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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第四部 国家の誕生

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119/147

第117話「名を、持つということ」

 前回の会議から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十六歳のままだった。


 この間、町には、二十六人が、加わっていた。うち、七人が、新生児。十九人が、外から来た労働者だった。人口は、六百六十七人になっていた。


---


 この日の会議は、まず、前回の緊急課題の、確認から、始まった。


 **食料――ミオ、ナギ**


「湊さん、まず、ご報告します」


 ミオは、そう、切り出した。


「石の多い土地の開墾ですが――思った以上に、早く、進んでいます」


「どれくらい、進んだ?」


「すでに――これまでの農地の、二割ほどにあたる広さが、使えるようになりました」


 湊は、この報告に、深く、安堵した。


「よかった」


「はい。掘削車の力は――本当に、大きいです」


 ミオは、そう、答えてから、続けた。


「ただ――すぐには、収穫は、望めません。土を、育てる必要がありますから」


「それは、承知の上だ」


 続いて、ナギが、報告した。


「養殖のほうも、拡大を、始めました」


「順調か?」


「はい。それに――食べ残しの発酵物を、餌にする試みも、うまく、いっています」


 ナギは、そう、答えてから、続けた。


「魚は――よく、食べます。それに、育ちも、悪くありません」


 湊は、この報告に、深く、頷いた。


「当面の、しのぎは、つきそうか」


「はい」


 ミオが、そう、答えた。


「それに――足りない分は、外から、買うことに、しました。半年ほどで――追いつけると思います」


---


 これらの報告が、終わった後。


 ナギが、この日の、最初の議題を、提起した。


「湊さん、少し、重い話が、あります」


「なんだ?」


「三つの集落から――申し出が、ありました」


 ナギは、そう、切り出した。


「この町の、一部に、なりたいと」


 この報告に、会議の場が、大きく、ざわめいた。


「三つ、だと?」


 ガルが、そう、驚いた様子で、尋ねた。


「はい」


 湊は、この報告を、しばらくの間、静かに、噛み締めていた。


「理由は?」


「それぞれ、違います」


 ナギは、そう、答えてから、続けた。


「一つは――北の集落と、同じです。若い者が、この町に、来てしまう。このままでは、集落が、消えてしまう」


「なるほど」


「もう一つは――技術です」


 ナギは、そう、続けた。


「この町の技術を、自分たちも、使いたいと。ですが――外から、買うのでは、あまりに、高くつく」


「そして――三つ目は?」


 湊が、そう、尋ねると、ナギは、少し、表情を、曇らせた。


「三つ目は――少し、事情が、違います」


「どういうことだ?」


「あの集落は――内輪で、争いが、続いています」


 ナギは、そう、答えた。


「どちらが、集落を、率いるか。それで――二つに、割れています」


 湊は、この報告に、深く、注意を、向けた。


「それで――こちらに、加わりたいと?」


「はい。争いに、疲れた者たちが――そう、申し出てきました」


 湊は、しばらくの間、深く、考え込んでいた。


「その申し出は――集落全体の、意思か?」


「いえ」


 ナギは、そう、答えた。


「片方の、意思です」


「なら――受けられない」


 湊は、そう、静かに、答えた。


「なぜ、ですか」


「もし、受ければ――俺たちは、その争いの、片方に、加担することになる」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「そうなれば――もう片方は、俺たちを、敵と、見なす」


 湊は、そう、続けた。


「それは――この地域全体の、争いに、繋がりかねない」


 この説明に、会議の場は、深く、納得した様子だった。


「では――どうすべきでしょうか」


 ロタが、そう、尋ねた。


 湊は、しばらく、考えてから、答えた。


「まず――話を、聞こう」


「話、ですか」


「そうだ。両方から。何を、争っているのか。何を、望んでいるのか」


 湊は、そう、続けた。


「その上で――もし、望むなら。間に、入ろう」


 この方針は、その場で、承認された。


---


 残る、二つの集落については、慎重な議論の末、受け入れが、決定された。


 だが、この決定を、下した後。湊は、深い、思案に、沈んでいた。


「湊さん、どうか、されましたか」


 ケイが、そう、尋ねた。


「いや……少し、考えていた」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「これで――この町に、加わる集落は、三つになる」


「はい」


「そうなると――もはや、『町』とは、言えないかもしれない」


 この言葉に、会議の場が、静まり返った。


「といいますと」


 ケイが、そう、尋ねた。


「離れた場所に、複数の集落を、抱える」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「それぞれに、自治を、認めている。だが――全体の決まりは、共通だ」


 湊は、そう、続けた。


「それは――もう、国と、呼ぶべきものじゃないだろうか」


 この言葉に、会議の場は、深い、沈黙に、包まれた。


 やがて、ロタが、静かに、口を開いた。


「私も――そう、思っていました」


「そうか」


「はい。ただ――言い出すのが、恐ろしかったのです」


 ロタは、そう、答えてから、続けた。


「国を、名乗るということは――重い責任を、負うということですから」


 湊は、この言葉に、深く、頷いた。


「その通りだ」


---


 この議論は、その後、数日間にわたって、続けられることになった。


 議会でも、そして――町の人々の間でも。


「国に、なるとは――どういうことでしょうか」


 ある日、若い議会代表の一人が、そう、尋ねた。


「良い問いだ」


 湊は、そう、答えてから、しばらく、考えを、巡らせた。


「俺の考えを、言おう」


「はい」


「一つは――名前を、持つということだ」


 湊は、そう、答えた。


「今、俺たちは――『あの、大きな町』と、呼ばれている。だが、それは――他人が、そう呼んでいるだけだ」


 湊は、そう、続けた。


「自分たちで、名前を、決める。それが――一つ」


「もう一つは?」


「約束を、する立場に、なるということだ」


 湊は、そう、答えた。


「今も、他の集落と、取り決めを、結んでいる。だが――それは、あくまで、この町の、取り決めだ」


 湊は、そう、続けた。


「国として、約束すれば――それは、この地に生きる、すべての人の、約束になる」


 湊は、そう、続けた。


「そして――その約束は、俺たちが、いなくなった後も、残る」


 この説明に、会議の場は、深い、静けさに、包まれた。


「それは――重いですね」


 ロタが、そう、つぶやいた。


「そうだ」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「だから――軽々しくは、決められない」


---


 この議論の末、一つの結論が、示された。


 国として、名乗るかどうか。それを――全住民の投票に、諮る。


 この投票に先立ち、湊は、町の人々に向けて、映像を通じて、直接、語りかけることにした。


 これは――あの、教育用の映像装置が、初めて、こうした形で、使われる機会だった。


「皆さんに、決めていただきたいことが、あります」


 湊は、そう、語り始めた。


「この地を――国と、名乗るかどうか、です」


 湊は、そう、続けた。


「国になれば――良いことも、あります。他の国と、対等に、約束を、結べます。それに――名前を、持てます」


 湊は、静かに、続けた。


「ですが――重い責任も、負います」


 湊は、そう、告げた。


「国は――ここに生きる、すべての人を、守らなければ、なりません。そして――その約束は、私たちが、いなくなった後も、残ります」


 湊は、そう言って、しばらく、沈黙した。


「私は――皆さんが、どちらを、選んでも。それを、正しいと、思います」


 湊は、そう、静かに、告げた。


「どうか――よく、考えて、決めてください」


---


 投票の日。


 これまでで、最も、多くの人々が、投票所に、訪れた。


 結果は――圧倒的多数の、賛成だった。


 この日、この地は――初めて、国として、名乗ることに、なった。


 だが、名前を、決めるのには、さらに、時間が、かかった。


 議会では、いくつもの、案が、示された。


「湊さんの名を、冠しては、どうでしょう」


 そう、提案する者も、いた。


 だが、湊は、これを、強く、拒んだ。


「それだけは――やめてほしい」


 湊は、そう、答えた。


「なぜ、ですか」


「国は――一人のものでは、ないからだ」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「俺の名を、付ければ――この国は、俺のものだと、思われる。それは――絶対に、避けたい」


 この言葉に、議会は、深く、納得した。


 最終的に、決まった名は――極めて、素朴なものだった。


「ナガレ」


 この地を、流れる川の名。かつて、湊が、この世界に落とされた日、最初に、たどり着いた、あの川の名だった。


「なぜ、この名を?」


 湊が、そう、尋ねると、提案した若い代表は、こう、答えた。


「この川がなければ――この地に、人は、住めませんでした」


 その若者は、そう、答えてから、続けた。


「それに――川は、流れ続けます。止まりません」


 湊は、この答えに、深く、感銘を、受けた。


「いい名だ」


 湊は、そう、静かに、答えた。


---


 この日の会議の後、湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。


『石礫地の開墾が、順調。すでに、農地の二割にあたる広さを、確保』

『三つの集落から、併合の申し出。うち、内紛のある一つは、受け入れを拒否し、仲介を提案』

『二つの集落の併合を、決定』

『国として名乗るかどうかを、全住民投票に付し、圧倒的多数で、承認』

『国名は「ナガレ」。この地を流れる川の名。川は、流れ続け、止まらないから』

『私の名を冠する案は、強く拒んだ。国は、一人のものではない』


 夕暮れ、湊は、川辺に、立っていた。


 かつて、この川で、骨の針を使って、初めての魚を、釣った。


 あれから――三十二年。


 湊は、しばらくの間、静かに、その流れを、見つめていた。


 湊は、四十六歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十二年四ヶ月ほどが、過ぎていた。


---


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【第117話 時点 文明発展状況】

湊46歳/漂着後 32年4ヶ月

人口:667人+併合二集落(約140名)=約807人

国名:ナガレ

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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中

02 食料・農業    ★★★★★ 開墾が順調。農地が二割拡大

03 畜産・動物    ★★★★☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★★ 養殖拡大が順調。発酵残飯の餌も成功

05 狩猟・採集    ★★★★★ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 継続中

07 医療・薬学    ★★★★★ 継続中

08 住居・建築    ★★★★★ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★☆ 継続中

10 火・エネルギー  ★★★★★ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★★ 継続中

12 製造・工業    ★★★★★ 継続中

13 科学・技術    ★★★★★ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中

15 教育・研究    ★★★★★ 継続中

16 経済・商業    ★★★★★ 継続中

17 政治・法律・行政 ★★★★★ 国家として「ナガレ」を建国。全住民投票により決定

18 外交・交通・情報 ★★★★★ 二集落を併合。内紛のある集落には、仲介を提案

19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 「国は一人のものではない」という理念を、建国の原則に

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【次話への持ち越し】新併合地の統合、内紛集落の仲介、国としての体制整備――これらは、次話以降で確認される

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