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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第一部 生き延びる

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20/110

第20話「村長」

 大型恐竜の群れが去った翌日から、集落は新たな局面へと突入した。


 湊が描いた構想図をもとに、ドウを中心とした防御施設の建設が、集落総出で始まった。これまでの個別の技術発展とは違い、この事業は集落のほぼ全員を巻き込む、初めての大規模プロジェクトとなった。


 まず着手されたのは、堀だった。集落の外周を囲むように、幅と深さのある溝を掘る。ドウは、以前の水路建設で培った測量技術を応用し、集落全体の地形を考慮しながら、堀の経路を慎重に決定していった。


 掘削作業は困難を極めた。硬い岩盤に当たる場所では、タギが作った鉄製の道具――簡素なつるはしのようなものが、大きな威力を発揮した。石器だけでは何日もかかったであろう作業が、鉄の刃を持つ道具によって、格段に短縮されていった。


 堀の内側には、太い丸太を隙間なく打ち込んだ木柵が築かれていった。イワとドウの協力のもと、柵の高さは大人の背丈の二倍以上に達し、上部には見張りのための足場も設けられた。


 湊は、この一連の建設作業を見守りながら、改めて実感していた。半年前、自分一人では釣り針一本作るのにも苦労していたのが、今では、これほど大規模な土木事業が、集落の人々自身の手によって進められている。


 建設と並行して、湊はもう一つの重要な課題――上水と下水の分離にも取り組んでいた。


 これまで集落の水源は、あの疫病騒動の教訓から、上流の澄んだ川から取水するよう改められていた。だが、排泄物や生活排水の処理については、まだ十分な仕組みが整っていなかった。人口が増えるにつれ、この問題は放置できないものになりつつあった。


 湊は、集落の下流側に、生活排水を集めて流すための、専用の溝を設けることを提案した。飲料水を汲む場所と、排水を流す場所を、物理的に明確に分離する。単純だが、疫病の再発を防ぐ上で、決定的に重要な工夫だった。


 ドウはこの提案を受け、堀の建設と並行して、集落内に排水路を整備していった。飲料用の水路は集落の上流側に、排水路は下流側に、明確に分けて配置される。この配置により、汚水が飲料水に混入する危険性は、大幅に減少することになった。


 防御施設と上下水の整備は、およそ一ヶ月をかけて、ほぼ完成の域に達した。集落の外周には、堀と高い木柵が巡らされ、内部には、明確に分離された上水と下水の系統が整えられた。


 完成を祝う日、集落の広場――今や本格的な集会所となったその場所に、全住民が集まった。ガル、シラ、ドウ、タギ、ミオ、ナギ、ケイ、イワ、そしてオルガ。八人の協力者と、彼らの家族、そして集落の全員が、この日の完成を喜び合った。


 その席で、集落の年長者の一人――ケイが、湊の前に進み出た。ケイは、これまでの湊の働きを、身振りと、覚えたての単語を交えて語り始めた。骨の針から始まり、火の技術、水の知恵、農業、家畜、鍛冶、建築、そして今回の防御施設。数々の発展の礎に、常に湊の存在があったことを、ケイは丁寧に、しかし確かな言葉で紡いでいった。


 やがて、ケイは湊に向かって、この集落を率いる者としての地位を、正式に認める意を示した。周囲の人々も、次々とそれに賛同する声を上げた。


 湊は戸惑った。自分は、何かを命令したわけでも、力で従えたわけでもない。ただ、知っていることを伝え、実演し、託しただけだ。実際に手を動かし、技術を発展させ、この集落を作り上げてきたのは、ガルたちであり、集落の人々自身だった。


 それでも、人々の眼差しは、揺るがなかった。湊は、この場でその期待を拒むことが、かえって不自然であることを悟った。


 湊はゆっくりと頷いた。それは、権力を欲する者の頷きではなかった。これから先も、この集落と共に歩み、知恵を分かち合い続けるという、静かな決意の表れだった。


 オルガが、杖を掲げた。かつて湊を最も強く拒絶していた彼女が、今、この場で、湊の立場を認める側に回っている。その事実は、湊にとって、何よりも重い意味を持っていた。


 その夜、湊はレポート用紙に、これまでで最も長い一節を書き記した。


『堀と木柵、上水・下水の分離が完成。集落は防御と衛生の両面で、新たな段階に到達した』

『集落の人々により、村長としての立場を託される。これは権力ではなく、責務だと理解している』

『実務は、これからも彼らに任せる。自分の役目は、書き、伝え、託すことに変わりない』


 書き終えた湊は、紙を閉じ、夜空を見上げた。満天の星の下、堀と柵に守られた集落が、静かに眠りについていた。


 骨の針一本から始まった半年余りの日々。それは今、確かに「村」と呼べるものへと結実していた。だが、湊はまだ知らなかった。この村が、これからさらに大きく育っていく先に、どれほどの試練と、どれほどの喜びが待ち受けているのかを。


 湊は、深く息を吸い込んだ。夜風に、これまでとは違う、確かな安堵の匂いが混じっているように感じられた。


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【第20話 時点 文明発展状況】

人口:33人/漂着後 250日

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01 生存・サバイバル ★★★★★ 堀・木柵による恒久的防御が完成

02 食料・農業    ★★★★☆ 継続中

03 畜産・動物    ★★☆☆☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★☆☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★☆☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★★☆ 上水・下水の分離が完成

07 医療・薬学    ★★☆☆☆ 継続中

08 住居・建築    ★★★★★ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★☆ 堀・木柵・排水路の一大事業が完遂

10 火・エネルギー  ★★★★☆ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★☆☆ 鉄製工具が土木事業の効率化に貢献

12 製造・工業    ★★★★☆ 継続中

13 科学・技術    ★★★☆☆ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★☆☆ 継続中

15 教育・研究    ★★★☆☆ 継続中

16 経済・商業    ☆☆☆☆☆ 未着手

17 政治・法律・行政 ★★★★☆ 湊、正式に村長として認められる

18 外交・交通・情報 ★★☆☆☆ 継続中

19 軍事・防災・治安 ★★★★☆ 防御施設の完成により治安基盤が確立

20 文化・娯楽・思想 ★★★★☆ 村の完成を祝う集いが開催される

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【新規記述書物】『村を守る書・完』(堀・木柵・上下水整備の総合記録)

【次なる課題】陶器・レンガ技術の獲得、大きな村への発展、第9章「焼く」へ

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