、必要です」


 ナギは、そう、説明した。


「風なら、ただです。だから、両方を、使い分けたいんです」


 湊は、この考えに、深く、感心した。


「なるほど。それは、賢いやり方だ」


 この、船の技術の発展は、村の交易と、漁業の範囲を、これまでとは、比較にならないほど、広げることになった。


 こうした技術の発展と並行して、村では、増え続ける人口への対応も、進められていた。


「湊さん、住まいが、足りません」


 ある日、ドウが、そう、報告した。


「特に、新しく来た人たちの分が」


 湊は、この課題について、しばらく、考えを、巡らせた。


「一つの建物に、複数の家族が、住めるようにできないだろうか」


「複数の、家族が?」


「そうだ。建物を、区画に分けて、それぞれの家族が、独立した空間を、持つ。でも、水回りや、通路は、共同で、使う」


 ドウは、この構想に、興味を示した。


「それなら、確かに、少ない土地で、多くの人が、住めますね」


 この、集合住宅の建設には、レンガの大量生産の体制が、大きく、活きることになった。ドウとイワが、中心となり、三ヶ月ほどをかけて、最初の集合住宅が、完成した。


 二階建ての、レンガ造り。八つの区画に、分けられ、それぞれに、独立した入り口が、設けられていた。共同の水場と、便所も、備えられていた。


 新しく来た人々は、この住まいに、深い、感謝を示していた。


「これまで、仮の小屋で、暮らしていました。こんな、立派なところに、住めるとは」


 湊は、記録帳に、この一連の発展を、丁寧に、書き記した。


『光を写し取る技術「光写し」を確立。半年近くの試行錯誤を要した』

『船外機を開発。四ヶ月を要した。同時に、風を効率的に使う新型の舟も、ナギが開発』

『新規住民のための集合住宅を建設。三ヶ月を要した』


 夕暮れ、湊は、書庫で、あの、最初に撮られた家族の写真を、眺めていた。ぼやけた画像の中に、確かに、自分と、ミオと、二人の子供の姿が、写っている。


 湊は、三十四歳になった。この世界に来てから、十九年二ヶ月ほどが、過ぎていた。


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【第77話 時点 文明発展状況】

湊34歳/漂着後 19年2ヶ月

人口:262人

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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中

02 食料・農業    ★★★★★ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★★ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★★ 船外機とヨットにより、漁業範囲が大幅に拡大

05 狩猟・採集    ★★★★★ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 継続中

07 医療・薬学    ★★★★★ シラの物質研究が、写真技術の確立に貢献

08 住居・建築    ★★★★★ 集合住宅を建設、住宅不足に対応

09 土木・インフラ  ★★★★★ 継続中

10 火・エネルギー  ★★★★★ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★★ 継続中

12 製造・工業    ★★★★★ 船外機、写真装置の製作技術を確立

13 科学・技術    ★★★★★ 感光物質の性質を解明、光学記録という新領域を開拓

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 写真という、第三の記録手段が誕生

15 教育・研究    ★★★★★ 継続中

16 経済・商業    ★★★★★ 船の高速化により、交易範囲が拡大

17 政治・法律・行政 ★★★★★ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★★★★ 継続中

19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 写真により、村の姿が、そのままの形で後世に残せるように

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