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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第一部 生き延びる

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第10話「渡された杖」

 八人の協力者との連携が始まって十日ほどが経った、ある夕暮れのことだった。


 湊がシラのもとで薬草の効能について身振りを交えながら教わっていると、集落の奥から、慌ただしい足音が近づいてきた。


 顔を上げると、そこには珍しく息を切らしたガルの姿があった。ガルは湊の腕を掴み、有無を言わさぬ様子で引っ張っていく。湊は戸惑いながらも、その勢いに従うしかなかった。


 連れて行かれた先は、オルガの小屋だった。


 中に入ると、薄暗い空間の奥に、オルガが横たわっているのが見えた。傍らには、シラの母親らしき女性が付き添い、心配そうな表情を浮かべている。


 湊はすぐに状況を把握しようと、オルガに近づいた。彼女の顔は青白く、呼吸は浅い。額に触れると、あの幼児のときと同じように、燃えるような熱があった。


 皮肉なことだった。湊の知識をもっとも強く拒絶していたオルガ本人が、まさにその知識でしか救えないかもしれない状態に陥っている。


 湊は一瞬、迷いを覚えた。オルガはこれまで、湊のやり方を「精霊への冒涜」だと非難し続けてきた。この状況で湊が手を差し伸べれば、それを彼女は受け入れるだろうか。あるいは、拒絶したまま、最悪の結末を迎えることになるのだろうか。


 だが、迷っている時間はなかった。湊は自分にできることを、ただ実行することにした。


 湊はシラに向かって、身振りで指示を出した。冷たい水で布を濡らし、それをオルガの額と首筋に当てる。同時に、沸かして冷ました水を、少量ずつ口に含ませるよう伝える。シラは戸惑いながらも、湊の指示に従い始めた。


 オルガの容態は、その日一日、予断を許さない状態が続いた。湊は夜通し、小屋の外に控え、シラと交代で看病に当たった。


 深夜、オルガの意識が一瞬戻った。彼女は霞んだ目で周囲を見回し、自分を看病しているのが誰なのかを認識したようだった。その視線が湊に向けられたとき、湊は身構えた。拒絶の言葉が飛んでくることを覚悟した。


 だが、オルガは何も言わなかった。ただ、じっと湊を見つめ、それから再び目を閉じた。


 夜が明ける頃、オルガの熱は、わずかに下がり始めていた。完全な回復とは言えないが、峠は越えたようだった。


 三日後、オルガはようやく体を起こせるまでに回復した。湊はその報告を受け、恐る恐る彼女の小屋を訪れた。


 オルガは、以前とは違う目で湊を見つめていた。敵意は消えていないが、その中に、何か別の感情――戸惑いに近いものが混じっているように、湊には感じられた。


 オルガはゆっくりと、傍らに置かれていた杖を手に取った。湊は一瞬身構えたが、オルガはそれを湊に向けて突き出したり、振り上げたりはしなかった。代わりに、杖の先で地面に、簡単な絵を描き始めた。


 それは、あの日湊が描いた絵――よどんだ水と、苦しむ人と、沸かした水と、元気な人を繋ぐ図だった。オルガは自分でその絵をなぞりながら、何かをつぶやいていた。湊には正確な意味はわからなかったが、その口調には、これまでのような拒絶の色はなかった。


 オルガは最後に、杖の先を湊に向けた。今度は威嚇ではない。何かを問うような、あるいは認めるような仕草だった。


 湊はゆっくりと頷き、地面に描かれた絵の隣に、新しい絵を描き足した。オルガの姿と、シラの姿を並べ、その間に矢印を引く。自分が去った後も、この知識が受け継がれていくことを示すつもりだった。


 オルガは長い間、その絵を見つめていた。そして、静かに、これまで見せたことのない仕草をした――それは、ほんのわずかな、頷きだった。


 完全な和解とは言えない。オルガの権威と、湊の知識は、これからも時に対立するだろう。だが、少なくともこの日、二人の間には、対立とは違う何かが芽生えていた。


 その夜、湊はレポート用紙に、震える手で今日の出来事を書き記した。


『オルガ、病から回復。看病を通じて、初めて対立以外の関係が生まれた』

『彼女は精霊への信仰を捨てたわけではない。だが、知識そのものを完全には拒絶しなくなった』


 書きながら、湊は改めて思った。人を動かすのは、正しさだけではない。時に、寄り添うことそのものが、何よりの説得力を持つのだと。


 湊は紙を閉じ、夜空を見上げた。あの日、光に撫でられてこの世界に落ちてから、まだ一ヶ月あまり。それでも、確かに、一つの集落の中に、小さな変化の芽が育ち始めていた。


 遠くで、シラがオルガの小屋から出てくるのが見えた。彼女は湊のほうを見て、小さく頭を下げた。その仕草の中に、湊はこれまでとは違う、確かな信頼の色を見た気がした。


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【第10話 時点 文明発展状況】

人口:31人(集落含む)/漂着後 40日

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01 生存・サバイバル ★★★☆☆ 継続中

02 食料・農業    ★☆☆☆☆ 継続中

03 畜産・動物    ☆☆☆☆☆ 未着手

04 漁業・水産    ★★☆☆☆ 継続中

05 狩猟・採集    ★★☆☆☆ 継続中

06 水・衛生     ★★★☆☆ オルガの回復により説得力がさらに向上

07 医療・薬学    ★★☆☆☆ シラが看病を通じて実践的な技術を習得

08 住居・建築    ★★☆☆☆ 継続中

09 土木・インフラ  ★☆☆☆☆ 継続中

10 火・エネルギー  ★★☆☆☆ 継続中

11 鉱業・金属    ★☆☆☆☆ 継続中

12 製造・工業    ★☆☆☆☆ 継続中

13 科学・技術    ★☆☆☆☆ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★☆☆ 継続中

15 教育・研究    ★☆☆☆☆ 継続中

16 経済・商業    ☆☆☆☆☆ 未着手

17 政治・法律・行政 ★★☆☆☆ オルガとの関係改善により集落の統治構造が安定化

18 外交・交通・情報 ★★☆☆☆ 継続中

19 軍事・防災・治安 ☆☆☆☆☆ 未着手

20 文化・娯楽・思想 ★★☆☆☆ 精霊信仰と実証知識が緩やかに共存し始める

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【新規記述書物】なし(看病を通じた実践的伝達が中心)

【次なる課題】食料生産の本格化(農業・畜産)、集落の恒久的な発展基盤の構築

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