第39話「境を分かつ」
堰が完成してから、一ヶ月ほどが過ぎていた。湊は、まだ十七歳のままだった。この間、また、二人の新しい住人――旅の途中で怪我をして動けなくなっていた、若い兄弟が、ガルに助けられ、村に加わっていた。人口は、五十二人になっていた。
ある朝、湊は、ガルと共に、村の周辺の森を歩いていた。ガルが、以前から気にかけていたという、ある懸念について、実際に現地を見ながら、話し合うためだった。
「湊さん、このあたりを、見てください」
ガルが、足を止めて、周囲を、指し示した。
「何か、あるのか」
「いえ、逆です。何も、いないんです」
湊は、その言葉の意味を、掴みかねた。
「どういうことだ?」
「以前は、この辺りだけでも、十分な数の獲物が、いました。ですが、最近は、もっと奥まで行かないと、見つからないことが、増えています」
湊は、この報告に、深く、考え込んだ。
「村の人が、増えたから、獲る量も、増えたということか」
「たぶん、そうだと思います。それに、村の畑や、家が広がったことで、獣たちが、寄りつきにくくなったのかもしれません」
湊は、しばらく、黙って、森の中を、見渡していた。
「このままだと、どうなると思う?」
「わかりません。でも、いつか、この辺りには、まったく、獲物がいなくなるかもしれない」
ガルの、この率直な言葉に、湊は、事の重大さを、改めて、実感した。
湊は、しばらく歩きながら、考えを、巡らせた。そして、一つの案を、ガルに、提示した。
「ガル、村の周りを、いくつかの場所に、分けてみないか」
「分ける、というと?」
「例えば、四つくらいの区域に、分けるんだ。そして、順番に、狩りをする場所を、変えていく」
ガルは、この提案に、興味深そうな表情を、見せた。
「ある場所で狩りをした後は、しばらく、そこを、休ませるということですか」
「そうだ。そうすれば、獲物の数が、自然に、回復するのを、待てるはずだ」
ガルは、しばらく、考え込んだ後、大きく、頷いた。
「これまでも、なんとなく、そういう場所を、選んでいた気は、します。でも、こうして、きちんと、決めておけば、もっと、確実になるでしょう」
ガルは、村に戻ると、若い狩人たちを、集めた。
「今日から、狩りをする場所を、順番に、変えていく」
ガルの言葉に、若者たちは、戸惑いを、見せた。
「なぜですか。今の場所でも、獲れないわけじゃ、ありません」
一人の若者が、そう、反論した。ガルは、その若者に、静かに、答えた。
「今は、獲れる。でも、このまま続けたら、いつか、獲れなくなる。俺は、そう思う」
湊も、この場に加わり、地図――村の周辺の地形を、簡単な絵図として描いたものを、地面に広げた。
「ここが、村だ。そして、この四つの場所を、順番に、使っていく」
湊は、絵図に、四つの区域を、書き込んだ。
「一つの場所を使ったら、次は、別の場所。そうやって、回していけば、それぞれの場所が、休む時間を、持てる」
若者たちは、この説明を聞き、少しずつ、理解を、深めていったようだった。この取り決めが、実際に運用され始めるまでに、二週間ほどが、費やされた。
狩猟の課題と並行して、湊は、薪の消費と、森林の伐採についても、対策を講じることにした。ある日、湊は、タギの工房を、訪ねた。
「タギ、窯や炉で、随分と、薪を使っているだろう」
タギは、少し、気まずそうな表情を、見せた。
「ええ……正直、気にはなっていました。この頃、村の近くの木が、随分、減った気がします」
湊は、この言葉を受けて、ミオに、相談を持ちかけた。
「ミオ、木を、意図的に、植えることは、できないだろうか」
「植える、ですか」
ミオは、少し、驚いた様子だった。
「畑の作物と、同じように、木も、育てられるはずだ。特に、育ちの早い種類を、選んで」
ミオは、この構想に、興味を示した。
「面白いですね。やってみます」
ミオは、これまでの農業の知識を応用し、成長の早い木の苗を選び、伐採した後の土地に、計画的に植えていく試みを、始めた。
「すべての場所に、すぐに、木を戻すのは、難しいと思います」
「それでいい。伐りっぱなしにするんじゃなく、次の世代のための木を、同時に育てていく。その考え方が、大事なんだ」
こうした、これまでの課題への地道な対応と並行して、湊は、この頃、もう一つの新しい技術――鋳造の、本格的な発展にも、着手しようとしていた。
「タギ、溶かした金属を、型に流し込んで、形を作る方法を、試してみないか」
「型に、流し込む、ですか」
「そうだ。そうすれば、同じ形のものを、何度でも、作れるようになるはずだ」
タギは、この構想に、強い関心を、示した。イワの協力のもと、粘土で作った型に、溶かした金属を流し込む、鋳造の技術が、試みられることになった。
最初の試みは、案の定、失敗に終わった。
「湊さん、これを、見てください」
タギが、型から取り出した金属の塊を、湊に、見せた。表面には、いくつもの、小さな穴が、空いていた。
「空気が、入ってしまったんだな」
「そのようです。でも、なぜ、そうなるのか……」
タギとイワは、この失敗の原因を、根気強く、探っていった。金属を流し込む速度が速すぎたのではないか。型の温度が、金属の温度と合っていなかったのではないか。
三週間ほどの試行錯誤の末、タギとイワは、型をあらかじめ温めておくこと、そして、金属をゆっくりと、途切れさせずに流し込むことが、気泡を減らす鍵であることを、突き止めていった。
「湊さん、できました!」
ある日、タギが、興奮した様子で、湊のもとに、駆け込んできた。手には、気泡のない、確かな金属の塊が、握られていた。
「これなら、同じ形のものを、何度でも、作れます」
湊は、この成功に、大きな期待を、寄せていた。
湊はレポート用紙に、この一連の取り組みを、書き記した。
『狩猟地域の輪番制を導入。獲物の減少への対応策として、区域ごとの休猟期間を設定』
『植林の試みを開始。伐採と並行して、次世代の木を育てる仕組みを構築』
『鋳造技術の確立に成功。一ヶ月ほどの試行錯誤を経て、型を用いた金属の量産が可能に』
湊は、十七歳のまま、この作業を終えた。この世界に来てから、三年一ヶ月ほどが、過ぎていた。
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【第39話 時点 文明発展状況】
湊17歳/漂着後 3年1ヶ月
人口:52人
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01 生存・サバイバル ★★★☆☆ 継続中
02 食料・農業 ★★★☆☆ 継続中
03 畜産・動物 ★★☆☆☆ 継続中
04 漁業・水産 ★★★☆☆ 継続中
05 狩猟・採集 ★★★☆☆ 輪番制を導入、持続的な狩猟への転換
06 水・衛生 ★★★★☆ 継続中
07 医療・薬学 ★★★☆☆ 継続中
08 住居・建築 ★★★☆☆ 継続中
09 土木・インフラ ★★★★☆ 継続中
10 火・エネルギー ★★★☆☆ 植林を開始、持続可能な燃料利用へ
11 鉱業・金属 ★★★☆☆ 継続中
12 製造・工業 ★★★★☆ 鋳造技術を確立
13 科学・技術 ★★★☆☆ 継続中
14 言語・文字・出版 ★★★☆☆ 継続中
15 教育・研究 ★★★☆☆ 継続中
16 経済・商業 ★☆☆☆☆ 継続中
17 政治・法律・行政 ★★★☆☆ 資源管理という新たな統治課題に対応
18 外交・交通・情報 ★★☆☆☆ 継続中
19 軍事・防災・治安 ★★☆☆☆ 継続中
20 文化・娯楽・思想 ★★★☆☆ 継続中
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