↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第二部 村を築く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
60/112

第59話「隣に立つ人」

 電話の実用化から、ふた月ほどが過ぎていた。湊は、二十四歳になっていた。この世界に来てから、十年が過ぎようとしている。


 この十年、湊は、村の技術発展と、運営に、ほとんどの時間を、費やしてきた。だが、この頃、湊の心には、これまであまり意識してこなかった、ある思いが、静かに、芽生え始めていた。


 ある夕暮れ、湊は、ミオと共に、二人が最初に種を植えた、あの記念すべき畑を、訪れていた。今では、その畑は、村の広大な農地の、ほんの一角に過ぎない。それでも、湊とミオにとって、そこは、特別な場所であり続けていた。


「もう、十年になるんですね」


 ミオが、静かに、そう、つぶやいた。ミオもまた、二十四歳になっていた。あの、純朴な少女の面影を残しながらも、今では、村の農業全体を取り仕切る、確かな指導者へと、成長していた。


「ああ。長いようで、あっという間だった」


 湊は、畑の隅に腰を下ろし、これまでの歳月を、静かに振り返っていた。


「湊さん」


 ミオが、少し、改まった様子で、湊のほうを向いた。


「なんだ?」


「私、時々、思うんです。あの日、あなたが、この畑に、最初の種を蒔いてくれなかったら……今の私は、どうなっていたんだろうって」


 湊は、その言葉に、少し、驚いた表情を、見せた。


「俺は、ただ、知っていたことを、伝えただけだ。この畑を、ここまで育てたのは、お前だよ」


「でも、きっかけを、くれたのは、あなたです」


 ミオは、そう言って、少し、俯いた。


 しばらく、二人の間に、静かな時間が、流れた。夕日が、畑の作物を、柔らかく照らしている。


 湊は、意を決したように、口を開いた。


「ミオ、これから先、この村がどうなっていくのか、俺にもわからない。でも、少なくとも、俺は……お前と一緒に、この道を歩いていきたい」


 ミオは、しばらくの間、黙って、畑の作物を、見つめていた。それから、静かに、しかし確かな声で、答えた。


「私も、同じ気持ちです。あなたが最初に、この畑に種を蒔いた日から、私はずっと、あなたの隣にいたい、と思ってきました」


 この日、湊とミオは、正式に夫婦となることを、互いに誓い合った。


 二人の婚礼は、村を挙げての、祝いとなった。ガル、シラ、ドウ、タギ、ナギ、ケイ、イワ――七人の協力者が、この日を、心から祝福した。


「湊さん、おめでとうございます」


 シラが、涙ぐみながら、二人に、声をかけた。


「ありがとう、シラ」


 ガルも、いつになく、上機嫌な様子で、湊の肩を、力強く叩いた。


「やっとか。俺たちは、もっと前から、そうなると思っていたぞ」


 湊は、その言葉に、思わず、笑った。


「そんなに、わかりやすかったか」


「ああ。村中の者が、気づいていた」


 この笑いに、周りの人々も、一斉に、声を上げて、笑った。


 婚礼から半年後、湊とミオの間に、新しい命が、誕生した。長男だった。湊は、この子に「ソウ」という名を、与えた。


 宗の誕生は、湊にとって、これまでとは違う種類の感慨を、もたらすものだった。この世界に来て以来、湊は、ずっと「託す」ということを、生き方の中心に、据えてきた。知識を、技術を、そして村の未来を、次の世代に、託していく。だが、我が子の誕生は、その「託す」という営みが、より個人的で、より深い意味を持つものへと、湊の中で、変わっていく、大きな転機となった。


 湊は、生まれたばかりの宗を、腕に抱きながら、静かに、語りかけた。


「お前が、大人になる頃……この村は、どうなっているんだろうな」


 隣で、ミオが、優しく、微笑んだ。


「きっと、もっと、豊かになっています。あなたが、これまで、積み重ねてきたものが、ちゃんと、育っていくはずです」


 湊は、その言葉に、深く頷いた。


 夜、湊は、眠る宗の傍らで、静かに、筆を取った。


『ミオと、正式に夫婦となる。共に種を蒔いたあの日から続く、長い歳月の結実』

『長男・宗、誕生。この子と共に、次の世代へと続く道を、これからも築いていきたい』


 窓の外には、いつものように、村の灯りが、温かく瞬いていた。その灯りの中に、これから育っていくであろう、新しい命の灯りが、また一つ、加わった。湊は、その事実に、これまでにない、深い充足感を、覚えていた。


 湊は、二十五歳になっていた。この世界に来てから、十年六ヶ月ほどが、過ぎていた。


---


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【第59話 時点 文明発展状況】

湊25歳/漂着後 10年6ヶ月

人口:125人(長男・宗の誕生を含む)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

01 生存・サバイバル ★★★★☆ 継続中

02 食料・農業    ★★★★☆ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 継続中

07 医療・薬学    ★★★★☆ 継続中

08 住居・建築    ★★★★☆ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★☆ 継続中

10 火・エネルギー  ★★★☆☆ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★★ 継続中

12 製造・工業    ★★★★★ 継続中

13 科学・技術    ★★★★★ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中

15 教育・研究    ★★★★☆ 継続中

16 経済・商業    ★★★★★ 継続中

17 政治・法律・行政 ★★★★☆ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★★★★ 継続中

19 軍事・防災・治安 ★★★★☆ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 湊とミオの婚礼、長男宗の誕生を村全体で祝福

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。