↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第三部 文明の礎

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
112/113

第110話「星を、数える」

 前回の会議から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十五歳から、四十六歳になろうとしていた。


 この間、村には、九人が加わっていた。うち、四人が、この村で生まれた赤ん坊。そして、五人が、外から来た労働者だった。人口は、四百六十四人になっていた。


---


 この日の会議は、まず、前回の課題の、確認から、始まった。


 **足し算の回路――レン**


「湊さん、できました」


 レンは、そう、報告した。


「本当か」


「はい。ただ――ごく、単純なものです」


 レンは、そう言って、装置を、机の上に、置いた。


「一と、一を、足すと――二になります。それだけです」


 湊は、その装置を、しばらくの間、じっと、見つめていた。


「レン、それは――決して、それだけ、じゃない」


 湊は、そう、静かに、告げた。


「といいますと」


「その仕組みを――たくさん、並べれば。大きな数の、足し算も、できるようになる」


 湊は、そう、続けた。


「それに――引き算も、掛け算も。すべて、足し算の、組み合わせで、できるはずだ」


 レンは、この言葉に、深く、驚いた表情を、見せた。


「掛け算も、ですか」


「そうだ。三に、四を、掛けるのは――三を、四回、足すのと、同じだろう」


 この説明に、レンは、しばらく、考え込んでいた。


「なるほど……確かに、そうです」


---


 **四枚羽根の飛行装置――宗**


「試作してみました」


 宗は、そう、報告した。


「飛んだのか?」


「浮きました。ですが――すぐに、傾いて、落ちてしまいます」


 宗は、そう、答えてから、続けた。


「四つの羽根の、回る速さを、常に、細かく、調整しなければ、なりません。ですが――人の手では、間に合いません」


 湊は、この報告に、深く、頷いた。


「なるほど。それは――機械に、やらせるしかないな」


「機械に、ですか」


「そうだ。傾きを、感じ取って――即座に、羽根の速さを、変える」


 湊は、そう、続けた。


「それこそ――レンたちが、今、作ろうとしているものが、必要になるかもしれない」


 この言葉に、宗と、レンが、顔を、見合わせた。


「そうか……計算する石が」


 宗は、そう、つぶやいた。


---


 **ゴムの量産――サギ**


「順調です」


 サギは、そう、報告した。


「この、ひと月で――車輪、五十個分ほどの、ゴムを、作れました」


「品質は?」


「これまでの、革と縄のものより――はるかに、優れています」


 サギは、そう、答えてから、続けた。


「特に――長持ちします。以前は、ひと月ほどで、傷んでいました。ですが、これは――半年は、持ちそうです」


---


 **ナフサの応用――サギ**


「あの、軽い成分ですが」


 サギは、そう、切り出した。


「色々と、試しています」


「何か、わかったか?」


「はい。熱を、加えたり、様々な物質と、混ぜたりすると――まったく、違うものが、できます」


 サギは、そう言って、いくつかの、試料を、並べた。


「これは、以前の、白い素材より、はるかに、硬いものです」


「これは――柔らかくて、よく、伸びます」


「そして――これは、透明で、割れにくいです」


 湊は、これらの試料を、一つ一つ、手に取って、確かめていった。


 ――そうだ。これが、プラスチックというものの、多様さだ。


「サギ、これは……大変なことだ」


 湊は、そう、静かに、告げた。


「一つの、もとから――こんなに、色々なものが、できる」


「はい。私も、驚いています」


 サギは、そう、答えてから、続けた。


「ただ――どうすれば、どんなものが、できるのか。まだ、まったく、規則が、わかりません」


「なら、それを、探ってくれ」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「それに――前にも、言ったが。これらは、土に、還らない。だから――」


「回収と、再利用ですね」


「そうだ。新しいものを、作るたびに――それも、必ず、一緒に、考えてほしい」


---


 **多国間協議――ナギ**


「湊さん、来週に、迫りました」


 ナギは、そう、報告した。


「準備は?」


「宿泊の施設は、完成しました。それに――会合の場も、整えました」


 ナギは、そう、答えてから、続けた。


「参加は、七つの集落。それに――アガルからは、ミルナ殿が、来られます」


 湊は、この報告に、深く、頷いた。


「そうか。久しぶりだな」


---


 これらの報告が、終わった後。


 湊は、この日の、最初の議題を、提起した。


「一つ、みんなに、聞きたいことが、ある」


「なんでしょう」


「あの、空の星は――何だと思う?」


 この、突然の問いに、会議の場が、静まり返った。


「星、ですか」


 ケイが、そう、尋ねた。


「そうだ。夜、空に、見える、あの光だ」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「みんなは、あれを、何だと、思っている?」


 しばらくの沈黙の後、ガルが、答えた。


「昔から――死んだ者の、魂だと、言われている」


「なるほど」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「他には?」


 アガルから来ていた、講師の一人が、口を開いた。


「我が国では――天に、開いた、無数の穴だと、考えられています」


「その向こうに、光が、あると?」


「はい。そう、伝えられています」


 湊は、これらの答えを、静かに、聞いていた。


「実は――俺は、少し、違うことを、知っている」


 湊は、そう、切り出した。


 会議の場が、ざわめいた。


「あの星は――太陽と、同じものだ」


 この言葉に、会議の場が、大きく、どよめいた。


「太陽と、同じ?」


 ケイが、そう、驚いた様子で、尋ねた。


「そうだ。ただ――途方もなく、遠い」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「だから――あんなに、小さく、見える」


 この説明に、会議の場は、しばらくの間、深い、沈黙に、包まれた。


「では――この、私たちがいる大地は」


 アガルから来た講師が、そう、尋ねた。


「丸い」


 湊は、そう、答えた。


「大きな、球だ。そして――その球が、太陽の周りを、回っている」


 この言葉に、会議の場が、再び、大きく、どよめいた。


「そんな……」


 誰かが、そう、つぶやいた。


「信じられないだろう」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「だが――確かめる方法が、ある」


「どうやって?」


「まず――海を、見てみるといい」


 湊は、そう、答えた。


「遠くから、船が、来る時。まず、帆の上のほうが、見える。船体は、後から、見えてくる」


 この説明に、ナギが、はっとした表情を、見せた。


「確かに……そうです。いつも、そう、見えます」


「もし、大地が、平らなら――船全体が、同時に、小さく、見えるはずだ」


 湊は、そう、続けた。


「だが、実際は、違う。それは――大地が、丸く、湾曲しているからだ」


 この説明に、会議の場は、深い、衝撃に、包まれていた。


「それに――もう一つ、確かめる方法が、ある」


 湊は、そう、続けた。


「離れた二つの場所で、同じ日の、同じ時刻に、棒の影を、測る」


 湊は、そう、説明した。


「もし、大地が、平らなら――影の長さは、同じはずだ。だが、丸ければ――違うはずだ」


 この提案に、探究の舎から来ていた、若い研究者たちが、深く、興味を、示した。


「それは……確かめられます」


 一人が、そう、答えた。


「河口と、北の集落なら――十分に、離れています」


 この観測は、その日から、直ちに、始められることになった。


---


 この、天文をめぐる議論は、その後、村の学問全体に、大きな波及を、もたらすことになった。


「湊さん、一つ、伺いたいのですが」


 ケイが、そう、切り出した。


「なんだ?」


「もし――大地が、丸いのなら。その大きさは、どれくらい、なのでしょうか」


 湊は、この問いに、しばらく、考えを、巡らせた。


「はっきりとは、覚えていない。だが――計算で、求められるはずだ」


「計算で?」


「そうだ。今、言った、影の測定を、使う」


 湊は、そう、説明した。


「二つの場所の、距離。そして――影の長さの、違い。この二つから――全体の大きさが、求められる」


 この説明に、ケイは、深く、興味を、示した。


「では――あの、角度と辺の比率の知識が、使えるということですね」


「その通りだ」


 湊は、そう、答えてから、深く、感慨を、覚えていた。


 かつて、日時計の影を、測るところから、始まった知識。それが――今、この大地の大きさを、測るところまで、繋がろうとしている。


---


 この日の会議では、最後に、もう一つの、実務的な議題が、扱われた。


「湊さん、労働力のことで、ご報告が」


 トウが、そう、切り出した。


「どうした?」


「今、村には、外から働きに来ている者が――およそ、六十名います」


「そんなに、いるのか」


「はい。それに――さらに、増えそうです」


 トウは、そう、答えてから、続けた。


「特に、これから――上下水道や、飛び場や、精製施設。大きな工事が、続きます」


「なら、受け入れよう」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「ただし――これまで通り、条件がある」


「はい」


「一つ。同じ仕事をする者には、同じ賃金を、払う。外から来たからといって、安くしない」


「二つ。住まいと、食事を、確実に、用意する」


「三つ。言葉を、学ぶ機会を、必ず、設ける」


 この方針は、その場で、承認された。


---


 この日の会議の後、湊は、各分野の状況を、いつものように、確かめていった。


 **医療――シラ**:輸血、累計十一例。


 **土木――ドウ**:上下水道、南住宅地の工事、七割完了。


 **工業――レン**:大型船、外板が、完成。近く、進水の予定。


 **教育――ケイ**:探究の舎、在籍六十八名。


 湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。


『足し算の回路が、完成。すべての計算は、足し算の組み合わせで、できると伝えた』

『四枚羽根の飛行装置は、制御が追いつかず、失敗。計算する石が、必要になる』

『ゴムの量産、順調。車輪の寿命が、六倍に』

『ナフサから、性質の異なる、複数の素材を作り出すことに成功』

『天体について、初めて、詳しく話した。星は太陽と同じもの。大地は球体であること』

『大地の湾曲を、船の見え方と、影の測定で、確かめる方法を提示。観測を開始』

『外部労働者の受け入れを拡大。同一賃金、住居食事の保証、言語学習の機会を、条件とした』


 夕暮れ、湊は、空を、見上げていた。


 まだ、明るい空に、一番星が、静かに、光り始めていた。


 湊は、四十六歳になった。この世界に来てから、三十一年九ヶ月ほどが、過ぎていた。


---


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【第110話 時点 文明発展状況】

湊46歳/漂着後 31年9ヶ月

人口:464人(うち、この期の新生児4名、外部労働者5名)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中

02 食料・農業    ★★★★★ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★★ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★★ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★★★ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 南住宅地の上下水道、七割完了

07 医療・薬学    ★★★★★ 輸血、累計十一例

08 住居・建築    ★★★★★ 協議用の宿泊施設が完成

09 土木・インフラ  ★★★★★ 継続中

10 火・エネルギー  ★★★★★ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★★ 継続中

12 製造・工業    ★★★★★ 加硫ゴム量産。ナフサから複数の新素材を創出

13 科学・技術    ★★★★★ 足し算回路が完成。地球球体説の検証を開始

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中

15 教育・研究    ★★★★★ 探究の舎、在籍68名。天文学が本格始動

16 経済・商業    ★★★★★ 継続中

17 政治・法律・行政 ★★★★★ 外部労働者の同一賃金原則を確立

18 外交・交通・情報 ★★★★★ 多国間協議まで、あと一週間

19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 宇宙観の転換が、村の世界認識を根本から変え始める

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【次話への持ち越し】多国間協議の開催、大型船の進水、影の測定による地球の大きさ、計算回路の発展――これらは、次話以降で確認される

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。