第110話「星を、数える」
前回の会議から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十五歳から、四十六歳になろうとしていた。
この間、村には、九人が加わっていた。うち、四人が、この村で生まれた赤ん坊。そして、五人が、外から来た労働者だった。人口は、四百六十四人になっていた。
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この日の会議は、まず、前回の課題の、確認から、始まった。
**足し算の回路――レン**
「湊さん、できました」
レンは、そう、報告した。
「本当か」
「はい。ただ――ごく、単純なものです」
レンは、そう言って、装置を、机の上に、置いた。
「一と、一を、足すと――二になります。それだけです」
湊は、その装置を、しばらくの間、じっと、見つめていた。
「レン、それは――決して、それだけ、じゃない」
湊は、そう、静かに、告げた。
「といいますと」
「その仕組みを――たくさん、並べれば。大きな数の、足し算も、できるようになる」
湊は、そう、続けた。
「それに――引き算も、掛け算も。すべて、足し算の、組み合わせで、できるはずだ」
レンは、この言葉に、深く、驚いた表情を、見せた。
「掛け算も、ですか」
「そうだ。三に、四を、掛けるのは――三を、四回、足すのと、同じだろう」
この説明に、レンは、しばらく、考え込んでいた。
「なるほど……確かに、そうです」
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**四枚羽根の飛行装置――宗**
「試作してみました」
宗は、そう、報告した。
「飛んだのか?」
「浮きました。ですが――すぐに、傾いて、落ちてしまいます」
宗は、そう、答えてから、続けた。
「四つの羽根の、回る速さを、常に、細かく、調整しなければ、なりません。ですが――人の手では、間に合いません」
湊は、この報告に、深く、頷いた。
「なるほど。それは――機械に、やらせるしかないな」
「機械に、ですか」
「そうだ。傾きを、感じ取って――即座に、羽根の速さを、変える」
湊は、そう、続けた。
「それこそ――レンたちが、今、作ろうとしているものが、必要になるかもしれない」
この言葉に、宗と、レンが、顔を、見合わせた。
「そうか……計算する石が」
宗は、そう、つぶやいた。
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**ゴムの量産――サギ**
「順調です」
サギは、そう、報告した。
「この、ひと月で――車輪、五十個分ほどの、ゴムを、作れました」
「品質は?」
「これまでの、革と縄のものより――はるかに、優れています」
サギは、そう、答えてから、続けた。
「特に――長持ちします。以前は、ひと月ほどで、傷んでいました。ですが、これは――半年は、持ちそうです」
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**ナフサの応用――サギ**
「あの、軽い成分ですが」
サギは、そう、切り出した。
「色々と、試しています」
「何か、わかったか?」
「はい。熱を、加えたり、様々な物質と、混ぜたりすると――まったく、違うものが、できます」
サギは、そう言って、いくつかの、試料を、並べた。
「これは、以前の、白い素材より、はるかに、硬いものです」
「これは――柔らかくて、よく、伸びます」
「そして――これは、透明で、割れにくいです」
湊は、これらの試料を、一つ一つ、手に取って、確かめていった。
――そうだ。これが、プラスチックというものの、多様さだ。
「サギ、これは……大変なことだ」
湊は、そう、静かに、告げた。
「一つの、もとから――こんなに、色々なものが、できる」
「はい。私も、驚いています」
サギは、そう、答えてから、続けた。
「ただ――どうすれば、どんなものが、できるのか。まだ、まったく、規則が、わかりません」
「なら、それを、探ってくれ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「それに――前にも、言ったが。これらは、土に、還らない。だから――」
「回収と、再利用ですね」
「そうだ。新しいものを、作るたびに――それも、必ず、一緒に、考えてほしい」
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**多国間協議――ナギ**
「湊さん、来週に、迫りました」
ナギは、そう、報告した。
「準備は?」
「宿泊の施設は、完成しました。それに――会合の場も、整えました」
ナギは、そう、答えてから、続けた。
「参加は、七つの集落。それに――アガルからは、ミルナ殿が、来られます」
湊は、この報告に、深く、頷いた。
「そうか。久しぶりだな」
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これらの報告が、終わった後。
湊は、この日の、最初の議題を、提起した。
「一つ、みんなに、聞きたいことが、ある」
「なんでしょう」
「あの、空の星は――何だと思う?」
この、突然の問いに、会議の場が、静まり返った。
「星、ですか」
ケイが、そう、尋ねた。
「そうだ。夜、空に、見える、あの光だ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「みんなは、あれを、何だと、思っている?」
しばらくの沈黙の後、ガルが、答えた。
「昔から――死んだ者の、魂だと、言われている」
「なるほど」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「他には?」
アガルから来ていた、講師の一人が、口を開いた。
「我が国では――天に、開いた、無数の穴だと、考えられています」
「その向こうに、光が、あると?」
「はい。そう、伝えられています」
湊は、これらの答えを、静かに、聞いていた。
「実は――俺は、少し、違うことを、知っている」
湊は、そう、切り出した。
会議の場が、ざわめいた。
「あの星は――太陽と、同じものだ」
この言葉に、会議の場が、大きく、どよめいた。
「太陽と、同じ?」
ケイが、そう、驚いた様子で、尋ねた。
「そうだ。ただ――途方もなく、遠い」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「だから――あんなに、小さく、見える」
この説明に、会議の場は、しばらくの間、深い、沈黙に、包まれた。
「では――この、私たちがいる大地は」
アガルから来た講師が、そう、尋ねた。
「丸い」
湊は、そう、答えた。
「大きな、球だ。そして――その球が、太陽の周りを、回っている」
この言葉に、会議の場が、再び、大きく、どよめいた。
「そんな……」
誰かが、そう、つぶやいた。
「信じられないだろう」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「だが――確かめる方法が、ある」
「どうやって?」
「まず――海を、見てみるといい」
湊は、そう、答えた。
「遠くから、船が、来る時。まず、帆の上のほうが、見える。船体は、後から、見えてくる」
この説明に、ナギが、はっとした表情を、見せた。
「確かに……そうです。いつも、そう、見えます」
「もし、大地が、平らなら――船全体が、同時に、小さく、見えるはずだ」
湊は、そう、続けた。
「だが、実際は、違う。それは――大地が、丸く、湾曲しているからだ」
この説明に、会議の場は、深い、衝撃に、包まれていた。
「それに――もう一つ、確かめる方法が、ある」
湊は、そう、続けた。
「離れた二つの場所で、同じ日の、同じ時刻に、棒の影を、測る」
湊は、そう、説明した。
「もし、大地が、平らなら――影の長さは、同じはずだ。だが、丸ければ――違うはずだ」
この提案に、探究の舎から来ていた、若い研究者たちが、深く、興味を、示した。
「それは……確かめられます」
一人が、そう、答えた。
「河口と、北の集落なら――十分に、離れています」
この観測は、その日から、直ちに、始められることになった。
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この、天文をめぐる議論は、その後、村の学問全体に、大きな波及を、もたらすことになった。
「湊さん、一つ、伺いたいのですが」
ケイが、そう、切り出した。
「なんだ?」
「もし――大地が、丸いのなら。その大きさは、どれくらい、なのでしょうか」
湊は、この問いに、しばらく、考えを、巡らせた。
「はっきりとは、覚えていない。だが――計算で、求められるはずだ」
「計算で?」
「そうだ。今、言った、影の測定を、使う」
湊は、そう、説明した。
「二つの場所の、距離。そして――影の長さの、違い。この二つから――全体の大きさが、求められる」
この説明に、ケイは、深く、興味を、示した。
「では――あの、角度と辺の比率の知識が、使えるということですね」
「その通りだ」
湊は、そう、答えてから、深く、感慨を、覚えていた。
かつて、日時計の影を、測るところから、始まった知識。それが――今、この大地の大きさを、測るところまで、繋がろうとしている。
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この日の会議では、最後に、もう一つの、実務的な議題が、扱われた。
「湊さん、労働力のことで、ご報告が」
トウが、そう、切り出した。
「どうした?」
「今、村には、外から働きに来ている者が――およそ、六十名います」
「そんなに、いるのか」
「はい。それに――さらに、増えそうです」
トウは、そう、答えてから、続けた。
「特に、これから――上下水道や、飛び場や、精製施設。大きな工事が、続きます」
「なら、受け入れよう」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「ただし――これまで通り、条件がある」
「はい」
「一つ。同じ仕事をする者には、同じ賃金を、払う。外から来たからといって、安くしない」
「二つ。住まいと、食事を、確実に、用意する」
「三つ。言葉を、学ぶ機会を、必ず、設ける」
この方針は、その場で、承認された。
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この日の会議の後、湊は、各分野の状況を、いつものように、確かめていった。
**医療――シラ**:輸血、累計十一例。
**土木――ドウ**:上下水道、南住宅地の工事、七割完了。
**工業――レン**:大型船、外板が、完成。近く、進水の予定。
**教育――ケイ**:探究の舎、在籍六十八名。
湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。
『足し算の回路が、完成。すべての計算は、足し算の組み合わせで、できると伝えた』
『四枚羽根の飛行装置は、制御が追いつかず、失敗。計算する石が、必要になる』
『ゴムの量産、順調。車輪の寿命が、六倍に』
『ナフサから、性質の異なる、複数の素材を作り出すことに成功』
『天体について、初めて、詳しく話した。星は太陽と同じもの。大地は球体であること』
『大地の湾曲を、船の見え方と、影の測定で、確かめる方法を提示。観測を開始』
『外部労働者の受け入れを拡大。同一賃金、住居食事の保証、言語学習の機会を、条件とした』
夕暮れ、湊は、空を、見上げていた。
まだ、明るい空に、一番星が、静かに、光り始めていた。
湊は、四十六歳になった。この世界に来てから、三十一年九ヶ月ほどが、過ぎていた。
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【第110話 時点 文明発展状況】
湊46歳/漂着後 31年9ヶ月
人口:464人(うち、この期の新生児4名、外部労働者5名)
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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中
02 食料・農業 ★★★★★ 継続中
03 畜産・動物 ★★★★★ 継続中
04 漁業・水産 ★★★★★ 継続中
05 狩猟・採集 ★★★★★ 継続中
06 水・衛生 ★★★★★ 南住宅地の上下水道、七割完了
07 医療・薬学 ★★★★★ 輸血、累計十一例
08 住居・建築 ★★★★★ 協議用の宿泊施設が完成
09 土木・インフラ ★★★★★ 継続中
10 火・エネルギー ★★★★★ 継続中
11 鉱業・金属 ★★★★★ 継続中
12 製造・工業 ★★★★★ 加硫ゴム量産。ナフサから複数の新素材を創出
13 科学・技術 ★★★★★ 足し算回路が完成。地球球体説の検証を開始
14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中
15 教育・研究 ★★★★★ 探究の舎、在籍68名。天文学が本格始動
16 経済・商業 ★★★★★ 継続中
17 政治・法律・行政 ★★★★★ 外部労働者の同一賃金原則を確立
18 外交・交通・情報 ★★★★★ 多国間協議まで、あと一週間
19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中
20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 宇宙観の転換が、村の世界認識を根本から変え始める
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【次話への持ち越し】多国間協議の開催、大型船の進水、影の測定による地球の大きさ、計算回路の発展――これらは、次話以降で確認される
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