↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第一部 生き延びる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/110

第13話「最初の絆」

 水路の完成から十日ほど経ったある日、湊はガルと共に、森の外れを歩いていた。


 目的は、農業に次ぐ新たな課題――家畜化だった。狩猟や漁労、そして農業によって食料事情は着実に改善しつつあったが、それでも天候や季節に左右されるという根本的な不安定さは残っていた。安定した動物性の食料源を確保できれば、集落の生活はさらに一段、盤石なものになるはずだった。


 湊が真っ先に思い描いたのは、犬だった。番犬として、また狩猟の相棒として、人間の生活に深く根付いてきた動物だ。もっとも、この時代にどんな動物がその役割を担い得るのか、湊には確信がなかった。恐竜時代に、現代でいうイヌ科の哺乳類が存在するのかどうかさえ、わからなかったからだ。


 だが、ガルの案内で森の奥へ進むうちに、湊は思いがけない光景に出会った。小柄な、犬に似た体格の哺乳類の群れが、茂みの中で獲物の残骸を漁っていたのだ。体長は現代の中型犬ほど、耳が立ち、鋭い牙を持つが、動きには奇妙な人懐っこさが見え隠れしていた。


 ガルは、この生き物を以前から見知っているようだった。身振りから察するに、時折、集落の残飯を漁りにくる個体がいるらしい。追い払うでもなく、かといって積極的に関わるでもない、微妙な距離感で共存してきたようだった。


 湊は、ここに可能性を見出した。


 現代の犬も、元をたどれば、人間の生活圏に近づいてきた野生の獣が、長い年月をかけて家畜化されたものだと聞いたことがある。ならば、この生き物もまた、同じ道をたどれるかもしれない。


 湊はガルに、身振りでこう伝えようとした。追い払うのではなく、餌を与えて手懐けてみてはどうか、と。


 ガルは最初、懐疑的な表情を見せた。野生動物を手懐けるという発想自体、彼の文化にはなかったのかもしれない。それでも、湊のこれまでの実績――疫病への対応、水路の成功――が、彼にある種の信頼を築かせていた。ガルは渋々ながらも、試してみることに同意した。


 その日から、湊とガルは、集落の残飯を少しずつ、森の外れの決まった場所に置くようにした。最初のうちは、動物たちは警戒して近づいてこなかった。だが数日後、勇気のある一頭が、恐る恐る餌に近づき始めた。


 湊はこの過程を、根気強く見守った。急いで手懐けようとすれば、かえって警戒心を強めてしまう。時間をかけ、少しずつ距離を縮めていくことが重要だった。


 二週間ほどが過ぎた頃、一頭の若い個体が、ついに人間の手から直接餌を受け取るまでになった。湊はその個体に、日本語で「クロ」という名をつけた。ガルもまた、自分の言葉でその個体を呼ぶようになっていた。


 クロは、次第に集落の近くに姿を見せるようになった。最初は餌を求めてだけだったが、やがて、子供たちが遊んでいる場所の近くをうろつくようになり、見知らぬ動物や物音に対して、警戒するような素振りを見せるようになっていった。


 これは、湊が期待していた展開そのものだった。番犬としての本能――あるいはその萌芽が、確かにこの生き物の中に芽生えつつあった。


 犬の手懐けと並行して、湊はミオと共に、別の家畜化にも取り組み始めていた。畑を荒らしに来る小型の草食動物――現代でいう豚に近い体格と習性を持つ生き物を、囲いを作って飼育する試みだ。ドウが手早く組んだ木の柵の中に、幼い個体を数頭捕らえて入れ、餌を与えながら様子を見る。


 鶏に相当する存在としては、木の実や虫を主食とする、飛べない小型の羽毛恐竜――現代の鳥類の遠い祖先にあたるような生き物に目をつけた。ガルが数羽を生け捕りにし、これも同様に囲いの中で飼育を試みることになった。


 すべてが順調というわけではなかった。豚に見立てた動物は、初めのうち柵を破って逃げ出すことが何度もあった。羽毛恐竜のほうは、環境の変化にストレスを感じたのか、体調を崩す個体も出た。シラが薬草の知識を駆使して、なんとか回復させることができたが、家畜化の道のりが決して平坦ではないことを、湊たちは思い知らされた。


 それでも、少しずつ、成果は積み上がっていった。豚の柵は補強を重ねるうちに逃走が減り、羽毛恐竜も、環境に慣れた個体から順に、安定して卵を産むようになっていった。


 湊はレポート用紙に、この一連の過程を丁寧に書き記していった。


『犬に似た小型哺乳類の家畜化に着手。餌付けから信頼構築まで、根気強い時間が必要』

『豚・鶏に相当する動物の飼育も並行して開始。逃走・体調不良などの失敗を経て、徐々に安定』

『家畜は一朝一夕には育たない。継続的な観察と改善が不可欠』


 書きながら、湊はふと、クロが自分の足元にすり寄ってくる感触を思い出していた。人間と動物との間に、初めて確かな絆が生まれた瞬間。それは、湊がこの世界に来てから経験した、また一つの小さな、しかし確かな成功だった。


 夕暮れ、湊は柵の中で餌を食む豚たちと、木陰で羽を休める羽毛恐竜たちを眺めながら、静かな満足感を覚えていた。狩猟や漁労のように、その日その日で結果が変わる不安定さとは違う、じっくりと育て、積み上げていく種類の豊かさが、そこにはあった。


 クロが湊の足元に座り込み、小さく喉を鳴らした。湊はその頭を、そっと撫でた。


---


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【第13話 時点 文明発展状況】

人口:31人(集落含む)/漂着後 75日

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

01 生存・サバイバル ★★★☆☆ 継続中

02 食料・農業    ★★★☆☆ 継続中

03 畜産・動物    ★★☆☆☆ 犬・豚・鶏相当の動物の家畜化に着手、初期成果あり

04 漁業・水産    ★★☆☆☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★☆☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★☆☆ 継続中

07 医療・薬学    ★★☆☆☆ 家畜の体調管理にもシラの知識が活用され始める

08 住居・建築    ★★☆☆☆ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★☆☆ 継続中

10 火・エネルギー  ★★☆☆☆ 継続中

11 鉱業・金属    ★☆☆☆☆ 継続中

12 製造・工業    ★★☆☆☆ 柵の製作技術が向上

13 科学・技術    ★★☆☆☆ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★☆☆ 継続中

15 教育・研究    ★☆☆☆☆ 継続中

16 経済・商業    ☆☆☆☆☆ 未着手

17 政治・法律・行政 ★★☆☆☆ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★☆☆☆ 継続中

19 軍事・防災・治安 ★☆☆☆☆ 犬に似た動物が番犬としての役割の萌芽を見せる

20 文化・娯楽・思想 ★★★☆☆ 人と動物の絆という新たな情緒的価値が芽生える

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【新規記述書物】『獣を飼う書・第一葉』(家畜化の過程記録)

【次なる課題】保存食の技術確立、輪作の実践による連作障害対策の検証

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。