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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第一部 生き延びる

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21/107

第21話「粘土の器」

 村長という立場を託されてから、湊の日々は、これまでとは少し違う質を帯び始めていた。


 個々の技術発展に直接関わる時間は、以前より減っていた。代わりに、村全体の運営に関わる相談事――畑の区画の割り振り、狩猟の分担、新しく村に加わりたいという近隣の小集団への対応など、様々な事柄が、湊のもとに持ち込まれるようになっていた。


 それでも湊は、自分の本分を見失わないよう、意識的に努めていた。実務は、できる限り八人の協力者たちに委ねる。自分は、新たな知識を書物にし、彼らに託すことに専念する。


 この時期、湊が新たに着目していたのが、陶器だった。


 これまで村では、貝殻や、木をくり抜いた器を、日常的な容器として使ってきた。だが、これらには耐熱性や耐久性の限界があった。煮沸消毒には貝殻を使っていたが、大きさに限りがあり、大量の水を一度に処理することはできなかった。


 湊の記憶に残っていたのは、粘土を焼くことで、硬く水を通さない器が作れるという、ごく基本的な原理だった。技法の細部については、ほとんど知識がなかったが、原理さえ示せば、あとは村の人々の手が、それを形にしてくれるはずだった。


 湊はまず、村の周辺で、粘土質の土を探すことから始めた。川の下流、水はけの悪い一帯で、湊は理想的な粘土層を見つけることができた。手に取ってこねてみると、しっとりとした粘り気があり、自由に形を変えられる。


 湊はイワに声をかけた。彫刻という形で、すでに造形の技術を磨いていたイワは、この新しい素材に、誰よりも強い関心を示した。


 最初の試みは、単純な椀の形を作ることから始まった。イワは粘土を手でこね、湊が身振りで示した「均一な厚みを保つ」というコツを意識しながら、丁寧に形を整えていった。


 問題は、それをどう焼くかだった。湊の記憶では、単に焚き火で炙るだけでは、十分な硬度は得られない。もっと高温で、長時間、安定して熱し続ける必要があった。


 ここで頼りになったのが、タギがすでに確立していた炉の技術だった。鉄の精錬で培われた高温維持の知見が、そのまま陶器作りにも応用できることに、湊とタギは同時に気づいた。


 タギは、粘土の器を焼くための、専用の窯を作ることを提案した。これまでの精錬炉とは異なり、器を均一に加熱するための、より閉鎖的な構造が必要になる。タギとドウが協力し、粘土と石を組み合わせた、簡素な窯が作られていった。


 最初の焼成は、失敗の連続だった。急激に温度を上げすぎて、器が割れてしまうことが何度もあった。湊は、ここで自分の記憶にあった、もう一つの断片的な知識を思い出した。粘土は、急激な温度変化に弱い。ゆっくりと温度を上げ、焼成後もゆっくりと冷ますことで、割れを防げるはずだ。


 この情報をもとに、タギは窯の焚き方を調整した。最初は弱火で長時間かけて温め、徐々に火力を上げていく。焼成後も、すぐに窯から取り出さず、内部が冷めるまで、じっくりと時間をかける。


 この改良により、ようやく、割れずに焼き上がる器が現れ始めた。イワが丹精込めて成形した椀が、硬く、赤みを帯びた色に焼き上がる様子を見て、村の人々から歓声が上がった。


 完成した陶器の椀に水を注いでも、木の器のように染み出すことはなかった。火にかけても、貝殻とは比較にならない耐久性を見せた。


 この成功を受けて、村では次々と、様々な形の陶器が作られるようになっていった。煮炊き用の大きな鍋、水を貯めておくための甕、食事に使う皿や椀。イワは造形の腕を存分に発揮し、次第に、単なる実用品を超えた、美しい装飾を施した器も作るようになっていった。


 湊はレポート用紙に、この一連の技術発展を書き記していった。


『粘土を用いた陶器作りに成功。タギの窯技術とイワの成形技術が組み合わさり、実用的な焼き物が完成』

『ゆっくりとした温度管理が、割れを防ぐ鍵。この知見は、次なる技術――レンガにも応用できるはずだ』


 書きながら、湊は次なる展望に思いを馳せていた。粘土を焼いて硬くするという原理は、器だけに留まるものではない。もっと大きな、建築用の資材――レンガへと発展させることができれば、村の住居や施設は、さらに一段階、堅牢なものになるはずだった。


 夕暮れ、湊は完成したばかりの陶器の甕を眺めながら、静かな満足感に浸っていた。骨の針、火起こし、そして今、粘土の器。一つ一つの技術が、着実に積み重なっていく様を、湊は改めて実感していた。


 だが、湊はまだ知らなかった。この技術の発展の先に、思いがけない試練が待ち受けていることを。


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【第21話 時点 文明発展状況】

人口:34人/漂着後 270日

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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中

02 食料・農業    ★★★★☆ 継続中

03 畜産・動物    ★★☆☆☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★☆☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★☆☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★★☆ 陶器の甕により大量の水貯蔵が可能に

07 医療・薬学    ★★☆☆☆ 継続中

08 住居・建築    ★★★★★ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★☆ 継続中

10 火・エネルギー  ★★★★☆ 窯技術の確立により温度管理が高度化

11 鉱業・金属    ★★★☆☆ 継続中

12 製造・工業    ★★★★★ 陶器製作技術を確立

13 科学・技術    ★★★★☆ 温度管理の経験則がさらに蓄積

14 言語・文字・出版 ★★★☆☆ 継続中

15 教育・研究    ★★★☆☆ 継続中

16 経済・商業    ☆☆☆☆☆ 未着手

17 政治・法律・行政 ★★★★☆ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★☆☆☆ 継続中

19 軍事・防災・治安 ★★★★☆ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★☆ イワの装飾陶器が新たな芸術表現に

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【新規記述書物】『土を焼く書・第一葉』(陶器製作技術の記録)

【次なる課題】レンガの開発、水車・炭焼き技術の発展】

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