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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第二部 村を築く

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第43話「星を計り、音を送る」

 湯気の立つ公衆浴場が村に定着してから、ふた月ほどが過ぎていた。湊は、十八歳になっていた。


 ある朝、湊は、日課となっていた、村の見回りの途中、空を見上げた。太陽の位置から、なんとなく、時刻を推し量る。だが、この方法では、正確な時間を、知ることができない。


 湊は、ケイのもとを訪ねた。


「ケイ、時を、もっと正確に、知る方法は、ないだろうか」


 ケイは、少し、考え込んだ。


「今は、太陽の高さで、なんとなく、判断しているだけですからね。曇りの日や、夜は、まったく、わかりません」


「日時計、というものがあるはずなんだ。地面に、まっすぐな棒を立てて、その影の向きと長さで、時刻を知る」


 湊は、地面に、簡単な図を描いて、説明した。ケイは、その図を、じっと見つめた。


「面白そうです。やってみましょう」


 湊とケイは、村の広場に、まっすぐな石の柱を立て、その影が、一日を通して、どのように動いていくかを、丹念に、観察することから、始めた。


 この観測には、思いのほか、時間がかかった。晴れた日を選び、朝から夕方まで、一定の間隔で、影の位置を、地面に、印をつけて、記録していく。この作業を、ケイは、根気強く、ひと月ほど、繰り返した。


 「湊、面白いことに、気づいたぞ」


 ある日、ケイが、興奮した様子で、湊のもとに、駆けてきた。


「どうした?」


「影の動きが、季節によって、微妙に違うんだ。夏至の頃と、冬至の頃とでは、影の長さも、角度も、明らかに、違う」


 湊は、この気づきに、感心した。


「よく、気づいたな。それも、目盛りに、加えよう」


 完成した日時計は、広場の中央に、恒久的な形で、設置されることになった。


 時を計る仕組みと並行して、湊は、数の計算を、より効率的に行うための道具についても、思いを巡らせていた。


「イワ、ケイ、頼みたいことが、あるんだ。そろばん、っていう、計算の道具を、作りたい」


 湊は、二人に、枠の中に、串を通した珠を並べ、その珠を動かすことで、計算を行う、という、おおまかな仕組みを、説明した。


 イワが、木の枠と、細い串を作り、ケイが、珠の並べ方と、計算の仕組みを、実際に試しながら、組み立てていった。


 最初に作られたそろばんは、珠の数や、桁の区切りが、あまり、洗練されていなかった。ケイは、実際に、足し算や引き算を試しながら、どの位置に、いくつの珠を配置すれば、最も効率よく計算できるかを、根気強く、検証していった。


 三週間ほどの試行錯誤の末、ケイは、ある程度、使いやすい配置に、たどり着いた。


「これは……便利だな」


 湊は、実際に、そろばんを使って、簡単な計算をしてみた。これまで、木の実を並べ替えながら、時間をかけて行っていた計算が、格段に速く、正確に行えるようになっていた。


 こうした、村の内側での時と数の管理が整いつつある一方で、湊は、もう一つの課題――村と、周辺の集落との、より迅速な連絡手段についても、検討を進めていた。


「ドウ、タギ、太鼓の音を、もっと、遠くまで、届けられないだろうか」


 湊の言葉に、二人は、顔を見合わせた。


「音を、遠くまで、ですか」


 タギが、尋ねた。


「そうだ。丸太の太さや、くり抜く空洞の形を、工夫すれば、もっと、低く、遠くまで響く音が、出せるはずだ」


 タギとドウは、この課題に、ひと月ほど、根気強く、取り組んだ。丸太の太さを、様々に、変えてみる。空洞の形を、少しずつ、調整してみる。


 完成した新しい太鼓は、これまでのものより、はるかに、低く、力強い音を、響かせるようになった。この太鼓は、村と、いくつかの中継集落の間に、段階的に、配置されていくことになった。


 こうした技術発展の一方で、ある日、タギから、思いがけない報せが、届いた。


「村長、少し、危ないものを、見つけてしまいました」


 湊が、工房に向かうと、タギは、緊張した面持ちで、黒っぽい粉末を、少し離れた場所に、置いていた。


「これは、なんだ?」


「木炭と、北の火山で採れる、黄色い石、そして、古い厩の土から取れる、白い粉を、たまたま、混ぜて、乾かしていたら……」


 タギが、小さな火種を、その粉末に、近づけた瞬間、湊が止める間もなく、粉末は、激しい閃光と共に、勢いよく、燃え上がった。


 幸い、離れた場所での試みだったため、怪我人は出なかったが、その反応の激しさに、湊は、背筋が、冷えるのを、感じた。


「タギ、これは……慎重に、扱う必要がある」


 湊は、この現象を前に、深く、考え込んだ。この黒い粉が、極めて強力な力を秘めていることは、疑いようがなかった。だが、湊は、レイの事故――かつて、この村で起きた、痛ましい出来事の教訓を、決して、忘れてはいなかった。


 湊は、この発見を、すぐに実用化しようとは、しなかった。むしろ、これが、どれほど危険なものであるかを、まず、村の中で、正しく理解し、共有することを、優先した。


「これが、どんな役に立つのか、どんな危険があるのか。それを、じっくりと、時間をかけて、見極めていこう」


 湊は、この粉末の扱いを、タギと、ごく限られた、信頼できる者だけに委ね、これ以上の実験は、村から十分に離れた、安全な場所でのみ行うことを、厳しく取り決めた。


 湊はレポート用紙に、この一連の発見を、丁寧に書き記した。


『日時計を設置。季節ごとの目盛りも整備』

『そろばんを開発。計算の速度と正確性が向上』

『太鼓による中継連絡網を整備』

『炭・硫黄・硝石様の物質の混合により、激しく燃焼する物質を発見。慎重な研究にとどめる』


 夜、湊は、日時計とそろばんという、村の暮らしを静かに豊かにする発見と、この、危険な力を秘めた黒い粉という、まったく異なる性質の発見が、同じ日々の記録の中に、並んでいることに、複雑な思いを、抱いていた。


 湊は、十八歳になったばかりだった。この世界に来てから、四年一ヶ月ほどが、過ぎていた。


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【第43話 時点 文明発展状況】

湊18歳/漂着後 4年1ヶ月

人口:66人

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01 生存・サバイバル ★★★★☆ 継続中

02 食料・農業    ★★★☆☆ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★★☆ 継続中

07 医療・薬学    ★★★☆☆ 継続中

08 住居・建築    ★★★★☆ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★☆ 継続中

10 火・エネルギー  ★★★★☆ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★☆☆ 新たな鉱物成分(硫黄・硝石様物質)の存在を確認

12 製造・工業    ★★★★☆ 継続中

13 科学・技術    ★★★★☆ 日時計・そろばんの完成

14 言語・文字・出版 ★★★★☆ 継続中

15 教育・研究    ★★★★☆ そろばんを算数教育に導入

16 経済・商業    ★★☆☆☆ 継続中

17 政治・法律・行政 ★★★☆☆ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★★★☆ 太鼓による中継連絡網を整備

19 軍事・防災・治安 ★★★☆☆ 強力な燃焼物質を発見するも、慎重に管理下に置く

20 文化・娯楽・思想 ★★★★☆ 継続中

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