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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第三部 文明の礎

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第106話「回る円盤に、記す」

 前回の会議から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十五歳のままだった。


 この間、村には、七人が加わっていた。うち、四人が、この村で生まれた赤ん坊。三人が、新たな留学生だった。人口は、四百三十一人になっていた。


---


 この日の会議は、まず、前回の課題の、確認から、始まった。


 **初めての輸血――シラ**


「湊さん、ご報告があります」


 シラは、いつになく、緊張した面持ちで、そう、切り出した。


「聞かせてくれ」


「三日前――初めて、輸血を、行いました」


 会議の場が、しんと、静まり返った。


「どうなった?」


 湊は、そう、静かに、尋ねた。


「成功しました」


 シラは、そう、答えた。


「患者は――怪我で、大量に、血を、失った男性です。このままでは、助からないと、判断しました」


 シラは、そう、続けた。


「ですから――血の型を、確かめた上で。さらに、その場で、二人の血を、混ぜて、固まらないことを、確認してから」


「そして?」


「少しずつ、時間をかけて、入れました。その間、ずっと、様子を、見ながら」


 シラは、そう、答えてから、しばらく、沈黙した。


「今、その男性は――回復に、向かっています」


 この報告に、会議の場から、深い、安堵の息が、漏れた。


「シラ、よくやった」


 湊は、そう、静かに、告げた。


「いえ」


 シラは、そう、首を、振った。


「正直に、申し上げます。あの時――私は、恐ろしくて、手が、震えていました」


 シラは、そう、続けた。


「もし、間違っていたら。私が、この人を、殺すことになる」


 湊は、この言葉を、深く、噛み締めていた。


「その恐れを、忘れないでほしい」


 湊は、そう、答えた。


「慣れて――恐れなくなった時が、いちばん、危ない」


 シラは、この言葉に、深く、頷いた。


---


 **液晶表示装置――イワ**


「格子状の配線、うまく、いきました」


 イワは、そう、報告した。


「どれくらい、できた?」


「縦横、五十ずつ。二千五百の点を、扱えます」


 イワは、そう言って、実際の装置を、見せた。


 そこには、確かに、文字が、表示されていた。光石のものと比べると、明るさは、劣る。だが――はるかに、薄く、そして、静かだった。


「これは、いいな」


 湊は、そう、感心した。


「はい。それに――電気の消費が、光石の、十分の一ほどです」


---


 **電子撮影装置――レン**


「素子の数を、増やしました」


 レンは、そう、報告した。


「今、縦横、五十ずつ。二千五百です」


「像は?」


 レンは、そう言って、一枚の紙を、取り出した。


 そこには、確かに、人の顔と、わかる像が、描かれていた。荒くはあるが――前回とは、比べものにならない。


「随分と、進んだな」


「はい。ですが――まだ、足りません」


 レンは、そう、答えてから、続けた。


「それに――もう一つ、大きな問題が、あります」


「なんだ?」


「この、二千五百個分の情報を――どこに、記録するかです」


 湊は、この指摘に、深く、考え込んだ。


「今は、どうしている?」


「紙に、書き写しています。ですが――一枚の像で、二千五百個の数字です。書き写すだけで、半日、かかります」


 湊は、この報告を、深く、受け止めた。


「それでは、意味がないな」


 湊は、そう、答えてから、しばらく、考えを、巡らせた。


 ――記録する仕組み。それも、大量に、素早く。


 湊の記憶の奥底に、ある仕組みが、朧げに、残っていた。


「レン、一つ、思い出したことが、ある」


「なんでしょう」


「磁石を、使えないだろうか」


 この言葉に、レンは、首を、かしげた。


「磁石、ですか」


「そうだ。以前、発電機で、使っただろう」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「ある種の物質は――磁石を、近づけると、その向きを、覚える」


「覚える?」


「そうだ。磁石を、離しても――その向きが、残る」


 湊は、そう、説明した。


「なら――その向きを、二つの状態として、使えるはずだ。こちら向きなら、一。あちら向きなら、零」


 レンは、この説明に、しばらく、考え込んでいた。


「なるほど……数を、記録できるということですね」


「その通りだ」


 湊は、そう、頷いてから、続けた。


「それに――もし、円盤の表面に、その物質を、塗って。それを、回しながら、細い針で、書き込んでいけば」


 この構想に、レンは、深く、興味を、示した。


「あの、音を刻む円盤と、似ていますね」


「そうだ。だが――音を、溝として、刻むのではない。数を、磁石の向きとして、記録する」


 レンは、この構想を、しばらく、考え込んでいた。


「面白いです。やってみます」


 この、磁気による記録装置の開発は、その日から、始められることになった。


---


 これらの報告が、終わった後。


 湊は、この日の、最初の議題を、提起した。


「一つ、相談したいことが、ある」


「なんでしょう」


「今、あの、動く絵を、作るのに――どれくらい、かかっている?」


 この問いに、アカリが、答えた。


 アカリは、この頃、二十一歳になっていた。


「短いもので、半年ほどです」


「なぜ、そんなに、かかる?」


「一枚一枚、絵を、描かなければ、ならないからです」


 アカリは、そう、答えてから、続けた。


「一つの動きに、何十枚も、必要です。それを、すべて、手で」


 湊は、この報告を、深く、受け止めた。


「なるほど」


 湊は、そう、答えてから、レンのほうを、向いた。


「レン、あの、電子の撮影装置だが――」


「はい」


「もし、あれが、素早く、連続して、写せるようになったら」


 この言葉に、アカリが、はっとした表情を、見せた。


「まさか――実際の景色を、そのまま」


「その通りだ」


 湊は、そう、頷いた。


「絵を、描くのではない。実際に、起きていることを、そのまま、記録する」


 この構想に、アカリは、深く、興奮した様子を、見せた。


「それが、できたら――」


 アカリは、そう、つぶやいた。


「村の、今の姿を。そのまま、残せます」


 湊は、この言葉に、深く、頷いた。


「そうだ。それが――いちばん、大きな意味かもしれない」


 この、動く映像を記録する装置の開発は、レンとアカリが、協力して、進めていくことになった。


---


 この日の会議では、さらに、二つの、実務的な議題が、扱われた。


 最初は、畜産についてだった。


「湊さん、家畜のことで、ご相談が」


 ミオが、そう、切り出した。


「なんだ?」


「人が、増えるにつれて――肉や、卵の需要が、大きく、増えています」


「今の飼育では、足りないか」


「はい。特に――冬場が、厳しいです」


 ミオは、そう、説明した。


「餌が、足りなくなります。ですから――冬になる前に、多くを、屠らなければ、なりません」


 湊は、この報告を、深く、受け止めた。


「餌を、蓄えることは、できないのか」


「今の方法では、限界があります。干した草は、かさばりますし――栄養も、落ちます」


 湊は、しばらく、考えを、巡らせた。


「一つ、思いつくことが、ある」


「なんでしょう」


「草を、そのまま、干すのではなく――刻んで、詰めて、寝かせるという方法が、あるはずだ」


 湊は、そう、答えた。


「あの、漬物と、同じ原理だ。空気を、遮って、寝かせる。そうすると――腐らずに、長く、持つ」


 ミオは、この提案に、深く、興味を、示した。


「試してみます」


 同時に、湊は、もう一つの提案も、行った。


「それに――飼う場所も、見直せないだろうか」


「といいますと」


「今は、放し飼いに、近い形だろう。だが――もし、屋根のある建物の中で、飼えれば」


 湊は、そう、続けた。


「冬でも、暖かく、保てる。それに――病も、防ぎやすい」


 この提案も、その場で、承認された。


 だが、湊は、一つの、重要な条件を、付け加えた。


「ただし――狭すぎる場所に、詰め込むのは、やめよう」


「なぜですか」


「二つ、理由がある」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「一つは――狭いと、病が、一気に、広がる」


「なるほど」


「もう一つは――」


 湊は、そう言って、しばらく、沈黙した。


「生き物を、育てているのだということを――忘れないためだ」


 この言葉に、会議の場は、静かな、共感に、包まれた。


---


 二つ目の議題は、上下水道についてだった。


「湊さん、水のことで、ご報告が」


 ドウが、そう、切り出した。


「どうした?」


「今、各家庭は、井戸か、共同の水場から、水を、汲んでいます」


「そうだな」


「ですが――南の住宅地では、井戸が、足りていません。それに、四階建てとなると――水を、上まで、運ぶのが、大変です」


 湊は、この報告を、深く、受け止めた。


「なるほど。それは、確かに」


 湊は、そう、答えてから、しばらく、考えを、巡らせた。


「管で、送れないだろうか」


「送る、ですか」


「そうだ。高い場所に、水を、貯める槽を、置く。そこから、管で、それぞれの家に、送る」


 湊は、そう、続けた。


「高い場所から、送れば――勢いよく、流れるはずだ」


 ドウは、この構想に、深く、興味を、示した。


「なるほど。それなら――四階まで、届くかもしれません」


「同時に――使った水を、集める管も、必要だ」


 湊は、そう、続けた。


「今は、それぞれが、外に、流している。だが――管で、集めて、まとめて、処理すべきだ」


 この、上下水道の整備は、村にとって、これまでで、最も、大規模な土木事業の一つと、なることが、予想された。


 だが、この事業の重要性を、会議に集まった誰もが、深く、理解していた。


「やりましょう」


 ドウは、そう、力強く、答えた。


---


 この日の会議の後、湊は、各分野の状況を、いつものように、確かめていった。


 **土木――ドウ**:鉄道の河口延伸、ついに、完成。


 **工業――レン**:大型船の骨組み、六割が、完了。


 **教育――ケイ**:学び舎五校、建設中。教員養成課程、開講。


 **外交――ナギ**:多国間協議まで、あと、四ヶ月。


 **経済――トウ**:貿易法の運用、開始。


 湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。


『初めての輸血に成功。シラは、手が震えたと語った。その恐れを、忘れないよう伝えた』

『液晶表示、二千五百点を実現。光石の十分の一の電力で動く』

『電子撮影、二千五百素子で、顔が判別できる像を得た』

『記録の問題に対し、磁気による記録装置を提案。円盤に、磁石の向きとして、数を記録する』

『動く映像の記録装置の開発に、着手』

『家畜の飼料を、密閉して発酵させる方法を提案。屋内飼育も導入するが、過密は禁じた』

『上下水道の敷設に着手。高所の貯水槽から、管で各戸へ』

『鉄道が、ついに河口まで到達』


 夕暮れ、湊は、河口へと続く、鉄の道を、見つめていた。


 湊は、四十五歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十一年五ヶ月ほどが、過ぎていた。


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【第106話 時点 文明発展状況】

湊45歳/漂着後 31年5ヶ月

人口:431人(うち、この期の新生児4名、留学生3名)

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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中

02 食料・農業    ★★★★★ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★★ 発酵飼料と屋内飼育に着手。過密飼育は禁止

04 漁業・水産    ★★★★★ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★★★ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 上下水道の敷設に着手

07 医療・薬学    ★★★★★ 初の輸血に成功

08 住居・建築    ★★★★★ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★★ 鉄道が河口に到達。上下水道工事が始動

10 火・エネルギー  ★★★★★ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★★ 継続中

12 製造・工業    ★★★★★ 大型船の骨組み、六割完了

13 科学・技術    ★★★★★ 液晶2500点、電子撮影2500素子を実現。磁気記録に着手

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 動く映像の記録装置を、開発開始

15 教育・研究    ★★★★★ 学び舎五校を建設中。教員養成課程が開講

16 経済・商業    ★★★★★ 貿易法の運用を開始

17 政治・法律・行政 ★★★★★ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★★★★ 多国間協議まで、あと四ヶ月

19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 継続中

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【次話への持ち越し】磁気記録装置、動画撮影装置、上下水道、発酵飼料、学び舎五校――これらは、次話以降で確認される

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