第108話「空を、渡り切る」
前回の会議から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十五歳のままだった。
この間、村には、九人が加わっていた。うち、五人が、この村で生まれた赤ん坊。四人が、留学生だった。人口は、四百四十八人になっていた。
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この日の会議は、いつもと、少し、違っていた。
宗が、会議の始まる前から、そわそわとした様子で、部屋の隅に、立っていたのだ。
「宗、どうした」
湊が、そう、声をかけると、宗は、少し、緊張した面持ちで、答えた。
「父上、今日は――ご報告したいことが、あります」
「聞かせてくれ」
会議が始まると、宗は、真っ先に、立ち上がった。
「三日前、試験を、行いました」
「飛行の、か」
「はい」
宗は、そう、答えてから、続けた。
「人が、乗れる大きさのものです。ただし――人は、乗せていません」
湊は、この報告に、深く、身を、乗り出した。
「結果は?」
「飛びました」
宗は、そう、答えてから、しばらく、間を、置いた。
「それも――村から、河口まで」
この言葉に、会議の場が、大きく、ざわめいた。
「河口まで、だと?」
ガルが、そう、驚いた様子で、尋ねた。
「はい」
宗は、そう、答えてから、続けた。
「無線で、操りながら――一刻ほどかけて、飛び続けました。そして――河口の砂浜に、無事、降りました」
湊は、この報告を、しばらくの間、静かに、噛み締めていた。
「宗」
「はい」
「よく、やった」
湊は、そう、静かに、告げた。
「これまで、何度、失敗した?」
宗は、しばらく、考えてから、答えた。
「数えていません。ですが――少なくとも、三十回以上は」
「そうか」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「その、三十回が――今日に、繋がったんだな」
宗は、この言葉に、深く、頷いた。
「それで――人を、乗せるのは」
湊が、そう、尋ねると、宗は、少し、慎重な表情に、なった。
「まだです」
宗は、そう、答えた。
「今回、うまく、いきました。ですが――一度、成功したからといって、次も、成功するとは、限りません」
宗は、そう、続けた。
「あと、十回。同じことを、繰り返して。すべて、成功してから――初めて、人を、乗せます」
湊は、この答えに、深い、満足を、覚えていた。
「それが、正しい」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「焦らなくていい。何年、かかってもいい」
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この報告を受けて、会議では、新たな議題が、提起された。
「湊さん、一つ、ご相談が」
ドウが、そう、切り出した。
「なんだ?」
「もし――人を乗せた飛行が、実現するとすれば」
「ああ」
「降りる場所が、必要になります」
湊は、この指摘に、深く、頷いた。
「そうだな。今は、砂浜に、降りている」
「はい。ですが――それでは、危ないですし、天候にも、左右されます」
ドウは、そう、続けた。
「平らで、硬い、まっすぐな場所を――作っておくべきだと思います」
この提案は、その場で、承認された。
村の外れ、比較的、平坦な一帯に、飛行のための場所――「飛び場」と呼ばれることになる施設の建設が、決定された。
「どれくらいの、長さが、必要だ?」
湊の問いに、宗が、答えた。
「今の装置なら――五十歩ほどで、浮きます。ですが、人を乗せて、重くなれば――もっと、必要でしょう」
「なら、余裕を、持たせよう」
湊は、そう、決断した。
「二百歩。それだけあれば――十分だろう」
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これらの報告が、終わった後。会議は、いつものように、各課題の確認へと、進んでいった。
**計算する石――レン**
「湊さん、まず、ご報告ですが」
レンは、そう、切り出した。
「進んでいません」
この、率直な報告に、湊は、静かに、頷いた。
「そうか」
「はい。正直に、申し上げます。何から、始めればいいのかも――まだ、わかりません」
レンは、そう、答えてから、続けた。
「ただ――一つ、試していることが、あります」
「なんだ?」
「三線石を、二つ、組み合わせると――面白いことが、起きます」
レンは、そう言って、小さな装置を、取り出した。
「片方に、電気を、通すと――もう片方は、通らなくなります。逆も、同じです」
湊は、この説明に、深く、身を、乗り出した。
「それは……」
――記憶にある。それは、確か、論理を、扱う仕組みの、始まりだ。
「レン、それは――極めて、重要だ」
湊は、そう、告げた。
「そうなのですか」
「ああ。それを――もっと、色々な組み合わせで、試してみてくれ」
湊は、そう、続けた。
「二つが、両方とも、通った時だけ、通る仕組み。どちらか一方でも、通れば、通る仕組み。そういうものが、作れるはずだ」
レンは、この助言を、深く、頷きながら、書き留めていった。
「やってみます」
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**自動電話交換――ケイ**
「今、交換手が、線を、繋ぎ変えています」
ケイは、そう、報告した。
「これを――機械に、できないかと」
「どうやる?」
「あの、三線石を、使います」
ケイは、そう、答えてから、続けた。
「かけたい相手の番号を――順番に、入れてもらう。その番号に応じて、機械が、線を、繋ぎ変える」
湊は、この構想に、深く、頷いた。
「それは、いい考えだ」
「はい。ただ――交換手の仕事が、なくなります」
ケイは、そう、少し、懸念を、込めて、付け加えた。
湊は、この指摘を、深く、受け止めた。
「その通りだ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「だが――以前、機械を入れた時と、同じだ。仕事を、失わせない」
湊は、そう、続けた。
「交換手の者たちには――別の仕事に、移ってもらう。それも、これまでより、悪い仕事では、ない」
湊は、しばらく、考えてから、続けた。
「例えば――放送の仕事は、どうだろう。あの者たちは、話すことに、慣れている」
ケイは、この提案に、深く、頷いた。
「それは、いい考えです」
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**用途別車両――レン**
「三種類、試作しました」
レンは、そう、報告した。
「人を運ぶもの。荷物を運ぶもの。そして――土を、掘るもの」
「掘るものは、どうだ?」
湊の問いに、ドウが、答えた。
「試してみました。驚きました」
ドウは、そう、答えてから、続けた。
「人が、十人がかりで、一日かけて掘る量を――半刻ほどで、掘ります」
湊は、この報告に、深く、感心した。
「それは、すごいな」
「はい。これがあれば――工事が、まったく、変わります」
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**上下水道――ドウ**
「南の住宅地の工事が、半分ほど、終わりました」
ドウは、そう、報告した。
「新しい素材の管は、どうだ?」
「軽くて、扱いやすいです。それに――繋ぎ目も、熱で、溶かして、繋げられます」
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これらの報告の後、湊は、新たな課題を、提起した。
「一つ、気になっていることが、ある」
「なんでしょう」
「燃料のことだ」
湊は、そう、切り出した。
「今、あの黒い液体を、どこで、精製している?」
レンが、答えた。
「村から、離れた場所です。危険ですから」
「そうだな。だが――」
湊は、そう、続けた。
「今、車が、増え続けている。それに、発電にも、使っている。今の設備で、足りるのか」
レンは、しばらく、考えてから、答えた。
「正直に、申し上げます。ぎりぎりです」
「なら――もっと、大きな設備が、必要だな」
湊は、そう、決断した。
「ただし――これまで以上に、慎重に」
湊は、そう、強調した。
「あれは、極めて、燃えやすい。もし、事故が、起きれば――取り返しが、つかない」
この、大規模な精製施設の建設は、極めて、厳格な安全基準のもとで、進められることが、決定された。
同時に、湊は、もう一つの提案を、行った。
「それに――運び方も、考え直したい」
「といいますと」
「今は、桶に入れて、車で、運んでいるだろう」
「はい」
「あれは――危ない」
湊は、そう、指摘した。
「もし、車が、事故を、起こしたら。積んでいる燃料が、一気に、燃える」
湊は、そう、続けた。
「管で、送れないだろうか」
この提案に、ドウが、答えた。
「管で、ですか」
「そうだ。精製する場所から、使う場所まで。地面の下に、管を、埋めて、送る」
この構想は、その場で、承認された。
同時に、電気についても、同様の整備が、決定された。
「送電の線も、増やそう」
湊は、そう、告げた。
「今、南の住宅地や、東の農地では、電気が、十分に、届いていない」
ドウは、この指摘に、深く、頷いた。
「はい。特に、夕方――使う人が、増える時間帯は、明かりが、弱くなります」
「なら――太い線を、通そう。それに、途中に、電気を、蓄える場所も」
この、大規模な、燃料と電気の供給網の整備は、村にとって、これまでで、最も、大きな基盤事業の一つと、なることが、予想された。
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この日の会議の後、湊は、各分野の状況を、いつものように、確かめていった。
**医療――シラ**:輸血、累計五例。すべて、成功。
**外交――ナギ**:多国間協議まで、あと、ふた月。
**工業――レン**:大型船の外板、取り付け開始。
**教育――ケイ**:学び舎、五校すべて、完成。
**経済――トウ**:輪の流通量、千六百枚。
湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。
『宗の飛行装置が、村から河口まで、一刻をかけて飛行。三十回以上の失敗の末』
『宗は、あと十回の成功を、人を乗せる条件とした。正しい判断である』
『飛行のための場所「飛び場」の建設を決定。二百歩の長さ』
『レンが、三線石の組み合わせで、論理の基礎に、偶然たどり着いた。より複雑な組み合わせを、指示』
『自動電話交換の開発に着手。交換手は、放送の仕事へ配置転換』
『掘削車が完成。人力の二十倍近い効率』
『大規模な精製施設と、燃料の地下パイプライン、送電線の増強を決定』
夕暮れ、湊は、村の外れの、平坦な一帯を、見つめていた。そこは、これから、飛び場となる場所だった。
湊は、四十五歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十一年七ヶ月ほどが、過ぎていた。
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【第108話 時点 文明発展状況】
湊45歳/漂着後 31年7ヶ月
人口:448人(うち、この期の新生児5名、留学生4名)
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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中
02 食料・農業 ★★★★★ 継続中
03 畜産・動物 ★★★★★ 継続中
04 漁業・水産 ★★★★★ 継続中
05 狩猟・採集 ★★★★★ 継続中
06 水・衛生 ★★★★★ 南住宅地の上下水道、半分完成
07 医療・薬学 ★★★★★ 輸血、累計五例すべて成功
08 住居・建築 ★★★★★ 学び舎五校が、すべて完成
09 土木・インフラ ★★★★★ 飛び場、パイプライン、送電線の整備に着手
10 火・エネルギー ★★★★★ 大規模精製施設の建設を決定
11 鉱業・金属 ★★★★★ 継続中
12 製造・工業 ★★★★★ 掘削車が完成。人力の二十倍の効率
13 科学・技術 ★★★★★ 論理演算の基礎に、偶然到達
14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中
15 教育・研究 ★★★★★ 学び舎五校が稼働開始
16 経済・商業 ★★★★★ 輪の流通量1600枚
17 政治・法律・行政 ★★★★★ 継続中
18 外交・交通・情報 ★★★★★ 自動電話交換の開発に着手。多国間協議まで二ヶ月
19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中
20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 空を渡る技術が、村の新たな誇りとなる
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【次話への持ち越し】論理演算の発展、自動交換機、飛び場の建設、精製施設、有人飛行の追加試験――これらは、次話以降で確認される
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