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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第二部 村を築く

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第61話「王への文」

 アガルの使者が去ってから、ふた月ほどが過ぎていた。湊は、二十五歳のままだった。


 この間、湊は、村の防衛体制の整備を、これまで以上に、着実に進めていた。だが、それと同時に、湊の頭には、より根本的な問いが、絶えず、渦巻いていた。


 ある夜、湊は、長老会議を招集し、この問いを、皆に、投げかけた。


「アガルとの関係を、これから、どうしていくべきか。今日は、それを、じっくり、話し合いたい」


 最も慎重な意見を述べたのは、ドウだった。


「あの使者が見せた、船の規模、そして、装備。あれは、明らかに、俺たちより、はるかに大きな組織の力です。性急に、事を構えるべきでは、ありません」


「では、どうすべきだと思う?」


「まずは、防御を、固めることです。堀と柵を、これまで以上に、頑丈にする」


 一方、ナギは、より積極的な意見を、述べた。


「俺は、交易の道を、探るべきだと思います。ヤズとの関係が、そうであったように、対等な立場での交易は、双方に、利益をもたらします」


 湊は、双方の意見に、耳を傾けながら、自分なりの結論を、少しずつ、形にしていった。


「防御を固めることと、対話の道を探ること。この二つは、両立できるはずだ」


 湊が提案したのは、二つの方針を、同時に進めることだった。一つは、ドウの主張通り、村の防衛体制の、さらなる強化。もう一つは、アガルに対して、正式な使者を送り、友好的な関係の構築を、こちらから、働きかけることだった。


「相手の出方を、待つだけじゃなく、こちらの意思を、明確に、伝えるべきだと思う」


 この方針は、長老会議で、慎重な議論の末に、承認された。


 使者の役目には、ケイが、志願した。


「私が、行きましょう。ヤズとの交渉で、多少は、経験を積みました」


 湊自身も、同行を望んだが、村長としての立場上、長期間、村を離れることは、難しかった。それに、生まれたばかりの宗と、ミオのことも、気がかりだった。


 湊は、この使節団に託す「文」――アガルの王に宛てた、正式な書簡を、丁寧に、書き上げた。これまで村が積み重ねてきた発展の歴史、平和的な共存への願い、そして、対等な立場での交易関係を築きたいという意思を、できる限り誠実に、丁寧な言葉で、綴った。


 文の最後に、湊は、これまでの村の発展を象徴する、いくつかの品も、添えることにした。イワが作った、装飾を施した美しい陶器。タギが精錬した、上質な鉄の刃物。そして、村で作られた紙に、村の歴史を綴った記録の写し。


「これで、いいだろうか」


 湊が、ケイに、その品々を見せると、ケイは、深く頷いた。


「十分です。これらは、私たちの村が、確かな文明を築いていることを、何よりも雄弁に、示すでしょう」


 使節団の出発の日、湊は、村の門で、ケイと、一人一人、握手を交わした。


「頼んだぞ、ケイ」


「お任せください」


 ケイは、これまでにない、真剣な表情で、頷いた。数を数えることしか知らなかったあの老人が、今や、村の命運を左右しかねない、重大な使命を、担おうとしている。湊は、その成長に、改めて、深い感慨を、覚えていた。


 使節団が、道の彼方へと消えていくのを見送りながら、湊は、隣に立つミオに、静かに、語りかけた。


「うまく、いってくれるといいんだが」


 ミオは、腕に抱いた宗を、あやしながら、答えた。


「大丈夫です。ケイさんなら、きっと」


 使節団が、アガルへ向けて出発してから、およそ二ヶ月半。ケイたちは、無事に、村へと帰還した。


 その夜、湊は、ケイと共に、集会所で、長老会議のメンバーを集め、報告を聞くことになった。


「アガルは、私たちが想像していた以上に、大きく、そして、複雑な国家でした」


 ケイは、旅の疲れを滲ませながらも、確かな成果を、報告し始めた。


「王を頂点とし、その下に、多くの官僚や、兵を擁する、確かな統治の仕組みを、持っています。都には、青銅で作られた、立派な建物が並び、市場には、様々な地域から集められた物資が、活発に、取引されていました」


「王には、会えたのか」


 湊の問いに、ケイは、頷いた。


「はい。カディシュという名の、王に、直接、謁見する機会を、得ることができました」


「どんな、反応だった?」


 ケイは、少しの間を置いてから、慎重に、答えた。


「王は、私たちの村が、これほど短期間で、これほどの発展を遂げたことに、強い関心を、示していました。特に、紙と文字の技術、そして、陶器の精巧さに、目を見張っていたようです」


 だが、ケイは、続けて、こう付け加えた。


「ただ……王の言葉の端々には、単なる好奇心を超えた、何か別の意図も、感じられました」


「どういうことだ?」


「王は、こう言いました。『このように豊かな知恵を持つ者たちが、我が版図の外にあることを、私は好ましく思わない』と」


 この言葉に、湊をはじめ、長老会議のメンバーの間に、緊張が走った。


 湊は、この報告を受け、深く考え込んだ。アガルは、明らかに、湊たちの村を、対等な隣人としてではなく、いずれは自らの版図に組み込むべき対象として、見ているのかもしれない。


 それでも、湊は、悲観的にばかり考えるべきではないとも、思っていた。


「王が、力による征服ではなく、まず使者を送り、対話の姿勢を見せていることには、一定の意味がある。少なくとも、今すぐに、武力による衝突が起きる状況では、ない」


 湊はレポート用紙に、この日の報告を、書き記した。


『ケイたちの使節団、無事帰還。アガル王カディシュとの謁見に成功』

『アガルは強大な国家組織を持つ。王の言葉には、友好と、支配への意図が入り混じっているように感じられる』

『次なる使者の来訪に向け、慎重かつ確かな備えを進める必要がある』


 湊は、二十六歳になろうとしていた。この世界に来てから、十一年二ヶ月ほどが、過ぎていた。


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【第61話 時点 文明発展状況】

湊25歳(まもなく26歳)/漂着後 11年2ヶ月

人口:132人

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01 生存・サバイバル ★★★★☆ 継続中

02 食料・農業    ★★★★☆ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 継続中

07 医療・薬学    ★★★★☆ 継続中

08 住居・建築    ★★★★☆ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★☆ 継続中

10 火・エネルギー  ★★★☆☆ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★★ 継続中

12 製造・工業    ★★★★★ 継続中

13 科学・技術    ★★★★★ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中

15 教育・研究    ★★★★☆ 継続中

16 経済・商業    ★★★★★ 継続中

17 政治・法律・行政 ★★★★☆ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★★★★ アガル王カディシュとの謁見成功、緊張を孕んだ関係が明確に

19 軍事・防災・治安 ★★★★☆ 防衛体制の強化を継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 継続中

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