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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第一部 生き延びる

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第3話「骨の針、蔓の糸」

 火を熾してから三日が経った。


 湊はその間、貝殻の容器で川の水を煮沸し続け、脱水症状だけは免れていた。だが空腹はもう限界に近づいている。三週間という数字が、頭の中で赤いランプのように点滅していた。


 ――まだ余裕はあるはずだ。でも、余裕があるうちに動かないと。


 湊は火を落とさないよう灰をかぶせてから、川岸に沿って歩き始めた。目的は一つ、食料だ。


 果実や木の実を探すという選択肢もあった。だが湊にはその知識がほとんどない。どれが食べられて、どれが毒なのか、判別する自信がなかった。うかつに口にして中毒を起こせば、それこそ命取りだ。


 一方、魚は違う。焼けば安全性が上がるし、なにより――


「釣りなら、テレビで観たことがある」


 夏休みに父と行った渓流釣り。あのとき父が「もし遭難したら」と冗談交じりに教えてくれた即席の釣り針の作り方を、湊は今、必死に思い出そうとしていた。


 釣り針に必要なのは、硬くて、曲げられて、先端が鋭いもの。金属などあるはずもない。だが、代用品には心当たりがあった。


 湊は川岸を歩きながら、獣の骨が落ちていないか探した。何か大型の動物が食べ残した跡だろうか、白く乾いた骨の欠片をいくつか見つけることができた。


 骨を拾い上げ、湊は平らな石の上に置くと、別の尖った石で少しずつ削り始めた。焦らず、丁寧に。折れたら意味がない。骨の欠片を、ゆるいJの字――釣り針の形に整えていく。


 根気のいる作業だった。何度も骨が欠けたり、思った形にならなかったりした。三本目でようやく、それらしい形の針ができあがった。先端は完全に鋭くはないが、これで十分だろうと湊は判断した。


 次は糸だ。


 湊は火起こしのときに使った蔓を思い出し、川辺に絡みつく別の蔓植物を探した。細く、しなやかで、簡単には切れないもの。何種類か試し、指で裂いて繊維状にできるものを見つけると、それを裂いて縒り合わせ、細い糸状にしていく。


 おもりには、手頃な重さの小石を選んだ。糸の先端近くに、蔓の切れ端で縛りつける。


 最後に、竿。湊はまだ竿を使う技術に自信がなかった。父の話では、最初は竿を使わず、糸を直接指で持って、魚が食いついた感覚アタリを指先で感じ取る「ハンドフック」という方法があるらしい。慣れないうちはそのほうが確実だと。


 湊は骨の針に糸を結びつけ、エサを探した。石をいくつかひっくり返すと、湿った石の裏に小さな虫が隠れているのを見つけた。気持ち悪さを堪えて、それを針に刺す。


 川の流れが緩やかな淀みを、湊は見つけていた。岩の影になっている場所だ。ここなら魚が隠れているかもしれない。


 湊はその場にしゃがみ込み、糸をそっと水中に垂らした。指先に糸を巻きつけ、わずかな振動も逃さないよう神経を集中させる。


 時間が過ぎていく。何も起きない。


 ――こんなんで釣れるのか。


 不安がよぎったが、湊は動かなかった。じっと待つことも、サバイバルの一部だと自分に言い聞かせた。


 十五分ほど経ったころ、指先に小さな引っ張りを感じた。湊は反射的に手首を返し、糸を引き上げた。


 小さな銀色の魚が、針にかかって跳ねていた。


 湊は思わず声を上げそうになったが、慌てて口を押さえた。ここがどんな危険な生き物がいるかわからない世界だということを、忘れかけていた。


 それでも、手の中で跳ねる魚の重みは、この三日間で一番確かな希望だった。


 湊は魚を持って火のあるところへ急いだ。灰をかき分けると、まだ熾火が残っていた。枝をくべて火を起こし直し、木の枝に魚を刺して炙り始める。


 焼ける匂いが、湊の空腹を一気に呼び覚ました。表面が焦げ、脂が滴り落ちる。もう我慢できないというところで、湊は熱さに顔をしかめながら、その身を一口かじった。


 味付けなどない。ただ焼いただけの魚。だが、湊にとってそれは、これまで食べたどんな料理よりも美味しかった。


 食べ終えた湊は、満足感と共に少しの余裕を取り戻した。その余裕が、次の考えを生んだ。


 ――もっと効率よく釣れないか。


 湊はレポート用紙を取り出し、今日作った釣り針の図を描いた。骨の形状、糸の結び方、おもりの位置。父から聞いた話の断片を、思い出せる限り書き足していく。


『釣り針=骨の欠片を削る。糸=蔓の繊維。おもり=小石。エサ=石の裏の虫』

『慣れないうちは竿を使わず、指で直接アタリを感じる』


 書きながら、湊はふと、明日は竿を作ってみようと思った。竿があれば、複数の場所を同時に狙えるかもしれない。それに、淀みだけでなく、もっと魚影の濃い場所を探す価値もありそうだった。


 日が傾き始めた。湊は骨の針を無くさないよう、シャツの袖に小さな布切れで包んで結びつけた。今日得た道具は、明日への財産だ。


 火のそばに座り、湊は空を見上げた。今日一日で、自分がほんの少しだけ、この世界で生きる術を掴んだ気がした。


 だが同時に、この生活がいつまで続くのかという不安も、消えることはなかった。


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【第3話 時点 文明発展状況】

人口:1人/漂着後 3日

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01 生存・サバイバル ★★☆☆☆ 火・水・食料の基礎ラインを確保

02 食料・農業    ☆☆☆☆☆ 未着手

03 畜産・動物    ☆☆☆☆☆ 未着手

04 漁業・水産    ★☆☆☆☆ 骨針・蔓糸によるハンドフック釣りに成功

05 狩猟・採集    ☆☆☆☆☆ 未着手

06 水・衛生     ★☆☆☆☆ 煮沸消毒を継続中

07 医療・薬学    ☆☆☆☆☆ 未着手

08 住居・建築    ★☆☆☆☆ 倒木の窪みを継続利用

09 土木・インフラ  ☆☆☆☆☆ 未着手

10 火・エネルギー  ★☆☆☆☆ 熾火の管理を開始

11 鉱業・金属    ☆☆☆☆☆ 未着手

12 製造・工業    ★☆☆☆☆ 骨製釣り針、貝殻容器を製作

13 科学・技術    ☆☆☆☆☆ 未着手

14 言語・文字・出版 ★☆☆☆☆ 釣り具作成法を記録

15 教育・研究    ☆☆☆☆☆ 未着手

16 経済・商業    ☆☆☆☆☆ 未着手

17 政治・法律・行政 ☆☆☆☆☆ 未着手

18 外交・交通・情報 ☆☆☆☆☆ 未着手

19 軍事・防災・治安 ☆☆☆☆☆ 未着手

20 文化・娯楽・思想 ☆☆☆☆☆ 未着手

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【新規記述書物】なし(釣り具作成の記録を継続中)

【次なる課題】釣り竿の製作、より安定した住居の構築

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