第109話「噴き出す力、新たな素材」
前回の会議から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十五歳のままだった。
この間、村には、七人が加わっていた。うち、四人が、この村で生まれた赤ん坊。三人が、留学生だった。人口は、四百五十五人になっていた。
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この日の会議は、まず、前回の課題の、確認から、始まった。
**論理の組み合わせ――レン**
「湊さん、ご指示いただいた通り、色々な組み合わせを、試しました」
レンは、そう、切り出した。
「結果は?」
「三つ、作れました」
レンは、そう言って、机の上に、三つの、小さな装置を、並べた。
「一つ目は――二つとも、電気が来た時だけ、通るもの」
「二つ目は――どちらか一方でも、電気が来れば、通るもの」
「三つ目は――電気が来ると、逆に、通らなくなるもの」
湊は、この三つを、じっと、見つめていた。
――そうだ。それが、すべての、基礎になる。
「レン、それで、十分だ」
湊は、そう、静かに、告げた。
「十分、ですか」
「ああ。その三つが、あれば――どんな複雑な計算でも、組み立てられるはずだ」
この言葉に、レンは、深く、驚いた表情を、見せた。
「たった、三つで?」
「そのはずだ。ただ――」
湊は、そう言って、続けた。
「その組み合わせ方が、途方もなく、複雑になる。何千、何万という、組み合わせが、必要になる」
レンは、この言葉に、しばらく、考え込んでいた。
「なるほど。だから――小さく、たくさん、作れることが、大事なのですね」
「その通りだ」
湊は、そう、頷いてから、続けた。
「まずは――足し算から、始めてみないか」
「足し算、ですか」
「そうだ。二つの数を、足す。それだけの仕組みを、その三つの組み合わせで、作ってみる」
この課題は、その日から、探究の舎の、中心的な取り組みと、なった。
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**自動電話交換――ケイ**
「試作の装置が、できました」
ケイは、そう、報告した。
「動くのか?」
「はい。ただ――まだ、十台分だけです」
ケイは、そう、答えてから、続けた。
「それに――番号を、入れる仕組みが、扱いにくいです」
「どうしている?」
「今は、小さな棒を、決まった数だけ、押しています。ですが――間違えやすくて」
湊は、この報告に、しばらく、考えを、巡らせた。
「回す仕組みは、どうだろう」
「回す、ですか」
「そうだ。円い板に、穴を、開ける。それぞれの穴に、数字を、書いておく」
湊は、そう、説明した。
「その穴に、指を、入れて――ぐるりと、回す。戻る時に、その数だけ、信号が、送られる」
ケイは、この構想に、深く、興味を、示した。
「それは、わかりやすいですね」
「それに――間違えにくいはずだ」
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**飛び場――ドウ**
「土地の造成を、始めました」
ドウは、そう、報告した。
「掘削車が、大いに、役立っています。人力なら、半年かかるところが――ふた月ほどで、終わりそうです」
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**有人飛行の追加試験――宗**
「あれから、四回、試しました」
宗は、そう、報告した。
「すべて、成功か?」
「三回は、成功しました。ですが――一回、失敗しました」
湊は、この報告に、深く、注意を、向けた。
「何が、あった?」
「途中で、風が、急に、強くなりました。それで――操れなくなって、落ちました」
宗は、そう、答えてから、続けた。
「装置は、壊れました。ですが――もし、人が、乗っていたら」
湊は、この報告を、深く、噛み締めていた。
「そうか」
「はい。ですから――風の強い日には、飛ばさない。それを、決まりに、します」
宗は、そう、答えてから、続けた。
「それに――もっと、風に強い形を、探ります」
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**精製施設――レン、サギ**
「新しい施設の設計が、終わりました」
サギが、そう、報告した。
「安全の備えは?」
「これまで以上に、厳重にしました」
サギは、そう、答えてから、続けた。
「それに――一つ、報告したいことが、あります」
「なんだ?」
「精製の過程で――これまで、注目していなかった成分が、あることに、気づきました」
サギは、そう言って、小さな容器を、机の上に、置いた。
中には、透明な、揮発性の高そうな液体が、入っていた。
「これは?」
「燃料より、軽い成分です。これまでは――一緒に、燃料として、扱っていました」
サギは、そう、説明した。
「ですが――これだけを、取り出してみると。まったく、違う性質を、持っています」
湊は、この報告に、深く、身を、乗り出した。
――ナフサ。確か、あらゆる化学製品の、もとになるものだ。
「サギ、これは……極めて、重要かもしれない」
「といいますと」
「これから――色々なものが、作れるはずだ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「あの、白い素材も。それに――俺の記憶では、もっと、多くのものが」
サギは、この言葉に、深く、興味を、示した。
「どんなものが、でしょうか」
「それが――わからない」
湊は、正直に、そう、答えた。
「ただ――色々なものの、もとになる。それだけは、覚えている」
この報告を受けて、この成分の性質を、詳しく、調べることが、探究の舎の、新たな課題と、なった。
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これらの報告が、終わった後。
湊は、この日の、最初の議題を、提起した。
「宗、一つ、聞きたいことが、ある」
「なんでしょう」
「今の飛行装置は――どうやって、進んでいる?」
「螺旋の羽根を、回しています」
「その速さには――限りがあるだろう」
湊は、そう、指摘した。
「はい。羽根の先が、あまりに、速くなると――かえって、効率が、落ちるようです」
宗は、そう、答えた。
「それは、なぜだと思う?」
「わかりません。ですが――何か、限界が、あるようです」
湊は、この答えに、深く、頷いた。
「その通りだ。俺も、なぜかは、わからない。だが――限界が、あるはずだ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「だから――別の方法が、あるかもしれない」
「別の方法、ですか」
「そうだ。空気を、後ろに、勢いよく、噴き出す。その反動で、進む」
この説明に、宗は、しばらく、考え込んでいた。
「どうやって、噴き出すのですか」
「前から、空気を、吸い込む。それを、押し縮めて――燃料を、混ぜて、燃やす」
湊は、そう、説明した。
「燃えると、空気は、勢いよく、膨らむ。それを――後ろから、噴き出させる」
宗は、この構想に、深く、興味を、示した。
「面白いです。ですが――随分と、難しそうです」
「そうだろう。俺も、詳しくは、わからない」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「だが――もし、それが、できたら。今とは、比べものにならない速さで、飛べるはずだ」
この、極めて、困難な課題は、長期的な研究として、着手されることになった。
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この日の会議では、さらに、二つの、実務的な議題が、扱われた。
最初は、小型の飛行装置についてだった。
「湊さん、一つ、思いついたことが、あります」
宗が、そう、切り出した。
「なんだ?」
「今の飛行装置は――翼で、浮いています」
「そうだな」
「ですが――もし、螺旋の羽根を、上向きに、付けたら」
湊は、この構想に、深く、興味を、示した。
「その場で、浮くということか」
「はい。それに――四つ、付ければ。それぞれの回る速さを、変えることで、傾きも、操れるはずです」
湊は、この発想に、深く、感心した。
――そうだ。それが、確か、ドローンという仕組みだった。
「宗、それは――いい考えだ」
「試してみます」
「それに――もし、それが、できれば」
湊は、そう、続けた。
「狭い場所でも、飛ばせる。滑走する場所も、要らない」
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二つ目の議題は、タイヤについてだった。
「湊さん、車のことで、ご相談が」
レンが、そう、切り出した。
「なんだ?」
「今、車輪には、あの、革と縄を巻いたものを、使っています」
「そうだな」
「ですが――車の数が、増えるにつれて。作るのが、追いつきません」
レンは、そう、説明した。
「それに――速く走ると、すぐに、傷みます」
湊は、この報告に、深く、頷いた。
「あの、弾む木の実の樹液は、使えないだろうか」
「ゴムですか」
「そうだ。あれを――もっと、丈夫にできないか」
この課題に、サギが、答えた。
「実は――一つ、試していることが、あります」
「なんだ?」
「あの樹液に、硫黄を、混ぜて、熱してみました」
サギは、そう、答えてから、続けた。
「そうすると――弾力を、保ったまま、はるかに、丈夫になります」
湊は、この報告に、深く、驚いた。
――そうだ。加硫。それが、ゴムを、実用的なものに、変える技術だった。
「サギ、それは……大変な発見だ」
「そうなのですか」
「ああ。それを――量産できるようにしてくれ」
この、ゴムの本格的な生産は、その日から、着手されることになった。
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この日の会議の後、湊は、各分野の状況を、いつものように、確かめていった。
**医療――シラ**:輸血、累計八例。
**外交――ナギ**:多国間協議まで、あと、ひと月。
**工業――レン**:大型船の外板、八割が、完了。
**経済――トウ**:権利市、安定。
**教育――ケイ**:探究の舎、在籍六十三名。
湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。
『レンが、三種類の論理素子を実現。これで、あらゆる計算が組み立てられるはず』
『足し算の回路を、次の課題とした』
『自動交換機に、回転式の番号入力を提案』
『宗の飛行試験、四回中三回が成功。一回は、強風により墜落。風の強い日の飛行を、禁止した』
『サギが、燃料より軽い成分を分離。あらゆる化学製品のもとになる可能性』
『空気を噴き出して進む機関を、長期課題として着手』
『上向きの羽根を四つ持つ、小型飛行装置を、宗が構想』
『サギが、樹液に硫黄を混ぜることで、丈夫なゴムを実現。量産に着手』
夕暮れ、湊は、あの、透明な液体の容器を、じっと、見つめていた。
湊は、四十五歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十一年八ヶ月ほどが、過ぎていた。
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【第109話 時点 文明発展状況】
湊45歳/漂着後 31年8ヶ月
人口:455人(うち、この期の新生児4名、留学生3名)
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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中
02 食料・農業 ★★★★★ 継続中
03 畜産・動物 ★★★★★ 継続中
04 漁業・水産 ★★★★★ 継続中
05 狩猟・採集 ★★★★★ 継続中
06 水・衛生 ★★★★★ 継続中
07 医療・薬学 ★★★★★ 輸血、累計八例
08 住居・建築 ★★★★★ 継続中
09 土木・インフラ ★★★★★ 飛び場の造成が、掘削車により大幅に加速
10 火・エネルギー ★★★★★ ナフサに相当する成分を分離
11 鉱業・金属 ★★★★★ 継続中
12 製造・工業 ★★★★★ 加硫ゴムの量産に着手
13 科学・技術 ★★★★★ 論理素子三種を実現。噴射推進の研究に着手
14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中
15 教育・研究 ★★★★★ 探究の舎、在籍63名
16 経済・商業 ★★★★★ 継続中
17 政治・法律・行政 ★★★★★ 継続中
18 外交・交通・情報 ★★★★★ 自動交換機が試作段階。多国間協議まで一ヶ月
19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中
20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 継続中
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【次話への持ち越し】足し算回路、四枚羽根の小型飛行装置、ゴムの量産、ナフサの応用、多国間協議の開催――これらは、次話以降で確認される
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