第119話「空を、越えて」
前回の会議から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十六歳から、四十七歳になろうとしていた。
この間、ナガレには、五十二人が、加わっていた。うち、九人が、新生児。四十三人が、外から来た労働者だった。人口は、九百七人になっていた。
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この日の会議は、いつもより、多くの者が、集まっていた。
宗が、久しぶりに、報告のために、出席していたからだ。
「父上、ご報告が、あります」
宗は、そう、切り出した。宗は、この頃、二十七歳になっていた。
「聞かせてくれ」
「あれから――十二回、試験を、行いました」
宗は、そう、答えてから、続けた。
「すべて――成功しました」
この報告に、会議の場が、静まり返った。
「十二回、すべて、か」
「はい」
宗は、そう、答えてから、続けた。
「風の強い日には、飛ばさない。それを、守れば――確実に、飛び、確実に、降りられます」
湊は、この報告を、しばらくの間、静かに、噛み締めていた。
「宗」
「はい」
「それで――お前は、乗るつもりか」
「はい」
宗は、迷いなく、そう、答えた。
湊は、しばらくの間、息子の顔を、じっと、見つめていた。
「議会の、承認が、必要だ」
湊は、そう、答えた。
「わかっています」
「それに――お前の妻と、子にも。必ず、話しておくこと」
宗は、この言葉に、深く、頷いた。
「すでに――話しました」
「なんと、言っていた?」
宗は、しばらく、答えを、探しているようだった。
「妻は――泣きました」
宗は、そう、静かに、答えた。
「ですが――止めるとは、言いませんでした」
湊は、この答えを、深く、噛み締めていた。
「そうか」
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この件は、その後、議会での、慎重な審議に、付されることになった。
議論は、極めて、真剣なものだった。
「危険は、ないのですか」
議会代表の一人が、そう、尋ねた。
「あります」
宗は、そう、はっきりと、答えた。
「十二回、成功しました。ですが――十三回目が、成功する保証は、ありません」
この、率直な答えに、代表たちは、深く、考え込んでいた。
「なぜ、それでも、乗るのですか」
別の代表が、そう、尋ねた。
宗は、しばらく、考えてから、答えた。
「誰かが、乗らなければ――この技術は、そこで、止まるからです」
宗は、そう、答えてから、続けた。
「人を、乗せられなければ――ただの、玩具です」
この言葉に、議会は、深い、沈黙に、包まれた。
審議の末、この飛行は、承認された。
ただし――いくつかの、厳しい条件が、付された。
一つ。天候が、完全に、穏やかな日にのみ、行うこと。
二つ。飛行の高さと、距離を、最小限に、留めること。
三つ。地上に、救助の備えを、置くこと。
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飛行の日。
飛び場には、多くの人々が、集まっていた。
湊も、ミオも、そして――宗の妻と、六歳になった、孫の湊も、その場に、いた。
宗は、装置に、乗り込む前に、家族のほうを、振り返った。
「行ってきます」
宗は、そう、静かに、告げた。
湊は、しばらくの間、何も、言えなかった。
「宗」
やがて、湊は、そう、口を開いた。
「はい」
「無理は、するな」
湊は、そう、告げた。
「危ないと思ったら――すぐに、降りろ」
宗は、この言葉に、深く、頷いた。
「わかりました」
宗は、装置に、乗り込んだ。
やがて――エンジンが、始動する音が、響いた。
装置は、ゆっくりと、動き始めた。そして――次第に、速度を、上げていく。
やがて――その車輪が、確かに、地面から、離れた。
集まった人々から、大きな、どよめきが、上がった。
湊は、その光景を、じっと、見つめていた。
――飛んでいる。人が、乗ったまま。
装置は、飛び場の上空を、大きく、一周した。そして――ゆっくりと、高度を、下げていく。
やがて、その車輪が、再び、地面に、触れた。
装置は、しばらく、滑走した後――静かに、止まった。
その瞬間。飛び場には、これまでにない、大きな歓声が、湧き起こった。
宗が、装置から、降りてきた。
その顔は――やや、青ざめていた。だが、その目には、確かな、輝きが、宿っていた。
「父上」
宗は、そう、声を、かけた。
「どうだった?」
湊は、そう、静かに、尋ねた。
宗は、しばらく、言葉を、探しているようだった。
「……言葉に、なりません」
宗は、そう、答えてから、続けた。
「上から、見た村は――写真で、見たものと、同じでした。でも――」
宗は、そう言って、しばらく、沈黙した。
「まったく、違いました」
湊は、この言葉に、深く、頷いた。
「そうか」
その後、宗は、妻のもとへと、歩いていった。
妻は――何も言わずに、宗を、抱きしめた。
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この飛行の成功は、その後、ナガレの外交に、思いがけない、変化を、もたらすことになった。
ある日の会議で、ナギが、この可能性を、提起した。
「湊さん、一つ、思いついたことが、あります」
「なんだ?」
「あの飛行装置を――外交に、使えないでしょうか」
湊は、この提案に、深く、興味を、示した。
「どういうことだ?」
「今、アガルまで、船で、十日ほど、かかります」
ナギは、そう、説明した。
「ですが――もし、飛べば」
「どれくらいで、行ける?」
「わかりません。ですが――一日か、二日でしょうか」
湊は、この報告に、しばらく、考えを、巡らせた。
「宗、どう思う?」
湊は、そう、宗のほうを、向いた。
宗は、しばらく、考えてから、答えた。
「難しいです」
宗は、そう、答えてから、続けた。
「今の装置では――そこまでの燃料を、積めません。それに――海の上では、降りる場所が、ありません」
「なら――どうすれば、いい?」
「もっと、大きな装置が、必要です。それに――途中に、降りられる場所も」
湊は、この指摘に、深く、頷いた。
「なるほど。なら――まず、近くから、始めよう」
湊は、そう、決断した。
「北の集落までなら――飛べるか?」
宗は、しばらく、考えてから、答えた。
「飛べると思います。それに――あちらにも、飛び場を、作れば」
この提案は、その場で、承認された。
こうして、ナガレと、北方の併合集落との間に――初めての、空の便が、開かれることになった。
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この、空の便が、開かれてから、しばらく後。
湊のもとに、思いがけない、申し出が、届いた。
「湊さん、アガルから、書状が、来ました」
ナギは、そう、報告した。
「なんと、書いてある?」
「ラムセス王が――あの、空を飛ぶ装置を、見たいと」
湊は、この報告に、深く、驚いた。
「見たい、というのは」
「はい。ぜひ――アガルに、飛んできてほしいと」
湊は、しばらくの間、深く、考え込んでいた。
「宗、できるか?」
湊は、そう、尋ねた。
宗は、しばらく、考えてから、答えた。
「今の装置では――無理です」
宗は、そう、答えてから、続けた。
「ですが――半年ほど、いただければ。もっと、大きなものを、作れるかもしれません」
「危険は?」
「あります」
宗は、そう、はっきりと、答えた。
「特に――海の上です。もし、途中で、何かあれば――助けは、来ません」
湊は、この答えを、深く、受け止めた。
「なら――船を、並走させよう」
湊は、そう、提案した。
「船を、ですか」
「そうだ。飛行の航路に沿って――船を、いくつか、配置する」
湊は、そう、続けた。
「もし――何かあれば。すぐに、助けに、向かえる」
この提案に、宗は、深く、頷いた。
「それなら――随分と、安心です」
こうして、ナガレは――初めての、空路による外交を、目指すことになった。
その実現までには、まだ、半年以上の、時間が、必要とされる。だが――その第一歩は、確かに、踏み出されたのだった。
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この日の会議の後、湊は、五年計画の、各柱の状況を、確かめていった。
**半導体――レン**:新工場、基礎工事、完了。
**計算する石――レン**:計算部と記憶部の統合、試作段階。
**液晶――イワ**:月産、十五枚に。
**土木――ドウ**:北方鉄道、路盤工事、七割完了。周辺集落の協力が、大きく効いている。
**農業――ミオ**:食料の不足、解消の見込み。
**医療――シラ**:新病舎、完成。
**内紛集落――ナギ**:水利工事、着工。両派が、共に、作業している。
湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。
『宗が、有人飛行に成功。十二回の無人試験を経て』
『宗の妻は、泣いた。だが――止めるとは、言わなかった』
『飛行装置による、北方集落への空路を開設』
『アガル王から、飛行装置を見たいとの要請。半年後を目指し、海路を越える飛行を計画』
『航路に沿って、救助の船を配置することを決定』
『内紛集落の水利工事が着工。両派が、共に作業している』
夕暮れ、湊は、飛び場を、見つめていた。
湊は、四十七歳になった。この世界に来てから、三十二年六ヶ月ほどが、過ぎていた。
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【第119話 時点 文明発展状況】
湊47歳/漂着後 32年6ヶ月
人口:907人(うち、この期の新生児9名、外部労働者43名)
国名:ナガレ
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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中
02 食料・農業 ★★★★★ 食料不足、解消の見込み
03 畜産・動物 ★★★★☆ 継続中
04 漁業・水産 ★★★★★ 継続中
05 狩猟・採集 ★★★★★ 継続中
06 水・衛生 ★★★★★ 継続中
07 医療・薬学 ★★★★★ 新病舎が完成
08 住居・建築 ★★★★★ 半導体工場の基礎が完了
09 土木・インフラ ★★★★★ 北方鉄道、路盤七割完了。空路も開設
10 火・エネルギー ★★★★★ 継続中
11 鉱業・金属 ★★★★★ 継続中
12 製造・工業 ★★★★★ 液晶、月産十五枚に
13 科学・技術 ★★★★★ 有人飛行に成功。計算機の統合は試作段階
14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中
15 教育・研究 ★★★★★ 継続中
16 経済・商業 ★★★★★ 継続中
17 政治・法律・行政 ★★★★★ 継続中
18 外交・交通・情報 ★★★★★ 空路外交を計画。アガル王からの招請
19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中
20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 人が空を飛んだ。この国の、新たな誇りとなる
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【次話への持ち越し】長距離飛行機の開発、計算する石の完成、北方鉄道の完成――これらは、次話以降で確認される
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