第115話「各家に、映る」
前回の会議から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十六歳のままだった。
この間、町には、十七人が、加わっていた。うち、六人が、新生児。十一人が、外から来た労働者だった。人口は、六百十七人になっていた。
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この日の会議は、まず、五年計画の、各柱の、状況確認から、始まった。
**東の堰――ドウ**
「湊さん、掘削を、始めました」
ドウは、そう、報告した。
「順調か?」
「はい。掘削車が、三台、入っています。以前なら、半年かかった工程が――ふた月ほどで、終わりそうです」
「安全は?」
「そこは――徹底しています」
ドウは、そう、答えてから、続けた。
「作業の前に、必ず、地盤を、確かめます。それに――一日の作業時間も、決めました」
「よくやった」
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**クリーンルームの拡大――レン**
「湊さん、部屋を、四倍に、広げました」
レンは、そう、報告した。
「歩留まりは?」
「変わりません。八割五分を、保っています」
レンは、そう、答えてから、続けた。
「それに――作れる数が、四倍に、なりました。今、一日に、二十個ほど」
湊は、この報告に、深く、頷いた。
「順調だな」
「はい。ただ――」
「なんだ?」
「これ以上、広げるには――新しい建物が、必要です」
湊は、この指摘に、しばらく、考えを、巡らせた。
「なら、建てよう」
湊は、そう、決断した。
「それも――最初から、大きなものを」
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**カラー液晶――イワ**
「湊さん、大きくしてみました」
イワは、そう、報告した。
イワは、そう言って、一枚の板を、机の上に、置いた。
その板には――確かに、色のついた絵が、映っていた。前回のものより、はるかに、大きく、そして、鮮やかだった。
「これは……」
湊は、しばらくの間、その画面を、じっと、見つめていた。
「縦横、二百ずつ。四万点です」
イワは、そう、説明した。
「それに――三つの色を、一組としていますから。実際の点は、十二万個です」
湊は、この数字に、深く、驚いた。
「十二万……よく、作れたな」
「あの、塵のない部屋のおかげです」
イワは、そう、答えてから、続けた。
「以前なら――とても、無理でした」
湊は、この報告を、深く、噛み締めていた。
「イワ、これは――量産できるか?」
「今の設備では、月に、数枚が、限界です」
「なら――増やそう」
湊は、そう、決断した。
「これは――町全体に、行き渡らせたい」
この言葉に、会議の場が、ざわめいた。
「町全体に、ですか」
ケイが、そう、尋ねた。
「そうだ。各家に、一台ずつ」
この提案に、しばらく、沈黙が、続いた。
「湊さん」
やがて、ケイが、そう、口を開いた。
「以前――映像は、教育と、緊急の知らせにだけ、使うと、決めました」
「その通りだ」
「それは――変わらないのですか」
湊は、この問いに、しばらく、考えてから、答えた。
「変わらない」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「むしろ――だからこそ、各家に、置きたい」
「といいますと」
「今、教育は――学び舎に、通える者だけが、受けられる」
湊は、そう、説明した。
「だが――働いている大人は、通えない。家で、子供を、見ている者も、通えない」
湊は、そう、続けた。
「もし、各家に、あれが、あれば――誰でも、家にいながら、学べる」
この説明に、ケイは、深く、頷いた。
「なるほど……確かに、そうです」
「それに――緊急の知らせも、確実に、届く」
湊は、そう、続けた。
「今は、放送を、聞き逃せば、それまでだ。だが――映像なら、繰り返し、流せる」
この提案は、しばらくの議論の後、承認された。
だが、湊は、一つの、厳しい条件を、付け加えた。
「ただし――決まりを、作ろう」
「どんな、決まりでしょうか」
「一つ。流すのは――教えることと、知らせることだけ」
「二つ。一日に、流す時間を、決める。朝と、夕方。それぞれ、二刻ほど」
「三つ。何を、流すかは――議会が、決める。誰か一人の判断では、決めない」
この最後の条件について、湊は、特に、強調した。
「これは――極めて、大事なことだ」
湊は、そう、告げた。
「あれは、強い力を、持つ。もし――誰か一人が、自由に、使えるようになれば」
湊は、そう、続けた。
「その者は――町中の人の、考えを、操れるようになる」
この言葉に、会議の場は、深い、沈黙に、包まれた。
「わかりました」
ケイは、そう、深く、頷いた。
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**包装材――サギ**
「湊さん、薄い膜ですが」
サギは、そう、切り出した。
「実際に、食べ物を、包んでみました」
「結果は?」
「明らかに、違います」
サギは、そう、答えてから、続けた。
「包まなかったものは――三日で、傷みました。ですが――包んだものは、十日ほど、持ちました」
湊は、この報告に、深く、頷いた。
「それは、大きいな」
「はい。ただ――」
「なんだ?」
「洗って、繰り返し使うというのは――少し、難しいかもしれません」
サギは、そう、答えてから、続けた。
「薄いので――洗ううちに、破れてしまいます」
湊は、この指摘に、しばらく、考えを、巡らせた。
「なら――集めて、溶かす方を、徹底しよう」
湊は、そう、答えた。
「使い終わったものを、必ず、集める。そして――溶かして、また、膜にする」
「わかりました。仕組みを、作ります」
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**上級生による指導――ケイ**
「試してみました」
ケイは、そう、報告した。
「どうだった?」
「予想以上に、うまく、いっています」
ケイは、そう、答えてから、続けた。
「教えている子供たち自身が――随分と、真剣に、なりました」
「なぜだと思う?」
「間違ったことを、教えられないからです」
ケイは、そう、答えた。
「だから――自分でも、しっかり、確かめてから、教えるようになりました」
湊は、この報告に、深く、感心した。
「なるほど。それは、いいことだ」
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これらの報告が、終わった後。
湊は、この日の、新たな議題を、提起した。
「一つ、考えていることが、ある」
「なんでしょう」
「今、あの放送だが――」
湊は、そう、切り出した。
「何を、流している?」
ケイが、答えた。
「議会の決定。天気。鉄道の運行。それに――時々、物語の朗読を」
「なるほど」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「もし――映像が、各家に、届くようになったら。何を、流すべきだと思う?」
この問いに、しばらく、議論が、交わされた。
「まず――学び舎で、教えていることを」
ケイが、そう、提案した。
「特に――読み書きと、数の数え方。これは、大人にも、必要です」
「なるほど」
「それに――」
シラが、そう、口を開いた。
「体のことを、教えたいです」
「体のこと?」
「はい。病を、防ぐには、どうすればいいか。怪我をした時、どうすればいいか」
シラは、そう、続けた。
「そういうことを――誰もが、知っているべきだと思います」
湊は、この提案に、深く、頷いた。
「それは、いい考えだ」
さらに、ミオが、口を開いた。
「農のことも、伝えたいです」
「農を?」
「はい。今、外から来た方々の中には――農の経験が、まったく、ない方も、います」
ミオは、そう、続けた。
「でも――家の近くで、少しでも、野菜を、育てられれば。暮らしが、随分と、楽になります」
湊は、この提案にも、深く、頷いた。
「よく、考えたな」
こうして、映像で、流す内容が、少しずつ、具体的に、定まっていくことになった。
読み書き。計算。健康。農。それに――この町の、歴史。
「最後のものは――アカリに、頼もう」
湊は、そう、提案した。
「私に、ですか」
アカリは、そう、少し、驚いた表情を、見せた。
「そうだ。お前が、これまで、作ってきた、動く絵。あれを――使えないだろうか」
アカリは、しばらく、考えてから、答えた。
「わかりました。作ってみます」
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この日の会議の後、湊は、各分野の状況を、いつものように、確かめていった。
**工業――レン**:掛け算回路、完成。次は、記憶の仕組みに、着手。
**土木――ドウ**:北方鉄道、路盤工事、三割完了。
**医療――シラ**:病舎の増設、着工。
**外交――ナギ**:多国間協議まで、三ヶ月。
湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。
『東の堰、掘削開始。掘削車により、工期が三分の一に短縮の見込み』
『クリーンルームを四倍に拡大。一日二十個の生産体制に』
『カラー液晶、四万点(実質十二万点)を実現。各家庭への配備を決定』
『映像の内容は、議会が決める。一人の判断では、決めない。この原則を、強調した』
『包装材は、洗浄再利用ではなく、回収して溶かす方式に一本化』
『上級生による指導が、教える側の理解を、大きく深めている』
『映像で流す内容――読み書き、計算、健康、農、そして、この町の歴史』
夕暮れ、湊は、あの、色のついた画面を、じっと、見つめていた。
湊は、四十六歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十二年二ヶ月ほどが、過ぎていた。
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【第115話 時点 文明発展状況】
湊46歳/漂着後 32年2ヶ月
人口:617人(うち、この期の新生児6名、外部労働者11名)
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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中
02 食料・農業 ★★★★★ 包装材により、食料の保存期間が三倍に
03 畜産・動物 ★★★★★ 継続中
04 漁業・水産 ★★★★★ 継続中
05 狩猟・採集 ★★★★★ 継続中
06 水・衛生 ★★★★★ 継続中
07 医療・薬学 ★★★★★ 病舎の増設に着工。健康教育の映像化を計画
08 住居・建築 ★★★★★ 新たな半導体工場の建設を決定
09 土木・インフラ ★★★★★ 東の堰、掘削開始。北方鉄道、路盤三割完了
10 火・エネルギー ★★★★★ 継続中
11 鉱業・金属 ★★★★★ 継続中
12 製造・工業 ★★★★★ カラー液晶12万点を実現。各家庭配備へ量産開始
13 科学・技術 ★★★★★ 掛け算回路が完成。記憶の仕組みに着手
14 言語・文字・出版 ★★★★★ 映像による教育配信を決定
15 教育・研究 ★★★★★ 上級生指導が、教える側の理解を深化
16 経済・商業 ★★★★★ 継続中
17 政治・法律・行政 ★★★★★ 映像内容の決定権を、議会に限定
18 外交・交通・情報 ★★★★★ 多国間協議まで三ヶ月
19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中
20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 映像は教育と緊急用。娯楽は漫画と競技という原則を維持
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【次話への持ち越し】液晶の量産、映像教育の開始、記憶回路、半導体工場の建設――これらは、次話以降で確認される
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