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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第二部 村を築く

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第41話「筆を持つ手」

 漬物と発酵調味料が、村の食卓に、すっかり馴染んだ頃。湊は、まだ十七歳のままだったが、ある夜、灯りの下で、紙に文字を書きながら、小さな苛立ちを覚えていた。


 木炭を水で溶いた墨は、木の枝を尖らせただけの筆記具では、思うように、線が引けない。何度も、掠れたり、太くなりすぎたりする文字を、湊は、じっと見つめていた。


 翌朝、湊は、イワの工房を訪ねた。イワは、この頃、村の彫刻や、様々な造形物の製作を、一手に引き受ける、確かな職人へと成長していた。


「イワ、頼みたいことがあるんだ」


「なんでしょう」


「もっと、滑らかに、字が書ける道具を、作れないだろうか。動物の毛を、束ねて、柄につけるんだ」


 イワは、少し首をかしげた。


「毛を、束ねるだけで、いいんですか」


「たぶん、それだけじゃ、足りないと思う。毛の硬さとか、束ね方とか……試してみないと、わからない」


 イワは、この曖昧な説明に、興味深そうな表情を見せた。


「面白そうです。やってみます」


 イワは、まず、狩猟で得られる、様々な動物の毛を、いくつか、集めてきた。硬い毛、柔らかい毛、それぞれを、竹の柄に、丁寧に固定していく。


 最初に試したのは、比較的硬い毛だった。これで紙に線を引いてみると、確かに、はっきりとした線が引けた。だが、細かい表現には、まるで向いていなかった。


「硬すぎますね。もっと、柔らかいものと、組み合わせてみます」


 イワは、次に、柔らかい毛だけで、筆を作ってみた。だが、今度は、逆に、線が、思うように安定しなかった。


 この試行錯誤は、二週間ほど、続けられた。ある日、イワが、湊のもとに、一本の筆を持って、やってきた。


「これを、試してみてください」


 湊は、その筆を、手に取った。芯の部分には、やや硬めの毛が使われ、その周りを、柔らかい毛が、包み込むように、束ねられている。


 湊は、その筆に、墨を含ませ、紙の上に、そっと走らせてみた。これまでとは、まるで違う、滑らかな感触が、手に伝わってきた。


「これは……すごいな。イワ、よくやった」


 湊は、思わず、感嘆の声を上げた。イワも、確かな達成感を、その表情に、滲ませていた。


「これなら、もっと細かい記録も、もっと美しい絵も、描けるようになる」


 この毛筆の完成は、思いがけない形で、村の文化にも、影響を及ぼしていった。イワ自身、この新しい道具を使って、これまでの単純な線画とは異なる、濃淡や強弱のある、表現豊かな絵を、描くようになっていった。


 筆記具の発展と時を同じくして、湊は、村の建築技術にも、さらなる磨きをかけていくことを、ドウに求めていた。


「ドウ、これまでの木造建築、もっと頑丈にできないか」


 ドウは、腕を組んで、考え込んだ。


「今は、柱と梁を、釘で留めているだけです。もっと、木材同士を、しっかり組み合わせる方法があれば……」


「継手、っていうやり方があったはずだ。木の端に、互いに嚙み合う切り込みを入れる」


 ドウは、この構想に、強い関心を示した。


「試してみます。切り込みの形が、難しそうですが」


 ドウの、この継手の技法の試行錯誤には、ひと月ほどが、費やされることになった。最初は、切り込みがうまく噛み合わず、隙間ができてしまうことが、何度もあった。だが、ドウは、角度や深さを、根気強く調整し、ついに、確かな精度の継手を、編み出していった。


 道路整備についても、湊は、新たな工夫を、ドウと共に検討していた。


「村の中心部、雨の日でも、歩きやすくしたいんだ。石を、敷き詰められないか」


「石畳、ですね。手間はかかりますが、やってみましょう」


 石を選び、平らな面を上にして、隙間なく敷き詰めていく作業は、根気を要するものだった。だが、完成した石畳の道は、雨の日でも、ぬかるむことなく、確かな歩きやすさを、村の人々にもたらすことになった。


 これらの建築・土木の発展と並行して、湊は、もう一つの、新しい試みを、進めていた。乾麺の開発だった。


 湊は、この構想を、シラとミオに、相談した。


「麦に似た穀物を、粉にして、水で練って、細く切って、乾燥させると……長く保存できる食べ物になるはずなんだ」


「麺、というものですね」


 ミオが、以前、湊から聞いたことのある、この言葉を、思い出したようだった。


「そうだ。試してみよう」


 最初の試みは、生地がうまくまとまらず、乾燥の過程で、ぼろぼろに崩れてしまうことが、多かった。シラとミオは、水と粉の配合比率を、何度も調整しながら、生地の粘りを、少しずつ改善していった。


 ある日、シラが、ふと、思いついたように、湊に言った。


「湊さん、生地に、少しだけ、塩を、混ぜてみたら、どうでしょう」


「塩を?」


「なんとなく、ですが……塩を入れると、生地が、もう少し、まとまりやすくなる気がして」


 この、シラの直感は、見事に的中した。塩を練り込んだ生地は、これまでよりも、はるかに、まとまりやすくなり、細く切っても、崩れにくくなったのだ。


「これだ! シラ、よく気づいてくれた」


 この工夫にたどり着くまでに、二週間ほどが、費やされていた。できあがった乾麺は、湯で戻すだけで、手軽に食べられる、新たな保存食として、村の食卓に、また一つの豊かさを加えることになった。


 湊はレポート用紙に、この一連の発展を、丁寧に書き記した。


『毛筆を開発。イワの試行錯誤により、しなやかで確かな書き心地の筆記具が完成』

『木造建築に継手の技法を導入。道路にも石畳を敷設』

『乾麺の製法を確立。シラの気づきにより、塩を練り込むことで、生地のまとまりが向上』


 夕暮れ、湊は、新しい毛筆を手に取り、紙の上に、これまでの発展を、丁寧に書き記していった。かつての、掠れがちだった線とは違う、滑らかで、確かな線が、紙の上に刻まれていく。


 湊は、その線を見つめながら、静かな満足感を覚えていた。技術は、一つ一つ、丁寧に磨かれていく。それは、決して急ぐものではなく、根気と、試行錯誤の積み重ねによって、少しずつ、確かな形へと育っていくものなのだと、湊は、改めて実感していた。


 湊は、十七歳のまま、この作業を終えた。この世界に来てから、三年六ヶ月ほどが、過ぎていた。


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【第41話 時点 文明発展状況】

湊17歳/漂着後 3年6ヶ月

人口:59人

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01 生存・サバイバル ★★★★☆ 継続中

02 食料・農業    ★★★☆☆ 継続中

03 畜産・動物    ★★★☆☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★★☆ 継続中

07 医療・薬学    ★★★☆☆ 継続中

08 住居・建築    ★★★★☆ 継手技法の導入により建築水準が向上

09 土木・インフラ  ★★★★☆ 石畳道路を敷設

10 火・エネルギー  ★★★☆☆ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★☆☆ 継続中

12 製造・工業    ★★★★☆ 乾麺の製法を確立

13 科学・技術    ★★★☆☆ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★★☆ 毛筆の完成により、記録と表現の質が向上

15 教育・研究    ★★★★☆ 継続中

16 経済・商業    ★★☆☆☆ 継続中

17 政治・法律・行政 ★★★☆☆ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★★☆☆ 継続中

19 軍事・防災・治安 ★★☆☆☆ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★☆ 毛筆によって、絵の表現力が向上

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