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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第四部 国家の誕生

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第120話「時間の、伸び縮み」

 宗の初飛行から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十七歳のままだった。


 この間、ナガレには、七十八人が、加わっていた。うち、十一人が、新生児。六十七人が、外から来た労働者だった。人口は、九百八十五人になっていた。


---


 この日、湊は、探究の舎の、物理を学ぶ者たちを、書庫に、集めていた。


 この十数年、湊は、自分の記憶の中の、断片的な知識を、少しずつ、この国に、伝え続けてきた。だが――一つだけ、これまで、口にしたことのない知識が、あった。


「今日は――これまで、話してこなかったことを、話したい」


 湊は、そう、切り出した。


 集まった者たちは、真剣な表情で、湊を、見つめていた。その中には、宗の姿も、あった。


「時間は――誰にとっても、同じ速さで、流れると思うか?」


 この、突飛な問いに、しばらく、沈黙が、続いた。


「当然、そうでは、ないでしょうか」


 若い研究者の一人が、そう、答えた。


「実は――違う」


 湊は、そう、静かに、告げた。


 会議の場が、ざわめいた。


「といいますと」


「速く、動いている者にとっては――時間が、ゆっくり、進む」


 湊は、そう、答えた。


「これは――俺の記憶の中でも、いちばん、確信を持って、覚えていることの一つだ」


 湊は、そう、続けた。


「光には――決まった速さが、ある。そして――どんな速さで、動いている者から、見ても。光の速さは、変わらない」


 この説明に、宗が、深く、考え込んでいた。


「父上、それは――おかしくないでしょうか」


「なぜだ?」


「もし、私が、光と、同じ方向に、動いているとします。その時――光は、私にとって、遅く、見えるはずです」


 湊は、この指摘に、深く、頷いた。


「その通りだ。普通に、考えれば」


「ですが、違うのですか」


「違う」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「どんな速さで、動いていても――光の速さは、変わらない。そう見える」


「なぜ、そんなことが」


「そのために――時間と、空間が、変わるからだ」


 湊は、そう、答えた。


「速く、動く者にとって――時間は、ゆっくり、進む。そして――進む方向の、長さは、縮む」


 この説明に、会議の場は、深い、混乱に、包まれた。


「そんなことが……」


「にわかには、信じられません」


 湊は、この反応を、静かに、受け止めていた。


「俺も、詳しい理屈は、わからない」


 湊は、そう、正直に、答えた。


「ただ――これは、確かなことだと、覚えている。そして――極めて、重要なことも」


「なんでしょうか」


「重さと、力は――関係がある、ということだ」


 湊は、そう、続けた。


「重いものは――周りの空間を、歪める。そして――光さえも、その歪みに、沿って、進む」


 この説明に、宗が、深く、考え込んでいた。


「父上、それは――どうやって、確かめられるのでしょうか」


 湊は、この問いに、深く、頷いた。


「良い問いだ」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「一つ、確かめる方法が、ある」


「なんでしょう」


「太陽の、すぐ近くを、通る星の光だ」


 湊は、そう、説明した。


「もし、太陽の重さが、空間を、歪めているなら――その星の光は、本来の位置から、わずかに、ずれて、見えるはずだ」


「どうやって、確かめるのですか」


「日食の時だ」


 湊は、そう、答えた。


「太陽が、月に、隠れている間――その、すぐ近くの星が、見える。その位置を、太陽がない時と、比べる」


 この説明に、若い研究者たちは、深く、興味を、示した。


「面白いです。次の、日食は――いつでしょうか」


「わからない」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「だが――記録を、探せば、わかるはずだ。それに――これから、観測を、続けていけば」


 この、極めて、抽象的な議論は、その後、探究の舎の、新たな、そして、最も、困難な課題として、着手されることになった。


「これは――すぐに、答えが出るものでは、ない」


 湊は、そう、告げた。


「何十年も、かかるかもしれない。でも――それでいい」


 湊は、そう、続けた。


「この国が、俺のいなくなった後も――こういうことを、考え続けてくれるなら。それで、十分だ」


---


 この議論の後、湊は、いつもの、実務の会議に、戻った。


「湊さん、報告があります」


 トウが、そう、切り出した。


「なんだ?」


「人手の不足について、これまでの、状況を、まとめました」


 トウは、そう、答えてから、続けた。


「工場は、今、三交代で、休みなく、動いています。それに――多くの者が、農業と、建設と、製造を、兼業しています」


「うまく、回っているか?」


「はい」


 ケイが、そう、答えた。


「朝は、農地を、手伝い、昼は、建設を、手伝い、夜は、工場や、また農地で、働く。そして、深夜に、時間のある者は、探究の舎の、通信での学びに、参加しています」


 ケイは、そう、続けた。


「週に、六日。皆、こうして、働いています」


「休みの日は?」


 湊が、そう、尋ねると、ケイは、少し、明るい表情に、なった。


「皆、それぞれに、過ごしています」


 ケイは、そう、答えた。


「あの、競技の集いに、参加する者。書物を、読む者。それに――自分で、書き物を、始める者も」


 湊は、この報告に、深く、頷いた。


「それは――いいことだ」


「はい。それに――シラからも、報告が」


 シラが、続けて、口を開いた。


「病舎で、診た限りでは――皆、確かに、忙しくしています。ですが――病舎に、疲労を、訴えて、来る者は、それほど、多くありません」


 シラは、そう、続けた。


「むしろ――週末に、体を、動かすことで。うまく、気を、晴らしているようです」


 湊は、この報告に、安堵した表情を、見せた。


「なら、よかった」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「それでも――念のため、気をつけておいてほしい」


「はい」


「もし、無理をしている者が、いれば――いつでも、報告してほしい。それだけは、頼む」


---


 この、暮らしの状況の確認と並行して、湊は、もう一つの、実務的な課題を、提起した。


「食料や、日用品の、行き渡り方についても、考えたい」


 湊は、そう、切り出した。


「今、それぞれの工房や、農地が、直接、人々に、品物を、渡していると思う。それで――十分だろうか」


 この問いに、トウが、答えた。


「今のところは、なんとか、なっています。ですが――人が増えるほど、行き渡らせるのが、大変に、なっています」


「なら――仕組みを、整えよう」


 湊は、そう、提案した。


「工房から、直接、届ける場所を、いくつか、作る。そこに、必要なものを、まとめて、置く」


「それに――」


 湊は、続けた。


「働いている者は――買いに行く時間も、限られている。だから――届ける仕組みも、必要だ」


 この提案のもと、村の各所に――工房が、直接、品を、届ける、共同の販売所が、設けられることになった。


 同時に、注文を受けて、家まで、届ける仕組みも、整えられていくことになった。


「これは――随分と、便利になりますね」


 トウが、そう、感想を、述べた。


「はい。忙しい皆にとって――時間の、節約になります」


---


 この日の会議の、最後に。


 湊は、トウに、一つの問いを、投げかけた。


「トウ、一つ、聞きたい」


「なんでしょう」


「今、この国全体で――一年に、どれくらいの、価値のあるものを、作り出していると思う?」


 トウは、この、極めて、大きな問いに、しばらく、考え込んだ。


「正確には――わかりません」


 トウは、そう、答えてから、続けた。


「ですが――概算なら、出せるかもしれません」


「頼む」


 この作業には、数日を、要することになった。


 トウは、輪の流通量、各分野の生産量、そして、それらの、おおよその価値を、丹念に、積み上げていった。


「湊さん、出ました」


 数日後、トウは、そう、報告した。


「どれくらいだ?」


「これまでの、算出方法が、正しければ――一年に、およそ、二十万から、二十五万の輪に、相当する、価値が、生み出されています」


 湊は、この数字を、しばらくの間、静かに、噛み締めていた。


 ――一人あたりに、直せば。


「人口で、割ると、どうなる?」


「一人あたり、二百二十から二百五十枚ほどに、なります」


 トウは、そう、答えてから、続けた。


「ただ――これは、あくまで、概算です。それに――比べる相手が、いませんから。多いのか、少ないのか、正直、わかりません」


 湊は、この答えに、静かに、頷いた。


「それでいい」


 湊は、そう、答えた。


「大事なのは――去年より、増えているか。それだけだ」


「はい。増えています。この、五年の間に――およそ、三倍に」


 湊は、この報告に、深く、頷いた。


「それに――もう一つ、気づいたことが、あります」


 トウは、そう、続けた。


「なんだ?」


「今、皆が、真面目に、働いて、それでいて――無駄な出費を、あまり、しません」


 トウは、そう、説明した。


「共同の住まいで、暮らし、共同の食堂で、食べ、共同の交通機関を、使う。ですから――一人一人の、蓄えは、着実に、増えています」


 湊は、この報告に、深く、頷いた。


「それは――いいことだ」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「ただ――一つだけ、覚えておいてほしい」


「なんでしょう」


「この数字を、増やすことだけを、目的に、してはならない」


 湊は、そう、告げた。


「みんなが、健やかに、暮らせているか。それを、いちばん、大事にしてほしい」


 トウは、この言葉を、深く、心に、刻んだ様子だった。


「わかりました」


---


 この日の会議の後、湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。


『相対性理論の基礎を、探究の舎の研究者たちに伝えた。時間と空間が、速度によって変わること。重力が空間を歪めること。日食による観測を、将来の課題とした』

『これは、私がいなくなった後も、考え続けられるべき課題である』

『人手不足の中、多くの者が、農業・建設・製造・学習を兼業。週六日の勤務が定着。休日は、競技や読書、執筆で、それぞれ、充実して過ごしている』

『病舎への疲労の訴えは、それほど多くない。休日の運動が、良い効果を、もたらしているようだ』

『工房直売と配達の仕組みを整備。忙しい人々の、時間の節約に、大きく貢献』

『国全体の年間生産価値を、初めて概算。およそ二十万から二十五万輪。一人あたり、二百二十から二百五十枚。五年で、三倍に増加』

『皆が真面目に働き、無駄な出費をしないため、個人の蓄えも、着実に増えている』

『数字だけを目的にしてはならない。皆が健やかに暮らせているかを、何より大事にする』


 夕暮れ、湊は、競技の集いで、体を動かす人々の声を、遠くに、聞いていた。


 湊は、四十七歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十二年七ヶ月ほどが、過ぎていた。


---


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【第120話 時点 文明発展状況】

湊47歳/漂着後 32年7ヶ月

人口:985人(うち、この期の新生児11名、外部労働者67名)

国名:ナガレ

推定年間総生産:輪換算 約20〜25万枚(一人あたり約220〜250枚、5年で3倍に成長)

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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中

02 食料・農業    ★★★★★ 継続中

03 畜産・動物    ★★★★☆ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★★ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★★★ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 継続中

07 医療・薬学    ★★★★★ 継続中(過重の訴えは少なく、健康状態は良好)

08 住居・建築    ★★★★★ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★★ 継続中

10 火・エネルギー  ★★★★★ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★★ 継続中

12 製造・工業    ★★★★★ 工場の三交代24時間稼働が定着

13 科学・技術    ★★★★★ 相対性理論の基礎を伝授。長期研究課題として着手

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中

15 教育・研究    ★★★★★ 夜間・通信制の学びが定着

16 経済・商業    ★★★★★ 工房直売・配達の仕組みを整備。GNP概算を初算出。個人貯蓄が着実に増加

17 政治・法律・行政 ★★★★★ 継続中

18 外交・交通・情報 ★★★★★ 継続中

19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 継続中

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 週六日勤務・休日はスポーツと自己研鑽という、健やかな生活リズムが定着

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【次話への持ち越し】日食観測計画、暮らしの利便性向上――これらは、次話以降で確認される

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