第102話「空から、大地を読む」
前回の会議から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十五歳になっていた。
この間、村には、六人が加わっていた。うち、四人が、この村で生まれた赤ん坊だった。人口は、四百人になっていた。
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この日の会議は、まず、前回の課題の、確認から、始まった。
**地域放送局――ケイ**
「湊さん、河口の放送局が、動き始めました」
ケイは、そう、報告した。
「どうだ、様子は」
「思った以上に、喜ばれています」
ケイは、そう、答えてから、続けた。
「特に、船の出入りの知らせが、役立っているようです。これまでは、港まで、確かめに行くしか、ありませんでした」
「東の農地は?」
「あちらは、まだ、準備中です。あと、半月ほどで、始められる見込みです」
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**郵便制度――トウ**
「郵便ですが、始めてみて――驚いています」
「どうした?」
「初日で、三十通ほどが、預けられました」
湊は、この数字に、深く、驚いた。
「そんなに、か」
「はい。皆さん、届ける手段が、なかっただけで――伝えたいことは、たくさん、あったようです」
湊は、この報告に、深く、頷いた。
「なるほど。そういうものか」
「それに――面白いことが、ありました」
トウは、そう、続けた。
「なんだ?」
「文字を、書けない方が――代わりに書いてくれる人を、探しに、来られました」
湊は、この報告に、しばらく、沈黙した。
「そうか。まだ、書けない者も、いるんだな」
「はい。特に、外から来て、日の浅い方々です」
湊は、この課題について、しばらく、考えを、巡らせた。
「なら――代わりに、書く役目を、正式に、置こう」
湊は、そう、決断した。
「郵便を、預かる場所に、一人ずつ。書けない者の話を、聞いて、代わりに、書く」
この提案は、その場で、承認された。
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**法の整備――ロタ**
「取引に関する法ですが、草案が、できました」
ロタは、そう、報告した。
「見せてくれ」
湊は、その草案に、じっくりと、目を通していった。
「よく、できている」
湊は、そう、答えてから、一つ、指摘した。
「ただ――一つ、足りないことが、ある」
「なんでしょう」
「約束を、破った時のことは、書いてある。だが――そもそも、対等でない立場で、結ばれた約束は、どう、扱う?」
ロタは、この指摘に、しばらく、考え込んだ。
「といいますと」
「例えば――働き口を、探している者に、法外に、安い賃金で、働かせる約束を、させたとする」
湊は、そう、続けた。
「その者は、他に、選ぶ道が、ない。だから、承知した。この約束は――守られるべきだろうか」
この問いに、会議の場は、深い、沈黙に、包まれた。
「……守られるべきでは、ないと思います」
ロタは、そう、答えた。
「なぜだ?」
「その約束は――本当の意味で、自ら、選んだものでは、ないからです」
湊は、この答えに、深く、頷いた。
「その通りだ。それを、書き加えてくれ」
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**輸血――シラ**
「血のことですが、さらに、百名分を、調べました」
シラは、そう、報告した。
「結果は?」
「四つの群れという、分け方は、変わりません。ですが――」
シラは、そう言って、少し、表情を、曇らせた。
「同じ群れでも、稀に、固まる組み合わせが、ありました」
湊は、この報告に、深く、注意を、向けた。
「やはり、そうか」
「はい。湊さんが、警告してくださった通りでした」
シラは、そう、答えてから、続けた。
「ですから――もう一つ、別の分け方が、あるのかもしれません」
「その通りだと思う」
湊は、そう、答えた。
「だから――人に使う時は、必ず、その場で、その二人の血を、混ぜて、確かめること」
「わかりました。それを、決まりに、します」
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これらの報告が、終わった後。
湊が、次の議題に、移ろうとした時――宗が、口を開いた。
「父上、ご報告したいことが、あります」
宗は、この頃、二十一歳になっていた。探究の舎で、飛行の研究を、続けていた。
「聞かせてくれ」
「あの、空を飛ぶ装置ですが――もっと、大きなものを、作れないかと、考えています」
湊は、この報告に、深く、興味を、示した。
「どれくらい、大きく?」
「人が、乗れるほどに」
この言葉に、会議の場が、大きく、ざわめいた。
「人が、乗る?」
ドウが、驚いた表情で、そう、尋ねた。
「はい」
宗は、そう、答えてから、続けた。
「今の装置は、小さく、軽いものです。ですから、確かに、飛びます。ですが――人を、乗せるとなると、重さが、まったく、違います」
湊は、しばらくの間、この構想を、考え込んでいた。
「宗」
「はい」
「それは――極めて、危険だ」
湊は、そう、静かに、告げた。
「わかっています」
「もし、落ちれば――命は、ない」
「はい」
宗は、迷いなく、そう、答えた。
湊は、しばらくの間、息子の顔を、じっと、見つめていた。
「なぜ、やりたい?」
湊は、そう、尋ねた。
宗は、しばらく、考えてから、答えた。
「空から、見た村の姿を――この目で、見てみたいのです」
宗は、そう、静かに、続けた。
「写真では、確かに、見られます。でも――それは、装置が、見た景色です。私自身が、見たわけでは、ありません」
湊は、この言葉に、深く、考え込んだ。
「わかった」
やがて、湊は、そう、答えた。
「ただし――条件がある」
「なんでしょう」
「まず、人を、乗せない大きさで、十分に、試すこと」
湊は、そう、告げた。
「そして――人を、乗せる前に、必ず、議会の承認を、得ること」
「わかりました」
「それから――最初に、乗るのは、お前でなくても、いい」
湊は、そう、付け加えた。
だが、宗は、静かに、首を、振った。
「いえ。最初は、私が、乗ります」
「なぜだ?」
「私が、言い出したことです。他の誰かに、危険を、負わせるわけには、いきません」
湊は、この言葉に、しばらくの間、答えられなかった。
「……そうか」
湊は、そう、静かに、答えた。
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この、飛行の議論に続いて、湊は、もう一つの、構想を、提起した。
「宗、一つ、聞きたいことが、ある」
「なんでしょう」
「今、あの、小さな飛ぶ装置は――どれくらい、遠くまで、行ける?」
宗は、しばらく、考えてから、答えた。
「今のところ、村から、見える範囲までです。それ以上、離れると――操れなくなります」
「なるほど」
湊は、そう、答えてから、続けた。
「もし、もっと、遠くまで、行けるようになったら――村の周り全体を、空から、写せるんじゃないだろうか」
この提案に、宗は、目を、輝かせた。
「地図を、作るということですね」
「そうだ。それも――これまでにない、正確なものが、できるはずだ」
湊は、そう、続けた。
「それに――もう一つ、大事なことが、ある」
「なんでしょう」
「危ない場所が、わかる」
湊は、そう、答えた。
この言葉に、ガルが、身を、乗り出した。
「危ない場所、というと」
「恐竜の、通り道だ」
湊は、そう、答えた。
「空から、見れば――どこに、群れが、いるか。どの道を、通っているか。それが、はっきり、わかるはずだ」
ガルは、この構想に、深い、興味を、示した。
「それは……確かに、大きい」
ガルは、そう、つぶやいた。
「今は、実際に、近づいてから、気づく。だが――前もって、わかっていれば」
この構想は、その場で、承認された。
宗と、ガルが、協力して、この、空からの調査を、進めていくことになった。
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さらに、この日の会議では、もう一つの、応用が、提案された。
提案したのは、ミオだった。
「湊さん、あの飛ぶ装置ですが――畑にも、使えないでしょうか」
「畑に?」
「はい。今、虫を、防ぐために、様々な工夫を、していますが……広い畑を、一つ一つ、見て回るのは、大変です」
ミオは、そう、続けた。
「もし、空から、まけたら――随分と、楽になります」
湊は、この提案に、しばらく、考えを、巡らせた。
「面白い考えだ。だが――」
湊は、そう言って、続けた。
「一つ、気をつけるべきことが、ある」
「なんでしょう」
「空から、まくと――思わぬところまで、飛んでいく」
湊は、そう、警告した。
「風が、吹いていれば――隣の畑や、川にまで、届くかもしれない」
ミオは、この指摘に、深く、頷いた。
「確かに、そうですね」
「だから――もし、やるなら。まく物は、必ず、人にも、他の生き物にも、害のないものに、限ること」
「わかりました」
この方針のもと、ミオは、これまで研究してきた、植物由来の、穏やかな虫除けを、空から、まく試みを、始めることになった。
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この日の会議の後、湊は、各分野の状況を、いつものように、確かめていった。
**土木――ドウ**:鉄道の河口延伸まで、あと、ふた月。
**工業――レン**:通信装置の置き換え、半分ほどが、完了。
**経済――トウ**:権利市、安定。輪の流通量、千三百枚。
**外交――ナギ**:アガルから、多国間の場について、条件付きで、前向きな返答。
**教育――ケイ**:探究の舎、在籍四十八名。
**治安――ロタ**:この、ひと月で、揉め事、六件。すべて、区画で、解決。
湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。
『河口の放送局が、稼働開始。船の出入りの知らせが、特に喜ばれている』
『郵便が、初日で三十通。文字を書けない者のため、代筆の役目を、新設』
『取引の法に、対等でない立場で結ばれた約束の扱いを、追加するよう指示』
『血液に、四つの群れとは別の、もう一つの分け方がある可能性。実際の使用時は、必ず、その場で確認することを義務づけた』
『宗が、人が乗れる飛行装置の構想を提起。段階的な試験と、議会承認を条件に、承認』
『空からの地図作成と、恐竜の通り道の特定に着手』
『空からの、穏やかな虫除けの散布を、試行開始。人や生き物に害のないものに、限定』
夕暮れ、湊は、書庫の窓から、村を、見つめていた。
湊は、四十五歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十一年一ヶ月ほどが、過ぎていた。
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【第102話 時点 文明発展状況】
湊45歳/漂着後 31年1ヶ月
人口:400人(うち、この期の新生児4名)
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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中
02 食料・農業 ★★★★★ 空からの虫除け散布を試行開始
03 畜産・動物 ★★★★★ 継続中
04 漁業・水産 ★★★★★ 継続中
05 狩猟・採集 ★★★★★ 継続中
06 水・衛生 ★★★★★ 継続中
07 医療・薬学 ★★★★★ 血液型に、第二の分類軸がある可能性を確認
08 住居・建築 ★★★★★ 継続中
09 土木・インフラ ★★★★★ 鉄道の河口延伸まで、あと二ヶ月
10 火・エネルギー ★★★★★ 継続中
11 鉱業・金属 ★★★★★ 継続中
12 製造・工業 ★★★★★ 通信装置の半導体化が、半分完了
13 科学・技術 ★★★★★ 有人飛行の研究に着手
14 言語・文字・出版 ★★★★★ 郵便に、代筆の役目を新設
15 教育・研究 ★★★★★ 探究の舎、在籍48名
16 経済・商業 ★★★★★ 権利市は安定。輪の流通量1300枚
17 政治・法律・行政 ★★★★★ 取引法に、不対等な契約の扱いを追加
18 外交・交通・情報 ★★★★★ 河口放送局が稼働。アガルが、多国間の場に条件付きで前向き
19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 空からの恐竜通り道調査に着手。揉め事6件、すべて区画で解決
20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 継続中
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【次話への持ち越し】有人飛行の段階的試験、空からの地図作成、虫除け散布の効果、東の農地の放送局――これらは、次話以降で確認される
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