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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第一部 生き延びる

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12/106

第12話「水を引く男」

 種まきから数日後、湊はミオと共に、ドウのもとを訪れていた。


 ミオが植えた種の一部は、すでに小さな芽を出し始めていた。だが、その成長は場所によってばらつきがあった。日当たりの良い区画は順調だったが、地面が乾きやすい場所では、芽が萎れかけていた。


 水が足りない。湊はそう判断した。


 解決策は明確だった。近くを流れる小川から、畑まで水を引く水路を作ること。これは、湊が図解でドウに最初に伝えた「勾配」の知識が、いよいよ実践される場面だった。


 ドウは、湊の説明を聞くと、その日のうちに現地を歩き回り、地形を確かめ始めた。言葉こそ少ないが、その観察眼は鋭かった。小川の水位、畑までの距離、地面の傾斜――ドウは黙々と、地面に木の枝で印をつけながら、水路の経路を検討していった。


 湊はドウの作業を見守りながら、改めて実感していた。自分が伝えられるのは、あくまで「概念」でしかない。水は高いところから低いところへ流れる。緩やかな傾斜であれば、人工的に水路を作ることで、その流れを誘導できる。だが、実際にどこをどう掘るべきか、どの程度の深さと幅が必要か――そうした具体的な判断は、湊の知識をはるかに超えていた。


 ドウは、まさにそこを埋める存在だった。


 三日かけて、ドウは水路の経路を決定した。湊が見る限り、それは理にかなった選択だった。小川の緩やかな曲がり角から取水し、わずかな傾斜を利用して畑まで水を導く経路。途中、大きな岩を避けるために迂回する箇所もあったが、全体として無駄のない設計だった。


 工事が始まると、集落の何人かが手伝いに加わった。ガルやタギも力仕事に参加し、土を掘り、石を除け、水路の形を整えていく。湊もまた、できる範囲で作業を手伝ったが、正直なところ、体力的にはあまり役に立てなかった。それでも、湊は水路の要所要所で、深さや幅が均一になっているかを確認する役割を担った。ケイが考案しつつあった「数える」概念――一定の間隔で杭を立て、深さを測る方法――が、ここで初めて実用的な形で活かされた。


 五日間の工事の末、水路はついに小川と畑を繋いだ。


 最初に水を通す瞬間、集落の人々が固唾を飲んで見守った。ドウが取水口の堰を開けると、澄んだ水が、ゆっくりと、しかし確実に、掘られた溝を伝って流れ始めた。


 水は畑の縁まで到達し、そこから土に染み込んでいった。萎れかけていた作物の根元に、水が行き渡っていく様子を見て、ミオが歓声を上げた。


 湊も、思わず拳を握りしめた。これは、自分一人では決して成し遂げられなかった成果だった。ドウの技術、ケイの測量、そして集落の人々の労働力――それらが組み合わさって、初めて形になったものだ。


 水路が完成した夜、湊は集落の中央で、ちょっとした祝いの席が設けられているのを見た。誰かが指示したわけではない。自然発生的に、人々が焚き火を囲み、この日の成果を分かち合っていた。


 オルガもまた、その輪の中にいた。彼女は水路の完成を、複雑な表情で見つめていた。かつて彼女が「精霊への冒涜」と呼んだであろう人工的な水の操作が、今、集落の未来を支える基盤になろうとしている。その事実を、彼女がどう受け止めているのか、湊には正確にはわからなかった。それでも、少なくとも今夜、オルガはこの祝いの席に加わっていた。それだけで、十分な変化だった。


 湊はレポート用紙に、その日の出来事を書き記した。


『水路完成。ドウの設計力とケイの測量技術が結実。集落全体の協力で成し遂げた成果』

『農業基盤が一歩前進。次は家畜化を検討すべき段階』


 書きながら、湊は自分の役割について、改めて考えていた。自分は水路を掘ったわけではない。設計したわけでもない。ただ、「水を引けば作物は育つ」という当たり前の知識を、最初に示しただけだ。


 それでも、その小さなきっかけが、これだけ多くの人々の手によって、確かな形へと育っていった。


 これこそが、湊の目指す在り方だった。自分は種を蒔くだけでいい。それを育てるのは、この世界に生きる人々自身の手だ。


 夜が更けても、集落の焚き火は消えなかった。人々の笑い声が、水路のせせらぎと重なり合いながら、夜の闇に溶けていった。


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【第12話 時点 文明発展状況】

人口:31人(集落含む)/漂着後 60日

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01 生存・サバイバル ★★★☆☆ 継続中

02 食料・農業    ★★★☆☆ 水路完成により安定した灌漑が可能に

03 畜産・動物    ☆☆☆☆☆ 未着手(次なる検討課題として浮上)

04 漁業・水産    ★★☆☆☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★☆☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★☆☆ 継続中

07 医療・薬学    ★★☆☆☆ 継続中

08 住居・建築    ★★☆☆☆ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★☆☆ 水路建設に成功、ドウの技術が確立

10 火・エネルギー  ★★☆☆☆ 継続中

11 鉱業・金属    ★☆☆☆☆ 継続中

12 製造・工業    ★☆☆☆☆ 継続中

13 科学・技術    ★★☆☆☆ ケイの測量技術が実用化

14 言語・文字・出版 ★★★☆☆ 継続中

15 教育・研究    ★☆☆☆☆ 継続中

16 経済・商業    ☆☆☆☆☆ 未着手

17 政治・法律・行政 ★★☆☆☆ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★☆☆☆ 継続中

19 軍事・防災・治安 ☆☆☆☆☆ 未着手

20 文化・娯楽・思想 ★★★☆☆ 水路完成を祝う集いが自然発生、集落の一体感が向上

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【新規記述書物】『水を導く書・第一葉』(水路設計と測量の記録)

【次なる課題】家畜化の開始(犬・豚・鶏)、収穫までの管理体制の確立

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