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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第一部 生き延びる

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11/105

第11話「土に還る種」

 オルガの回復から半月が過ぎた頃、湊はミオと共に、集落の外れの平地に立っていた。


 これまでの十日間、湊は狩猟や漁労で得た食料に頼る生活の限界を、強く意識するようになっていた。獲物は日によって多かったり少なかったりする。天候が悪ければ、まったく獲れない日もある。集落の人口が増えていくとすれば、なおさら、安定した食料源が必要になる。


 その答えとして湊が思い描いていたのが、農業だった。


 ミオは、この提案に誰よりも強い関心を示した少女だった。彼女はもともと、木の実や野草の種を集める癖があり、時折それを土に埋めては、芽が出るかどうかを観察していたという。体系立った知識こそなかったが、その好奇心は、農業という概念を受け入れる下地として、これ以上ないものだった。


 湊はまず、地面に大きな図を描くことから始めた。種を土に埋める絵、水をやる絵、芽が出る絵、実がなる絵。一連の流れを、順を追って示していく。


 ミオはその図を食い入るように見つめ、何度も頷いた。彼女にとって、これまで感覚的に行っていたことが、初めて「体系」として言語化された瞬間だったのかもしれない。


 だが、湊が本当に伝えたかったのは、単なる種まきの手順ではなかった。


 湊は地面に、もう一つの図を描き加えた。同じ場所に同じ植物を繰り返し植え続けると、やがて実りが悪くなる様子を示す絵だ。土が痩せていく様子、作物が育たなくなる様子。


 これは、湊が理科の授業で習った「連作障害」という概念だった。同じ土地で同じ作物を作り続けると、特定の養分ばかりが消費され、また病害虫も蓄積しやすくなる。対策として有効なのが、異なる種類の作物を順番に育てる「輪作」だ。


 湊はこの概念を、色の違う小石を使って説明しようと試みた。畑を示す四角い区画を地面に描き、その中に赤い小石(仮に「豆」)、白い小石(仮に「穀物」)、黒い小石(仮に「根菜」)を、年ごとに配置を変えながら並べていく。


 ミオは最初、戸惑った様子だった。同じ場所に、なぜ違うものを植える必要があるのか、その理由まではすぐに理解できなかったのだろう。それも当然だ。目に見えない土壌の養分という概念を、身振りと絵だけで伝えるのは、簡単なことではなかった。


 湊は根気強く、繰り返し説明を試みた。同じ場所に同じ小石を置き続けると、その場所が「疲れる」様子を、身振りで表現する。それから、別の小石に置き換えると、その場所が「元気」を取り戻す様子を演じて見せる。


 何度目かの説明で、ミオの表情が変わった。彼女は自分でも小石を手に取り、湊の描いた図をなぞりながら、何かを確かめるようにつぶやいた。理解の芽が、確かに育ち始めているのが感じられた。


 もう一つ、湊が伝えたかったのが「水耕栽培」に近い概念だった。土地の乾燥に左右されにくい栽培方法として、水路を引いて畑に安定的に水を供給する仕組みだ。これはドウの領分とも重なる。湊は近くドウとミオを引き合わせ、二人で協力してもらう必要があると考えていた。


 その日の午後、湊はミオと共に、実際に種まきの実験を始めることにした。集落周辺で見つかった、食用に適していそうな植物の種――ガルやシラの助言を借りて選んだものだ――を、いくつかの区画に分けて植えていく。


 湊自身、植物の専門知識は決して豊富ではなかった。だが、少なくとも「何を試すべきか」という方向性――区画を分けること、水はけを考慮すること、日当たりを確認すること――は示すことができた。あとは、ミオ自身の観察力と根気が、それを具体的な成果へと育てていくはずだった。


 夕暮れ、種まきを終えたミオは、土のついた手のひらを見つめながら、湊に何かを尋ねた。湊には正確な意味はわからなかったが、おそらく「いつ芽が出るのか」というような問いだろうと推測した。


 湊は肩をすくめ、正直な仕草をして見せた。わからない、というジェスチャーだ。だが、待つことも大切だという意味を込めて、空を指さし、太陽が昇って沈む動作を何度か繰り返して見せた。


 ミオは小さく笑った。それは、湊がこの集落で初めて見る、屈託のない笑顔だった。


 その夜、湊はレポート用紙に、今日の出来事を書き記した。


『ミオと共に種まきを開始。連作障害の概念を小石を使って説明。輪作の必要性を伝える』

『水耕栽培については、ドウとの連携が今後の課題』


 書きながら、湊はふと、自分がこの世界に来てから初めて、「未来」というものを具体的に思い描いていることに気づいた。これまでは、目の前の危機を乗り越えることに必死だった。だが、種を蒔くという行為は、今日や明日のためではなく、数ヶ月先、あるいは来年のための行動だ。


 それは、この集落が、単に「生き延びる」段階から、「発展していく」段階へと移りつつあることの、確かな証だった。


 湊は火のそばに座り、遠くの畑を見つめた。まだ何も芽吹いていない、ただの土の区画。だが、そこに込められた可能性の大きさを、湊は確かに感じ取っていた。


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【第11話 時点 文明発展状況】

人口:31人(集落含む)/漂着後 55日

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01 生存・サバイバル ★★★☆☆ 継続中

02 食料・農業    ★★☆☆☆ 種まき開始、輪作の概念をミオに伝達

03 畜産・動物    ☆☆☆☆☆ 未着手

04 漁業・水産    ★★☆☆☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★☆☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★☆☆ 継続中

07 医療・薬学    ★★☆☆☆ 継続中

08 住居・建築    ★★☆☆☆ 継続中

09 土木・インフラ  ★☆☆☆☆ ドウとの水路連携が今後の課題として浮上

10 火・エネルギー  ★★☆☆☆ 継続中

11 鉱業・金属    ★☆☆☆☆ 継続中

12 製造・工業    ★☆☆☆☆ 継続中

13 科学・技術    ★☆☆☆☆ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★☆☆ 継続中

15 教育・研究    ★☆☆☆☆ 継続中

16 経済・商業    ☆☆☆☆☆ 未着手

17 政治・法律・行政 ★★☆☆☆ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★☆☆☆ 継続中

19 軍事・防災・治安 ☆☆☆☆☆ 未着手

20 文化・娯楽・思想 ★★☆☆☆ 継続中

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【新規記述書物】『種と土・第一葉』(輪作の概念図)

【次なる課題】水路の整備(ドウとの連携)、家畜化の検討

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