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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第二部 村を築く

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第38話「堰を越えて」

 堤防が完成してから、ふた月ほどが過ぎていた。湊は、十七歳になっていた。


 この間、村には、新たに、三つの家族が、合流していた。周辺を放浪していた、旅の一団だったが、村の噂を聞きつけ、定住を望んだのだった。人口は、四十五人から、五十人に増えていた。


 ある朝、湊は、完成した堤防の上を歩きながら、川の流れを、じっと見つめていた。


 湊の胸には、まだ一つの懸念が、燻り続けていた。堤防は、確かに、川の増水による浸水を、防いでくれる。だが、それは、あくまで「防ぐ」ための備えに、過ぎない。


 湊は、その日の午後、ドウの作業場を、訪ねた。


「ドウ、少し、相談したいことが、あるんだ」


「なんでしょう」


 ドウは、手を止めて、湊のほうを向いた。


「川の水を、堰き止めて、貯めておく場所を、作れないだろうか」


 ドウは、しばらく、考え込んだ。


「貯めておく、というと……乾季のために、ということですか」


「そうだ。雨季に増える水を、そのまま流してしまうんじゃなく、蓄えておいて、水が足りなくなったときに、使えるようにしたい」


 ドウは、腕を組んで、しばらく、黙っていた。それから、慎重に、答えた。


「川の流れを、完全に堰き止めるのは、大掛かりな仕事になります。今の村の力では、難しいかもしれません」


「そうか……」


「ですが」と、ドウは、続けた。「支流の一つ――普段は水量の少ない小川であれば、試してみる価値は、あるかもしれません」


 湊は、この言葉に、顔を、上げた。


「なるほど。まずは、小さいところから、始めればいいんだな」


 湊とドウは、翌日から、村の周辺を、歩き回った。適した場所を探すこの作業に、数日が、費やされた。


 やがて、村からやや離れた場所に、両岸が狭まった、堰を築くのに適した地形を、見つけた。


「ここなら、いけそうです」


 ドウが、地形を確かめながら、そう、言った。


 この構想は、これまでの水路や堤防よりも、さらに大掛かりな事業だった。ドウは、まず、小規模な試験的な堰を作り、その効果と、構造の耐久性を確かめることから、始めることを、提案した。


「いきなり、大きなものを作って、失敗したら、大変ですから」


「そうだな。慎重に、進めよう」


 試験堰の建設には、タギの協力も、欠かせなかった。堰の要となる部分には、木材だけでなく、粘土を焼き固めたブロックが、使われることになった。


「水の力は、思った以上に、強いと思います」


 タギが、そう、指摘した。


「だから、下のほうを、厚くして、上に行くほど、薄くする。そういう形が、いいんじゃないでしょうか」


 湊は、この提案に、感心した。


「よく、わかったな」


「なんとなく、ですが……川の底のほうが、水の勢いが、強い気がして」


 最初の試験堰は、二週間ほどで、完成した。だが、完成から数日後、思いのほか早く、その弱点を、露呈することになった。


「湊さん、まずいです」


 ある朝、ドウが、慌てて、湊のもとに、駆け込んできた。


「どうした?」


「堰の一部から、水が、漏れ始めています」


 湊が、現場に駆けつけると、確かに、堰の下部から、じわじわと、水が滲み出ているのが、見えた。想定以上の水圧が、かかっていたのだ。


 ドウは、この失敗を、冷静に、受け止めた。


「一度にすべてを止めようとするのが、間違いだったのかもしれません」


「どういうことだ?」


「堰の下のほうに、あえて、小さな水路を残して、少量の水を、常に、下流へ流し続けるんです。そうすれば、堰全体にかかる力を、いくらか、和らげられるかもしれません」


 湊は、この発想に、深く感心した。


「なるほど。全部を止めようとするから、無理がかかるんだな」


 ドウは、この改良を、すぐに、施した。同時に、堰の表面には、粘土と小石を混ぜた、より緻密な塗り固めが、施され、漏水を防ぐ工夫も、加えられた。


 二度目の試験堰は、一度目よりも、確かな安定を、見せた。数週間にわたって観察を続けても、大きな漏水は見られず、堰の内側には、着実に、水が蓄えられていった。


「これなら、いけそうですね」


 ドウが、満足そうに、そう、つぶやいた。


 この成功を受けて、村は、より本格的な規模での堰の建設に、着手することになった。完成までには、さらに、ひと月半ほどの月日を、要した。


 完成した堰は、村にとって、乾季にも一定量の水を確保できる、貴重な水源となった。


 この水源整備と並行して、湊は、もう一つの、これまで後回しにしてきた課題にも、本格的に取り組み始めていた。下水――生活排水の処理だった。


「シラ、村の排水のことで、相談があるんだ」


 湊が、シラの診療所を訪ねると、シラは、すぐに、深く頷いた。


「私も、気になっていました。特に、雨が続く時期は、排水路が溢れて、匂いも、ひどくなります」


「このまま、放っておくと、また、疫病のようなことが、起きるかもしれない」


 シラは、これまでの疫病の経験から、排泄物や生活排水の管理が、いかに村の健康に直結するかを、誰よりも、よく理解していた。


「水は、ただ流せばいいというものでは、ありません。人の多く集まる場所ほど、その扱いを、慎重にする必要があります」


 湊とシラ、そしてドウは、改めて、村全体の排水路を、見直すことにした。


「排水路の途中に、砂や炭を敷き詰めた層を、設けたらどうだろう。水が、ある程度、綺麗になってから、川に合流するように」


 湊の提案に、ドウは、興味を示した。


「炭で、水が綺麗になるんですか」


「以前、飲み水を、炭で、浄化したことがあっただろう。同じ原理が、使えるはずだ」


 この濾過の仕組みも、一度で完成したわけでは、なかった。最初に作った層は、すぐに詰まってしまい、水が滞留してしまうという問題が、起きた。


「詰まってしまいました」


 ドウが、湊に、そう、報告した。ドウとタギは、砂と炭の層の厚さや、粒の大きさを、二週間ほどかけて、調整していった。


「これくらいの粗さなら、詰まりにくくて、しかも、ある程度は、綺麗になるようです」


 こうした水回りの整備と並行して、湊は、文字教育のさらなる普及にも、根気強く、取り組み続けていた。


 湊はレポート用紙に、この一連の取り組みを、書き記した。


『水源確保のため、(ダム)の建設に成功。試行錯誤を経て、水圧に耐える構造を確立するまで、二ヶ月ほどを要した』

『下水路に濾過の仕組みを導入。衛生状態がさらに改善』


 夕暮れ、湊は、新しく完成した堰のほとりに、立っていた。水面には、夕日が、静かに反射していた。この水が、これから、乾季の村を支える、確かな命綱になる。


 湊は、十七歳になったばかりだった。この世界に来てから、三年が、過ぎようとしていた。


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【第38話 時点 文明発展状況】

湊17歳/漂着後 2年11ヶ月

人口:50人

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01 生存・サバイバル ★★★☆☆ 継続中

02 食料・農業    ★★★☆☆ 継続中

03 畜産・動物    ★★☆☆☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★☆☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★☆☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★★☆ 下水路に濾過機構を導入

07 医療・薬学    ★★★☆☆ 継続中

08 住居・建築    ★★★☆☆ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★☆ (ダム)の建設に成功

10 火・エネルギー  ★★☆☆☆ 継続中

11 鉱業・金属    ★★☆☆☆ 継続中

12 製造・工業    ★★★☆☆ 継続中

13 科学・技術    ★★★☆☆ 水圧と構造の経験則が蓄積

14 言語・文字・出版 ★★★☆☆ 継続中

15 教育・研究    ★★★☆☆ 継続中

16 経済・商業    ★☆☆☆☆ 継続中

17 政治・法律・行政 ★★★☆☆ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★☆☆☆ 継続中

19 軍事・防災・治安 ★★☆☆☆ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★☆☆ 継続中

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