第47話「回る力、伝わる力」
灯りの玉の実験が、まだ道半ばで続けられている頃。湊は、十九歳のままだった。
ある夜、湊は、シラとタギを、工房に呼び出した。
「今の俺たちの電気は、酸っぱい果汁と、金属板から、少しずつ作っているだけだ。もっと、確かな量の力を、安定して生み出す方法が、あるはずなんだが……」
タギが、腕を組んだ。
「もっと、安定した電気、ですか」
「ああ。磁石と、金属の線を使った、発電機っていう仕組みが、あったはずなんだ。磁石の力の中で、金属の線を動かすと、電気が生まれる」
この構想を実現するためには、まず、二つの、村にとっては、まったく新しい技術が、必要だった。一つは、磁石。もう一つは、細く、長く伸ばした、扱いやすい金属の線――銅線だった。
磁石については、湊は、以前、タギが精錬した鉄の一部が、自然と、鉄粉を引き寄せる性質を持っていたことを、思い出した。
「タギ、前に、精錬した鉄の中に、鉄粉を引き寄せるものが、あったと思うんだが、覚えているか」
タギは、しばらく、記憶をたどった。
「ああ……そういえば、そんなことが、ありましたね。あの時の、鉱床を、もう一度、探してみます」
タギは、以前の精錬記録を丹念に見直し、その磁性を持つ鉱石が、どの鉱床から採れたものだったかを、突き止めることにした。この探索には、三週間ほどが、費やされた。
「見つけました、湊さん!」
タギが、興奮した様子で、湊のもとに、鉱石を持ってきた。この磁鉄鉱を、丁寧に磨き、形を整えることで、村は、初めて、確かな磁力を持つ道具――磁石を、意図的に、手に入れることができた。
もう一つの課題――銅線の製造は、磁石を得ること以上に、根気を要する作業となった。
「湊さん、これまでの、板を切り分ける方法だと、線が、均一に、なりません」
タギが、湊に、困った様子で、報告した。湊は、この課題に、記憶の中の、もう一つの断片――金属を、小さな穴に、引っ張って通すことで、細く均一な線を作る、「線引き」という技法を、思い出した。
「イワ、硬い石に、小さな穴を、開けてもらえないか。太さの違う、いくつもの穴を」
イワは、硬い石に、様々な太さの、小さな穴を、根気強く開けていった。タギは、打ち延ばした銅の板を、まず、太めの穴に通し、そこから、少しずつ、より小さな穴へと、順番に通していくことで、徐々に、細く、均一な線へと、成形していく方法を、試み始めた。
この線引きの作業は、想像を絶する根気を要するものだった。銅の線は、無理に引っ張ると、途中で、切れてしまう。タギは、力の加減、そして、穴を通す速度を、何度も調整しながら、少しずつ、切れにくい、安定した引き方を、身につけていった。
この作業には、ふた月ほどの、長い月日が、費やされることになった。
磁石と銅線、この二つの部材が揃ったところで、湊は、いよいよ、発電機の試作に、取りかかることにした。
「ドウ、水車の力を、借りられないだろうか。回転する力を、コイルに、伝えたいんだ」
ドウは、既存の水車の軸に、木製の枠で作った、コイルを固定できる回転部を、新たに設計した。この回転部の周りに、磁石を、いくつか配置し、コイルが回転する際に、磁石の間を通過するよう、位置を調整していく。
最初の試みでは、コイルの巻き数が少なすぎたのか、あるいは、磁石の力が弱すぎたのか、目立った電気の発生を、確認することができなかった。
「巻き数を、もっと、増やしてみよう」
湊とタギ、そしてシラは、この課題に、根気強く向き合い続けた。コイルの巻き数を、少しずつ増やしていく。磁石の配置を、より近く、より効果的な位置に、調整していく。
この調整には、さらに、一ヶ月半ほどが、必要とされた。ある日、ついに、湊たちは、これまでとは、明らかに違う手応えを、感じることになった。
「動いています……! 確かに、電気が、生まれています!」
タギの声が、工房に、響いた。回転するコイルから、これまでの果汁を使った実験とは、比較にならないほど、確かな量の電気が、生み出されていることが、確認された。
この発電機の成功は、湊に、さらなる可能性を思い描かせた。
「これが、できたなら……逆に、電気を流したら、コイルが、回るんじゃないか」
湊は、この発電機とほぼ同じ構造を、逆向きに使うことで、モーターの原理を、実現できるはずだと、記憶を頼りに、考えた。
タギとイワは、発電機で得られた知見を活かし、同じような構造のコイルと磁石を組み合わせ、そこに、蓄えた電気を流してみる実験を、繰り返し、行っていった。
最初の試みでは、コイルは、わずかに震える程度で、目立った回転は、見られなかった。だが、コイルの巻き方や、磁石との位置関係を、発電機のときと同じように、根気強く調整していくうちに、三週間ほどが過ぎた、ある日、コイルが、確かに、小さく、しかし着実に、回転を始めるのを、湊たちは、目にすることになった。
「回った……!」
タギの声が、工房に、響いた。この瞬間、村は、電気の力を、目に見える動きへと変換する、確かな技術の、最初の一歩を、踏み出したのだった。
湊はレポート用紙に、この一連の成果を、丁寧に書き記した。
『天然の磁石を発見・確保。線引き技法により、銅線の安定した製造にも成功』
『水車の力を利用した発電機を開発。これまでにない、安定した電力の確保に成功』
『発電機の原理を応用し、電気の力で回転する、モーターの試作にも成功』
着手から、完成まで、実に、三ヶ月ほどの、長い月日が、費やされていた。
夕暮れ、湊は、水車小屋の脇に立ち、回り続ける水車と、そこから伸びる銅線を、静かに見つめていた。水の流れが、絶えることなく、確かな力を、生み出し続けている。
湊は、十九歳のまま、この作業を終えた。この世界に来てから、五年一ヶ月ほどが、過ぎていた。
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【第47話 時点 文明発展状況】
湊19歳/漂着後 5年1ヶ月
人口:83人
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01 生存・サバイバル ★★★★☆ 継続中
02 食料・農業 ★★★★☆ 継続中
03 畜産・動物 ★★★★☆ 継続中
04 漁業・水産 ★★★★☆ 継続中
05 狩猟・採集 ★★★☆☆ 継続中
06 水・衛生 ★★★★☆ 継続中
07 医療・薬学 ★★★☆☆ 継続中
08 住居・建築 ★★★★☆ 継続中
09 土木・インフラ ★★★★☆ 継続中
10 火・エネルギー ★★★★☆ 水力発電という新たなエネルギー源を確保
11 鉱業・金属 ★★★★☆ 天然磁石を発見・確保
12 製造・工業 ★★★★☆ 線引き技法により銅線の量産が可能に
13 科学・技術 ★★★★☆ 発電機・モーターの試作に成功
14 言語・文字・出版 ★★★★☆ 継続中
15 教育・研究 ★★★★☆ 継続中
16 経済・商業 ★★☆☆☆ 継続中
17 政治・法律・行政 ★★★★☆ 継続中
18 外交・交通・情報 ★★★★☆ 継続中
19 軍事・防災・治安 ★★★☆☆ 継続中
20 文化・娯楽・思想 ★★★★☆ 継続中
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