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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第二部 村を築く

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第62話「銀の腕輪」

 ケイたちの使節団が帰還してから、三ヶ月ほどが過ぎていた。湊は、二十六歳になっていた。


 この間、湊は、村の防衛体制の強化と並行して、次なるアガルからの接触に、どう応じるべきか、繰り返し、考えを巡らせていた。


 ある日の朝、河口拠点から、伝令が届いた。アガルから、正式な使節団が、村へ向かっているという。


 今回の使節団は、以前の偵察のような一団とは異なり、明らかに外交を目的とした、正式な陣容を、整えていた。先頭に立つのは、王の側近と思われる、壮年の女性だった。名をミルナといい、アガルの宮廷において、外交を司る重要な地位にある人物だという。


 湊は、ミルナを、村の中心――議事堂へと、招き入れた。


 ミルナは、議事堂の内部を見渡すと、率直な感嘆の言葉を、口にした。


「王からの報告で、聞いてはいましたが……実際に見ると、驚きますね」


「恐れ入ります」


 湊は、慎重に、応じた。


 ミルナは、そう前置きした後、本題へと、入った。


「カディシュ王からの、正式な提案です。二つの選択肢を、お持ちしました」


 湊は、姿勢を正して、その言葉を、待った。


「一つは、アガルの版図の一部として、この村を、正式に組み込むという道。その場合、村には、一定の自治は認められますが、アガルへの貢納の義務や、王の任命する統治者の派遣を、受け入れる必要があります」


 湊は、静かに、頷いた。


「もう一つは?」


「対等な同盟関係――互いの独立を認めた上での、交易と相互援助を軸とした関係です。ただし、この場合、アガルは、貴村に対して、明確な軍事的保護を、約束するわけではありません」


 湊は、この二つの選択肢を前に、慎重に、思考を巡らせた。


「少し、時間をいただけますか。この判断は、私一人で、下すべきものではありません」


「もちろんです」


 ミルナは、その言葉に、意外にも、好意的な表情を、見せた。


「よき指導者は、一人で決めない、ということですね」


 湊は、長老会議を招集し、ミルナの提案を、すべての協力者と共有した上で、じっくりと議論する時間を、持つことにした。


 議論は、これまでにないほど、白熱したものになった。


「安全を、最優先すべきです」


 ドウが、真っ先に、口を開いた。


「アガルの版図に入れば、少なくとも、武力の脅威からは、守られるでしょう」


 だが、ガルが、これに、強く反対した。


「俺は、反対だ。これまで、俺たちが、自分たちの手で、築き上げてきたものを、他人の統治下に、委ねるのか?」


 ナギも、ガルに、同調した。


「俺も、同じ気持ちです。この村は、俺たちのものです」


 湊自身は、この議論の中で、次第に、自分なりの結論を、見出しつつあった。


「この村の力の源は、武力でも、大国の後ろ盾でもない。それは、俺が最初に持ち込んだ知識を、この地に生きる人たち自身が、自らの手で発展させ、受け継いできたという、その営みそのものにある」


 湊は、静かに、しかし、確かな意志を込めて、続けた。


「もし、この村が、アガルの一部になれば……その、独自の発展の道筋は、大きく、制約を受けることになるだろう」


 湊は、最終的に、対等な同盟関係を選ぶべきだと、長老会議に、提案した。


「ただし、それには、条件がある。俺たち自身が、自らを守るだけの力を、これまで以上に、確かなものにしていく必要がある」


 長い議論の末、長老会議は、湊の提案を、承認した。


 湊は、ミルナに対して、この決断を、丁寧に、しかし明確に、伝えた。


「私たちの村は、アガルとの、対等な同盟を、望みます。交易と相互援助を軸とした、互いを尊重する関係を、築きたいと考えています」


 ミルナは、湊の言葉を、しばらくの間、静かに聞いていた。それから、意外にも、かすかな笑みを、浮かべた。


「その答え、王も、予想していたようです」


 ミルナは、そう言うと、懐から、銀色に輝く腕輪を、取り出した。


「この腕輪は、アガルにおいて、対等な同盟関係を結んだ相手に贈られる、正式な証です」


 湊は、その腕輪を、両手で、丁重に、受け取った。


「ありがとうございます」


 だが、ミルナは、真剣な表情で、こう付け加えた。


「ただし――王は、こうも仰っています。『対等であり続けるためには、対等であり続けるだけの力を、示し続けねばならない』と」


 湊は、その言葉の重みを、深く、胸に刻んだ。これは、単なる友好の証ではない。これからも、この村が、確かな発展と、確かな力を保ち続けることを、暗に求める、王からのメッセージでもあった。


「肝に、銘じます」


 湊は、そう、静かに、答えた。


 湊はレポート用紙に、この日の出来事を、書き記した。


『アガルより正式な使者ミルナが来訪。対等な同盟関係を選択し、銀の腕輪を授かる』

『友好の証であると同時に、これからも自らの力を示し続ける必要があるという、重い課題を突きつけられた』


 その夜、湊は、議事堂の一室で、銀の腕輪を、静かに見つめていた。この小さな腕輪の重みは、これまでの、どんな技術発展よりも、湊の肩に、確かな責任として、のしかかっていた。


 湊は、二十六歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、十一年五ヶ月ほどが、過ぎていた。


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【第62話 時点 文明発展状況】

湊26歳/漂着後 11年5ヶ月

人口:136人

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01 生存・サバイバル ★★★★☆ 継続中

02 食料・農業    ★★★★☆ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 継続中

07 医療・薬学    ★★★★☆ 継続中

08 住居・建築    ★★★★☆ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★☆ 継続中

10 火・エネルギー  ★★★☆☆ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★★ 継続中

12 製造・工業    ★★★★★ 継続中

13 科学・技術    ★★★★★ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中

15 教育・研究    ★★★★☆ 継続中

16 経済・商業    ★★★★★ 継続中

17 政治・法律・行政 ★★★★★ 長老会議による重大な外交決定を経験

18 外交・交通・情報 ★★★★★ アガルとの対等な同盟関係を確立

19 軍事・防災・治安 ★★★★☆ 同盟維持のため、さらなる防衛力強化が求められる

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 継続中

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