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白亜のノート ―元中学生、文明を書く―  作者: 伝説の男前
第三部 文明の礎

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103/118

第101話「届く、という仕組み」

 百回目の会議から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十四歳のままだった。


 この間、村には、八人が加わっていた。うち、五人が、この村で生まれた赤ん坊だった。人口は、三百九十四人になっていた。


---


 この日の会議は、まず、前回の課題の、確認から、始まった。


 **輸血の研究――シラ**


「湊さん、血のことですが」


 シラは、そう、切り出した。


「ご指示いただいた通り、まず、混ぜてみることから、始めました」


「結果は?」


「はっきり、しました」


 シラは、そう言って、いくつかの、小さな器を、机の上に、並べた。


「村の人、五十名から、少しずつ、血を、分けていただきました。そして――すべての組み合わせを、試しました」


 湊は、この報告に、深く、身を、乗り出した。


「どうなった?」


「固まる組み合わせと、固まらない組み合わせが、はっきり、分かれます」


 シラは、そう、答えてから、続けた。


「そして――その分かれ方には、規則が、ありました」


 シラは、そう言って、一枚の表を、取り出した。


「五十人の血を、四つの群れに、分けられます」


 湊は、その表を、じっと、見つめていた。


 ――四つ。確かに、そうだった。


「シラ、それは……正しい」


 湊は、そう、静かに、答えた。


「俺の記憶にも――四つの種類が、あったはずだ」


 シラは、この言葉に、深く、頷いた。


「では――この分け方で、間違いないのですね」


「たぶん、そうだ。ただ――」


 湊は、そう言って、しばらく、考え込んだ。


「まだ、確かめるべきことが、あるかもしれない。同じ群れの中でも、合わない場合が、あるかもしれない」


「わかりました。もっと、慎重に、調べます」


 シラは、そう、答えてから、続けた。


「人に使うのは――もう少し、先に、します」


---


 **手術道具――レン、シラ**


「新しい素材の、道具ですが」


 レンが、そう、報告した。


「熱には、耐えられませんでした」


「そうか」


「はい。消毒しようと、熱すると――形が、崩れてしまいます」


 湊は、この報告に、深く、頷いた。


「なら、別の方法で、消毒するしかないな」


「といいますと」


「熱でなく――薬で、消毒するという方法が、あるはずだ」


 湊は、そう、答えてから、シラのほうを、向いた。


「シラ、以前、傷を洗うのに、使っていた薬は、あるだろう」


「はい。あの、強い匂いのする液体です」


「あれで、道具を、浸けてみたらどうだ」


 シラは、この提案に、深く、頷いた。


「試してみます」


---


 **通信装置の置き換え――レン**


「電話の装置ですが、この、ひと月で、十台ほど、新しい部品に、置き換えました」


 レンは、そう、報告した。


「結果は?」


「明らかに、良くなっています。音が、はっきりしましたし――壊れることも、ほとんど、ありません」


 湊は、この報告に、深く、頷いた。


「よくやった。順次、進めてくれ」


---


 **権利市の動向――トウ**


「湊さん、鉄道会社の権利ですが」


 トウは、そう、切り出した。


「先週、値が、急に、上がりました。ですから――決まりに従って、いったん、取引を、止めました」


「賢明な判断だ」


「はい。その後、三日ほど、置いてから、再開しました。今は――落ち着いています」


 湊は、この報告に、深く、安堵した。


「それでいい。決まりが、機能したということだな」


---


 これらの報告が、終わった後。湊は、新たな課題を、提起した。


「一つ、みんなに、相談したいことが、ある」


「なんでしょう」


「今、村の放送は――この、議事堂の、一箇所から、流している」


 湊は、そう、切り出した。


「はい」


「だが、村は、随分と、広くなった。河口にも、東の農地にも、人が、暮らしている」


 湊は、静かに、続けた。


「今の放送は――そこまで、確かに、届いているだろうか」


 この問いに、ケイが、答えた。


「実は、それは、気になっていました。河口では、時々、聞き取りにくいと、苦情が、来ています」


「やはり、そうか」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「なら――放送の場所を、増やそう」


「増やす、ですか」


「そうだ。河口にも、東の農地にも。それぞれの場所に、放送の装置を、置く」


 湊は、そう、続けた。


「そして――それぞれが、その土地のことを、伝える」


 この構想に、ケイは、深く、興味を、示した。


「その土地のこと、というと」


「例えば――河口なら、船の出入りのこと。東の農地なら、その日の作業のこと」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「村全体に、伝えるべきことは、これまで通り、ここから、流す。だが――それぞれの土地には、それぞれの、必要な知らせが、あるはずだ」


 この提案は、その場で、承認された。


 この、地域ごとの放送局の設置には、新しい半導体の技術が、大きく、力を、発揮することになった。装置が、小さく、そして、壊れにくくなったことで、設置も、維持も、格段に、容易に、なっていたのだ。


---


 この、放送の議論に続いて、湊は、もう一つの課題を、提起した。


「もう一つ、気になっていることが、ある」


「なんでしょう」


「人と人の間で、手紙を、やり取りすることは、あるか」


 この問いに、しばらく、沈黙が、続いた。


「ほとんど、ありません」


 ケイが、そう、答えた。


「なぜだ?」


「近くの人なら、直接、話しに行きます。遠くの人には――届ける手段が、ありません」


 湊は、この答えに、深く、頷いた。


「そこが、問題だ」


 湊は、そう、続けた。


「今、村には、河口にも、東の農地にも、人が、暮らしている。それに――アガルや、ヤズの集落にも、この村から、出て行った者が、いる」


「はい」


「その人たちと、やり取りする仕組みが――必要なんじゃないだろうか」


 この提案に、ナギが、口を開いた。


「確かに。私も、時々、頼まれます。河口に行くなら、これを、渡してくれと」


「そういう、個人の頼みに、頼るのでは――確実では、ない」


 湊は、そう、指摘した。


「なら、どうすれば」


「決まった仕組みを、作るんだ」


 湊は、そう言って、紙に、書き始めた。


「一つ。村の各所に、手紙を、預ける場所を、設ける」


「二つ。定期的に、それを、集めて、届ける者を、置く」


「三つ。届ける費用は――あらかじめ、決まった額を、払ってもらう」


 この、三つ目の項目について、トウが、質問した。


「距離によって、額を、変えるのでしょうか」


 湊は、しばらく、考えてから、答えた。


「いや。同じにしよう」


「なぜですか。遠いほうが、手間が、かかります」


「その通りだ。だが――」


 湊は、そう言って、続けた。


「距離で、額を、変えると――遠くに住む者ほど、不利になる。それは、避けたい」


 湊は、静かに、続けた。


「近くに出す者が、少しだけ、多く払う。その分で、遠くに出す者を、支える。そういう、考え方だ」


 この提案は、しばらくの議論の後、承認された。


 こうして、村には、初めての、郵便の仕組みが、設けられることになった。


---


 この日の会議では、さらに、もう一つの、重要な議題が、扱われた。


 法の整備だった。


「湊さん、司法の場から、要望が、来ています」


 ロタが、そう、報告した。


「どんな要望だ?」


「判断の、拠り所が、足りないと」


 ロタは、そう、続けた。


「例えば――取引の約束を、破った場合。どう、扱うべきか。今は、その都度、判断しています。ですから――同じような事案でも、判断が、揺れることが、あります」


 湊は、この報告を、深く、受け止めた。


「なるほど。それは、確かに、問題だ」


 湊は、そう、答えてから、続けた。


「基本の書には――いちばん、根っこのことしか、書かれていない」


「はい」


「その下に――もっと、細かい決まりが、必要だということだな」


 この課題について、会議では、長い議論が、交わされた。


 最終的に、いくつかの分野について、具体的な法を、定めていくことが、決定された。


 取引に関する法。土地の扱いに関する法。家族に関する法。そして――人を傷つけた場合の、扱いに関する法。


「これは、一度に、できることでは、ない」


 湊は、そう、指摘した。


「一つずつ、慎重に、作っていこう」


 この作業は、司法の場と、議会が、協力して、進めていくことになった。


 湊は、この作業について、一つの、重要な原則を、示した。


「一つ、覚えておいてほしいことが、ある」


「なんでしょう」


「法は――弱い者を、守るためにある」


 湊は、静かに、そう、告げた。


「力のある者は、法がなくても、自分を、守れる。だが――力のない者は、法がなければ、守られない」


 この言葉に、会議の場は、深い、静けさに、包まれた。


---


 この日の会議の後、湊は、各分野の状況を、いつものように、確かめていった。


 **農業――ミオ**:干拓地が、ついに、完成。豆の作付けを、開始。


 **土木――ドウ**:鉄道の河口延伸まで、あと、三ヶ月。


 **医療――シラ**:外科手術、この、ひと月で、さらに三例。すべて回復。


 **教育――ケイ**:探究の舎の在籍、四十五名に。


 **外交――ナギ**:多国間の場について、アガルからの返答を、待っている状態。


 **防衛――ガル**:恐竜の接近、この、ひと月で、三回。すべて、事前に察知。


 **治安――ロタ**:盗みの発生、ゼロ。


 湊は、これらの報告を、一つ一つ、丁寧に、書き留めていった。


 湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。


『シラが、血液を四つの群れに分類することに成功。私の記憶とも、一致する。ただし、人への使用は、なお慎重に』

『手術道具への新素材応用は、熱に耐えられず、失敗。薬による消毒を、検討中』

『電話装置十台を、新しい部品に置き換え。音質、耐久性ともに、大幅に改善』

『権利市の急変時停止の決まりが、実際に機能した』

『河口と東の農地に、地域ごとの放送局を設置することを決定』

『郵便の仕組みを、新設。距離によらず、同一の料金とした。遠方に住む者を、不利にしないため』

『取引、土地、家族、傷害に関する法の整備に着手。法は、弱い者を守るためにある』


 夕暮れ、湊は、議事堂の窓から、村を、見つめていた。


 湊は、四十五歳になろうとしていた。この世界に来てから、三十一年ほどが、過ぎていた。


---


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【第101話 時点 文明発展状況】

湊44歳(まもなく45歳)/漂着後 31年

人口:394人(うち、この期の新生児5名)

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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中

02 食料・農業    ★★★★★ 干拓地が完成、豆の作付けを開始

03 畜産・動物    ★★★★★ 継続中

04 漁業・水産    ★★★★★ 継続中

05 狩猟・採集    ★★★★★ 継続中

06 水・衛生     ★★★★★ 継続中

07 医療・薬学    ★★★★★ 血液を四型に分類。外科手術は累計19例中18例が回復

08 住居・建築    ★★★★★ 継続中

09 土木・インフラ  ★★★★★ 鉄道の河口延伸まで、あと三ヶ月

10 火・エネルギー  ★★★★★ 継続中

11 鉱業・金属    ★★★★★ 継続中

12 製造・工業    ★★★★★ 通信装置の半導体化が進行中

13 科学・技術    ★★★★★ 継続中

14 言語・文字・出版 ★★★★★ 郵便制度により、文書のやり取りが可能に

15 教育・研究    ★★★★★ 探究の舎、在籍45名

16 経済・商業    ★★★★★ 権利市の安定化機構が、実際に機能

17 政治・法律・行政 ★★★★★ 個別分野の法整備に着手。「法は弱い者を守る」を原則とした

18 外交・交通・情報 ★★★★★ 地域放送局の設置を決定。郵便制度も新設

19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 恐竜接近3回、すべて事前察知。盗みの発生ゼロ

20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 継続中

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【次話への持ち越し】地域放送局の設置、郵便制度の運用開始、各分野の法整備、輸血の実用化――これらは、次話以降で確認される

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