↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第二部 村を築く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/114

第51話「二度目の失敗」

 発電機の技術記録が、ようやく一つの形を成した頃。湊は、二十歳のままだった。


 湊は、他の技術についても、同じように、丁寧な継承の記録を残していく必要があると、改めて痛感していた。湊が次に着手したのは、鋼の製法だった。


 この技術も、発電機と同じように、タギ個人の、長年の経験と勘に、大きく依存しているものだった。湊は、タギに、これまでのように、実際の作業を、何度も繰り返してもらいながら、その一つ一つの判断を、隣で、根気強く記録していく作業を、改めて始めることにした。


 この作業を担うことになったのは、タギの弟子の一人、レンという若者だった。レンは、村の中でも、特に手先が器用で、根気強い性格の持ち主として、これまでも、タギから、一目置かれていた。


 湊は、レンに、この鋼作りの技術記録を、単に書き写すだけでなく、実際に、自分の手で、何度も再現しながら、確かめていくよう、指示した。


 最初の数回、レンは、記録に忠実に従いながら、鋼作りに挑戦した。だが、できあがった金属は、タギが作るものとは、明らかに質が違っていた。


「記録通りに、やっているはずなのに……なぜ、うまくいかないのでしょうか」


 レンは、湊に、深く落胆した様子で、そう漏らした。湊は、この問いに、すぐには答えられなかった。だが、タギが、レンの作業の様子を、実際に、隣で見守っているうちに、ある違いに、気づいた。


「炭を入れるとき、レン、お前は、少し急ぎすぎている。もっと、ゆっくり、様子を見ながら、少しずつ加えるんだ」


 この指摘に、湊は、はっとさせられた。記録には、「炭を加える」としか、書かれていなかった。だが、実際には、その「加える速さ」や、「様子を見る」という、極めて感覚的な部分にこそ、技術の核心が、隠されていたのだ。


 湊は、この気づきを踏まえ、改めて、記録を見直すことにした。タギ自身、長年の経験の中で、無意識のうちに、体が覚えてしまっている判断を、改めて、意識的に、言葉として取り出すことに、大きな苦労を強いられた。


「炎の色が、少し、白っぽくなってきたら、そろそろだ」


 タギは、そう、湊に、伝えた。


「金属を叩いたときの、手に伝わる感触が、こう、少し粘るような感じになったら……」


 タギの、こうした、曖昧で、感覚的な表現を、湊とケイは、根気強く聞き取り、できる限り、具体的な言葉に、書き換えていった。時には、「炎の色」を、実際に、様々な段階で、絵として描き残すことも試みられた。イワが、炎の色合いの変化を、丁寧な彩色画として、記録に添えていくことになった。


 この改良された記録をもとに、レンは、再び、鋼作りに挑戦することになった。二度目の挑戦は、一度目よりも、確かに、良い結果をもたらした。それでも、まだ、タギが作るものには、及ばなかった。


 レンは、それでも、諦めなかった。三度目、四度目と、失敗と修正を、根気強く繰り返していった。タギもまた、レンの作業の一つ一つに、丁寧に付き添い、その都度、気づいたことを、言葉にして伝え続けた。


「今日も、だめでした」


 ある日、レンが、疲れた表情で、湊に、そう報告した。


「焦るな、レン。俺だって、最初は、何もできなかった。でも、少しずつ、できることを、増やしてきたんだ」


 湊の言葉に、レンは、少し、目を潤ませながら、頷いた。


「はい……もう一度、やってみます」


 この過程は、決して、短いものではなかった。季節が、幾度か移り変わるほどの、長い月日が、この技術継承には、費やされることになった。


 ある日、レンが、これまでとは違う、確かな手応えを感じながら、一本の刃を、打ち上げた。タギが、その刃を手に取り、試し斬りを行った。


 刃は、これまでのレンの作品とは、明らかに違う、確かな切れ味と、粘り強さを、見せた。


「これは……お前一人で、ここまでのものが、作れるようになったんだな」


 タギの言葉に、レンは、深い達成感と共に、大きく頷いた。目には、うっすらと、涙が浮かんでいた。


「ありがとうございます、師匠。それに……湊さんにも」


 湊は、この瞬間に立ち会いながら、これまでの、長い、地道な過程を、改めて振り返っていた。一つの技術が、一人の天才から、次の世代の、また別の一人の手へと、確かに受け渡される。その過程には、これほどまでに、多くの、目立たない苦労と、根気が、必要とされるのだ。


 湊はレポート用紙に、この一連の経験を、丁寧に書き記した。


『鋼の技術継承において、単なる手順の記録では不十分であることが判明。感覚的な判断を、絵や、具体的な言葉に置き換える工夫が必要だった』

『弟子レンによる独力での鋼作りは、幾度もの失敗を経て、季節を跨ぐ長い月日の末に、ようやく実を結んだ』


 湊は、二十歳のまま、この作業を終えた。この世界に来てから、六年五ヶ月ほどが、過ぎていた。


 夕暮れ、湊は、タギとレン、二人が、並んで炉の前に座り、静かに、次の作業の相談をしている様子を、遠くから見つめていた。師と弟子。この関係が、これから先も、村のあらゆる分野で、丁寧に、根気強く、育まれていく必要がある。


---


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【第51話 時点 文明発展状況】

湊20歳/漂着後 6年5ヶ月

人口:95人

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

01 生存・サバイバル ★★★★☆ 継続中

02 食料・農業    ★★★★☆ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 継続中

07 医療・薬学    ★★★★☆ 継続中

08 住居・建築    ★★★★☆ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★☆ 継続中

10 火・エネルギー  ★★★☆☆ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★☆ 弟子レンへの鋼技術継承に成功、長い年月を要した

12 製造・工業    ★★★★★ 継続中

13 科学・技術    ★★★☆☆ 感覚的技能の言語化・図解化という、新たな記録手法を確立

14 言語・文字・出版 ★★★★☆ 継続中

15 教育・研究    ★★★★☆ 師弟間の長期的な実地指導という、教育モデルが定着

16 経済・商業    ★★☆☆☆ 継続中

17 政治・法律・行政 ★★★★☆ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★★★☆ 継続中

19 軍事・防災・治安 ★★★☆☆ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★☆ 継続中

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。