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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第二部 村を築く

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第44話「祭りの光、土を拓く力」

 黒い粉の発見から、ふた月ほどが過ぎていた。湊は、十八歳のままだった。


 湊は、あの日の取り決め通り、この物質の研究を、村から離れた、安全な場所――「試し場」でのみ、慎重に進めさせていた。タギと、彼が信頼する、ごく少数の弟子だけが、この研究に、携わることを、許されていた。


 ある日、湊が、その試し場を、様子見に訪れると、タギの弟子の一人――まだ、十代半ばの、若い青年が、粉を、じっと見つめながら、ぽつりと、つぶやいた。


「これ、少しだけ、色をつけて燃やしたら、綺麗なんじゃないでしょうか」


 湊は、その言葉に、思わず、足を止めた。


「今、なんて言った?」


 青年は、少し、戸惑った様子で、繰り返した。


「あの……この黒い粉を、燃やすと、閃光が出ますよね。もし、その光に、色をつけられたら、綺麗じゃないかなと」


 湊は、この、何気ない一言に、これまで、考えもしなかった、この技術の、もう一つの可能性に、気づかされた。破壊のための力としてではなく、人々の心を彩る、祝祭のための光としての可能性だ。


「タギ、これは……面白いかもしれない」


 湊は、この発想を、大切に育ててみることにした。タギと弟子たちは、粉に、様々な鉱物の粉末――例えば、銅を含む石を焼いて得られる、緑がかった粉などを、混ぜ込み、燃焼時の色合いを、試行錯誤しながら、調整していった。


 三週間ほどの試行錯誤の末、竹筒に詰めた、この彩りを持つ粉を、空へ向けて打ち上げる工夫が、加えられた。最初の試みは、夜空に、小さな光の花を、咲かせることに、成功した。


「見てください、湊さん!」


 タギが、興奮した様子で、湊を呼んだ。夜空に、鮮やかな色の光が、パッと広がり、そして、消えていく。


「これは……綺麗だな」


 湊は、思わず、感嘆の声を、漏らした。これが、村における、最初の「花火」の、誕生だった。


 湊は、この花火を、村の大切な祝いの日に、披露することを、長老会議に、提案した。この提案は、好意的に、受け入れられた。破壊力を秘めたこの技術を、まず、人々の喜びのために使うという選択は、湊にとって、大きな意味を持つものだった。


 その一方で、湊は、この物質が持つ、より強力な破壊力についても、決して、目を背けてはいなかった。


 ある日、ドウが、湊のもとを、訪れた。


「湊さん、鉱山での採掘作業のことで、相談があります」


「聞かせてくれ」


「硬い岩盤を砕くのに、いつも、大変な労力が、かかっています。もし、この黒い粉の力を、岩を砕くことに、使えれば……」


 湊は、この提案に、深く、考え込んだ。これは、まさに、湊が、恐れていた、この技術の、もう一つの側面――強力な破壊力を、実用的な力として使うという道だった。


 湊は、この提案を、すぐには、認めなかった。長老会議で、この課題について、慎重に、議論を重ねる、必要があった。


「もし、これを、採掘に使うとして……どんな条件を、つけるべきだと思う?」


 湊が、集会所で、そう問いかけると、シラが、真っ先に、口を開いた。


「レイのことを、忘れてはいけません。使う場所は、必ず、人の住む場所から、十分に離れた、限定された採掘現場のみにするべきです」


 ガルも、続けた。


「使う際は、必ず、事前に、周囲に、十分な退避の時間を、設けるべきだ」


 議論の末、湊たちは、いくつかの、厳格な条件のもとでのみ、この力を、採掘に限定して試すことを、決定した。使用する際は、必ず、タギが、安全な手順を、徹底的に、指導すること。


 こうした慎重な手順のもと、タギは、竹筒に、黒い粉を詰め、導火線となる、燃えやすい繊維を通した、簡素な「発破」の道具を、作り上げていった。この製作にも、ひと月ほどの時間が、必要とされた。


 最初の試験的な発破は、緊張感に満ちた雰囲気の中で、行われた。タギが、慎重に、導火線に火をつけ、十分な距離まで、退避する。しばらくの静寂の後、地面を震わせるような、鈍い爆発音が、響いた。


 煙が晴れると、そこには、これまで人力では、何日もかけなければ、砕けなかったであろう、大きな岩盤が、確かに崩れている光景が、あった。


 湊は、この光景に、複雑な感情を、抱いていた。確かに、これは、村の発展に、大きな力をもたらすかもしれない。だが、同時に、この力が、誤った使われ方をすれば、どれほどの惨事を招くかも、湊は、決して、忘れてはいなかった。


 この発破技術は、以降も、極めて限定された用途――主に、鉱山での岩盤除去にのみ、厳格な管理のもとで、使われることになった。


 こうした、危険と隣り合わせの技術発展の一方で、湊は、より身近で、より確かに村の暮らしを支える、農具の改良にも、力を注ぎ続けていた。


「タギ、鍬と鎌を、鉄で、作れないだろうか」


「わかりました。これまでの、木製のものより、はるかに、良いものが、できるはずです」


 鍬の刃は、これまでの木製のものより、はるかに鋭く、土を耕す効率を、大きく向上させた。鎌もまた、これまで石器で行っていた、穀物の刈り取り作業を、格段に速く、そして楽なものに、変えていった。


 この製作には、三週間ほどが、費やされた。ミオは、この新しい農具を、村の農夫たちに、丁寧に、使い方を教えていった。


 農具の発展と並行して、湊は、あの「タズ」を、農地の拡張にも、活用できないかと、考えた。


「ドウ、タズに、木の根や、大きな石を、引かせられないだろうか」


「引き具を、作ってみます」


 ドウは、タズに、太い綱で、切り倒した木の根や、大きな石を引かせるための、簡素な引き具を、考案した。この方法により、これまで、人力で何日もかけていた開墾作業が、タズの力を借りることで、大きく、短縮されるようになった。


 湊はレポート用紙に、この一連の、光と影を併せ持つ発展を、丁寧に書き記した。


『黒い粉の技術を、花火として、祝祭の場に活用。同時に、発破として、鉱山採掘にも限定的に導入』

『鉄製の鍬・鎌を本格導入』

『タズの力を借りた開墾作業により、農地の拡張が加速』


 その夜、村では、ちょうど、収穫祭が、催されていた。夜空に、タギたちが作った花火が、色とりどりの光となって、咲き乱れた。村の人々は、歓声を上げながら、その美しい光景に、見入っていた。


 湊は、その光を見上げながら、複雑な思いを、抱いていた。同じ黒い粉が、今夜は、人々を喜ばせる光となり、別の日には、岩を砕く、確かな力となる。技術というものの、その両義性を、湊は、改めて、深く噛み締めていた。


 湊は、十八歳のまま、この作業を終えた。この世界に来てから、四年四ヶ月ほどが、過ぎていた。


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【第44話 時点 文明発展状況】

湊18歳/漂着後 4年4ヶ月

人口:70人

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01 生存・サバイバル ★★★★☆ 継続中

02 食料・農業    ★★★★☆ 鉄製農具の導入により、作業効率が向上

03 畜産・動物    ★★★★☆ タズを開墾作業にも活用

04 漁業・水産    ★★★★☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★★☆ 継続中

07 医療・薬学    ★★★☆☆ 継続中

08 住居・建築    ★★★★☆ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★☆ タズによる開墾で農地面積が拡大

10 火・エネルギー  ★★★★☆ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★☆ 発破技術により、採掘効率が向上(厳格な管理下)

12 製造・工業    ★★★★☆ 鉄製鍬・鎌の量産体制を確立

13 科学・技術    ★★★★☆ 黒い粉の性質解明がさらに進む

14 言語・文字・出版 ★★★★☆ 継続中

15 教育・研究    ★★★★☆ 継続中

16 経済・商業    ★★☆☆☆ 継続中

17 政治・法律・行政 ★★★★☆ 危険技術の使用条件を長老会議で厳格に規定

18 外交・交通・情報 ★★★★☆ 継続中

19 軍事・防災・治安 ★★★☆☆ 強力な燃焼技術の存在を把握するも、平和的用途を優先

20 文化・娯楽・思想 ★★★★☆ 花火という新たな祝祭文化が誕生

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