第114話「塵のない部屋」
五年計画が示されてから、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十六歳のままだった。
この間、町には、十五人が、加わっていた。うち、六人が、新生児。九人が、外から来た労働者だった。人口は、六百人になっていた。
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この日の会議は、まず、五年計画の、各柱の、着手状況の確認から、始まった。
**電力・エネルギー――ドウ、レン**
「湊さん、まず、堰の件です」
ドウは、そう、切り出した。
「二つの候補地を、見つけました」
ドウは、そう言って、地図を、広げた。
「一つは、北の支流。もう一つは――東の谷です」
「どちらが、良さそうだ?」
「北のほうが、水量は、多いです。ですが――工事は、東のほうが、簡単です」
湊は、しばらく、考えを、巡らせた。
「なら――東から、始めよう」
「なぜ、ですか」
「早く、成果が、出るからだ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「大きな計画ほど――途中で、目に見える成果が、必要になる。そうでないと、みんなが、疲れてしまう」
ドウは、この説明に、深く、頷いた。
続いて、レンが、報告した。
「日の光から、電気を作る件ですが」
「進んだか?」
「まず――今ある素子を、大きくしてみました」
レンは、そう言って、板状のものを、机の上に、置いた。
「これで――どれくらいの、電気が?」
「正直に、申し上げます。ごく、わずかです」
レンは、そう、答えてから、続けた。
「この大きさで――灯りの玉を、一つ、かろうじて、点けられる程度です」
湊は、この報告に、深く、頷いた。
「それでも――大きな一歩だ」
「そうでしょうか」
「ああ。これを――百枚、千枚と、並べれば」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「それに――これから、必ず、効率は、上がる」
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**製造・工業――レン**
「湊さん、あの、塵のない部屋ですが」
レンは、そう、切り出した。
「作ってみたか」
「はい。試しに――小さな部屋を、一つ」
レンは、そう、答えてから、続けた。
「壁と、天井と、床を、すべて、隙間なく、塞ぎました。それに――入る前に、必ず、着替えて、体を、洗います」
「空気は?」
「布を、何重にも、重ねたもので、濾しています」
湊は、この説明に、深く、頷いた。
「結果は、どうだった?」
レンは、この問いに、しばらく、間を、置いた。
そして――静かに、答えた。
「変わりました」
「どう、変わった?」
「これまで――百個作って、五十個ほどしか、使えませんでした」
レンは、そう、答えてから、続けた。
「ですが――あの部屋で、作ったものは。百個中、八十五個が、使えます」
この報告に、会議の場が、大きく、ざわめいた。
「そんなに、違うのか」
「はい。私自身、驚いています」
レンは、そう、答えてから、続けた。
「塵が、これほど、影響していたとは――思ってもいませんでした」
湊は、この報告を、深く、噛み締めていた。
「レン、なら――その部屋を、もっと、大きくしよう」
「はい。それに――もっと、徹底したいと思います」
「どうする?」
「空気を、常に、流し続けます。部屋の中から、外へ。そうすれば――外の塵が、入り込みません」
湊は、この発想に、深く、感心した。
「よく、考えたな」
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**液晶の色――イワ**
「湊さん、色の件ですが」
イワは、そう、切り出した。
「進んだか?」
「はい。赤、緑、青。それぞれの色だけを、通す、薄い膜を、作ってみました」
イワは、そう言って、三枚の、小さな膜を、取り出した。
「これを――それぞれの点に、重ねます」
イワは、そう、説明した。
「そして――三つの点を、一組として、扱う。それぞれの明るさを、変えれば」
「様々な色が、出せるということか」
「はい。理屈の上では」
湊は、この報告に、深く、頷いた。
「試してみたか?」
「まだ、ごく、小さなものだけです」
イワは、そう、答えてから、一枚の板を、取り出した。
そこには――確かに、色のついた、絵が、映っていた。
湊は、しばらくの間、その絵を、じっと、見つめていた。
荒い。色も、まだ、鮮やかとは、言えない。だが――確かに、色が、ある。
「イワ……これは、素晴らしい」
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**人材育成――ケイ、ロタ**
「湊さん、育成の計画ですが」
ケイは、そう、切り出した。
「まず、今、外から来ている者たちに――聞き取りを、行いました」
「どんなことを?」
「何を、学びたいか。何が、できるようになりたいか」
ケイは、そう、答えてから、続けた。
「その結果――驚きました」
「どうした?」
「ほとんどの者が――何かを、学びたいと、答えました」
ケイは、そう、続けた。
「ただ――機会が、なかっただけだと」
湊は、この報告を、深く、受け止めた。
「そうか」
「はい。それに――特に、多かったのは」
「なんだ?」
「あの、計算する石のことです」
ケイは、そう、答えた。
「多くの者が――あれを、学びたいと」
湊は、この報告に、深く、驚いた。
「なぜだと思う?」
「わかりません。ですが――」
ケイは、そう、答えてから、続けた。
「おそらく――新しいものだからです」
ケイは、そう、続けた。
「鉄も、船も、すでに、詳しい者が、大勢います。ですが――計算する石は、まだ、誰も、詳しくない」
「なるほど」
湊は、そう、答えてから、深く、頷いた。
「つまり――誰にとっても、公平だということか」
「はい。そう思います」
湊は、この指摘を、深く、噛み締めていた。
「なら――その分野の教育を、優先しよう」
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**教育――ケイ**
「学び舎ですが――三校の建設を、始めました」
ケイは、そう、報告した。
「順調か?」
「はい。ただ――教える者が、やはり、足りません」
「養成の課程は?」
「十二名が、修了しました。ですが――まだ、まったく、足りません」
湊は、この報告に、しばらく、考えを、巡らせた。
「一つ、提案がある」
「なんでしょう」
「上の学年の子供に――下の学年を、教えさせてはどうだろう」
この提案に、ケイは、少し、驚いた表情を、見せた。
「子供が、子供を、ですか」
「そうだ。全部では、ない。ごく、基本的なことだけ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「以前、留学生に、教えることで――この町の若者自身の理解が、深まったと言っていただろう」
「確かに、そうでした」
「同じことが――起きるはずだ」
この提案は、その場で、試みることが、決定された。
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**化学工業――サギ**
「湊さん、新しい物質ですが」
サギは、そう、切り出した。
「この、ひと月で――さらに、五種類、作れました」
「どんなものだ?」
「一つは――極めて、薄く、伸ばせるものです。それに――透明で、水を、通しません」
サギは、そう、説明した。
湊は、この報告に、深く、興味を、示した。
――薄い膜。それは、食料の保存にも、使えるはずだ。
「サギ、それは――食べ物を、包むのに、使えないだろうか」
「包む、ですか」
「そうだ。空気に、触れなければ――食べ物は、長く、持つ」
この提案に、サギは、深く、興味を、示した。
「試してみます」
だが、湊は、すぐに、こう、付け加えた。
「ただし――」
「はい」
「使い捨てには、しない」
湊は、そう、告げた。
「必ず――洗って、繰り返し、使う。あるいは――集めて、溶かして、また、使う」
「わかりました」
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これらの報告が、終わった後。
湊は、この日、最後の議題を、提起した。
「一つ、みんなに、伝えておきたいことが、ある」
「なんでしょう」
「この、五年の計画だが――」
湊は、そう、切り出した。
「一つ、心配していることが、ある」
「なんでしょうか」
「急ぎすぎることだ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「これだけの、計画だ。必ず――どこかで、無理が、出る」
湊は、そう、続けた。
「その時――決して、人を、犠牲にしないでほしい」
この言葉に、会議の場が、静まり返った。
「工事を、急いで――事故が、起きる」
湊は、そう、続けた。
「あるいは――働きすぎて、体を、壊す」
湊は、そう言って、しばらく、沈黙した。
「そういうことが、あってはならない」
湊は、そう、静かに、告げた。
「計画は――遅れてもいい。でも――人を、失うことは、取り返しがつかない」
この言葉に、会議の場は、深い、静けさに、包まれた。
やがて、タギが――この頃、すでに、実務の第一線からは、退いていたが、なお、会議には、加わり続けていた老いた鍛冶師が――静かに、口を開いた。
「湊」
「なんだ、タギ」
「その言葉を――聞けて、よかった」
タギは、そう、静かに、告げた。
「俺は――レイのことを、今でも、忘れていない」
この言葉に、会議の場は、深い、沈黙に、包まれた。
「俺も、忘れていない」
湊は、そう、静かに、答えた。
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この日の会議の後、湊は、各分野の状況を、いつものように、確かめていった。
**土木――ドウ**:北方鉄道、路盤工事、着手。
**医療――シラ**:病舎の増設、計画中。
**外交――ナギ**:多国間協議まで、四ヶ月。
**経済――トウ**:五年計画のための、大規模な出資募集を、準備中。
湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。
『東の谷に、新たな堰を建設することを決定。早期に成果が見える場所から、着手する』
『太陽光発電、まだ、灯り一つ分。だが、確かな一歩』
『塵のない部屋により、半導体の歩留まりが、五割から八割五分に向上』
『色のついた表示装置の、小規模な試作に成功』
『外から来た者の多くが、計算する石を学びたいと希望。新しい分野は、誰にとっても公平だから』
『上級生が下級生を教える仕組みを、試行』
『新素材から、透明で薄い包装材を開発中。ただし、使い捨ては禁止』
『計画は遅れてもいい。人を失うことは、取り返しがつかない――そう、伝えた』
夕暮れ、湊は、あの、塵のない部屋の前を、通りかかった。
湊は、四十六歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十二年一ヶ月ほどが、過ぎていた。
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【第114話 時点 文明発展状況】
湊46歳/漂着後 32年1ヶ月
人口:600人(うち、この期の新生児6名、外部労働者9名)
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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中
02 食料・農業 ★★★★★ 継続中
03 畜産・動物 ★★★★★ 継続中
04 漁業・水産 ★★★★★ 継続中
05 狩猟・採集 ★★★★★ 継続中
06 水・衛生 ★★★★★ 継続中
07 医療・薬学 ★★★★★ 病舎の増設を計画中
08 住居・建築 ★★★★★ 学び舎三校を建設中
09 土木・インフラ ★★★★★ 東の谷に新堰を着工。北方鉄道の路盤工事に着手
10 火・エネルギー ★★★★★ 太陽光発電、灯り一つ分を実現
11 鉱業・金属 ★★★★★ 継続中
12 製造・工業 ★★★★★ クリーンルームにより、歩留まりが8割5分に。カラー液晶を試作
13 科学・技術 ★★★★★ 継続中
14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中
15 教育・研究 ★★★★★ 上級生による下級生指導を試行。半導体教育を優先
16 経済・商業 ★★★★★ 五年計画への大規模出資を準備中
17 政治・法律・行政 ★★★★★ 継続中
18 外交・交通・情報 ★★★★★ 多国間協議まで四ヶ月
19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中
20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 「人を失うことは、取り返しがつかない」を、計画の原則に
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【次話への持ち越し】東の堰の建設、クリーンルームの拡大、カラー液晶、包装材、上級生指導――これらは、次話以降で確認される
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