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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第四部 国家の誕生

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第118話「差し出す手、握る手」

 建国から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十六歳のままだった。


 この間、ナガレには、四十八人が、加わっていた。うち、八人が、新生児。四十人が、外から来た労働者だった。併合した二集落を含め、人口は、八百五十五人になっていた。


---


 この日の会議は、まず、前回の課題の、確認から、始まった。


 **新併合地の統合――ロタ**


「湊さん、二つの集落ですが」


 ロタは、そう、切り出した。


「どうだ、様子は」


「戸惑いが、大きいようです」


 ロタは、そう、答えてから、続けた。


「特に――基本の書の内容に」


「どの部分が、問題だ?」


「すべての人が、同じ権利を持つ、という部分です」


 ロタは、そう、答えた。


「あちらでは――長老の決めたことに、皆が、従うのが、当たり前でした。ですから――一人一票と言われても、実感が、湧かないようです」


 湊は、この報告を、深く、受け止めた。


「なるほど。それは――時間が、かかるだろうな」


「はい」


「焦らせるな」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「決まりは、決まりとして、示す。だが――それを、心から、受け入れるまでには。何年も、かかるかもしれない」


---


 **内紛集落の仲介――ナギ**


「あの集落ですが」


 ナギは、そう、切り出した。


「両方から、話を、聞いてきました」


「どうだった?」


「争いの元は――水でした」


 ナギは、そう、答えた。


「水?」


「はい。集落を、流れる小川。その水を、どちらの畑に、先に、引くか」


 ナギは、そう、続けた。


「もう、三代にわたって、争っているそうです」


 湊は、この報告を、しばらくの間、静かに、噛み締めていた。


「三代か」


「はい。ですから――もはや、水そのものより。互いへの、恨みのほうが、大きくなっています」


 湊は、この指摘に、深く、頷いた。


「なるほど」


 湊は、そう、答えてから、しばらく、考えを、巡らせた。


「ナギ、一つ、聞きたい」


「なんでしょう」


「その小川は――水量が、足りないのか」


「はい。両方の畑を、十分に、潤すには――足りません」


「では――増やせないか?」


 この問いに、ナギは、少し、戸惑いを、見せた。


「増やす、ですか」


「そうだ。上流に、堰を、作る。あるいは――別の場所から、水を、引く」


 湊は、そう、続けた。


「もし――両方の畑に、十分な水が、行き渡れば」


 ナギは、この提案に、しばらく、考え込んでいた。


「争う理由が――なくなる、ということですね」


「そうだ」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「もちろん――三代の恨みは、簡単には、消えないだろう。だが――少なくとも、新しい争いは、起きなくなる」


 この提案は、その場で、承認された。


 ナガレから、技術者を、派遣し――その集落の、水利の改善を、支援することが、決定された。


「ただし――一つ、条件を、つけよう」


 湊は、そう、付け加えた。


「なんでしょう」


「工事は――両方の者が、一緒に、行うこと」


 この条件に、ナギは、深く、感心した様子を、見せた。


「なるほど……共に、働けば」


「少しは――変わるかもしれない」


---


 これらの報告が、終わった後。


 湊は、この日の、最初の議題を、提起した。


「一つ、みんなに、相談したいことが、ある」


「なんでしょう」


「今、この国には――どれくらいの、人手が、足りていない?」


 この問いに、ドウが、答えた。


「正直に、申し上げます。まったく、足りていません」


 ドウは、そう、答えてから、続けた。


「堰。鉄道。半導体の工場。道路。上下水道。それに――農地の開墾」


 ドウは、そう、続けた。


「すべてを、同時に、進めるには――今の、三倍の人手が、必要です」


 湊は、この報告を、深く、受け止めた。


「三倍か」


「はい。ですから――どこかを、諦めるしか、ありません」


 湊は、しばらくの間、深く、考え込んでいた。


「いや」


 やがて、湊は、そう、口を開いた。


「諦めなくても、いいかもしれない」


「といいますと」


「人手を――外から、借りればいい」


 この提案に、ロタが、少し、疑問を、示した。


「今も、外から、来ていただいています。ですが――それでも、足りていません」


「そうだな」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「だから――やり方を、変えたい」


「どう、変えるのですか」


「今は――一人ずつ、こちらに、来てもらっている」


 湊は、そう、指摘した。


「だが――そうではなく。集落ごと、まとめて、引き受けてもらう」


 この提案に、会議の場が、ざわめいた。


「集落ごと、ですか」


 ナギが、そう、尋ねた。


「そうだ」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「例えば――北の集落へ向かう鉄道。あの工事を、途中の集落に、丸ごと、任せる」


「任せる、というと」


「こちらからは――資金と、技術を、出す。だが――実際に働くのは、その集落の人々だ」


 湊は、そう、説明した。


「そして――完成すれば。その鉄道は、その集落にも、繋がる」


 この構想に、ロタが、深く、興味を、示した。


「つまり――あちらにも、利益がある、ということですね」


「そうだ」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「こちらは――人手を、確保できる。あちらは――働き口と、技術と、そして、鉄道を、得られる」


 この提案は、しばらくの議論の後、承認された。


 だが、ここで、湊は、一つの、重要な条件を、示した。


「ただし――一つ、大事なことが、ある」


「なんでしょう」


「これを――併合の、条件にしてはならない」


 この言葉に、会議の場が、静まり返った。


「といいますと」


 トウが、そう、尋ねた。


「もし――『この工事を、引き受ければ、我が国に、加われる』と、言えば」


 湊は、そう、続けた。


「それは――脅しになる」


 湊は、そう、告げた。


「加わりたい集落は――加わればいい。加わりたくない集落とも――協力すればいい」


 湊は、そう、続けた。


「その二つを――決して、結びつけてはならない」


 この原則は、会議の場で、深く、共有された。


---


 この方針のもと、ナギは、周辺の集落を、順に、訪ね歩くことになった。


 その反応は――湊の予想を、大きく、超えるものだった。


「湊さん、驚きました」


 ふた月後、ナギは、そう、報告した。


「どうだった?」


「訪ねた、九つの集落のうち――七つが、引き受けると」


 湊は、この報告に、深く、驚いた。


「そんなに、か」


「はい。それに――」


 ナギは、そう、答えてから、続けた。


「向こうから、こう、言われました。『なぜ、これまで、頼んでくれなかったのか』と」


 湊は、この言葉を、深く、噛み締めていた。


「そうか」


「はい。あちらの集落には――働き口が、ありません。若い者は、皆、外へ、出て行きます」


 ナギは、そう、続けた。


「ですから――自分たちの土地で、働ける。それだけで――大きな救いだと」


 湊は、この報告に、深く、頷いた。


「なら――良かった」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「これは――こちらだけが、得をする話では、なかったんだな」


---


 こうして、ナガレの、大規模なインフラ整備は、周辺の集落との、協力のもとで、進められることになった。


 北への鉄道。東への道路。そして――送電線。


 これらの工事に、これまでの、数倍の人手が、投入されることになった。


 同時に、ナガレからは、技術者が、それぞれの現場に、派遣された。


「教えることも――仕事のうちだ」


 湊は、派遣される技術者たちに、そう、伝えた。


「ただ、指示するだけでは、いけない。なぜ、そうするのかを――必ず、伝えてほしい」


---


 この日の会議の後、湊は、五年計画の、各柱の状況を、確かめていった。


 **半導体――レン**:新工場、建設着手。


 **液晶――イワ**:月産、十枚を、達成。


 **計算する石――レン**:計算部と、記憶部を、組み合わせる作業に、着手。


 **農業――ミオ**:開墾地、さらに、拡大。


 **漁業――ナギ**:養殖、順調。


 **医療――シラ**:病舎、完成間近。


 **教育――ケイ**:学び舎、十一校に。


 湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。


『新併合地では、平等という理念への戸惑いが大きい。焦らせず、時間をかける』

『内紛集落は、三代にわたる水争い。水量そのものを増やすことで、争いの根を断つ。工事は、両派が共に行うことを条件とした』

『インフラ整備を、周辺集落に委託する方針を決定。資金と技術は提供し、労働は現地が担う』

『ただし――これを、併合の条件にしてはならない。それは、脅しになる』

『九集落中、七集落が引き受けを表明。「なぜ、これまで頼んでくれなかったのか」と言われた』

『これは、こちらだけが得をする話では、なかった』


 夕暮れ、湊は、北へと続く道を、見つめていた。


 湊は、四十六歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十二年五ヶ月ほどが、過ぎていた。


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【第118話 時点 文明発展状況】

湊46歳/漂着後 32年5ヶ月

人口:855人(うち、この期の新生児8名、外部労働者40名)

国名:ナガレ

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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中

02 食料・農業    ★★★★★ 開墾地が、さらに拡大

03 畜産・動物    ★★★★☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★★ 養殖が順調

05 狩猟・採集    ★★★★★ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 継続中

07 医療・薬学    ★★★★★ 新病舎が完成間近

08 住居・建築    ★★★★★ 半導体工場が着工

09 土木・インフラ  ★★★★★ 周辺七集落との協力で、大規模整備が始動

10 火・エネルギー  ★★★★★ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★★ 継続中

12 製造・工業    ★★★★★ 液晶、月産十枚を達成

13 科学・技術    ★★★★★ 計算部と記憶部の統合作業に着手

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中

15 教育・研究    ★★★★★ 学び舎、十一校に

16 経済・商業    ★★★★★ 継続中

17 政治・法律・行政 ★★★★★ 新併合地の統合は、時間をかけて進める方針

18 外交・交通・情報 ★★★★★ インフラ協力を、併合と切り離す原則を確立

19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 「協力は、脅しであってはならない」という原則を確立

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【次話への持ち越し】各地の工事の進捗、計算する石の統合、内紛集落の水利改善――これらは、次話以降で確認される

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