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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第一部 生き延びる

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26/110

第26話「学び舎の誕生」

 絵物語が村の娯楽として根づき始めた頃、湊はもう一つの構想を、いよいよ本格的に動かそうとしていた。


 専門学校の開講だ。


 これまで、八人の協力者たちの技術は、それぞれが個別に、弟子入りのような形で村の若者に伝えられてきた。だが、村の人口が着実に増えていくにつれ、この方式には限界が見え始めていた。教える側の負担も大きく、学びたいと願う若者の数に、十分に応えきれなくなっていたのだ。


 湊は、これを体系化する必要があると考えた。特定の期間、特定の場所で、まとまった人数に、体系立った知識を伝える仕組み――現代でいう「学校」の形を、この村に根づかせることだった。


 湊はまず、集会所の隣に、新たな建物を建てることを提案した。ドウとイワが中心となり、レンガと木材を組み合わせた、これまでよりも規模の大きな施設が、二ヶ月ほどをかけて完成した。


 この建物は、いくつかの区画に分けられた。医療を学ぶ部屋、農業を学ぶ部屋、建築や土木を学ぶ部屋、そして文字と数を学ぶ、基礎的な教養のための部屋。八人の協力者それぞれが、自分の専門分野において、決まった時間に、若者たちを指導する体制が整えられていった。


 シラは、薬草の見分け方や、傷の手当ての基本を、実際の薬草を手に取りながら教えた。彼女のもとには、特に若い女性たちが多く集まった。将来、村の医療を担う人材を育てたいという、シラ自身の強い思いが、その指導ぶりからにじみ出ていた。


 ドウは、測量の基礎や、建物の構造について、地面に図を描きながら説明した。寡黙な彼にしては珍しく、この教育の場では、根気強く、繰り返し丁寧な指導を行っていた。


 タギは、火の扱いと金属加工の基礎を教えた。ただし、レイの事故を経験した彼は、何よりもまず「安全な手順」を、口を酸っぱくして繰り返し伝えることを、指導の第一としていた。


 ミオは、輪作の概念や、植物の観察の仕方を、実際の畑を使いながら、若い世代に伝えていった。彼女自身がかつて、湊から学んだ過程をなぞるように、丁寧な指導を心がけていた。


 こうした専門教育と並行して、湊自身は、文字と基礎的な数の教育――いわば教養学校の部分を、ケイと共に担うことになった。すべての専門分野の土台となる、読み書きと計算の力を、村の子供たち全員に身につけさせることが目的だった。


 開講初日、集会所の隣に完成したばかりの学び舎には、村中の子供たちと、若い世代の大人たちが集まった。湊は、この光景を見て、深い感慨を覚えていた。


 思えば、湊がこの世界に落とされたとき、頼りにできたのは、自分一人の頭の中にある、断片的な知識だけだった。それが今、こうして体系立った教育の場として、村全体に広がっていこうとしている。


 この日、湊は開講の挨拶として、集まった人々の前で、これまでの村の歩みを、簡単な絵物語の形にまとめたものを披露した。骨の針から始まり、火、水、農業、家畜、鉄、建築、そして紙と文字――一つ一つの発展を、簡潔な絵と文字で綴った、村の「歴史書」の第一部だった。


 子供たちは、目を輝かせながら、その物語に聞き入っていた。自分たちの村が、どのようにして今の姿になったのか。その物語を知ることは、単なる知識の習得を超えた、村への誇りと帰属意識を育むものになるはずだった。


 湊はレポート用紙――今や、村で漉かれた紙に、この日の出来事を書き記した。


『専門学校、正式に開講。八人の協力者それぞれが、専門分野の指導を体系的に開始』

『教養学校では、文字と数の基礎教育を、村の子供たち全員に実施』

『村の歴史を絵物語としてまとめ、開講の記念として披露。知識の継承と、村への誇りを、共に育んでいく』


 この日をもって、村における教育体系は、一つの完成形を迎えた。個々の技術発展が、今度は「教育」という仕組みを通じて、世代を超えて受け継がれていく基盤が整ったのだ。


 湊は、学び舎の窓――まだ簡素な木枠だけのそれ――から差し込む光の中で、真剣な表情で文字を練習する子供たちの姿を眺めていた。


 この子供たちの中から、いつか、湊自身も予想しなかったような発展を成し遂げる人材が現れるかもしれない。そんな期待が、湊の胸に、静かに広がっていた。


 オルガもまた、この日、学び舎を訪れていた。彼女は、シラが薬草について教える様子を、複雑ながらも、確かな誇らしさを滲ませた表情で見守っていた。かつて対立の象徴だった孫娘の姿が、今や村の教育を支える、重要な存在へと成長している。その事実は、オルガにとっても、大きな喜びだったに違いない。


 夕暮れ、学び舎から子供たちの声が、笑い声と共に響いてくる。湊はその声を聞きながら、村がまた一つ、確かな段階を越えたことを、静かに実感していた。


 骨の針一本から始まった物語は、今、次の世代へと、確かに受け継がれ始めていた。


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【第26話 時点 文明発展状況】

人口:36人/漂着後 400日

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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中

02 食料・農業    ★★★★☆ 継続中

03 畜産・動物    ★★☆☆☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★☆☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★☆☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★★☆ 継続中

07 医療・薬学    ★★★☆☆ シラによる専門教育が開始

08 住居・建築    ★★★★★ 学び舎が完成

09 土木・インフラ  ★★★★☆ ドウによる専門教育が開始

10 火・エネルギー  ★★★★★ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★☆ タギによる専門教育が開始、安全教育が重視される

12 製造・工業    ★★★★★ 継続中

13 科学・技術    ★★★★☆ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中

15 教育・研究    ★★★★★ 専門学校・教養学校が正式開講

16 経済・商業    ☆☆☆☆☆ 未着手

17 政治・法律・行政 ★★★★☆ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★☆☆☆ 継続中

19 軍事・防災・治安 ★★★★☆ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 村の歴史を綴った絵物語が誕生、教育と文化が融合

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【新規記述書物】『村のあゆみ・第一部』(村の発展史を綴った絵物語)

【次なる課題】道路・橋・港の整備、都市計画への着手、第Ⅵ部「町への発展」へ

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