第107話「考える石を、目指して」
前回の会議から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十五歳のままだった。
この間、村には、八人が加わっていた。うち、五人が、この村で生まれた赤ん坊。三人が、留学生だった。人口は、四百三十九人になっていた。
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この日の会議は、まず、前回の課題の、確認から、始まった。
**磁気記録装置――レン**
「湊さん、あの、磁石で、記録する仕組みですが」
レンは、そう、切り出した。
「進んだのか?」
「はい。ようやく――形に、なりました」
レンは、そう言って、小さな装置を、机の上に、置いた。
そこには、薄い円盤が、据えられていた。その表面は、黒く、鈍く、光っている。
「この円盤の表面に、鉄の粉を、極めて、細かくしたものを、塗ってあります」
レンは、そう、説明した。
「そして――この、細い針で、書き込みます」
レンは、そう言って、装置を、動かしてみせた。円盤が、回転し、その上を、細い腕が、静かに、動いていく。
「どれくらい、記録できる?」
湊の問いに、レンは、しばらく、計算してから、答えた。
「この一枚で――およそ、あの、電子の撮影で、二十枚分ほどでしょうか」
湊は、この数字に、深く、頷いた。
「それは、大したものだ」
「はい。しかも――書き込んだものを、消して、また、書き直せます」
この報告に、会議の場が、ざわめいた。
「消せるのですか」
ケイが、そう、驚いた様子で、尋ねた。
「はい。紙とは、そこが、違います」
湊は、この特性の、重要性を、深く、理解していた。
「レン、それは……極めて、大きなことだ」
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**動画撮影装置――レン、アカリ**
「動く絵の記録ですが」
アカリが、そう、報告した。
「まだ、うまく、いっていません」
「何が、問題だ?」
「速さです」
アカリは、そう、答えた。
「一枚、写すのに――今は、しばらく、時間が、かかります。ですから、動いているものを、写すと――ぼやけてしまいます」
湊は、この報告に、深く、頷いた。
「なるほど。それは、難しいな」
「はい。ですが――」
アカリは、そう言って、続けた。
「動かないものなら、写せます。ですから――少しずつ、動かしながら、一枚ずつ、写す。それを、繋げれば」
湊は、この発想に、深く、感心した。
「それでも、動く絵に、なるということか」
「はい。手で、描くよりは――随分と、楽になるはずです」
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**上下水道――ドウ**
「工事を、始めました」
ドウは、そう、報告した。
「まず、南の住宅地からです。高台に、大きな槽を、作っています」
「順調か?」
「はい。ただ――管が、足りません」
「管?」
「はい。これまで、陶器の管を、使ってきました。ですが――これだけの長さとなると、とても」
湊は、この課題に、しばらく、考えを、巡らせた。
「サギ、あの新しい素材で――管を、作れないだろうか」
湊は、そう、サギのほうを、向いた。
「作れると思います」
サギは、そう、答えてから、続けた。
「それに――陶器より、軽くて、割れにくいはずです」
この提案は、その場で、採用された。
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**発酵飼料――ミオ**
「試してみました」
ミオは、そう、報告した。
「うまく、いったか?」
「はい。刻んだ草を、穴に、詰めて――上から、重しを、置いて、空気を、遮りました」
ミオは、そう、説明した。
「ひと月ほど、置いてから、開けてみると――確かに、腐っていませんでした。それに、独特の、酸っぱい匂いがして」
「家畜は、食べたか」
「よく、食べます。むしろ――干した草より、好むようです」
湊は、この報告に、深く、頷いた。
「それは、よかった」
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**学び舎五校――ドウ、ケイ**
「三校が、完成しました」
ドウは、そう、報告した。
「残り二校も、あと、ふた月ほどです」
ケイが、続けて、報告した。
「教員養成の課程には、十二名が、入りました。半年ほどで――教える側に、回れる見込みです」
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これらの報告が、終わった後。
湊は、この日の、最初の議題を、提起した。
「レン、一つ、相談がある」
「なんでしょう」
「今、村には、自走車が、何台、ある?」
レンは、しばらく、記録を、確かめてから、答えた。
「二十二台です」
「それで、足りているか?」
「正直に言えば――足りていません」
レンは、そう、答えてから、続けた。
「特に――荷物を運ぶための車が、圧倒的に、足りません」
湊は、この報告に、深く、頷いた。
「なら、増やそう。それも――用途に、合わせて」
「用途、ですか」
「そうだ。人を、運ぶ車。荷物を、運ぶ車。それに――工事に使う車」
湊は、そう、続けた。
「今は、すべて、同じ形の車を、使っている。だが――それぞれの仕事に、合った形が、あるはずだ」
この提案に、ドウが、強く、反応した。
「工事に使う車、というと」
「例えば――土を、掘る車。重いものを、持ち上げる車」
湊は、そう、答えた。
ドウは、この構想に、深く、興味を、示した。
「それは……もし、できれば。工事が、まったく、変わります」
この方針のもと、レンの工房では、用途別の車両の開発と、量産が、本格的に、始められることになった。
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この日の会議では、さらに、鉄道についても、新たな構想が、提起された。
「ドウ、鉄道のことだが」
湊は、そう、切り出した。
「はい」
「今、河口まで、どれくらい、かかる?」
「およそ、一刻半ほどです」
湊は、この答えに、しばらく、考え込んだ。
「もっと、速くできないだろうか」
「速く、ですか」
「そうだ。半分ほどに」
この提案に、ドウは、しばらく、考え込んだ。
「難しいですね。今の線路では――速度を、上げると、危ないです」
「なぜだ?」
「曲がりが、きついところが、あります。それに――線路の継ぎ目で、車が、大きく、揺れます」
湊は、この指摘に、深く、頷いた。
「なるほど。なら――新しい線路が、必要ということか」
「はい。曲がりを、緩やかにして。継ぎ目も、できる限り、少なくする」
この構想は、極めて、大規模な事業と、なることが、予想された。
だが、湊は、これを、長期的な課題として、今から、少しずつ、準備を、進めることを、決断した。
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この日の会議では、最後に、湊が、最も、重要と考える議題を、提起した。
「レン、もう一つ、聞きたいことが、ある」
「なんでしょう」
「今、あの、集積された三線石――どれくらいのものが、作れる?」
レンは、しばらく、考えてから、答えた。
「一つの石の中に――およそ、百個ほどの、三線石を、組み込めます」
「百個か」
湊は、そう、つぶやいてから、しばらく、沈黙した。
「レン、一つ、話しておきたいことが、ある」
「なんでしょう」
「これは――俺の記憶の、いちばん、奥にあることだ」
湊は、そう、切り出した。
会議の場が、静まり返った。
「三線石を、たくさん、組み合わせると――計算が、できるようになるはずだ」
この言葉に、レンは、首を、かしげた。
「計算、ですか」
「そうだ。足し算。引き算。それに――決められた手順に従って、次に、何をするかを、決めること」
湊は、そう、続けた。
「それが、できる石を――俺は、知っている」
会議の場が、大きく、ざわめいた。
「そんなものが、あるのですか」
ケイが、そう、尋ねた。
「ある。俺のいた世界には――当たり前のように、あった」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「ただ――どうやって、作るのかは。俺には、まったく、わからない」
湊は、そう、正直に、告げた。
「わかっているのは、それが、できるということだけだ」
しばらくの沈黙の後、レンが、口を開いた。
「湊さん、一つ、伺いたいのですが」
「なんだ?」
「その石は――どんなことが、できるのですか」
湊は、しばらく、考えを、巡らせた。
――どう、説明すればいい。
「例えば」
湊は、そう、切り出した。
「今、ケイたちが、輪の記録を、つけているだろう。何枚、出回っていて、誰が、いくら、持っているか」
「はい」
「あれを――その石が、全部、覚えて、計算してくれる」
この説明に、トウが、深く、驚いた表情を、見せた。
「そんなことが……」
「それだけじゃない」
湊は、そう、続けた。
「あの、織機で、穴を開けた板を、使っているだろう。あれは――決められた手順を、機械に、教えている」
「はい」
「その石も、同じだ。手順を、教えれば――その通りに、動く」
湊は、そう、続けた。
「しかも――手順を、変えれば。まったく、違うことが、できるようになる」
この説明に、レンは、しばらくの間、深く、考え込んでいた。
「湊さん」
やがて、レンは、そう、口を開いた。
「それは――やってみる価値が、あります」
「時間は、かかるぞ」
「かまいません」
レンは、そう、答えてから、続けた。
「これまでも――何年もかかったものは、いくつも、あります」
湊は、この言葉に、深く、頷いた。
「わかった。なら――始めよう」
この、計算する石の開発は、その日から、探究の舎の、最大の課題として、着手されることになった。
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この日の会議の後、湊は、各分野の状況を、いつものように、確かめていった。
**医療――シラ**:輸血、さらに二例、成功。
**外交――ナギ**:多国間協議まで、あと、三ヶ月。宿泊施設、建設中。
**経済――トウ**:大型船への出資、必要額を、達成。
**通信――ケイ**:電話の交換を、自動で行う仕組みの研究に、着手。
湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。
『磁気記録装置が、形になった。書き換えができるという特性は、極めて重要』
『動画は、一枚ずつ写して繋げる方法で、まず進めることに』
『上下水道の管に、新素材を採用』
『発酵飼料、成功。家畜は、干し草より好んで食べる』
『学び舎、三校が完成。教員養成に十二名』
『用途別の車両の開発と量産に着手。掘削車、揚重車も含む』
『高速鉄道を、長期課題として、準備開始』
『計算する石について、初めて、詳しく話した。作り方は、私にもわからない。だが、レンは、やると言った』
夕暮れ、湊は、書庫の窓から、村を、見つめていた。
湊は、四十五歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十一年六ヶ月ほどが、過ぎていた。
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【第107話 時点 文明発展状況】
湊45歳/漂着後 31年6ヶ月
人口:439人(うち、この期の新生児5名、留学生3名)
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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中
02 食料・農業 ★★★★★ 継続中
03 畜産・動物 ★★★★★ 発酵飼料の実用化に成功
04 漁業・水産 ★★★★★ 継続中
05 狩猟・採集 ★★★★★ 継続中
06 水・衛生 ★★★★★ 上下水道の管に、新素材を採用
07 医療・薬学 ★★★★★ 輸血、累計三例が成功
08 住居・建築 ★★★★★ 学び舎三校が完成
09 土木・インフラ ★★★★★ 高速鉄道の準備に着手
10 火・エネルギー ★★★★★ 継続中
11 鉱業・金属 ★★★★★ 継続中
12 製造・工業 ★★★★★ 用途別車両の開発・量産に着手
13 科学・技術 ★★★★★ 磁気記録装置が完成。計算する石の開発に着手
14 言語・文字・出版 ★★★★★ 書き換え可能な記録媒体という、新概念が誕生
15 教育・研究 ★★★★★ 教員養成課程に12名。学び舎の増設が進行
16 経済・商業 ★★★★★ 大型船への出資が、必要額に到達
17 政治・法律・行政 ★★★★★ 継続中
18 外交・交通・情報 ★★★★★ 多国間協議まで三ヶ月。自動電話交換の研究に着手
19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中
20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 継続中
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【次話への持ち越し】計算する石の開発、自動電話交換、用途別車両、動画撮影、多国間協議の準備――これらは、次話以降で確認される
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