第104話「映す、映される」
前回の会議から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十五歳のままだった。
この間、村には、八人が加わっていた。うち、五人が、この村で生まれた赤ん坊だった。人口は、四百十五人になっていた。
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この日の会議は、まず、前回の課題の、確認から、始まった。
**大型船の建造――レン、ナギ**
「湊さん、船台の建設が、終わりました」
レンは、そう、報告した。
「船台?」
「はい。あれだけの大きさの船を、作るには――まず、それを、載せる台が、必要です」
レンは、そう、説明した。
「それに――完成した後、どうやって、海に、下ろすか。それも、考えておかなければ、なりません」
湊は、この指摘に、深く、頷いた。
「なるほど。作ることばかり、考えていた」
「はい。ですが――そこは、ドウさんが、良い案を、出してくれました」
ドウが、続けて、説明した。
「傾斜を、つけた台の上で、作ります。完成したら――支えを、外して、そのまま、滑らせる」
湊は、この案に、深く、感心した。
「よく、考えたな」
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**有人飛行――宗**
「翼の付け根ですが、鋼で、補強してみました」
宗は、そう、報告した。
「結果は?」
「折れなくなりました。ですが――」
宗は、そう言って、少し、表情を、曇らせた。
「重くなりすぎて――浮かなくなりました」
湊は、この報告に、思わず、苦笑した。
「難しいものだな」
「はい。強くすれば、重くなる。軽くすれば、弱くなる」
宗は、そう、答えてから、続けた。
「この、釣り合いを、探るしか、ありません」
「焦るな。何年、かかってもいい」
湊は、そう、静かに、告げた。
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**北方鉄道――ドウ**
「北への路線ですが、測量を、始めました」
ドウは、そう、報告した。
「どうだ、地形は」
「思ったより、平らです。ただ――途中に、大きな川が、あります」
「橋が、必要ということか」
「はい。これまでで、最も、長い橋になります」
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**多国間協議の準備――ナギ**
「参加を表明した集落が、六つになりました」
ナギは、そう、報告した。
「増えたな」
「はい。噂が、広まっているようです」
ナギは、そう、答えてから、続けた。
「ただ――一つ、問題が」
「なんだ?」
「会合を、どこで、開くか。この村で、と、決めましたが……六つの集落から、人が来るとなると。泊まる場所が、足りません」
湊は、この指摘に、深く、頷いた。
「なるほど。それは、考えていなかった」
この課題は、その場で、ドウに、託されることになった。会合までに、来訪者のための、宿泊の施設を、整えることが、決定された。
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これらの報告が、終わった後。
湊は、この日の、最初の議題を、提起した。
「一つ、気になっていることが、ある」
「なんでしょう」
「今、村の中の移動は――どうなっている?」
この問いに、しばらく、沈黙が、続いた。
「多くは、歩いています」
ロタが、そう、答えた。
「二輪車を、持っている者も、いますが……数は、限られています」
「なぜ、限られている?」
「作る数が、少ないからです」
レンが、そう、答えた。
「今は、注文があった時に、一台ずつ、作っています」
湊は、この報告を、深く、受け止めた。
「レン、あれを――もっと、たくさん、作れないだろうか」
「作れます。ですが――なぜ、今、それを?」
湊は、しばらく、考えを、巡らせてから、答えた。
「村が、広くなりすぎたからだ」
湊は、そう、答えた。
「昔は、村の端から端まで、歩いて、四半刻ほどだった。だが、今は――半刻以上、かかる」
湊は、そう、続けた。
「特に、南の住宅地から、東の農地までとなると……相当な、時間だ」
この指摘に、会議の場が、ざわめいた。
「確かに、そうですね」
トウが、そう、つぶやいた。
「私も、毎日、随分と、歩いています」
「だから――誰もが、二輪車を、持てるようにしたい」
湊は、そう、告げた。
この構想のもと、レンの工房では、二輪車の量産に、本格的に、着手することになった。
これまで、一台ずつ、手作業で、作られていたものが――部品ごとの、分業と、規格の統一により、大幅に、効率化されることになった。
同時に、湊は、自走車についても、同様の方針を、示した。
「自走車も、もっと、増やそう」
「はい。ただ――」
レンは、そう言って、少し、躊躇した。
「なんだ?」
「今の道では、これ以上、車が増えると――危ないかもしれません」
湊は、この指摘に、深く、頷いた。
「そうだな。道も、広げなければ、ならない」
この課題は、ドウに、託されることになった。
村の主要な道を、これまでの、倍の幅に、広げる。そして――人が歩く場所と、車が走る場所を、はっきり、分ける。
「それに――決まりも、必要だと思います」
ロタが、そう、提案した。
「決まり?」
「はい。どちら側を、走るか。どこで、止まるか。そうしたことを、決めておかなければ――必ず、ぶつかります」
湊は、この提案に、深く、感心した。
「よく、気づいた。その通りだ」
この、交通の決まりの策定も、その場で、決定された。
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この日の会議では、さらに、探究の舎から、二つの、重要な報告が、行われた。
最初の報告は、イワからだった。
「湊さん、あの、液体を使った表示ですが」
イワは、そう、切り出した。
「進んだのか?」
「はい。ようやく――見つけました」
イワは、そう言って、小さな、透明な板を、机の上に、置いた。
その板の中には、わずかに、濁ったような、液体が、封じられていた。
「これに、電気を、通すと――」
イワが、そう言って、細い線を、繋ぐと――その部分だけが、確かに、暗く、変化した。
湊は、この光景を、しばらくの間、じっと、見つめていた。
「これは……」
「不思議な液体です」
イワは、そう、説明した。
「普通の液体のようで――でも、中の、細かい粒が、電気で、向きを、変えるようなのです」
湊は、この報告に、深く、感心した。
「よく、見つけたな」
「探究の舎の者たちと、二年近く、探し続けました」
イワは、そう、答えてから、続けた。
「この液体を、細かく、区切って――一つ一つに、電気を、通せば」
「表示が、できるということか」
「はい。しかも――光石より、はるかに、薄く、電気も、少なくて済みます」
湊は、この報告の、重要性を、深く、理解していた。
「イワ、これは……大きな発見だ」
この、新しい表示装置の開発は、その日から、本格的に、始められることになった。
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二つ目の報告は、レンからだった。
「湊さん、光を、電気に変える素子ですが」
レンは、そう、切り出した。
「進んだのか?」
「はい。できました」
レンは、そう言って、小さな、砂石の欠片を、取り出した。
「これに、光を、当てると――電気が、生まれます」
レンは、そう言って、実演してみせた。確かに、光を当てると、繋がれた針が、振れる。
「光が、強いほど――電気も、強くなります」
湊は、この報告に、深く、身を、乗り出した。
「レン、それを――たくさん、並べられるか」
「並べる、ですか」
「そうだ。細かく、たくさん。そして――それぞれの、電気の強さを、別々に、読み取る」
レンは、この構想の意味を、しばらく、考えていた。
やがて、はっとした表情を、見せた。
「まさか――写真を」
「その通りだ」
湊は、そう、頷いた。
「板に、写すのではない。光の強さを、そのまま、数として、記録する」
この構想に、レンは、深く、興奮した様子を、見せた。
「それは……できるかもしれません」
レンは、そう、答えてから、続けた。
「今の光印刷なら――極めて、細かく、並べられます」
「なら、やってみてくれ」
この、電子的な撮影装置の開発も、その日から、始められることになった。
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この日の会議の後、湊は、各分野の状況を、いつものように、確かめていった。
**農業――ミオ**:干拓地の豆、順調に生育。
**医療――シラ**:血液の第二分類、判別方法を、ほぼ確立。
**経済――トウ**:大型船への出資、必要額の六割が、集まった。
**教育――ケイ**:探究の舎、在籍五十五名。
**防衛――ガル**:新しい地図に基づく、警戒体制の再編、完了。
湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。
『大型船の船台が完成。傾斜を利用した進水の方法を、ドウが考案』
『有人飛行、強度と重量の釣り合いという、根本的な課題に直面』
『北方鉄道の測量を開始。これまでで最も長い橋が、必要になる』
『多国間協議の参加が、六集落に。宿泊施設の整備が、新たな課題』
『二輪車と自走車の量産に着手。道路の拡幅と、交通の決まりの策定も、同時に決定』
『イワが、電気で性質が変わる液体を発見。二年近い探索の末』
『レンが、光を電気に変える素子を完成。これを、細かく並べることで、電子的な撮影装置を、目指す』
夕暮れ、湊は、あの、小さな液体の板を、じっと、見つめていた。
湊は、四十五歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十一年三ヶ月ほどが、過ぎていた。
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【第104話 時点 文明発展状況】
湊45歳/漂着後 31年3ヶ月
人口:415人(うち、この期の新生児5名)
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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中
02 食料・農業 ★★★★★ 干拓地の豆が順調に生育
03 畜産・動物 ★★★★★ 継続中
04 漁業・水産 ★★★★★ 継続中
05 狩猟・採集 ★★★★★ 継続中
06 水・衛生 ★★★★★ 継続中
07 医療・薬学 ★★★★★ 血液の第二分類の判別方法を、ほぼ確立
08 住居・建築 ★★★★★ 来訪者用の宿泊施設を計画中
09 土木・インフラ ★★★★★ 道路の拡幅と、交通規則の策定に着手
10 火・エネルギー ★★★★★ 継続中
11 鉱業・金属 ★★★★★ 継続中
12 製造・工業 ★★★★★ 二輪車・自走車の量産に着手。大型船の船台が完成
13 科学・技術 ★★★★★ 液晶物質と、光電変換素子を発見
14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中
15 教育・研究 ★★★★★ 探究の舎、在籍55名。二年越しの探索が実を結ぶ
16 経済・商業 ★★★★★ 大型船への出資、六割が集まる
17 政治・法律・行政 ★★★★★ 交通の決まりの策定に着手
18 外交・交通・情報 ★★★★★ 多国間協議の参加が、六集落に拡大
19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 新地図に基づく警戒体制の再編が完了
20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 継続中
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【次話への持ち越し】液晶表示装置の開発、電子撮影装置の開発、二輪車の量産、道路拡幅――これらは、次話以降で確認される
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