↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第二部 村を築く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/106

第47話「回る力、伝わる力」

 灯りの玉の実験が、まだ道半ばで続けられている頃。湊は、十九歳のままだった。


 ある夜、湊は、シラとタギを、工房に呼び出した。


「今の俺たちの電気は、酸っぱい果汁と、金属板から、少しずつ作っているだけだ。もっと、確かな量の力を、安定して生み出す方法が、あるはずなんだが……」


 タギが、腕を組んだ。


「もっと、安定した電気、ですか」


「ああ。磁石と、金属の線を使った、発電機っていう仕組みが、あったはずなんだ。磁石の力の中で、金属の線を動かすと、電気が生まれる」


 この構想を実現するためには、まず、二つの、村にとっては、まったく新しい技術が、必要だった。一つは、磁石。もう一つは、細く、長く伸ばした、扱いやすい金属の線――銅線だった。


 磁石については、湊は、以前、タギが精錬した鉄の一部が、自然と、鉄粉を引き寄せる性質を持っていたことを、思い出した。


「タギ、前に、精錬した鉄の中に、鉄粉を引き寄せるものが、あったと思うんだが、覚えているか」


 タギは、しばらく、記憶をたどった。


「ああ……そういえば、そんなことが、ありましたね。あの時の、鉱床を、もう一度、探してみます」


 タギは、以前の精錬記録を丹念に見直し、その磁性を持つ鉱石が、どの鉱床から採れたものだったかを、突き止めることにした。この探索には、三週間ほどが、費やされた。


「見つけました、湊さん!」


 タギが、興奮した様子で、湊のもとに、鉱石を持ってきた。この磁鉄鉱を、丁寧に磨き、形を整えることで、村は、初めて、確かな磁力を持つ道具――磁石を、意図的に、手に入れることができた。


 もう一つの課題――銅線の製造は、磁石を得ること以上に、根気を要する作業となった。


「湊さん、これまでの、板を切り分ける方法だと、線が、均一に、なりません」


 タギが、湊に、困った様子で、報告した。湊は、この課題に、記憶の中の、もう一つの断片――金属を、小さな穴に、引っ張って通すことで、細く均一な線を作る、「線引き」という技法を、思い出した。


「イワ、硬い石に、小さな穴を、開けてもらえないか。太さの違う、いくつもの穴を」


 イワは、硬い石に、様々な太さの、小さな穴を、根気強く開けていった。タギは、打ち延ばした銅の板を、まず、太めの穴に通し、そこから、少しずつ、より小さな穴へと、順番に通していくことで、徐々に、細く、均一な線へと、成形していく方法を、試み始めた。


 この線引きの作業は、想像を絶する根気を要するものだった。銅の線は、無理に引っ張ると、途中で、切れてしまう。タギは、力の加減、そして、穴を通す速度を、何度も調整しながら、少しずつ、切れにくい、安定した引き方を、身につけていった。


 この作業には、ふた月ほどの、長い月日が、費やされることになった。


 磁石と銅線、この二つの部材が揃ったところで、湊は、いよいよ、発電機の試作に、取りかかることにした。


「ドウ、水車の力を、借りられないだろうか。回転する力を、コイルに、伝えたいんだ」


 ドウは、既存の水車の軸に、木製の枠で作った、コイルを固定できる回転部を、新たに設計した。この回転部の周りに、磁石を、いくつか配置し、コイルが回転する際に、磁石の間を通過するよう、位置を調整していく。


 最初の試みでは、コイルの巻き数が少なすぎたのか、あるいは、磁石の力が弱すぎたのか、目立った電気の発生を、確認することができなかった。


「巻き数を、もっと、増やしてみよう」


 湊とタギ、そしてシラは、この課題に、根気強く向き合い続けた。コイルの巻き数を、少しずつ増やしていく。磁石の配置を、より近く、より効果的な位置に、調整していく。


 この調整には、さらに、一ヶ月半ほどが、必要とされた。ある日、ついに、湊たちは、これまでとは、明らかに違う手応えを、感じることになった。


「動いています……! 確かに、電気が、生まれています!」


 タギの声が、工房に、響いた。回転するコイルから、これまでの果汁を使った実験とは、比較にならないほど、確かな量の電気が、生み出されていることが、確認された。


 この発電機の成功は、湊に、さらなる可能性を思い描かせた。


「これが、できたなら……逆に、電気を流したら、コイルが、回るんじゃないか」


 湊は、この発電機とほぼ同じ構造を、逆向きに使うことで、モーターの原理を、実現できるはずだと、記憶を頼りに、考えた。


 タギとイワは、発電機で得られた知見を活かし、同じような構造のコイルと磁石を組み合わせ、そこに、蓄えた電気を流してみる実験を、繰り返し、行っていった。


 最初の試みでは、コイルは、わずかに震える程度で、目立った回転は、見られなかった。だが、コイルの巻き方や、磁石との位置関係を、発電機のときと同じように、根気強く調整していくうちに、三週間ほどが過ぎた、ある日、コイルが、確かに、小さく、しかし着実に、回転を始めるのを、湊たちは、目にすることになった。


「回った……!」


 タギの声が、工房に、響いた。この瞬間、村は、電気の力を、目に見える動きへと変換する、確かな技術の、最初の一歩を、踏み出したのだった。


 湊はレポート用紙に、この一連の成果を、丁寧に書き記した。


『天然の磁石を発見・確保。線引き技法により、銅線の安定した製造にも成功』

『水車の力を利用した発電機を開発。これまでにない、安定した電力の確保に成功』

『発電機の原理を応用し、電気の力で回転する、モーターの試作にも成功』


 着手から、完成まで、実に、三ヶ月ほどの、長い月日が、費やされていた。


 夕暮れ、湊は、水車小屋の脇に立ち、回り続ける水車と、そこから伸びる銅線を、静かに見つめていた。水の流れが、絶えることなく、確かな力を、生み出し続けている。


 湊は、十九歳のまま、この作業を終えた。この世界に来てから、五年一ヶ月ほどが、過ぎていた。


---


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【第47話 時点 文明発展状況】

湊19歳/漂着後 5年1ヶ月

人口:83人

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

01 生存・サバイバル ★★★★☆ 継続中

02 食料・農業    ★★★★☆ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★★☆ 継続中

07 医療・薬学    ★★★☆☆ 継続中

08 住居・建築    ★★★★☆ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★☆ 継続中

10 火・エネルギー  ★★★★☆ 水力発電という新たなエネルギー源を確保

11 鉱業・金属    ★★★★☆ 天然磁石を発見・確保

12 製造・工業    ★★★★☆ 線引き技法により銅線の量産が可能に

13 科学・技術    ★★★★☆ 発電機・モーターの試作に成功

14 言語・文字・出版 ★★★★☆ 継続中

15 教育・研究    ★★★★☆ 継続中

16 経済・商業    ★★☆☆☆ 継続中

17 政治・法律・行政 ★★★★☆ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★★★☆ 継続中

19 軍事・防災・治安 ★★★☆☆ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★☆ 継続中

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。