第105話「学びが、あふれる」
前回の会議から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十五歳のままだった。
この間、村には、九人が加わっていた。うち、五人が、この村で生まれた赤ん坊。そして――四人が、外から来た、新たな留学生だった。人口は、四百二十四人になっていた。
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この日の会議は、まず、前回の課題の、確認から、始まった。
**液晶表示装置――イワ**
「湊さん、あの液体ですが」
イワは、そう、切り出した。
「細かく、区切ることは、できました。ですが――」
「どうした?」
「一つ一つに、電気を、通す線が、多すぎます」
イワは、そう、説明した。
「例えば、縦横に、百ずつ、並べるとします。すると――一万個の点に、それぞれ、線が、必要になります」
湊は、この課題に、しばらく、考えを、巡らせた。
そして、ふと、あることを、思い出した。
「イワ、全部に、線を、繋ぐ必要は――ないかもしれない」
「といいますと」
「縦に、百本。横に、百本。それだけで、済むはずだ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「縦の、三番目と、横の、五番目に、同時に、電気を、通す。すると――その交わったところだけが、変化する」
イワは、この説明に、しばらく、考え込んでいた。
やがて、はっとした表情を、見せた。
「なるほど……二百本で、一万個を、扱えるということですね」
「その通りだ」
イワは、この助言を、深く、感謝した様子で、書き留めていった。
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**電子撮影装置――レン**
「光を電気に変える素子を、並べてみました」
レンは、そう、報告した。
「結果は?」
「縦横、二十ずつ。四百個まで、並べられました」
「写るのか?」
「はい。ただ――」
レンは、そう言って、一枚の紙を、取り出した。
そこには、極めて、荒い、点の集まりが、描かれていた。かろうじて、人の形らしきものが、見て取れる。
「これが、限界です」
湊は、この画像を、しばらく、見つめていた。
「四百個では、これが、精一杯か」
「はい。もっと、細かくするには――もっと、たくさん、並べる必要があります」
「どれくらい、必要だと思う?」
レンは、しばらく、考えてから、答えた。
「少なくとも――一万個以上でしょうか」
湊は、この数字に、深く、頷いた。
「なら、それを、目指そう。時間は、かかっていい」
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**二輪車の量産――レン**
「量産のほうは、順調です」
レンは、そう、報告した。
「この、ひと月で、四十台ほど、作れました」
「それは、大したものだ」
「はい。部品ごとの分業が、大きく、効いています」
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**道路の拡幅――ドウ**
「主要な道の拡幅を、始めました」
ドウは、そう、報告した。
「あと、三ヶ月ほどで、村の中心部は、終わる見込みです」
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これらの報告が、終わった後。
湊は、この日の、最初の議題を、提起した。
「一つ、大きな課題が、ある」
「なんでしょう」
「学び舎のことだ」
湊は、そう、切り出した。
「今、村には、いくつの学び舎が、ある?」
ケイが、答えた。
「三つです。ですが――すでに、いっぱいです」
「子供の数は?」
「六歳から、十二歳までで――およそ、九十名。それに、これから、増え続けます」
湊は、この報告を、深く、受け止めた。
「三つで、九十名か。一つあたり、三十名」
「はい。今の建物では、それが、限界です」
湊は、しばらく、考えを、巡らせた。
「なら、増やそう。それも――大幅に」
「どれくらい、でしょうか」
「まず、五つ、追加しよう」
この提案に、会議の場が、ざわめいた。
「五つ、ですか」
ドウが、そう、驚いた様子で、尋ねた。
「そうだ。それに――場所も、考えたい」
湊は、そう、続けた。
「今の三つは、すべて、村の中心部にある。だが――南の住宅地や、東の農地から、通うのは、大変だろう」
「確かに、そうです」
「なら――それぞれの地区に、一つずつ、置こう」
この方針は、その場で、承認された。
だが、ここで、ケイが、新たな課題を、提起した。
「湊さん、建物は、増やせます。ですが――」
「教える者が、足りないか」
「はい。今でも、ぎりぎりです」
湊は、この指摘に、深く、頷いた。
「そうだな。それが、いちばんの、問題だ」
湊は、しばらく、考えを、巡らせた。
「一つ、考えていることが、ある」
「なんでしょう」
「教える者を、育てるための、学び舎を、作れないだろうか」
この提案に、ケイは、深く、興味を、示した。
「教える者を、育てる……ですか」
「そうだ。これまで、教える者は――たまたま、その分野に、詳しい者が、担ってきた」
湊は、そう、続けた。
「だが――詳しいことと、教えられることは、別だ」
ケイは、この指摘に、深く、頷いた。
「確かに、そうです。私自身、教えることには、随分と、苦労しました」
「だから――教え方そのものを、学ぶ場所が、必要なんじゃないかと思う」
この構想は、その場で、承認された。
探究の舎の中に、教育を専門に、学ぶ課程が、新たに、設けられることになった。
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この日の会議では、さらに、もう一つの、大きな議題が、扱われた。
「もう一つ、相談したいことが、ある」
湊は、そう、切り出した。
「留学生のことだ」
「といいますと」
「今、何人、来ている?」
ケイが、答えた。
「十六名です。この、ひと月で、四名、増えました」
「これから、どうなると思う?」
ケイは、しばらく、考えてから、答えた。
「増え続けると思います。特に――多国間の場の話が、広まってから、問い合わせが、急に、増えました」
湊は、この報告を、深く、受け止めた。
「なら――もっと、受け入れよう」
湊は、そう、告げた。
「どれくらい、でしょうか」
「制限は、設けない」
この言葉に、会議の場が、大きく、ざわめいた。
「制限を、設けない、ですか」
ロタが、そう、驚いた様子で、尋ねた。
「そうだ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「学びたいという者を――断る理由は、ない」
だが、ここで、ガルが、慎重な意見を、述べた。
「湊、それは……危なくないか」
「どういうことだ?」
「外から、大勢が、来る。その中に――良くない考えを持つ者が、いないとは、限らない」
湊は、この指摘を、深く、受け止めた。
「確かに、その通りだ」
湊は、そう、答えてから、しばらく、考えを、巡らせた。
「なら、こうしよう」
湊は、そう、切り出した。
「受け入れる数に、制限は、設けない。だが――教える内容には、これまで通り、区分を、設ける」
「といいますと」
「農業、医療、衛生、建築。こうしたものは、誰にでも、教える」
湊は、そう、続けた。
「だが――金属の精錬の細部と、あの、黒い粉に関わることは、教えない。これは、この村の者にも、限られた者しか、知らないことだ」
この方針は、その場で、承認された。
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この日の会議では、最後に、経済に関する、重要な議題が、扱われた。
「湊さん、一つ、ご相談が」
トウが、そう、切り出した。
「なんだ?」
「外との、取引のことです」
トウは、そう、続けた。
「今、村からは、布や、道具や、書物が、出て行っています。逆に――外からは、鉱石や、珍しい産物が、入ってきます」
「そうだな」
「ですが――その取引に、決まりが、ありません」
トウは、そう、指摘した。
「それぞれの商人が、勝手に、値を、決めています。ですから――時々、揉め事が、起きます」
湊は、この報告を、深く、受け止めた。
「なるほど。それは、確かに、問題だ」
湊は、そう、答えてから、しばらく、考えを、巡らせた。
「決まりを、作ろう」
湊は、そう、決断した。
「どのような、決まりでしょうか」
「まず――何を、出してよく、何を、出してはいけないか。それを、はっきり、決める」
湊は、そう言って、紙に、書き始めた。
「次に――外から、入ってくるものについても、同じだ。危ないものは、入れない」
「危ないもの、というと」
「例えば――人を、害するような、薬や、毒だ」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「それに――もう一つ、大事なことが、ある」
「なんでしょう」
「取引の記録を、必ず、残すこと」
湊は、そう、告げた。
「何を、いくらで、誰と、取引したか。それを、すべて、書き残す」
「なぜ、そこまで?」
「揉め事が、起きた時――記録がなければ、どちらが、正しいか、わからない」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「それに――村全体で、どれくらいの、取引が、行われているか。それを、知っておく必要がある」
この方針のもと、村では、初めての、貿易に関する法が、定められることになった。
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この日の会議の後、湊は、各分野の状況を、いつものように、確かめていった。
**医療――シラ**:血液の判別方法を、完全に確立。近く、初めての輸血を、試みる予定。
**農業――ミオ**:干拓地の豆、初収穫。予想以上の出来。
**土木――ドウ**:鉄道の河口延伸、あと、ひと月。
**外交――ナギ**:多国間協議、参加が七集落に。
**工業――レン**:大型船の骨組み、組み立て開始。
**防衛――ガル**:この、ひと月で、恐竜の接近、二回。
湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。
『液晶の配線について、縦横の格子状にする方法を助言。二百本で、一万点を扱える』
『電子撮影装置、四百個の素子で、荒い像を得た。一万個以上を目標とする』
『二輪車、ひと月で四十台を量産』
『学び舎を、五つ追加。各地区に配置する方針』
『教える者を育てる課程を、探究の舎に新設』
『留学生の受け入れ数の制限を、撤廃。ただし、教える内容の区分は、維持』
『貿易に関する法を制定。輸出入の可否、記録の義務を、明確化』
夕暮れ、湊は、学び舎の前を、通りかかった。中からは、これまで以上に、多くの子供たちの声が、聞こえてくる。
湊は、四十五歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十一年四ヶ月ほどが、過ぎていた。
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【第105話 時点 文明発展状況】
湊45歳/漂着後 31年4ヶ月
人口:424人(うち、この期の新生児5名、留学生4名)
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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中
02 食料・農業 ★★★★★ 干拓地で、豆の初収穫。予想以上の出来
03 畜産・動物 ★★★★★ 継続中
04 漁業・水産 ★★★★★ 継続中
05 狩猟・採集 ★★★★★ 継続中
06 水・衛生 ★★★★★ 継続中
07 医療・薬学 ★★★★★ 血液判別法を完全確立。初の輸血を、近く試行
08 住居・建築 ★★★★★ 学び舎五校の建設に着手
09 土木・インフラ ★★★★★ 鉄道の河口延伸まで、あと一ヶ月
10 火・エネルギー ★★★★★ 継続中
11 鉱業・金属 ★★★★★ 継続中
12 製造・工業 ★★★★★ 大型船の骨組み組み立て開始。二輪車の量産が本格化
13 科学・技術 ★★★★★ 液晶の格子配線、電子撮影の基礎を確立
14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中
15 教育・研究 ★★★★★ 学び舎を大幅増設。教員養成課程を新設。留学生の制限を撤廃
16 経済・商業 ★★★★★ 貿易法を制定。取引記録の義務化
17 政治・法律・行政 ★★★★★ 継続中
18 外交・交通・情報 ★★★★★ 多国間協議の参加が、七集落に
19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 恐竜接近2回。技術の区分管理を維持
20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 継続中
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【次話への持ち越し】液晶と電子撮影の進展、学び舎の建設、教員養成、初の輸血、鉄道の河口到達――これらは、次話以降で確認される
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