第111話「集う、七つの声」
前回の会議から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十六歳になっていた。
この間、村には、これまでにない規模の、人の出入りが、あった。多国間協議のための、来訪者たちである。
常住の人口は、四百七十一人。これに加え、一時的な滞在者が、四十名を、超えていた。
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協議の当日。
村の議事堂には、これまで、この地域で、一度も、見られたことのない光景が、広がっていた。
七つの集落から、それぞれの代表。そして、アガルからは、ミルナ。
彼らが、円形に、並べられた席に、着いていた。
「これは……不思議な光景ですね」
開会の前、ミルナが、湊に、そう、語りかけた。ミルナも、この十数年で、確かに、年を、重ねていた。
「そうですね」
「これまで――我々は、常に、一対一で、話してきました。こうして、皆が、同時に、顔を、合わせるのは」
「初めてのことです」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「だからこそ――今日は、大切な日だと、思っています」
やがて、協議が、始まった。
湊は、開会の言葉として、こう、語った。
「今日、皆さんに、集まっていただいたのは――命令するためでも、従わせるためでも、ありません」
湊は、静かに、そう、続けた。
「困った時に、助け合う。それを、話し合うためです」
この言葉に、参加者たちは、真剣な表情で、耳を、傾けていた。
「一つ、提案したいことが、あります」
湊は、そう、切り出した。
「聞かせてください」
ある集落の代表が、そう、応じた。
「もし――どこかの集落で、飢饉が、起きたとします」
湊は、そう、続けた。
「その時、他の集落が、食料を、送る。そういう、取り決めを、作れないでしょうか」
この提案に、しばらく、議論が、交わされた。
「送った分は――返してもらえるのですか」
別の集落の代表が、そう、尋ねた。
「余裕が、あれば」
湊は、そう、答えた。
「ですが――返せない時も、あるでしょう。その場合は――返さなくていい」
この答えに、参加者たちは、驚いた表情を、見せた。
「なぜ、そこまで」
「いつか――自分たちが、困る時が、来るからです」
湊は、そう、答えた。
「その時、助けてもらえる。そういう、信頼を、築くための、取り決めです」
この説明に、しばらくの沈黙が、続いた。
やがて、ミルナが、口を開いた。
「私は、賛成します」
この言葉に、会場が、ざわめいた。
「アガルは――この地域で、最も、豊かな国です。ですから――おそらく、送る側に、なることが、多いでしょう」
ミルナは、そう、続けた。
「ですが――我が国とて、いつ、何が、起きるか、わかりません」
この発言が、大きく、流れを、変えることになった。
この日、七つの集落と、アガルとの間で、初めての、相互扶助の取り決めが、結ばれることになった。
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協議は、その後、三日間にわたって、続けられた。
二日目には、交易についての、共通の取り決めが、議論された。
これまで、それぞれの集落が、独自の慣習で、取引を、行ってきた。そのため、しばしば、行き違いが、生じていた。
「共通の、決まりを、作りませんか」
トウが、そう、提案した。
「例えば――重さや、長さの、測り方を、揃える」
この提案は、極めて、実務的なものだったが、参加者たちからは、大きな賛同を、得た。
「それは、助かります」
ある集落の代表が、そう、答えた。
「我々は、常に、それで、苦労しています」
この日、共通の度量衡が、定められることになった。
三日目には、より、踏み込んだ議論が、行われた。
「一つ、伺いたいことが、あります」
北方の、小さな集落の代表が、そう、切り出した。
「なんでしょう」
「我々の集落は――今、極めて、厳しい状況にあります」
その代表は、そう、続けた。
「若い者が、次々と、村を、出て行きます。この村や、アガルへ」
「なるほど」
「このままでは――集落そのものが、消えてしまうかもしれません」
湊は、この訴えを、深く、受け止めた。
「それで――どうしたいと、お考えですか」
その代表は、しばらく、躊躇してから、答えた。
「この村の――一部にして、いただけないでしょうか」
この言葉に、会場が、大きく、ざわめいた。
湊は、しばらくの間、沈黙していた。
「それは……極めて、重い、申し出です」
湊は、そう、静かに、答えた。
「はい。わかっています」
「一つ、伺いたい」
湊は、そう、切り出した。
「あなたの集落の人々は――そのことを、承知していますか」
「話し合いました」
その代表は、そう、答えた。
「反対する者も、いました。ですが――最終的には、多くが、賛成しました」
湊は、この答えを、深く、受け止めた。
「わかりました」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「ただ――この場で、答えることは、できません」
「といいますと」
「私一人の、判断では、決められないからです」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「この村に、持ち帰り――議会で、話し合わせてください」
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協議が、終わった後。
湊は、直ちに、議会を、招集した。
この議論は、これまでにない、慎重なものと、なった。
「受け入れるべきか、否か」
湊は、そう、切り出した。
「まず――受け入れた場合、何が、起きるか。それを、考えたい」
ロタが、真っ先に、口を開いた。
「あちらの人々は――この村の一員に、なります。つまり――同じ権利を、持つことになります」
「その通りだ」
「ですが――あちらには、あちらの、慣習が、あります。それを、どうするか」
湊は、この指摘を、深く、受け止めた。
「良い問いだ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「俺の考えを、言おう」
「はい」
「基本の書に、反しない限り――それぞれの慣習は、残していい」
湊は、そう、続けた。
「同じにする必要は、ない。ただ――誰かの暮らしを、脅かすようなものは、認めない」
この方針は、しばらくの議論の後、承認された。
こうして、村は、初めて、他の集落を、その一部として、受け入れることになった。
ただし、その集落には、大幅な自治が、認められることになった。日々のことは、その集落の人々が、自ら、決める。村全体に関わることだけを、議会に、諮る。
「これは――大きな一歩だな」
議会の後、ケイが、そう、つぶやいた。
「そうだな」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「だが――同時に、大きな責任でもある」
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この、集落の併合をめぐる議論は、村に、もう一つの、根本的な問いを、突きつけることになった。
ある日の会議で、ロタが、この問いを、提起した。
「湊さん、一つ、伺いたいことが、あります」
「なんだ?」
「今、この村には――外から来て、働いている者が、六十名以上、います」
ロタは、そう、切り出した。
「それに――留学生も、二十名近く」
「そうだな」
「その人たちは――この村の、一員なのでしょうか」
この問いに、会議の場が、静まり返った。
「といいますと」
トウが、そう、尋ねた。
「例えば――選挙です」
ロタは、そう、答えた。
「その人たちには、投票の権利が、ありません」
湊は、この指摘を、深く、受け止めた。
「なるほど」
「ですが――その人たちも、この村で、働き、暮らし、税を、納めています」
ロタは、そう、続けた。
「なのに――村のことを、決める場に、加われません。それは――正しいのでしょうか」
この問いは、会議の場に、深い、沈黙を、もたらした。
やがて、ガルが、口を開いた。
「難しい問題だな」
ガルは、そう、つぶやいた。
「もし――来たばかりの者に、すぐ、権利を、与えれば。この村のことを、よく知らないまま、決めることになる」
「その通りです」
ロタは、そう、答えた。
「ですから――条件を、設けるべきだと思います」
「どんな条件だ?」
「例えば――一定の年数、この村で、暮らしていること」
ロタは、そう、答えてから、続けた。
「それに――村の言葉を、話せること。基本の書を、読んで、理解していること」
湊は、この提案を、深く、考え込んでいた。
「ロタ」
やがて、湊は、そう、口を開いた。
「はい」
「お前は――外から来た者だ」
「はい」
「その上で、聞きたい。この提案は――外から来た者にとって、公平だと思うか」
ロタは、しばらく、考えてから、答えた。
「公平だと思います」
ロタは、そう、答えてから、続けた。
「私自身――この村に来て、しばらくは、何も、わかりませんでした。あの頃の私に、村のことを、決める権利を、与えられても――正しい判断は、できなかったでしょう」
ロタは、そう、続けた。
「ですが――今は、違います。この村のことを、自分のことのように、考えています」
湊は、この言葉に、深く、頷いた。
「わかった」
この提案は、その後、慎重な議論を経て、承認された。
村に、五年以上、暮らしていること。村の言葉を、話せること。基本の書を、理解していること。この三つを、満たした者には――出自を問わず、村の一員としての、すべての権利が、与えられる。
この決定は、直ちに、基本の書の改正として、全住民投票に、諮られることになった。
投票の日。
湊は、投票の前に、集まった人々の前で、こう、語った。
「今日、皆に、決めてもらうことは――この村が、誰のものかということです」
湊は、静かに、そう、続けた。
「昔から、ここにいる者だけの、ものでしょうか。それとも――ここで、暮らし、働く、すべての人の、ものでしょうか」
この投票の結果、この改正は、圧倒的多数の賛成をもって、承認された。
その日のうちに、これまで、村の一員と、認められていなかった、五十名以上の人々が――正式に、村の一員と、なった。
その中には、ロタも、含まれていた。
「湊さん」
その夜、ロタが、湊のもとを、訪ねてきた。
「どうした?」
「ありがとうございます」
ロタは、そう、深く、頭を下げた。
湊は、静かに、首を、振った。
「礼を、言うのは――こちらのほうだ」
湊は、そう、答えた。
「お前が、あの問いを、提起しなければ――俺たちは、この間違いに、気づかなかった」
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この日の会議の後、湊は、各分野の状況を、いつものように、確かめていった。
**工業――レン**:大型船、ついに、進水。
**科学――探究の舎**:影の測定、二地点で、実施完了。計算中。
**土木――ドウ**:上下水道、南住宅地、完成。
**医療――シラ**:輸血、累計十四例。
湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。
『多国間協議を、三日間にわたり開催。七集落とアガルが参加』
『相互扶助の取り決めと、共通の度量衡を、決定』
『北方の一集落が、この村への併合を申し出。大幅な自治を認める形で、受け入れを決定』
『五年以上の居住、言語の習得、基本の書の理解――この三条件を満たす者に、出自を問わず、すべての権利を認める改正を、全住民投票で承認』
『五十名以上が、新たに、村の一員となった。ロタも、その一人』
『この村は、誰のものか。その問いに、村の人々自身が、答えを出した』
夕暮れ、湊は、議事堂の窓から、村を、見つめていた。
湊は、四十六歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十一年十ヶ月ほどが、過ぎていた。
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【第111話 時点 文明発展状況】
湊46歳/漂着後 31年10ヶ月
人口:471人+北方集落の併合分(約80名)=約551人
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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中
02 食料・農業 ★★★★★ 継続中
03 畜産・動物 ★★★★★ 継続中
04 漁業・水産 ★★★★★ 継続中
05 狩猟・採集 ★★★★★ 継続中
06 水・衛生 ★★★★★ 南住宅地の上下水道が完成
07 医療・薬学 ★★★★★ 輸血、累計十四例
08 住居・建築 ★★★★★ 継続中
09 土木・インフラ ★★★★★ 継続中
10 火・エネルギー ★★★★★ 継続中
11 鉱業・金属 ★★★★★ 継続中
12 製造・工業 ★★★★★ 大型船が、ついに進水
13 科学・技術 ★★★★★ 地球の大きさの計算に着手
14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中
15 教育・研究 ★★★★★ 継続中
16 経済・商業 ★★★★★ 共通の度量衡を、多国間で採用
17 政治・法律・行政 ★★★★★ 市民権の条件を明文化。50名以上が新たに市民に
18 外交・交通・情報 ★★★★★ 多国間協議が実現。相互扶助協定を締結。一集落を併合
19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中
20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 「この村は誰のものか」に、住民自身が答えを出した
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【次話への持ち越し】併合集落の統合、大型船の運用開始、地球の大きさの算出――これらは、次話以降で確認される
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