↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第二部 村を築く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
64/104

第63話「託される日々」

 アガルとの同盟が成立してから、三ヶ月ほどが過ぎていた。湊は、二十六歳になっていた。


 銀の腕輪を授かったあの日以来、湊は、これまで以上に、村の力を確かなものにすることに、力を注いでいた。防衛体制はさらに整えられ、鉄製の武具の質も、タギの研究によって、着実に、向上していった。


 だが、この頃、湊の心には、これまでとは違う、ある感覚が、静かに、芽生え始めていた。


 ある朝、湊は、タギの工房を訪ねた。そこでは、レンが、若い弟子たちを相手に、鋼の打ち方を、教えている最中だった。


「炎の色が、こう、少し白っぽくなってきたら、そろそろだ」


 レンの、その言葉に、湊は、思わず、足を止めた。それは、かつて、タギが、レンに教えた、まさに、その言葉だった。


 湊は、しばらく、その光景を、遠くから、見つめていた。技術が、確かに、次の世代へと、受け渡されている。


「湊さん」


 背後から、タギが、声をかけてきた。


「ああ、タギ。いいものを、見せてもらった」


「レンも、すっかり、教える側に、なりました」


 タギの声には、確かな、誇らしさが、滲んでいた。


「お前が、丁寧に、教えたからだ」


「いえ……あいつ自身が、根気強かったからです」


 湊は、この会話の後、議事堂へと戻る道すがら、ふと、自分の役割について、考えを、巡らせていた。


 これまでの十一年、湊は、村のあらゆる分野に、直接、関わり続けてきた。だが、村の規模が、着実に大きくなり、そして、八人の協力者たちが、それぞれ、確かな専門家として、独り立ちしていく中で、湊自身の役割も、少しずつ、変わりつつあった。


 この日の夕方、湊は、家に戻ると、ミオが、宗をあやしている姿を、見つけた。宗は、この頃、まもなく、一歳になろうとしていた。


「今日は、どうだった?」


 湊の問いに、ミオは、笑って、答えた。


「今日は、ずっと、機嫌がよかったです。それに――今日、初めて、立ちました」


「本当か!」


 湊は、思わず、声を上げた。


「ええ。まだ、すぐに、座り込んでしまいますが……確かに、自分の足で、立ちました」


 湊は、宗を、腕に抱き上げた。小さな体が、確かな重みを持って、湊の腕の中に、収まった。


「そうか。お前も、少しずつ、自分の足で、立てるようになっていくんだな」


 湊は、宗の顔を、じっと見つめながら、静かに、そう、つぶやいた。


 この頃、湊は、村の運営における、自分の在り方を、改めて、見つめ直すようになっていた。


 ある日の長老会議で、湊は、こんな提案を、皆に、投げかけた。


「これから、俺は、少しずつ、実務から、手を引いていこうと思う」


 この言葉に、集会所の空気が、一瞬、張り詰めた。


「湊さん、それは、どういう……」


 ドウが、驚いた様子で、尋ねた。


「誤解しないでほしい。村長を、辞めるという話じゃない」


 湊は、慌てて、そう、補足した。


「ただ、これまでのように、俺が、すべての分野に、直接、口を出す必要は、もう、なくなってきていると思うんだ」


 湊は、静かに、続けた。


「シラの医療も、ドウの土木も、タギの鍛冶も、ミオの農業も、ナギの漁も。もう、俺がいなくても、確かに、回っている。それは、素晴らしいことだ」


 ガルが、腕を組みながら、口を開いた。


「じゃあ、お前は、何をするんだ?」


 湊は、少し、考えてから、答えた。


「書くことに、専念しようと思う。これまでのことを、もっと、丁寧に、記録に残す。それから、まだ、村にない技術や、まだ、解決できていない問題について、考える」


 シラが、深く、頷いた。


「それが、湊さんの、いちばんの得意なことですものね」


 湊は、その言葉に、少し、照れくさそうに、笑った。


「そうかもしれない。俺は、力仕事も、狩りも、みんなほど、うまくない。でも、知っていることを、書き残すことなら、できる」


 この日を境に、湊は、村の日々の実務からは、少しずつ、距離を置くようになっていった。代わりに、湊は、これまで積み重ねてきた技術や、村の歩みを、より丁寧に、体系立てて、記録に残す作業に、多くの時間を、費やすようになっていった。


 ある夜、湊は、書庫となった一室で、これまでの記録の束を、整理していた。骨の針の作り方から始まり、火起こし、水路、鉄、紙、貨幣、そして、電気。分厚く積み重なった、記録の山。


「随分と、増えたな」


 湊が、独り言のように、つぶやくと、隣で、記録の整理を手伝っていた、ケイが、答えた。


「これだけのものを、十年ほどで、積み上げたんです。大したものですよ」


「俺が、積み上げたんじゃない。みんなが、積み上げたんだ」


 湊は、そう答えながら、記録の一つを、手に取った。それは、あの、紙作りの試行錯誤を、記した記録だった。


「これを、書いていた頃は……まだ、この村が、ここまで来るなんて、想像も、していなかった」


 ケイは、その言葉に、静かに、頷いた。


「これから、どこまで、行くんでしょうね」


「わからない。でも、俺がいなくなった後も、この村は、きっと、進み続ける。そう、信じている」


 湊はレポート用紙に、この頃の思いを、書き記した。


『実務から、少しずつ、距離を置き、記録と構想に、専念する方針を、長老会議で表明』

『各分野の専門家たちが、確かに、独り立ちしつつある。これこそが、これまで目指してきた形だ』

『長男・宗、まもなく一歳。自分の足で、立ち始めた』


 湊は、二十六歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、十一年八ヶ月ほどが、過ぎていた。


---


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【第63話 時点 文明発展状況】

湊26歳/漂着後 11年8ヶ月

人口:140人

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

01 生存・サバイバル ★★★★☆ 継続中

02 食料・農業    ★★★★☆ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 継続中

07 医療・薬学    ★★★★☆ 継続中

08 住居・建築    ★★★★☆ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★☆ 継続中

10 火・エネルギー  ★★★☆☆ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★★ レンが、次の世代への指導を担い始める

12 製造・工業    ★★★★★ 継続中

13 科学・技術    ★★★★★ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 記録の体系的な整理が本格化

15 教育・研究    ★★★★★ 各分野で、二世代目の指導者が育ち始める

16 経済・商業    ★★★★★ 継続中

17 政治・法律・行政 ★★★★★ 湊が実務から距離を置き、権限の分散が進む

18 外交・交通・情報 ★★★★★ 継続中

19 軍事・防災・治安 ★★★★☆ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 継続中

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。