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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第一部 生き延びる

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14/106

第14話「初めての収穫、そして焦げた失敗」

 家畜化の試みが軌道に乗り始めた頃、集落の畑では、ミオが蒔いた種が、ついに実りの時を迎えようとしていた。


 最初に収穫を迎えたのは、比較的育成期間の短い豆類だった。ミオは毎日のように畑に通い、莢の膨らみ具合を確認していた。湊もまた、収穫のタイミングを見極める目安――莢が乾いて色づき始める頃合い――を、記憶を頼りに伝えていた。


 収穫の日、集落中の人々が畑に集まった。これまでの狩猟や漁労の獲物とは違う、自分たちの手で「育てた」食料を目にするのは、集落の誰にとっても初めての経験だった。


 ミオが最初の一莢をもぎ取り、それを高く掲げてみせると、周囲から歓声が上がった。豆の粒は、決して大きくはなかったが、確かにそこにあった。人間の意志と手によって、土から生み出された食料。それは、狩りや採集とは根本的に異なる種類の豊かさを、集落にもたらすものだった。


 収穫はその日一日、集落総出の作業となった。豆だけでなく、根菜や葉物も、順調に育っているものから順に取り入れられていった。


 だが、湊の頭には、収穫の喜びと同時に、次なる課題が浮かんでいた。保存だ。


 これだけ大量の作物を、一度に食べきることはできない。かといって、放置すれば、やがて腐ってしまう。安定した食料供給を実現するには、収穫した作物を、長期間保存できる形に加工する技術が不可欠だった。


 湊は、乾燥という手法に着目した。天日で水分を飛ばすことで、多くの食料は保存性を大幅に高めることができる。豆類は特にこの方法との相性が良かった。


 湊は集落の広場に、平らな石や編んだ枝を並べ、その上に収穫した豆や根菜の一部を薄く広げて乾燥させる工夫を、身振りで示した。数日おきに天地を返し、カビが生えないよう注意を払う必要があることも、実演を交えて伝えた。


 もう一つ、湊が試みたのが、燻製だった。これは主に、ガルたちが狩猟や漁労で得た肉や魚に応用する技術だ。塩がまだ十分に確保できていない状況では、燻煙による保存効果は、貴重な選択肢だった。


 湊はナギと協力し、簡易的な燻製小屋を作ることにした。木の枝を組んで骨組みを作り、獣の皮で覆いを作る。中で燻す木材には、煙の匂いが強すぎず、かつ十分な煙を出す種類を選ぶ必要があったが、これはガルの経験則に頼ることになった。


 最初の燻製作りは、正直なところ、散々な結果に終わった。火加減の調整に失敗し、煙ではなく炎が上がってしまい、貴重な魚の一部を黒焦げにしてしまったのだ。湊は肩を落としたが、ナギはむしろ興味深そうに、失敗した燻製小屋の様子を観察していた。


 二度目の挑戦では、ナギの提案で、火床と食材との距離をもう少し離す工夫が加えられた。三度目には、湿らせた木の葉を焚き火にかぶせることで、煙の量を調整する方法が編み出された。試行錯誤の末、ようやく安定した燻製が作れるようになったのは、それから五日ほど経ってからのことだった。


 できあがった燻製肉を口にしたとき、集落の人々からは、これまでとは違う驚きの声が上がった。生や単純な焼き物とは違う、独特の風味と、日持ちする食感。これは、単なる保存技術以上の、新たな「味」の発見でもあった。


 湊はレポート用紙に、この一連の試行錯誤を記録していった。


『初めての収穫を迎える。豆・根菜を天日干しで保存する技術を導入』

『燻製作りは失敗を重ねたが、ナギの工夫で安定化に成功。保存と同時に新たな食文化が生まれつつある』


 書きながら、湊は改めて実感していた。自分が伝えられるのは、あくまで「大まかな原理」でしかない。実際にそれを形にし、失敗を乗り越えて完成させていくのは、この世界に生きる人々自身の創意工夫だった。


 燻製小屋の失敗と成功を経て、ナギはこの技術に強い自信を持つようになった様子だった。今では、湊が何も言わなくても、自分なりの工夫を加えながら、燻製作りに取り組むようになっていた。


 それは、湊にとって、何よりも喜ばしい変化だった。知識が伝わり、それが誰かの手によって独自に発展していく。その連鎖こそが、湊の目指す文明の形だったからだ。


 夜、湊は乾燥中の豆や、燻製された肉が並ぶ広場を眺めながら、静かな充実感に包まれていた。冬が来ても、この蓄えがあれば、集落は飢えることなく乗り越えられるかもしれない。


 そんな希望が、湊の胸に、確かに芽生え始めていた。


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【第14話 時点 文明発展状況】

人口:31人(集落含む)/漂着後 95日

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01 生存・サバイバル ★★★☆☆ 継続中

02 食料・農業    ★★★★☆ 初収穫を達成、天日干しによる保存技術を導入

03 畜産・動物    ★★☆☆☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★☆☆ 燻製技術との連携で保存性が向上

05 狩猟・採集    ★★☆☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★☆☆ 継続中

07 医療・薬学    ★★☆☆☆ 継続中

08 住居・建築    ★★☆☆☆ 燻製小屋を新設

09 土木・インフラ  ★★★☆☆ 継続中

10 火・エネルギー  ★★★☆☆ 燻製のための火力調整技術が向上

11 鉱業・金属    ★☆☆☆☆ 継続中

12 製造・工業    ★★★☆☆ 燻製・乾燥技術の確立

13 科学・技術    ★★☆☆☆ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★☆☆ 継続中

15 教育・研究    ★★☆☆☆ 試行錯誤を通じた実地教育が機能

16 経済・商業    ☆☆☆☆☆ 未着手

17 政治・法律・行政 ★★☆☆☆ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★☆☆☆ 継続中

19 軍事・防災・治安 ★☆☆☆☆ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★☆☆ 燻製という新たな食文化が誕生

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【新規記述書物】『蓄える技・第一葉』(乾燥・燻製による保存食の記録)

【次なる課題】連作障害の発生への対処(輪作の実践検証)、越冬準備の総仕上げ

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