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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第一部 生き延びる

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第2話「唸り声の正体」

白亜のノートがゲームなった。


https://itanaka66.github.io/Hakua-note/hakua_simulation.html

 朝は、鳥の声ではなく、地響きで始まった。


 湊は倒木の窪みの中で目を覚ました。全身がこわばっていた。寝袋も毛布もない一夜だったのだから当然だ。だが、生きている。それだけで、昨夜感じた恐怖の何割かは薄れていた。


 窪みから顔を出すと、朝靄の向こうに、昨日より近くで地面が揺れているのがわかった。ドッ、ドッ、という重低音が、等間隔で伝わってくる。


 湊は音を立てないよう、倒木の陰から目だけを出して様子をうかがった。


 最初に見えたのは、脚だった。木の幹ほどもある太い脚が、視界の端をゆっくりと横切っていく。見上げると、首の長い、途方もなく巨大な体が、シダの林の上に頭を突き出していた。教科書で見た「竜脚類」――ブラキオサウルスかディプロドクスか、湊にはその区別すらつかなかったが、それが何を意味するかだけはわかった。


 ――本物だ。本当に、恐竜時代に来た。


 膝が震えたが、幸い、その巨体は湊のいる方向には興味を示さなかった。ゆったりとした足取りで、木々の葉を食みながら遠ざかっていく。草食恐竜だ。少なくとも今は、命の危険はない。


 湊は詰めていた息を吐き出した。


 昨夜、優先順位の三番目に置いた「水」の確保に取りかかる時間だった。雨水受けにした上着には、わずかだが水が溜まっていた。だが、これだけでは足りない。もっと確実な水源が必要だ。


 湊は地形の低いほうへ向かって歩き出した。水は低いところに集まる――これは理科の授業というより、単純な経験則だった。シダの茂みをかき分けながら十分ほど進むと、木々の切れ目から光が差し込み、緩やかな水の流れる音が聞こえてきた。


 川だった。


 幅は十メートルほど。流れは思ったより速く、水は澄んでいる。湊はその場にしゃがみこみ、両手ですくって匂いを確かめた。無臭に近い。だが――


「煮沸しないと、飲んじゃダメだ」


 声に出してつぶやいた。誰もいない場所で独り言を言うのは奇妙だったが、声を出すことで、自分がまだ「考えられている」ことを確認したかった。川や湧き水には目に見えない細菌がいる。母親が食中毒で寝込んだときに調べた知識が、こんな場所で役に立つとは思わなかった。


 問題は、火だ。


 火がなければ煮沸はできない。火があれば、体温も維持できるし、夜の獣除けにもなる。湊にとって、今日一番の課題はこれだった。


 湊はシャープペンシルの芯を思い浮かべたが、すぐに無意味だと気づいた。あれは火を熾す道具ではない。必要なのは、乾いた枝と、摩擦だ。


 湊は川岸を歩きながら、乾燥した細い枝を探した。運のいいことに、昨夜の雨がやんでからしばらく経っており、日当たりのいい岩の上に転がっていた枝は表面が乾いていた。松ヤニのようなべたつきのある樹脂を出す木も見つけた。これは火種として使えるはずだ。


 湊は防災イベントで実演を見せてもらった「弓ぎり式」の火起こしを思い出そうとした。柔らかい板に窪みを作り、そこに硬い棒を立てて、弓のように張った紐で棒を高速回転させる。摩擦熱で木くずが発火する仕組みだ。


 だが、紐になるようなものがない。植物の蔓――これも講師が言っていた。ツル植物の繊維を裂けば、簡易的な紐になる。


 湊は周囲を見回し、木に絡みついている細い蔓を見つけると、力任せに引きちぎった。繊維は思ったより丈夫で、何度か捻ると簡素な紐状になった。


 板と棒を組み合わせ、湊は蔓の紐を棒に一巻きし、弓のように構えた木の枝で往復させる。腕を動かすたびに、棒が回転し、板との接触面から白い煙が上がり始めた。


 ――煙が出た。あと少しだ。


 腕が痛み、汗が噴き出す。それでも湊は止めなかった。三分、三時間、三日、三週間――その優先順位の中で、火は複数の項目にまたがる万能の解決策だと、講師は言っていた。暖を取り、水を消毒し、獣を遠ざけ、いずれは救助の合図にもなる。


 板の窪みに溜まった木くずが、ついに赤く色づいた。湊は震える手で、乾いた枯れ草の塊にその火種をそっと移し、顔を近づけて息を吹きかけた。


 一度目は消えかけた。二度目、三度目。四度目でようやく、小さな炎が枯れ草の中から立ち上がった。


 湊は思わず声を上げた。


「ついた……!」


 誰に聞かせるでもない歓声だった。それでも、その瞬間だけは、恐竜時代に一人取り残された恐怖よりも、火を熾せたという確かな達成感のほうが勝っていた。


 湊は慎重に枝をくべ、火を育てながら、その場に手頃な石を見つけて水を汲むための容器を探した。土器などあるはずもない。だが、大きめの貝殻のようなものが川岸に落ちているのを見つけ、それを代用することにした。


 貝殻に水を汲み、火のそばに置く。しばらくすると、表面から小さな泡が立ち始めた。


 沸騰した水を冷ましている間、湊はレポート用紙を取り出し、昨日の走り書きの下に、今日学んだことを書き足した。


『火の熾し方:乾いた枝+蔓の紐+摩擦。松ヤニ入りの木は火種に良い』

『水は川の低地で見つかる。飲む前に必ず沸かす』


 書きながら、湊はふと気づいた。


 ――これ、誰かに教えたら、役に立つんじゃないか。


 昨日の唸り声の正体――あの巨大な竜脚類の足音――は、恐怖の対象ではなく、この世界がどれほど広く、そして自分がどれほど小さいかを教えてくれただけだった。だが同時に、湊の中に小さな確信が生まれつつあった。


 自分は、この世界で戦う力も、狩る力もない。だが、知っていることを、忘れないうちに書き残すことはできる。


 冷めた水を口に含む。土っぽい味がしたが、確かな安堵があった。


 湊は火のそばに座り込み、初めて空腹を強く意識した。三週間の壁にはまだ遠いが、いずれ食料を探さねばならない。だが今日のところは、火と水を得られただけで十分だった。


 遠くで、また別の唸り声が響いた。今度のものは、さっきの竜脚類よりも甲高く、鋭い。


 湊は火のそばに身を寄せ、闇が完全に落ちる前に、もう一本、太い薪をくべた。


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【第2話 時点 文明発展状況】

人口:1人/漂着後 1日

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01 生存・サバイバル ★★☆☆☆ 火の確保に成功、水の煮沸を実施

02 食料・農業    ☆☆☆☆☆ 未着手

03 畜産・動物    ☆☆☆☆☆ 未着手

04 漁業・水産    ☆☆☆☆☆ 未着手

05 狩猟・採集    ☆☆☆☆☆ 未着手

06 水・衛生     ★☆☆☆☆ 川水の煮沸消毒を開始

07 医療・薬学    ☆☆☆☆☆ 未着手

08 住居・建築    ★☆☆☆☆ 倒木の窪みを継続利用

09 土木・インフラ  ☆☆☆☆☆ 未着手

10 火・エネルギー  ★☆☆☆☆ 弓ぎり式火熾しに成功

11 鉱業・金属    ☆☆☆☆☆ 未着手

12 製造・工業    ☆☆☆☆☆ 貝殻を容器として代用

13 科学・技術    ☆☆☆☆☆ 未着手

14 言語・文字・出版 ★☆☆☆☆ 生存知識の記録を継続

15 教育・研究    ☆☆☆☆☆ 未着手

16 経済・商業    ☆☆☆☆☆ 未着手

17 政治・法律・行政 ☆☆☆☆☆ 未着手

18 外交・交通・情報 ☆☆☆☆☆ 未着手

19 軍事・防災・治安 ☆☆☆☆☆ 未着手

20 文化・娯楽・思想 ☆☆☆☆☆ 未着手

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【新規記述書物】なし(レポート用紙への記録を継続中)

【次なる課題】食料の確保(釣り具の作成)、安定した住居の検討

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