第112話「四コマの、はじまり」
多国間協議と、市民権の改正から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十六歳のままだった。
この間、村には――正確には、この頃には「町」と呼ぶべき規模になっていたこの共同体には――十六人が、加わっていた。うち、五人が、新生児。十一人が、新たに、外から働きに来た者たちだった。併合した北方集落を含め、人口は、五百六十七人になっていた。
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この日の会議は、まず、前回の課題の、確認から、始まった。
**併合集落との統合――ロタ**
「湊さん、北の集落ですが」
ロタは、そう、切り出した。
「どうだ、様子は」
「思ったより、うまく、いっています」
ロタは、そう、答えてから、続けた。
「あちらの人々は――自分たちで、日々のことを、決められることに、安心しているようです」
「それは、よかった」
「ただ――一つ、大きな問題が」
「なんだ?」
「行き来が、大変です」
ロタは、そう、答えた。
「歩けば、丸一日。自走車でも、半日は、かかります」
湊は、この報告に、深く、頷いた。
「そうか。それは――繋げるしかないな」
「といいますと」
「鉄道だ。それに――道も」
この提案に、ドウが、反応した。
「北への路線は――すでに、測量が、終わっています」
「なら、着工しよう」
湊は、そう、決断した。
だが、ここで、湊は、一つの、重要な方針を、示した。
「ただし――労働は、あちらの人々に、担ってもらおう」
「といいますと」
「こちらからは――資金と、技術だけを、出す」
湊は、そう、説明した。
「実際に、掘り、敷き、建てるのは――あちらの人々だ」
この方針に、ロタが、少し、疑問を、示した。
「なぜ、ですか。こちらから、人を、送ったほうが、早いのでは」
「早いだろう」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「だが――それでは、あちらの人々にとって、この鉄道は『よそから、与えられたもの』になる」
湊は、そう、続けた。
「自分たちで、作れば――自分たちのものになる。それに――技術も、身につく」
ロタは、この説明に、深く、納得した表情を、見せた。
「なるほど。確かに、そうですね」
この方針のもと、北方への鉄道と、道路の建設が、着工されることになった。
同時に、送電線の敷設も、同じ方式で、進められることになった。
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**大型船の運用――ナギ**
「進水した船ですが」
ナギは、そう、報告した。
「試しに、河口の沖まで、出してみました」
「どうだった?」
「素晴らしいです」
ナギは、そう、答えてから、続けた。
「これまでの船とは――安定感が、まるで、違います。多少の波なら、ほとんど、揺れません」
「積める量は?」
「これまでの、五倍以上です」
湊は、この報告に、深く、頷いた。
「よくやった」
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**地球の大きさ――探究の舎**
「湊さん、計算が、終わりました」
若い研究者が、そう、報告した。
「結果は?」
「河口と、北の集落。二つの地点で、同じ日の、同じ時刻に、棒の影を、測りました」
その研究者は、そう、説明した。
「影の長さから、角度を、求めました。二つの地点の、角度の差は――およそ、百分の一周ほどでした」
「なるほど」
「そして――二地点の距離は、およそ、一日半の道のり」
その研究者は、そう、続けた。
「ですから――この大地の、周りの長さは。その、百倍ということに、なります」
湊は、この計算を、しばらくの間、静かに、噛み締めていた。
「途方もない、大きさだな」
「はい」
その研究者は、そう、答えてから、続けた。
「私たちが、知っている土地は――その、ほんの、一部に過ぎません」
この報告は、村の人々に、深い、衝撃を、与えることになった。
この大地は、丸い。そして――途方もなく、広い。
その事実が、確かな計算によって、示されたのだ。
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これらの報告が、終わった後。
湊は、この日の、最初の議題を、提起した。
「一つ、みんなに、相談したいことが、ある」
「なんでしょう」
「議会のことだ」
湊は、そう、切り出した。
「今、代表は、五人だ。だが――町は、随分と、大きくなった」
「はい」
「それに――北の集落も、加わった」
湊は、そう、続けた。
「五人で、これだけの人々の声を、拾いきれるだろうか」
この問いに、しばらく、沈黙が、続いた。
「正直に、申し上げます」
ロタが、そう、口を開いた。
「難しいです。私の区画だけでも――百人を、超えています」
湊は、この答えに、深く、頷いた。
「なら、増やそう」
湊は、そう、決断した。
「どれくらい、でしょうか」
「十五人」
この数字に、会議の場が、ざわめいた。
「三倍、ですか」
「そうだ。それに――区画も、細かく、分け直そう」
湊は、そう、続けた。
「一人の代表が、受け持つのは――四十人ほど。それくらいが、限界だと思う」
この提案は、その場で、承認された。
次の選挙から、議会は、十五人の代表によって、構成されることになった。
さらに、湊は、もう一つの、重要な提案を、行った。
「それに――決め方も、変えたい」
「といいますと」
「今は、すべてを、議会全体で、話し合っている。だが――それでは、時間が、かかりすぎる」
湊は、そう、続けた。
「だから――分野ごとに、小さな集まりを、作ろう」
「小さな集まり?」
「そうだ。例えば――医療のことを、専門に、話し合う集まり。土木のことを、専門に、話し合う集まり」
湊は、そう、説明した。
「そこで、詳しく、検討する。そして――結論だけを、議会全体に、諮る」
この提案も、承認された。
こうして、村の議会は、より、体系的な、仕組みへと、発展していくことになった。
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この日の会議では、さらに、医療についても、大きな報告が、あった。
「湊さん、ご報告したいことが、あります」
シラが、そう、切り出した。
「聞かせてくれ」
「あの、ナフサから作られる物質を――薬に、使えないかと、試していました」
湊は、この報告に、深く、興味を、示した。
「どうだった?」
「いくつか――これまでにない、効き目のあるものが、できました」
シラは、そう言って、小さな容器を、いくつか、並べた。
「これは――痛みを、和らげるものです。これまでの薬草より、はるかに、よく効きます」
「これは――熱を、下げるものです」
「そして――これは」
シラは、そう言って、少し、間を、置いた。
「傷が、膿むのを、防ぐものです」
湊は、この最後のものに、深く、注意を、向けた。
「膿むのを、防ぐ?」
「はい。これまで――手術の後、傷が、膿んで、命を落とす方が、いました」
シラは、そう、説明した。
「ですが――これを、使った患者は。今のところ、一人も、膿んでいません」
湊は、この報告を、しばらくの間、深く、噛み締めていた。
――そうか。ついに、そこまで、たどり着いたのか。
「シラ、それは……極めて、大きな成果だ」
湊は、そう、静かに、告げた。
「ただ――一つ、警告しておきたいことが、ある」
「なんでしょう」
「そういう薬は――使いすぎると、効かなくなる」
湊は、そう、告げた。
「効かなくなる?」
「そうだ。病を、起こすものが――その薬に、慣れてしまう」
湊は、そう、説明した。
「だから――本当に、必要な時にだけ、使うこと。軽い症状に、安易に、使わないこと」
シラは、この警告を、深く、心に、刻んだ様子だった。
「わかりました。それを――決まりに、します」
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この日の会議の、最後に。
湊は、少し、照れくさそうな様子で、一つの、包みを、机の上に、置いた。
「これは?」
ケイが、そう、尋ねた。
「いや……大したものじゃない」
湊は、そう、答えてから、その包みを、開いた。
中から、出てきたのは――一冊の、薄い書物だった。
ケイが、それを、手に取り、開いてみると――そこには、四つの枠に、区切られた絵が、並んでいた。
しばらくして、ケイが、声を上げて、笑い出した。
「これは……ガルさんですね」
「わかるか」
「わかりますとも」
ケイは、そう、答えてから、他の頁も、めくっていった。
そして――笑い続けた。
「湊さん、これは……随分と、たくさん、描かれましたね」
「まあ、な」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「時々、夜に、描いていたんだ。それが――随分と、溜まった」
この書物は、その後、アカリの工房で、印刷され、町中に、配られることになった。
反応は、湊の予想を、大きく、超えるものだった。
「湊さん、驚きました」
数日後、アカリが、そう、報告した。
「どうした?」
「刷った分が――全部、なくなりました」
「そんなに、か」
「はい。それに――もっと、欲しいという声が、絶えません」
湊は、この報告に、少し、戸惑いを、覚えていた。
「そんなに、面白いか」
「面白いです」
アカリは、そう、はっきりと、答えた。
「父上の描くものは――誰も、傷つけません。ただ、笑えるだけです」
アカリは、そう、続けた。
「だから――みんな、安心して、笑えるんです」
湊は、この言葉を、深く、噛み締めていた。
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この、四コマの出版をきっかけに、湊は、町の娯楽について、一つの、方針を、示した。
「一つ、考えていることが、ある」
湊は、そう、切り出した。
「なんでしょう」
「あの、動く絵の装置のことだ」
湊は、そう、続けた。
「あれは――極めて、強い力を、持っている」
「といいますと」
「見ている者を――夢中にさせる」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「だから――使い方を、間違えると、危ない」
この指摘に、会議の場が、静まり返った。
「どう、危ないのでしょうか」
アカリが、そう、尋ねた。
「一日中、あれを、見続ける者が、出てくるかもしれない」
湊は、そう、答えた。
「そうなれば――外に出なくなる。人と、話さなくなる。体を、動かさなくなる」
湊は、そう、続けた。
「それに――もっと、恐ろしいことが、ある」
「なんでしょう」
「あれで――嘘を、伝えることも、できる」
この言葉に、会議の場は、深い、沈黙に、包まれた。
「だから――俺は、こう、提案したい」
湊は、そう、切り出した。
「あの装置は――教えることと、緊急の知らせにだけ、使う」
「娯楽には、使わない、ということですか」
「そうだ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「娯楽は――紙と、体で、いい」
「紙と、体、ですか」
「そうだ。漫画を、読む。それに――体を動かして、遊ぶ」
湊は、そう、続けた。
「そのほうが――健やかだと思う」
この提案は、しばらくの議論の後、承認された。
同時に、湊は、体を動かす遊び――競技についても、提案を、行った。
「走る。跳ぶ。投げる。それに――道具を使った、様々な遊び」
湊は、そう、続けた。
「そういうものを――町全体で、楽しめる仕組みを、作れないだろうか」
この提案は、若い議会代表たちから、特に、大きな賛同を、得た。
こうして、町では、定期的な競技の集いが、開かれることになった。
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この日の会議の後、湊は、各分野の状況を、いつものように、確かめていった。
**工業――レン**:計算する石、掛け算の回路に、着手。
**土木――ドウ**:飛び場、完成間近。
**通信――ケイ**:電話が、二百台を、超えた。自動交換機、五十台分まで、拡大。
**外交――ナギ**:多国間協議、次回は、半年後。アガルで、開催予定。
湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。
『北方集落への鉄道・道路・送電線の建設に着手。資金と技術のみ提供し、労働は現地に委ねる』
『大型船の試験航海に成功。積載量は、従来の五倍以上』
『地球の周長を、影の測定から算出。私たちの知る土地は、その、ごく一部に過ぎない』
『議会代表を、五人から十五人に増員。分野別の委員会制を導入』
『ナフサから、鎮痛・解熱・抗菌の薬を創出。抗菌薬の乱用について、厳しく警告した』
『四コマの書を出版。刷った分が、すべて、なくなった』
『映像装置は、教育と緊急放送に限定。娯楽は、漫画と、体を動かす競技に』
夕暮れ、湊は、広場で、子供たちが、走り回っているのを、見つめていた。
湊は、四十六歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十一年十一ヶ月ほどが、過ぎていた。
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【第112話 時点 文明発展状況】
湊46歳/漂着後 31年11ヶ月
人口:567人(うち、この期の新生児5名、外部労働者11名)
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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中
02 食料・農業 ★★★★★ 継続中
03 畜産・動物 ★★★★★ 継続中
04 漁業・水産 ★★★★★ 大型船の運用開始
05 狩猟・採集 ★★★★★ 継続中
06 水・衛生 ★★★★★ 継続中
07 医療・薬学 ★★★★★ 鎮痛・解熱・抗菌薬を創出。乱用防止の規則も策定
08 住居・建築 ★★★★★ 継続中
09 土木・インフラ ★★★★★ 北方への鉄道・道路・送電線に着工。飛び場が完成間近
10 火・エネルギー ★★★★★ 継続中
11 鉱業・金属 ★★★★★ 継続中
12 製造・工業 ★★★★★ 掛け算回路の開発に着手
13 科学・技術 ★★★★★ 地球の周長を算出。世界観が根本的に転換
14 言語・文字・出版 ★★★★★ 四コマ漫画が、出版。完売
15 教育・研究 ★★★★★ 継続中
16 経済・商業 ★★★★★ 継続中
17 政治・法律・行政 ★★★★★ 議会を15名に増員。委員会制を導入
18 外交・交通・情報 ★★★★★ 電話200台超。次回協議は、アガルで開催
19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中
20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 娯楽を、漫画と競技に限定。映像は教育と緊急用に
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【次話への持ち越し】北方鉄道の建設、掛け算回路、飛び場の完成、競技の集い――これらは、次話以降で確認される
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