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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第一部 生き延びる

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19/102

第19話「地響きの夜」

 集会所が完成してから半月ほど経った、ある夜のことだった。


 湊は、遠くから伝わる、これまでとは明らかに質の違う地響きに目を覚ました。単発的な足音ではない。規則的で、しかも複数の重なり合った振動が、地面を通じて確かに伝わってくる。


 湊は飛び起きると、外の様子をうかがった。すでに、集落の何人かも異変に気づき、外に出てきていた。ガルもその一人だった。彼は険しい表情で、地響きの方角――集落の水源に近い平原の方を見つめていた。


 ガルは身振りで、湊にこう伝えた。大きな群れが、こちらに向かってきている、と。


 湊の脳裏に、以前見た竜脚類の姿がよぎった。だが、あの時と違うのは、その規模だった。地響きの強さから察するに、これまで目にしてきたどの個体よりも、はるかに多い数の生き物が、集団で移動している。


 湊はすぐに、集落中に警戒を呼びかける必要があると判断した。だが、まだこの集落には、緊急時に人々を集めるための明確な仕組みがなかった。


 ガルが取った行動は、迅速だった。彼は太い木の棒を手に取ると、集落の中央にある、以前から緊急時の合図に使われてきたらしい、中を空洞にした太い丸太――簡素な太鼓のようなものを、力強く叩き始めた。


 ドン、ドン、ドン、という重い音が、夜の闇に響き渡った。この音を合図に、集落の人々が次々と目を覚まし、家々から飛び出してくる。


 湊は、地響きの方角を見つめながら、必死に頭を働かせていた。今、自分たちにできることは何か。


 まず思い浮かんだのは、火だった。多くの動物は、火を恐れる本能を持っている。恐竜がその例に当てはまるかどうか、確証はなかったが、試す価値は十分にあった。


 湊は身振りで、タギとガルに、集落の周囲――特に地響きが近づいてくる方角に、大きな焚き火をいくつも並べて作るよう伝えた。二人はすぐに指示を理解し、集落中の人々に呼びかけて、急ぎ薪を集め始めた。


 同時に、湊はドウとイワに、木柵の応急的な補強を頼んだ。これまで、集落の周囲には、簡素な木の柵が部分的に設けられていたが、大型の生物の突進に耐えられるほどの強度は、期待できなかった。それでも、何もないよりはましだった。ドウたちは、太い丸太を急いで柵に打ち込み、少しでも強度を高めようと奮闘した。


 地響きは、刻一刻と強さを増していった。湊は集落の外れに立ち、闇の向こうを凝視した。やがて、月明かりの中に、巨大な影の群れが姿を現し始めた。


 それは、湊がこれまで見たどの恐竜よりも、明らかに大きな体躯を持つ、竜脚類の群れだった。数頭どころではない。十頭、いや、それ以上――暗闇の中で正確な数を数えることは難しかったが、その規模は、集落にとって圧倒的な脅威だった。


 群れは、水を求めて移動しているようだった。その進路が、たまたま集落の近くを通っていた。彼らに、集落を襲う意図があるわけではない。だが、あの巨体が無秩序に踏み荒らせば、どれほどの被害が出るか、想像に難くなかった。


 湊たちが並べた焚き火の炎が、次々と灯っていった。オレンジ色の光の列が、集落の外周に沿って広がっていく。


 群れの先頭を歩いていた個体が、その炎の存在に気づいたのか、わずかに歩みを緩めた。湊は息を詰めて、その反応を見守った。


 巨大な頭部が、炎のほうへと向けられる。しばらくの沈黙。それから、その個体は、ゆっくりと進路を変え始めた。炎を避けるように、集落を迂回する形で、群れ全体が方向を変えていく。


 湊は、詰めていた息を、大きく吐き出した。


 群れは、そのまま集落を大きく回り込むようにして、遠ざかっていった。地響きは徐々に小さくなり、やがて夜の静寂が戻ってきた。


 集落の人々の間に、安堵の空気が広がった。誰からともなく、歓声にも似た声が上がる。だが、湊の胸には、安堵と同時に、新たな緊張感が残っていた。


 今夜は、火が功を奏した。だが、これが常に通用する保証はない。もっと確実な、恒久的な防御の仕組みが必要だ。


 湊はレポート用紙に、震える手で今夜の出来事を書き記した。


『大型竜脚類の群れが集落近くを通過。火による威嚇で被害を回避』

『火は有効だが、絶対的な対策ではない。堀と壁による恒久的な防御が急務』


 書きながら、湊は改めて、この世界の厳しさを実感していた。どれだけ文明を発展させても、この時代特有の脅威――巨大な生物たちの存在は、常に集落の傍らにあり続ける。


 夜明け前、湊はドウのもとを訪れた。まだ興奮冷めやらぬ様子のドウに、湊は地面に新たな図を描いて見せた。集落を囲む堀と、その内側に築かれる高い木柵。防御施設の構想図だった。


 ドウは、その図をじっと見つめ、静かに頷いた。今夜の経験が、何よりの説得材料になっていた。


 東の空が白み始めていた。湊は疲労を感じながらも、次なる大仕事――集落を守るための本格的な防御施設の建設に向けて、すでに頭を巡らせ始めていた。


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【第19話 時点 文明発展状況】

人口:33人(集落含む)/漂着後 220日

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01 生存・サバイバル ★★★★☆ 大型恐竜群への対応を経験、危機管理体制の必要性を痛感

02 食料・農業    ★★★★☆ 継続中

03 畜産・動物    ★★☆☆☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★☆☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★☆☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★☆☆ 継続中

07 医療・薬学    ★★☆☆☆ 継続中

08 住居・建築    ★★★★★ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★☆☆ 堀・木柵の本格建設構想が始動

10 火・エネルギー  ★★★★☆ 威嚇用途としての火の有効性を実証

11 鉱業・金属    ★★★☆☆ 継続中

12 製造・工業    ★★★★☆ 継続中

13 科学・技術    ★★★☆☆ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★☆☆ 継続中

15 教育・研究    ★★★☆☆ 継続中

16 経済・商業    ☆☆☆☆☆ 未着手

17 政治・法律・行政 ★★★☆☆ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★☆☆☆ 継続中

19 軍事・防災・治安 ★★★☆☆ 緊急招集の仕組み(丸太太鼓)が確立

20 文化・娯楽・思想 ★★★★☆ 継続中

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【新規記述書物】なし(緊急対応が中心、記録は事後に集約)

【次なる課題】堀・木柵による恒久的防御施設の建設、上水・下水の分離整備

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