第113話「五年の、絵図」
四コマの書が町中に広まってから、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十六歳のままだった。
この間、町には、十八人が、加わっていた。うち、六人が、新生児。十二人が、外から来た労働者だった。人口は、五百八十五人になっていた。
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この日の会議は、いつもと、まったく、違っていた。
湊が、会議の始まる前から、議事堂の壁一面に、巨大な紙を、貼り出していたのだ。
集まった者たちは、その紙を、しばらくの間、じっと、見つめていた。
そこには――これまで、見たことのない形で、無数の項目が、線で、結ばれていた。
「湊さん、これは……」
ケイが、そう、尋ねた。
「これから、五年の、絵図だ」
湊は、そう、静かに、答えた。
「五年、ですか」
「そうだ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「今日は――一つずつの課題ではなく。町全体の、進む道について、話したい」
この言葉に、会議の場が、静まり返った。
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「まず、一つ、確かめておきたいことが、ある」
湊は、そう、切り出した。
「この町は――今、確かに、豊かになった」
「はい」
「だが――この豊かさは、いつまで、続くと思う?」
この問いに、しばらく、沈黙が、続いた。
「わかりません」
トウが、そう、答えた。
「その通りだ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「今のまま、なんとなく、進んでいけば――どこかで、必ず、行き詰まる」
湊は、そう、続けた。
「だから――今、決めておきたい。これから五年、何に、力を、注ぐのかを」
湊は、そう言って、壁の紙を、指し示した。
「十二の、柱がある」
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**一、電力・エネルギー**
「まず、これだ」
湊は、そう、切り出した。
「なぜ、これが、最初なのですか」
レンが、そう、尋ねた。
「すべての、土台だからだ」
湊は、そう、答えた。
「あの、計算する石も。表示の装置も。鉄道も、電話も、工場も――全部、電気がなければ、動かない」
湊は、そう、続けた。
「だから――まず、電気を、増やす」
湊は、そう言って、具体的な方針を、示した。
「一つ。水力の発電を、さらに、増やす。堰を、もう二つ、作る」
「二つ。燃料を使った発電所を、建てる。水が少ない時期を、補うためだ」
「三つ。送電の線を、町全体に、隅々まで、張り巡らせる」
そして、湊は、もう一つの構想を、付け加えた。
「四つ。日の光から、直接、電気を作る仕組みを、研究する」
この最後の項目に、レンが、深く、興味を、示した。
「日の光から、ですか」
「そうだ。あの、光を電気に変える素子――あれを、大きく、たくさん、並べれば」
湊は、そう、続けた。
「燃料も、水も、使わずに――電気が、生まれるはずだ」
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**二、製造・工業**
「次は、これだ」
湊は、そう、続けた。
「レン、正直に、聞きたい。今、あの計算する石は――どれくらい、作れる?」
「一日に、数個です」
「それでは、足りない」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「これから、五年で――一日に、数百個。それを、目指したい」
この数字に、レンは、深く、驚いた表情を、見せた。
「百倍、ですか」
「そうだ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「そのために――必要なことが、いくつか、ある」
湊は、そう言って、続けた。
「一つ。あの、円い板――砂石を、薄く、円く、切ったもの。あれを、大量に、同じ品質で、作れるようにする」
「二つ。塵一つ、ない部屋を、作る」
この二つ目に、レンが、首を、かしげた。
「塵一つ、ない部屋、ですか」
「そうだ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「今、あの石を、作る時――失敗する原因の、多くは、塵だと思う」
「確かに……そうかもしれません」
「あれだけ、細かい模様を、作るんだ。目に見えないほどの塵でも――致命的になる」
湊は、そう、続けた。
「だから――空気を、徹底的に、濾して。塵のない部屋を、作る」
この提案は、レンにとって、極めて、新鮮なものだった。
「なるほど……試してみます」
さらに、湊は、表示装置についても、方針を、示した。
「あの、液体の表示装置も――同じだ。量産できるようにする」
「それに――色も、つけたい」
「色、ですか」
イワが、そう、尋ねた。
「そうだ。赤、緑、青。この三つの色の、濾し紙のようなものを、それぞれの点に、重ねる」
湊は、そう、説明した。
「そうすれば――色のついた絵が、映せるはずだ」
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**三、人口・移民**
「三つ目は、人だ」
湊は、そう、切り出した。
「今、この町には――外から来た者が、大勢いる」
「はい」
「だが――その多くは、力仕事に、就いている」
湊は、そう、指摘した。
「それは――もったいない」
この言葉に、ロタが、深く、頷いた。
「私も、そう、思います」
「だから――育てよう」
湊は、そう、続けた。
「鉄道の技術者。船の技術者。飛行の整備士。電気の技師。建築、土木、機械、半導体、化学、製薬、医療、通信、そして――計算する石の技術者」
湊は、そう、一つ一つ、挙げていった。
「この町には――これから、そういう人が、何百人も、必要になる」
「それを――外から来た人に?」
ケイが、そう、尋ねた。
「そうだ。というより――誰でもいい」
湊は、そう、答えた。
「大事なのは――どこから来たかじゃない。学ぶ意志が、あるかどうかだ」
湊は、そう、続けた。
「それに――高い教育を、受けた者には。言葉さえ、話せれば――すぐに、市民として、迎えよう」
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**四、教育**
「四つ目は、教育だ」
湊は、そう、続けた。
「今の学び舎は、八つ。だが――これでは、まったく、足りない」
「どれくらい、必要でしょうか」
ケイが、そう、尋ねた。
「五年で――二十は、欲しい」
この数字に、ケイは、深く、息を、呑んだ。
「それに――その上の学びも、必要だ」
湊は、そう、続けた。
「今、探究の舎が、一つ、ある。だが――これも、増やしたい」
「増やす、というと」
「分野ごとに、分けよう」
湊は、そう、答えた。
「工学。医学。理学。それに――さらに、その上の、研究のためだけの場所も」
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**五、化学工業**
「五つ目は、化学だ」
湊は、そう、続けた。
「サギ、今、あのナフサから――どれくらいのものが、作れる?」
「十種類ほどでしょうか」
「それを――百種類に、してほしい」
湊は、そう、告げた。
「樹脂。薬。肥料。染料。それに――まだ、名前もついていないような、新しいものも」
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**六から十二**
湊は、そのまま、残りの柱についても、次々と、方針を、示していった。
**自動車と物流**――荷を運ぶ車、人を運ぶ車を、大量に、増産する。
**都市インフラ**――住宅、上下水道、電気、そして――燃料を、管で、各家庭に、送る仕組み。
**計算する機械**――石だけでなく、それを組み込んだ、実際に、仕事をする機械を。
**通信**――電話網を、声だけでなく、数や、文字も、送れる網へ。
**航空**――飛行機の量産と、飛び場の整備。
**金融**――輪蔵と、権利市を、さらに、発展させる。大規模な投資を、支える仕組みを。
**医療制度**――病舎を、増やす。そして――誰もが、医療を、受けられる仕組みを。
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すべての説明が、終わった後。
会議の場は、しばらくの間、深い、沈黙に、包まれていた。
「湊さん」
やがて、ドウが、そう、口を開いた。
「なんだ?」
「これは……途方もない、計画です」
「そうだな」
湊は、そう、静かに、答えた。
「本当に、できるのでしょうか」
この問いに、湊は、しばらく、考えてから、答えた。
「わからない」
湊は、そう、正直に、答えた。
「だが――一つ、確かなことが、ある」
「なんでしょう」
「この町は――俺が、思っていたより、ずっと、強い」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「紙を作るのに、半年かかった。真空を作るのに、半年かかった。計算する石は――まだ、途中だ」
湊は、そう、続けた。
「でも――全部、できた。あるいは、できつつある」
湊は、そう言って、集まった者たちの顔を、一人ずつ、見渡した。
「だから――今度も、できると思う」
この言葉に、会議の場は、深い、静けさに、包まれた。
やがて、レンが、口を開いた。
「湊さん」
「なんだ?」
「一つだけ、伺いたいのですが」
「なんだ?」
「なぜ――五年、なのですか」
湊は、この問いに、しばらく、沈黙した。
「特に、意味は、ない」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「ただ――五年なら、見通せる。十年では、遠すぎる」
湊は、そう、続けた。
「それに――」
湊は、そこで、しばらく、言葉を、切った。
「俺も、いつまでも、いるわけじゃない」
この言葉に、会議の場が、静まり返った。
「湊さん……」
「いや、そんな話じゃない」
湊は、そう、慌てて、否定した。
「まだ、当分は、大丈夫だ。ただ――いつかは、そうなる」
湊は、そう、続けた。
「だから――今のうちに。俺が、いなくても、進み続けられるように」
湊は、そう言って、静かに、微笑んだ。
「そのための、五年だ」
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この日の会議の後、湊は、各分野の状況を、いつものように、確かめていった。
**土木――ドウ**:飛び場、完成。北方鉄道、着工。
**工業――レン**:掛け算回路、試作中。
**医療――シラ**:新しい薬の運用、順調。
**外交――ナギ**:多国間協議、次回まで、五ヶ月。
湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。
『今後五年の、集中投資の方針を、示した。十二の柱』
『電力、製造、人材、教育、化学、自動車、都市、計算、通信、航空、金融、医療』
『特に――半導体と表示装置を、発見から量産へ。塵のない部屋という発想を、伝えた』
『外から来た者を、次世代の技術者として育てる。高等教育を受けた者には、言語習得のみで、市民権を』
『なぜ五年か、と問われた。いつまでも、私がいるわけではないからだ、と答えた』
夕暮れ、湊は、壁に貼られた、あの巨大な絵図を、じっと、見つめていた。
湊は、四十六歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十二年ほどが、過ぎていた。
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【第113話 時点 文明発展状況】
湊46歳/漂着後 32年
人口:585人(うち、この期の新生児6名、外部労働者12名)
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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中
02 食料・農業 ★★★★★ 継続中
03 畜産・動物 ★★★★★ 継続中
04 漁業・水産 ★★★★★ 継続中
05 狩猟・採集 ★★★★★ 継続中
06 水・衛生 ★★★★★ 五年計画に、都市インフラとして組み込み
07 医療・薬学 ★★★★★ 新薬の運用が順調。医療制度の拡充を計画
08 住居・建築 ★★★★★ 五年計画に組み込み
09 土木・インフラ ★★★★★ 飛び場が完成。北方鉄道が着工
10 火・エネルギー ★★★★★ 発電所増設と、太陽光発電の研究を計画
11 鉱業・金属 ★★★★★ 継続中
12 製造・工業 ★★★★★ 半導体・液晶の量産体制構築を、最重点課題に
13 科学・技術 ★★★★★ 掛け算回路を試作中
14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中
15 教育・研究 ★★★★★ 学び舎20校、分野別大学院の設立を計画
16 経済・商業 ★★★★★ 大規模投資を支える金融制度の拡充を計画
17 政治・法律・行政 ★★★★★ 継続中
18 外交・交通・情報 ★★★★★ 情報通信網への発展を計画
19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中
20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 継続中
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【五年計画・十二の柱】電力/製造/人材/教育/化学/自動車/都市/計算機/通信/航空/金融/医療
【次話への持ち越し】各柱の着手状況は、次話以降、順次確認される
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