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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第二部 村を築く

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第48話「二つの輪」

 発電機とモーターという、大きな技術的到達点を経て、湊は、この電気の力を、もっと身近な、日々の暮らしに、活かせないかと、改めて考えるようになっていた。湊は、十九歳のままだった。


 湊は、この構想を、ドウとタギに、投げかけていた。


「水車がなくても、電気を、生み出せる方法は、ないだろうか」


 ドウが、少し、首をかしげた。


「水がない場所では、確かに、難しいですね」


 湊の脳裏に、浮かんだのは、自転車だった。ペダルを漕ぐ力で、車輪を回し、人の力で、移動する道具。


「二つの車輪を、前後に並べて、人が座って、足でペダルを漕いで進む乗り物なんだが……」


 ドウは、この説明を聞き、しばらく考え込んだ後、率直な疑問を、口にした。


「二つの車輪だけでは、倒れてしまうのではないでしょうか」


 湊自身、自転車がなぜ倒れずに走れるのか、その物理的な原理を、詳しく説明することは、できなかった。


「走り出せば、倒れにくくなるはずだ。詳しい理屈は、俺にもわからないんだが……」


 この曖昧な説明のもと、ドウとタギは、半信半疑ながらも、試作を始めることになった。


 最初の試みは、木製の車輪二つを、木の枠で前後に繋いだ、ごく簡素なものだった。だが、実際に、村の若者に試乗してもらうと、案の定、ほとんどの者が、すぐに、転倒してしまった。


 湊は、この失敗を見ながら、記憶の中にある、もう一つの手がかりを、思い出した。


「ドウ、ハンドル……前輪の向きを、微調整できる仕組みを、つけられないか」


 ドウは、この提案を受け、前輪の軸を、ある程度、左右に動かせる構造に、改良した。同時に、乗る人が、両足を地面から離した状態でも、上半身のバランスを取りやすいよう、座る位置と、ペダルの位置関係も、何度も、調整していった。


 この改良には、三週間ほどが、費やされた。


 この改良を経て、村の若者――特に、身体能力に優れた、狩人見習いの少年が、根気強く、練習を重ねた末、ついに、数メートルではあったが、両足を地面から離したまま、この二輪の乗り物で、前に進むことに、成功した。


「動いた……! 湊さん、見てください、動きましたよ!」


 少年の、興奮した声に、湊は、思わず、拍手を送った。


「よくやった! これは、大きな一歩だ」


 この成功は、村に、ちょっとした驚きをもたらした。倒れずに走る、二つの車輪の乗り物。村の人々は、この不思議な乗り物を、「二輪車」と、呼ぶようになっていった。


 湊は、この二輪車が、確かな乗り物として定着し始めたのを見て、以前からの構想――ペダルを漕ぐ力を利用した、発電の仕組みを、実際に試してみることにした。


 タギとイワは、この「据え置き型」の仕組みを、根気強く、組み上げていった。ペダルを漕ぐ力を、効率よく発電機の回転部に伝えるため、いくつかの歯車――大きさの異なる、木製の歯車を組み合わせることで、少ない力でも、発電機を、十分な速さで回転させられるよう、工夫が重ねられた。


 最初の試みでは、歯車の噛み合わせが、うまくいかず、力がスムーズに伝わらないことが、しばしば、あった。イワは、歯車の歯の形や、大きさの比率を、何度も調整しながら、少しずつ、滑らかに力が伝わる組み合わせを、見つけ出していった。


 この歯車の調整には、さらに、ひと月ほどの時間が、必要とされた。完成した「自転車発電」の仕組みは、水車のない場所でも、人の力さえあれば、電気を生み出せる、貴重な手段として、村に、新たな可能性をもたらすことになった。


 こうした、乗り物と電気の技術発展と並行して、湊は、村の道路網が、これまで以上に広がりつつあることを踏まえ、道の安全と、案内の仕組みについても、新たな整備を、進めることにしていた。


「イワ、道の要所に、行き先を示す、標識を、作ってもらえないか」


「わかりました。絵と文字で、示せば、わかりやすいですね」


 イワが、木の板に、簡潔な絵と文字で、「学び舎」「医療所」「議事堂」「河口へ」といった、行き先を示す標識を、一つ一つ、丁寧に作り上げていった。この製作には、三週間ほどが、費やされた。


 道路標識の整備と合わせて、湊は、村の商店や工房の前にも、それぞれの店が何を扱っているかを示す、看板を掲げることを、村の人々に、勧めていった。


 湊はレポート用紙に、この一連の発展を、書き記した。


『二輪車の開発に成功。バランスを取る難しさはあるが、慣れれば、徒歩よりはるかに速い移動手段に』

『ペダルを漕ぐ力を利用した、人力発電の仕組みを確立』

『道路標識・看板を整備。村を訪れる者にも、わかりやすい案内が可能に』


 夕暮れ、湊は、村の入り口に立つ、最初の標識を、見つめていた。「湊の村へようこそ」――そう記されたその板には、村のこれまでの発展を象徴する、いくつかの小さな絵が、添えられていた。


 湊は、標識の前を通り過ぎていく、二輪車に乗った若者の姿を、目で追いながら、これから、この村が、さらにどのような姿へと育っていくのか、静かな期待を胸に、思いを馳せていた。


 湊は、十九歳のまま、この作業を終えた。この世界に来てから、五年三ヶ月ほどが、過ぎていた。


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【第48話 時点 文明発展状況】

湊19歳/漂着後 5年3ヶ月

人口:86人

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01 生存・サバイバル ★★★★☆ 継続中

02 食料・農業    ★★★★☆ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★★☆ 継続中

07 医療・薬学    ★★★☆☆ 継続中

08 住居・建築    ★★★★☆ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★☆ 標識・看板の整備により、村の案内体制が向上

10 火・エネルギー  ★★★★☆ 人力発電の仕組みを確立

11 鉱業・金属    ★★★★☆ 継続中

12 製造・工業    ★★★★☆ 二輪車の製作技術を確立

13 科学・技術    ★★★★☆ 歯車を用いた動力伝達の知見が蓄積

14 言語・文字・出版 ★★★★☆ 標識・看板を通じ、文字と絵の実用的活用が拡大

15 教育・研究    ★★★★☆ 継続中

16 経済・商業    ★★☆☆☆ 看板により、工房・商店の存在がより明確に

17 政治・法律・行政 ★★★★☆ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★★★☆ 二輪車により、村内の情報伝達速度が向上

19 軍事・防災・治安 ★★★☆☆ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★☆ 二輪車が、若者たちの新たな娯楽・挑戦の対象に

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