第116話「食べていくということ」
前回の会議から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十六歳のままだった。
この間、町には、二十四人が、加わっていた。うち、七人が、新生児。十七人が、外から来た労働者だった。人口は、六百四十一人になっていた。
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この日の会議は、いつもより、重い空気の中で、始まった。
「湊さん、緊急の報告が、あります」
ミオが、開口一番、そう、切り出した。
「どうした?」
「食料が――足りなくなりそうです」
湊は、この報告に、深く、身を、乗り出した。
「どういうことだ?」
「人が、増える速さが――収穫の増える速さを、超えました」
ミオは、そう、答えてから、続けた。
「干拓地の分を、入れても――今の生産では、六百五十人ほどが、限界です」
「今、六百四十一人だな」
「はい。ですから――あとひと月で、限界に、達します」
この報告に、会議の場が、静まり返った。
「なぜ、もっと早く、言わなかった」
湊は、そう、静かに、尋ねた。
「申し訳ありません」
ミオは、そう、深く、頭を下げた。
「これまでは――余裕が、ありました。それに、干拓地が、加われば、しばらくは、大丈夫だと」
ミオは、そう、続けた。
「ですが――人の増え方が、想像を、超えていました」
湊は、この報告を、しばらくの間、静かに、噛み締めていた。
「いや、責めているわけじゃない」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「俺の、見通しが、甘かった」
湊は、そう、静かに、告げた。
「五年の計画を、立てた時――工業のことばかり、考えていた。食べることを――軽く、見ていた」
湊は、そう、続けた。
「これは――俺の、間違いだ」
この言葉に、会議の場は、深い、静けさに、包まれた。
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「では――どうすべきか。今日は、それを、話し合いたい」
湊は、そう、切り出した。
「まず――外から、買うという方法が、あります」
トウが、そう、提案した。
「それは、当面の、しのぎには、なる」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「だが――それに、頼り続けるのは、危ない」
「なぜですか」
「もし――売ってくれなくなったら?」
この問いに、トウは、しばらく、答えられなかった。
「それに――もし、向こうも、不作になったら?」
湊は、そう、続けた。
「食べるものだけは――できる限り、自分たちで、作れるようにしておくべきだ」
この方針は、その場で、確認された。
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「では――どうやって、増やすか」
湊は、そう、切り出した。
「一つ、考えていることが、あります」
ナギが、そう、口を開いた。
「聞かせてくれ」
「魚です」
ナギは、そう、答えた。
「今、養殖は、河口の、囲いだけです。ですが――もっと、大きくできます」
「どれくらい?」
「今の、十倍は、可能だと思います」
湊は、この報告に、深く、興味を、示した。
「どうやる?」
「まず――囲いを、増やします。それに――沖にも、作ります」
ナギは、そう、説明した。
「それに――餌の問題も、解決できるかもしれません」
「餌?」
「はい。今は、小魚を、獲って、餌にしています。ですが――それでは、限りがあります」
ナギは、そう、続けた。
「ですが――畑の残りや、村から出る、食べ残しを、使えないかと」
湊は、この提案に、深く、感心した。
「それは、いい考えだ」
「はい。それに――サギさんに、相談したところ」
サギが、続けて、説明した。
「食べ残しを、発酵させて――魚の餌にできるかもしれません。あの、家畜の飼料と、同じ考え方です」
湊は、この提案に、深く、頷いた。
「よく、考えたな。やってみてくれ」
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「次に――畜産だ」
湊は、そう、切り出した。
「ミオ、今の飼育で、どれくらいの肉が、取れる?」
「今の頭数では――ぎりぎりです」
ミオは、そう、答えてから、続けた。
「増やしたいのですが――餌が、足りません」
「発酵の飼料は?」
「大いに、役立っています。ですが――それでも、限界があります」
湊は、この報告に、しばらく、考えを、巡らせた。
「一つ、聞きたい」
「なんでしょう」
「家畜は――人が食べられるものを、食べているか?」
この問いに、ミオは、少し、戸惑いを、見せた。
「といいますと」
「例えば――穀物だ。あれは、人も、食べられる」
湊は、そう、指摘した。
「もし――家畜が、人の食べる分を、食べているなら。それは――効率が、悪い」
ミオは、この指摘に、深く、考え込んだ。
「確かに……そうです」
「だから――人が、食べられないものを、家畜に、食べさせたい」
湊は、そう、続けた。
「例えば――草。それに、収穫の後の、茎や葉。それに――今、言った、食べ残しも」
この方針のもと、ミオは、飼料の見直しに、着手することになった。
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「そして――農地だ」
湊は、そう、切り出した。
「ミオ、まだ、広げられる土地は、あるか?」
「あります。ですが――どこも、条件が、悪いです」
ミオは、そう、答えてから、続けた。
「石が、多い。水が、足りない。あるいは――傾斜が、きつい」
湊は、この報告に、しばらく、考えを、巡らせた。
「石が、多い土地は――どうにか、ならないか」
「石を、取り除けば――使えるかもしれません。ですが、途方もない、手間です」
この時、ドウが、口を開いた。
「あの、掘削車を、使えないでしょうか」
この提案に、ミオが、はっとした表情を、見せた。
「確かに……あれなら」
「それに――土を、運ぶ車も、あります」
ドウは、そう、続けた。
「石を、掘り出して、運び去る。それなら――随分と、早く、できるはずです」
湊は、この提案に、深く、頷いた。
「なら、やろう」
湊は、そう、決断した。
「工事の車を――しばらく、農地の開墾に、回してくれ」
「ですが、湊さん」
ドウが、そう、少し、躊躇した。
「そうすると――堰や、鉄道の工事が、遅れます」
湊は、この指摘に、しばらく、沈黙した。
「かまわない」
湊は、そう、答えた。
「食べることが――何よりも、先だ」
この決断に、会議の場は、深い、静けさに、包まれた。
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「もう一つ、提案がある」
湊は、そう、切り出した。
「なんでしょう」
「あの、作物の舎を――増やそう」
「屋内の栽培、ですね」
ミオが、そう、答えた。
「そうだ。あれなら――土地の広さに、関わりなく、上に、積み上げられる」
湊は、そう、続けた。
「それに――季節にも、天候にも、左右されない」
「ですが――電気を、随分と、使います」
ミオは、そう、指摘した。
「そうだな」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「だから――堰の工事も、止めるわけには、いかない」
湊は、しばらく、考えてから、続けた。
「難しいところだ。食べ物を、増やすには、電気が、要る。だが――電気を、増やすには、工事が、要る」
この、複雑な絡み合いを、会議の場は、深く、理解していた。
「なら――優先順位を、決めよう」
湊は、そう、決断した。
「一つ。石の多い土地の開墾。これが、いちばん、早く、効く」
「二つ。魚の養殖の拡大。これも、比較的、早い」
「三つ。堰の工事。これは――止めない」
「四つ。作物の舎の増設。これは、堰が、できてから」
この、段階的な計画は、その場で、承認された。
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これらの議論の後、湊は、五年計画の、他の柱についても、状況を、確かめていった。
**半導体――レン**
「新しい工場の設計が、終わりました」
レンは、そう、報告した。
「今の、十倍の広さです。塵のない部屋も、五つ、作ります」
「よくやった」
「ただ――建設は、少し、遅れるかもしれません」
「なぜだ?」
「工事の車が、農地に、回りますから」
湊は、この指摘に、深く、頷いた。
「そうだな。すまない」
「いえ」
レンは、そう、答えてから、続けた。
「食べることが、先です。それは――当然です」
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**カラー液晶――イワ**
「量産の準備を、進めています」
イワは、そう、報告した。
「今、月に、五枚ほど。来月には――十枚を、目指します」
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**記憶の仕組み――レン**
「三線石を、組み合わせて――状態を、保つ仕組みを、作れました」
レンは、そう、報告した。
「どういうことだ?」
「電気を、通すと――そのまま、その状態を、覚えています。次に、変える指示が、来るまで」
湊は、この報告に、深く、感心した。
「それは――極めて、重要だ」
「そうなのですか」
「ああ。計算する石には――計算する部分と、覚えておく部分の、両方が、必要だ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「その、両方が、揃った。あとは――組み合わせるだけだ」
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この日の会議の後、湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。
『食料が、あとひと月で、限界に達することが判明。私の見通しが、甘かった』
『工業に目を奪われ、食べることを軽く見ていた。これは、私の間違いである』
『魚の養殖を、十倍に拡大。餌には、食べ残しの発酵物を利用』
『家畜の飼料を、人が食べられないものに、切り替える方針』
『工事の車を、農地の開墾に、優先的に回す。堰と鉄道の工事は、遅れることになる』
『食べることが、何よりも先だ』
『記憶の仕組みが完成。計算する石の、二つの要素が、揃った』
夕暮れ、湊は、畑を、見つめていた。
湊は、四十六歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十二年三ヶ月ほどが、過ぎていた。
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【第116話 時点 文明発展状況】
湊46歳/漂着後 32年3ヶ月
人口:641人(うち、この期の新生児7名、外部労働者17名)
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01 生存・サバイバル ★★★★★ 食料が限界に接近。緊急対応を開始
02 食料・農業 ★★★★☆ 石礫地の開墾に、工事車両を投入
03 畜産・動物 ★★★★☆ 飼料を、人が食べられないものへ転換
04 漁業・水産 ★★★★★ 養殖を十倍に拡大。餌に発酵残飯を利用
05 狩猟・採集 ★★★★★ 継続中
06 水・衛生 ★★★★★ 継続中
07 医療・薬学 ★★★★★ 継続中
08 住居・建築 ★★★★★ 半導体工場の設計完了。建設は遅延の見込み
09 土木・インフラ ★★★★☆ 工事車両の農地転用により、堰と鉄道が遅延
10 火・エネルギー ★★★★★ 継続中
11 鉱業・金属 ★★★★★ 継続中
12 製造・工業 ★★★★★ カラー液晶、月産五枚。来月十枚を目標
13 科学・技術 ★★★★★ 記憶回路が完成。計算機の要素が、すべて揃う
14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中
15 教育・研究 ★★★★★ 継続中
16 経済・商業 ★★★★★ 継続中
17 政治・法律・行政 ★★★★★ 食料を最優先とする方針を、明確化
18 外交・交通・情報 ★★★★★ 継続中
19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中
20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 継続中
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【次話への持ち越し】開墾の進捗、養殖の拡大、飼料転換、計算する石の統合――これらは、次話以降で確認される
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