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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第三部 文明の礎

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115/118

第113話「五年の、絵図」

 四コマの書が町中に広まってから、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十六歳のままだった。


 この間、町には、十八人が、加わっていた。うち、六人が、新生児。十二人が、外から来た労働者だった。人口は、五百八十五人になっていた。


---


 この日の会議は、いつもと、まったく、違っていた。


 湊が、会議の始まる前から、議事堂の壁一面に、巨大な紙を、貼り出していたのだ。


 集まった者たちは、その紙を、しばらくの間、じっと、見つめていた。


 そこには――これまで、見たことのない形で、無数の項目が、線で、結ばれていた。


「湊さん、これは……」


 ケイが、そう、尋ねた。


「これから、五年の、絵図だ」


 湊は、そう、静かに、答えた。


「五年、ですか」


「そうだ」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「今日は――一つずつの課題ではなく。町全体の、進む道について、話したい」


 この言葉に、会議の場が、静まり返った。


---


「まず、一つ、確かめておきたいことが、ある」


 湊は、そう、切り出した。


「この町は――今、確かに、豊かになった」


「はい」


「だが――この豊かさは、いつまで、続くと思う?」


 この問いに、しばらく、沈黙が、続いた。


「わかりません」


 トウが、そう、答えた。


「その通りだ」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「今のまま、なんとなく、進んでいけば――どこかで、必ず、行き詰まる」


 湊は、そう、続けた。


「だから――今、決めておきたい。これから五年、何に、力を、注ぐのかを」


 湊は、そう言って、壁の紙を、指し示した。


「十二の、柱がある」


---


**一、電力・エネルギー**


「まず、これだ」


 湊は、そう、切り出した。


「なぜ、これが、最初なのですか」


 レンが、そう、尋ねた。


「すべての、土台だからだ」


 湊は、そう、答えた。


「あの、計算する石も。表示の装置も。鉄道も、電話も、工場も――全部、電気がなければ、動かない」


 湊は、そう、続けた。


「だから――まず、電気を、増やす」


 湊は、そう言って、具体的な方針を、示した。


「一つ。水力の発電を、さらに、増やす。堰を、もう二つ、作る」


「二つ。燃料を使った発電所を、建てる。水が少ない時期を、補うためだ」


「三つ。送電の線を、町全体に、隅々まで、張り巡らせる」


 そして、湊は、もう一つの構想を、付け加えた。


「四つ。日の光から、直接、電気を作る仕組みを、研究する」


 この最後の項目に、レンが、深く、興味を、示した。


「日の光から、ですか」


「そうだ。あの、光を電気に変える素子――あれを、大きく、たくさん、並べれば」


 湊は、そう、続けた。


「燃料も、水も、使わずに――電気が、生まれるはずだ」


---


**二、製造・工業**


「次は、これだ」


 湊は、そう、続けた。


「レン、正直に、聞きたい。今、あの計算する石は――どれくらい、作れる?」


「一日に、数個です」


「それでは、足りない」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「これから、五年で――一日に、数百個。それを、目指したい」


 この数字に、レンは、深く、驚いた表情を、見せた。


「百倍、ですか」


「そうだ」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「そのために――必要なことが、いくつか、ある」


 湊は、そう言って、続けた。


「一つ。あの、円い板――砂石を、薄く、円く、切ったもの。あれを、大量に、同じ品質で、作れるようにする」


「二つ。塵一つ、ない部屋を、作る」


 この二つ目に、レンが、首を、かしげた。


「塵一つ、ない部屋、ですか」


「そうだ」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「今、あの石を、作る時――失敗する原因の、多くは、塵だと思う」


「確かに……そうかもしれません」


「あれだけ、細かい模様を、作るんだ。目に見えないほどの塵でも――致命的になる」


 湊は、そう、続けた。


「だから――空気を、徹底的に、濾して。塵のない部屋を、作る」


 この提案は、レンにとって、極めて、新鮮なものだった。


「なるほど……試してみます」


 さらに、湊は、表示装置についても、方針を、示した。


「あの、液体の表示装置も――同じだ。量産できるようにする」


「それに――色も、つけたい」


「色、ですか」


 イワが、そう、尋ねた。


「そうだ。赤、緑、青。この三つの色の、濾し紙のようなものを、それぞれの点に、重ねる」


 湊は、そう、説明した。


「そうすれば――色のついた絵が、映せるはずだ」


---


**三、人口・移民**


「三つ目は、人だ」


 湊は、そう、切り出した。


「今、この町には――外から来た者が、大勢いる」


「はい」


「だが――その多くは、力仕事に、就いている」


 湊は、そう、指摘した。


「それは――もったいない」


 この言葉に、ロタが、深く、頷いた。


「私も、そう、思います」


「だから――育てよう」


 湊は、そう、続けた。


「鉄道の技術者。船の技術者。飛行の整備士。電気の技師。建築、土木、機械、半導体、化学、製薬、医療、通信、そして――計算する石の技術者」


 湊は、そう、一つ一つ、挙げていった。


「この町には――これから、そういう人が、何百人も、必要になる」


「それを――外から来た人に?」


 ケイが、そう、尋ねた。


「そうだ。というより――誰でもいい」


 湊は、そう、答えた。


「大事なのは――どこから来たかじゃない。学ぶ意志が、あるかどうかだ」


 湊は、そう、続けた。


「それに――高い教育を、受けた者には。言葉さえ、話せれば――すぐに、市民として、迎えよう」


---


**四、教育**


「四つ目は、教育だ」


 湊は、そう、続けた。


「今の学び舎は、八つ。だが――これでは、まったく、足りない」


「どれくらい、必要でしょうか」


 ケイが、そう、尋ねた。


「五年で――二十は、欲しい」


 この数字に、ケイは、深く、息を、呑んだ。


「それに――その上の学びも、必要だ」


 湊は、そう、続けた。


「今、探究の舎が、一つ、ある。だが――これも、増やしたい」


「増やす、というと」


「分野ごとに、分けよう」


 湊は、そう、答えた。


「工学。医学。理学。それに――さらに、その上の、研究のためだけの場所も」


---


**五、化学工業**


「五つ目は、化学だ」


 湊は、そう、続けた。


「サギ、今、あのナフサから――どれくらいのものが、作れる?」


「十種類ほどでしょうか」


「それを――百種類に、してほしい」


 湊は、そう、告げた。


「樹脂。薬。肥料。染料。それに――まだ、名前もついていないような、新しいものも」


---


**六から十二**


 湊は、そのまま、残りの柱についても、次々と、方針を、示していった。


 **自動車と物流**――荷を運ぶ車、人を運ぶ車を、大量に、増産する。


 **都市インフラ**――住宅、上下水道、電気、そして――燃料を、管で、各家庭に、送る仕組み。


 **計算する機械**――石だけでなく、それを組み込んだ、実際に、仕事をする機械を。


 **通信**――電話網を、声だけでなく、数や、文字も、送れる網へ。


 **航空**――飛行機の量産と、飛び場の整備。


 **金融**――輪蔵と、権利市を、さらに、発展させる。大規模な投資を、支える仕組みを。


 **医療制度**――病舎を、増やす。そして――誰もが、医療を、受けられる仕組みを。


---


 すべての説明が、終わった後。


 会議の場は、しばらくの間、深い、沈黙に、包まれていた。


「湊さん」


 やがて、ドウが、そう、口を開いた。


「なんだ?」


「これは……途方もない、計画です」


「そうだな」


 湊は、そう、静かに、答えた。


「本当に、できるのでしょうか」


 この問いに、湊は、しばらく、考えてから、答えた。


「わからない」


 湊は、そう、正直に、答えた。


「だが――一つ、確かなことが、ある」


「なんでしょう」


「この町は――俺が、思っていたより、ずっと、強い」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「紙を作るのに、半年かかった。真空を作るのに、半年かかった。計算する石は――まだ、途中だ」


 湊は、そう、続けた。


「でも――全部、できた。あるいは、できつつある」


 湊は、そう言って、集まった者たちの顔を、一人ずつ、見渡した。


「だから――今度も、できると思う」


 この言葉に、会議の場は、深い、静けさに、包まれた。


 やがて、レンが、口を開いた。


「湊さん」


「なんだ?」


「一つだけ、伺いたいのですが」


「なんだ?」


「なぜ――五年、なのですか」


 湊は、この問いに、しばらく、沈黙した。


「特に、意味は、ない」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「ただ――五年なら、見通せる。十年では、遠すぎる」


 湊は、そう、続けた。


「それに――」


 湊は、そこで、しばらく、言葉を、切った。


「俺も、いつまでも、いるわけじゃない」


 この言葉に、会議の場が、静まり返った。


「湊さん……」


「いや、そんな話じゃない」


 湊は、そう、慌てて、否定した。


「まだ、当分は、大丈夫だ。ただ――いつかは、そうなる」


 湊は、そう、続けた。


「だから――今のうちに。俺が、いなくても、進み続けられるように」


 湊は、そう言って、静かに、微笑んだ。


「そのための、五年だ」


---


 この日の会議の後、湊は、各分野の状況を、いつものように、確かめていった。


 **土木――ドウ**:飛び場、完成。北方鉄道、着工。


 **工業――レン**:掛け算回路、試作中。


 **医療――シラ**:新しい薬の運用、順調。


 **外交――ナギ**:多国間協議、次回まで、五ヶ月。


 湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。


『今後五年の、集中投資の方針を、示した。十二の柱』

『電力、製造、人材、教育、化学、自動車、都市、計算、通信、航空、金融、医療』

『特に――半導体と表示装置を、発見から量産へ。塵のない部屋という発想を、伝えた』

『外から来た者を、次世代の技術者として育てる。高等教育を受けた者には、言語習得のみで、市民権を』

『なぜ五年か、と問われた。いつまでも、私がいるわけではないからだ、と答えた』


 夕暮れ、湊は、壁に貼られた、あの巨大な絵図を、じっと、見つめていた。


 湊は、四十六歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十二年ほどが、過ぎていた。


---


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【第113話 時点 文明発展状況】

湊46歳/漂着後 32年

人口:585人(うち、この期の新生児6名、外部労働者12名)

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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中

02 食料・農業    ★★★★★ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★★ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★★ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★★★ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 五年計画に、都市インフラとして組み込み

07 医療・薬学    ★★★★★ 新薬の運用が順調。医療制度の拡充を計画

08 住居・建築    ★★★★★ 五年計画に組み込み

09 土木・インフラ  ★★★★★ 飛び場が完成。北方鉄道が着工

10 火・エネルギー  ★★★★★ 発電所増設と、太陽光発電の研究を計画

11 鉱業・金属    ★★★★★ 継続中

12 製造・工業    ★★★★★ 半導体・液晶の量産体制構築を、最重点課題に

13 科学・技術    ★★★★★ 掛け算回路を試作中

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中

15 教育・研究    ★★★★★ 学び舎20校、分野別大学院の設立を計画

16 経済・商業    ★★★★★ 大規模投資を支える金融制度の拡充を計画

17 政治・法律・行政 ★★★★★ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★★★★ 情報通信網への発展を計画

19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 継続中

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【五年計画・十二の柱】電力/製造/人材/教育/化学/自動車/都市/計算機/通信/航空/金融/医療

【次話への持ち越し】各柱の着手状況は、次話以降、順次確認される

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